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第29章 青少年と病院と。
1 弁護士と青年。
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「時代に沿った法律にすべきです、我々こそ先進国として」
『そう先陣を切り、間違いだったとなった場合、どう法整備を変えるんですか』
「そうならない為にも、先ずは議論を」
『国でも議論ですらも、税金が掛かるんですよ、それは囚人を収監し続ける事もです』
《被害者の方やご遺族が支払った税金も、中には含まれているのですよ》
『ですので署名を』
「確かに数は少ないですが」
《なんでも、取り下げの数も多いそうで、署名を頂く際に不備は本当に有りませんか》
「そんな揚げ足を」
『取るなら実際に不備が有るかどうかの調査をします』
《ですが国民の血税を使う事になる、宜しいですか、先ずはしっかりと署名を増やしてい下さい》
人が罪を犯すには様々な理由が有る。
生まれや育ち。
学も頭も知恵も無ければ、どうしたって罪を犯してしまう。
彼ら彼女達にとっては、見知らぬ地で過ごすも同義なのだから。
そして下を切りそろえ続けたなら。
いつしか上へ上へと追い詰められ、いずれ国は。
「はぁ」
《あ、先生、拘置所からお電話です。埼玉の》
「はぁ、次は一体」
《まだ取り次いだばかりでして、どうしますか?》
「あぁ、代わるよ、お茶を頼む」
《はい》
「もしもし、代わりました、国選弁護人の佐藤です」
【どうか、弁護をお願い出来ませんでしょうか】
最初の印象は、酷く若い声なのだなと。
そして次に、拘置所からの声としては澄んだ声だとの印象が有った。
「先ず、アナタはどの様なお立場でしょうか」
【罪を犯した者です】
「では、事件番号はお分かりですか」
【はい】
「では番号から調べ、折り返しさせて頂きます」
【直ぐに了承頂けないものなのでしょうか】
「弁護に向き不向きや、日程の調整も有りますので。そうした場合、他の方にお願いする事になります」
【お忙しいのですね】
「まぁ、はい、残念ですが」
【わかりました、埼玉地方裁判所……】
先ずは裁判所へ向かい、起訴内容等が記載された記録を借り、内容を精査。
こうした事を大手では下っ端に任せる事も有る、だが僕は。
《先生》
「あぁ、殺人だ」
2件の殺人事件。
1件目は老人。
そしてもう1件は。
《先生、コレは、かなり難しいのでは》
「あぁ、だが新聞記事には載っていなかった筈」
見逃したのか、若しくは。
《先生の事を、知ってらっしゃる方なのでしょうか》
「あぁ、だが今は未だ、分からない。先ずは、会ってみるとしよう」
《先生》
「供述書は時に圧力から捻れが生じる事も有る、先ずは会ってみよう」
容疑者は少年、でした。
いえ、正確に言うなら、元少年。
警察に自首し、自白中に成人を迎えた青年。
『宜しく、お願いします』
大柄な男性と言うワケでも無く、強靭、屈強と言った言葉とは寧ろ無縁な容姿。
大人しそう、物静か、先ず最初の印象はそうしたモノでした。
「食事は取れてるかい」
『はい』
「眠れているかい」
『はい、何とか』
「体調は、頭痛や腹痛はどうだろうか」
『いえ、特には有りません』
とても事件を起こしそうには無い、ましてや殺人事件を起こす様には見えない。
どんな事件でも、大概はそうですが。
特に彼は、そうは見えませんでした。
「僕の事を、知っているのだろうか」
『はい、新聞記事で、はい』
「それで、何故、僕なのだろうか」
『死刑反対派だからです、はい』
「そうか」
『あの、僕は、どうなるのでしぃうか』
死刑判決等は主に判例、前例を用いる事が多く。
通称、〇〇殺しが、主に判例の基礎に用いられています。
事情により、1人の殺害により死刑になるとは限らない。
けれども、内容によっては死刑にもなり得る。
コレに対し、3人で1人を殺した事件も起きましたが。
計画性は勿論の事、残忍さ、再犯の可能性を考慮され3人が死刑となった。
その事が、先生が死刑反対を訴える事に繋がったのですが。
「君は、どう考えているんだい」
『死刑かも、知れないな、と』
「死刑にはならないかも知れない、とも思っているんだね」
『はい』
「何故だろうか」
『残酷には殺していませんし、そもそも、殺す気は無かったんです』
「1件は事故、1件は苦しみから解放する為、だそうだね」
『はい』
「君の犯行時は未成年だった、けれども自白中に成人となった」
『はい』
「何故、そんな時に来たんだい、家で成人を祝っても良かった筈だ」
『家族はそんな事、してくれませんから』
「君の体には、痣や傷が有った、誰に付けられたんだろうか」
『色々な人です』
「1つ、受ける条件が有る。僕には決して嘘を言わないで欲しい、例えどんな事でも。何もコレは僕だけにと言うワケでは無い、弁護をして貰うなら、それは守るべき事」
『はい』
「受けよう、宜しく甲君」
『はい、宜しくお願いします』
世の中には、致し方無く罪を犯してしまう者も居る。
そして罪ながらも罪では無い事も。
分離埋葬が、その良い証拠だ。
死体損壊は罪だが、死者と生者の為の儀式は、違法では無いとされている。
だが、その判例も時代と共に廃れていくだろう。
怪異の類は、いずれ科学によって解明され、無い事とされ。
分離埋葬は、いつしか違法となるだろう。
《先生、お家はココの様ですけど》
案の定、彼の家は酷いものだった。
荒れ果てた庭、ゴミ捨ても満足に出来無いのか、酷い匂いがする。
そして洗濯物は、一体いつ干したのか、酷く干乾びている。
「あの、失礼致します」
暮らしが思う様にいかない者は、こうした声掛けに出る事は殆ど無い。
何かしらの集金は勿論、借金取り、国税の者ではと疑い。
息を潜め、過ぎるのを待つ。
《どうしましょうか》
やはりいつも通りの声掛けが1番だろう。
「無料弁護相談の者です、またお伺い致しますので。あ、名刺を差し入れておきますね」
こうして暫く玄関先で待っていれば、この通り。
『あの、甲の事でしょうか』
「はい、お受けした者です、少し宜しいですか」
『はい、どうぞ』
家の中は荷物が多く、雑多に置かれ。
辛うじて床を歩ける程度に、物が退けられ。
「あ、お構い無く、先ずはご挨拶にと伺った次第ですので」
『すみません、茶葉を切らしていまして』
「失礼ですがご主人は」
『少し、出ていまして』
「お仕事は、何をされている方なのでしょうか」
『日雇い、です』
「では夜遅くに帰ってくるのでしょうか」
『いえ』
物静かな所は、母親似なのだろうか。
「ご親戚とは連絡等をお取りになっていますでしょうか」
『あの、甲の事ですよね』
「はい、ご親族からも証言を頂けると、もしかすれば有利になる事も有りますので」
『甲は、どうなるのでしょうか』
「彼は成人前に犯罪を犯し、今は未成年、そうした事も有るので非常に難しいのですが。無期懲役か、七年以下の懲役となるかと」
『死刑では無いんですね』
「まだ分かりませんが、最悪は、そうなる事も有ります」
『どうか、甲を宜しくお願い致します』
「はい」
『あの、警察の方が仰っていたんですが、本当に無料なのでしょうか』
「はい」
『そうなんですね』
「あの、もし宜しければ何かしらの補助金や、そうした手続きのお手伝いもしておりますが」
『ですけど、あの、ウチは随分と滞納していまして』
「理由によっては免除や延期、分割払いも有りますから大丈夫ですよ」
『主人に、知られてしまわないでしょうか』
「それは」
『あ、あの、先ずは主人と相談してみます』
「支援を受ける事は恥ずかしい事では無いんです、誰しも不意の怪我や病に罹りますから、遠慮なさらず」
『はい』
「では、先ずは今日はこの位で。次にお伺いしても問題無い日時を、お伺いしても宜しいでしょうか」
『あの、何処かで』
「あぁ、構いませんよ、来る途中に土手も有りましたし。そうした場所でも構いませんが、如何ですか」
『はい、明後日の今頃は、どうでしょうか』
「分かりました、では土手の看板の前で、〇〇時に」
『はい』
だが、細君が来る事は無かった。
《ご主人に捕まってしまっているんでしょうか》
「あぁ、かも知れないな」
《お弁当、頑張ったんですけどね》
「今日は何が入っているんだろうか」
《おにぎりは勿論、お稲荷さんに卵焼き、それとゆで卵と竹輪入りキンピラ。お漬物に、インゲンの胡麻和えと、焼き鳥の残りです》
「良いねぇ、腹が減ったなぁ」
《ですねぇ》
「先に食べてなさい、暑いのだし」
《では、お言葉に甘えて》
梅雨の前の蒸し暑い時期。
細君は遺体となっていた。
『まだ詳しくは分からんのだけれど、押し込みか、ご主人かと疑っている次第だよ』
《では、ご主人は》
『行方知れずだ』
《あの、詳しくお伺いする前でして、日雇いをやってらっしゃるとしか》
『あぁ、夜中の土木作業員だが、暫くは出勤していなかったらしい』
《私達がお伺いした時は、いらっしゃらなかったんですけどね》
『家に帰るのが面倒だからと、同僚の家に泊まっていた事も何度か有ったらしい。だが家に帰ると言ったきり、暫く見掛けなかったそうだ』
《本当に、申し訳無いんですが。その、借金が有った、女だ博打だとかは》
『いや、それが無いんだ、と言うか借金も無いが金も無い。そうした状況だったらしい』
《不思議ですね、ではお金は何処へ行っていたんでしょうか》
『あぁ、全くの謎だよ』
ですが、数日して原因が分かりました。
「愛人」
《はい、奥様に愛人が居たそうで、その方も亡くなっていたそうです》
「彼は、知っていたのだろうかね」
《どうでしょう、警察の方も知るまでに少し掛かっていたそうですし》
「はぁ、尋ね方を考えなければならないね」
《亡くなった事をお伝えした時は、どうだったんですか?》
彼は既に刑務官により知らされており。
「やぁ、どうだい」
『母が、亡くなったそうで』
「あぁ、僕も立ち会いをしたよ」
『母は、苦しんだのでしょうか』
「分からないが、安らかな顔だったよ」
僕は嘘を吐いた。
細君は見るも無惨に悶え苦しんだ形相のまま、亡くなっていた。
下手に首を絞め続けたせいで、そうなったのだろう、と。
『そうですか』
俯いた彼は、暫くすると静かに涙を流した。
膝に揃えられた手の上に、1つ、2つ。
「先ずは親戚の事を尋ねようとしていたんだけれど、どうだろう、親戚付き合いは有ったのだろうか」
『いえ』
「何故か知っているかい」
『母と父は、駆け落ち、だそうで』
「成程」
『僕の七五三の写真を送り、送り返され、父が怒っていたのを覚えています。折角、男を産ませてやったのにって』
「そうか」
『それから、母を詰ったり、手を挙げたり。僕が庇うと、直ぐ僕が叩かれる様になりました』
「誰か、近所や」
『母は、金持ちの娘で、家事が何も出来無くて。ゴミ捨ても、なので、近所からも嫌われていて』
「学校では」
『また母へ、それでも我慢が出来無いと、偶に僕へ』
「通報は、無かったそうだけれど」
『父は怒鳴らないんです、淡々と、静かに怒るんです』
「素手だろうか」
『はい』
「そうか」
『母の葬式にも、行けないのですよね』
「けれど遺影や位牌はココへ置ける、もし君が望むなら」
『はい、宜しく、お願いします』
『そう先陣を切り、間違いだったとなった場合、どう法整備を変えるんですか』
「そうならない為にも、先ずは議論を」
『国でも議論ですらも、税金が掛かるんですよ、それは囚人を収監し続ける事もです』
《被害者の方やご遺族が支払った税金も、中には含まれているのですよ》
『ですので署名を』
「確かに数は少ないですが」
《なんでも、取り下げの数も多いそうで、署名を頂く際に不備は本当に有りませんか》
「そんな揚げ足を」
『取るなら実際に不備が有るかどうかの調査をします』
《ですが国民の血税を使う事になる、宜しいですか、先ずはしっかりと署名を増やしてい下さい》
人が罪を犯すには様々な理由が有る。
生まれや育ち。
学も頭も知恵も無ければ、どうしたって罪を犯してしまう。
彼ら彼女達にとっては、見知らぬ地で過ごすも同義なのだから。
そして下を切りそろえ続けたなら。
いつしか上へ上へと追い詰められ、いずれ国は。
「はぁ」
《あ、先生、拘置所からお電話です。埼玉の》
「はぁ、次は一体」
《まだ取り次いだばかりでして、どうしますか?》
「あぁ、代わるよ、お茶を頼む」
《はい》
「もしもし、代わりました、国選弁護人の佐藤です」
【どうか、弁護をお願い出来ませんでしょうか】
最初の印象は、酷く若い声なのだなと。
そして次に、拘置所からの声としては澄んだ声だとの印象が有った。
「先ず、アナタはどの様なお立場でしょうか」
【罪を犯した者です】
「では、事件番号はお分かりですか」
【はい】
「では番号から調べ、折り返しさせて頂きます」
【直ぐに了承頂けないものなのでしょうか】
「弁護に向き不向きや、日程の調整も有りますので。そうした場合、他の方にお願いする事になります」
【お忙しいのですね】
「まぁ、はい、残念ですが」
【わかりました、埼玉地方裁判所……】
先ずは裁判所へ向かい、起訴内容等が記載された記録を借り、内容を精査。
こうした事を大手では下っ端に任せる事も有る、だが僕は。
《先生》
「あぁ、殺人だ」
2件の殺人事件。
1件目は老人。
そしてもう1件は。
《先生、コレは、かなり難しいのでは》
「あぁ、だが新聞記事には載っていなかった筈」
見逃したのか、若しくは。
《先生の事を、知ってらっしゃる方なのでしょうか》
「あぁ、だが今は未だ、分からない。先ずは、会ってみるとしよう」
《先生》
「供述書は時に圧力から捻れが生じる事も有る、先ずは会ってみよう」
容疑者は少年、でした。
いえ、正確に言うなら、元少年。
警察に自首し、自白中に成人を迎えた青年。
『宜しく、お願いします』
大柄な男性と言うワケでも無く、強靭、屈強と言った言葉とは寧ろ無縁な容姿。
大人しそう、物静か、先ず最初の印象はそうしたモノでした。
「食事は取れてるかい」
『はい』
「眠れているかい」
『はい、何とか』
「体調は、頭痛や腹痛はどうだろうか」
『いえ、特には有りません』
とても事件を起こしそうには無い、ましてや殺人事件を起こす様には見えない。
どんな事件でも、大概はそうですが。
特に彼は、そうは見えませんでした。
「僕の事を、知っているのだろうか」
『はい、新聞記事で、はい』
「それで、何故、僕なのだろうか」
『死刑反対派だからです、はい』
「そうか」
『あの、僕は、どうなるのでしぃうか』
死刑判決等は主に判例、前例を用いる事が多く。
通称、〇〇殺しが、主に判例の基礎に用いられています。
事情により、1人の殺害により死刑になるとは限らない。
けれども、内容によっては死刑にもなり得る。
コレに対し、3人で1人を殺した事件も起きましたが。
計画性は勿論の事、残忍さ、再犯の可能性を考慮され3人が死刑となった。
その事が、先生が死刑反対を訴える事に繋がったのですが。
「君は、どう考えているんだい」
『死刑かも、知れないな、と』
「死刑にはならないかも知れない、とも思っているんだね」
『はい』
「何故だろうか」
『残酷には殺していませんし、そもそも、殺す気は無かったんです』
「1件は事故、1件は苦しみから解放する為、だそうだね」
『はい』
「君の犯行時は未成年だった、けれども自白中に成人となった」
『はい』
「何故、そんな時に来たんだい、家で成人を祝っても良かった筈だ」
『家族はそんな事、してくれませんから』
「君の体には、痣や傷が有った、誰に付けられたんだろうか」
『色々な人です』
「1つ、受ける条件が有る。僕には決して嘘を言わないで欲しい、例えどんな事でも。何もコレは僕だけにと言うワケでは無い、弁護をして貰うなら、それは守るべき事」
『はい』
「受けよう、宜しく甲君」
『はい、宜しくお願いします』
世の中には、致し方無く罪を犯してしまう者も居る。
そして罪ながらも罪では無い事も。
分離埋葬が、その良い証拠だ。
死体損壊は罪だが、死者と生者の為の儀式は、違法では無いとされている。
だが、その判例も時代と共に廃れていくだろう。
怪異の類は、いずれ科学によって解明され、無い事とされ。
分離埋葬は、いつしか違法となるだろう。
《先生、お家はココの様ですけど》
案の定、彼の家は酷いものだった。
荒れ果てた庭、ゴミ捨ても満足に出来無いのか、酷い匂いがする。
そして洗濯物は、一体いつ干したのか、酷く干乾びている。
「あの、失礼致します」
暮らしが思う様にいかない者は、こうした声掛けに出る事は殆ど無い。
何かしらの集金は勿論、借金取り、国税の者ではと疑い。
息を潜め、過ぎるのを待つ。
《どうしましょうか》
やはりいつも通りの声掛けが1番だろう。
「無料弁護相談の者です、またお伺い致しますので。あ、名刺を差し入れておきますね」
こうして暫く玄関先で待っていれば、この通り。
『あの、甲の事でしょうか』
「はい、お受けした者です、少し宜しいですか」
『はい、どうぞ』
家の中は荷物が多く、雑多に置かれ。
辛うじて床を歩ける程度に、物が退けられ。
「あ、お構い無く、先ずはご挨拶にと伺った次第ですので」
『すみません、茶葉を切らしていまして』
「失礼ですがご主人は」
『少し、出ていまして』
「お仕事は、何をされている方なのでしょうか」
『日雇い、です』
「では夜遅くに帰ってくるのでしょうか」
『いえ』
物静かな所は、母親似なのだろうか。
「ご親戚とは連絡等をお取りになっていますでしょうか」
『あの、甲の事ですよね』
「はい、ご親族からも証言を頂けると、もしかすれば有利になる事も有りますので」
『甲は、どうなるのでしょうか』
「彼は成人前に犯罪を犯し、今は未成年、そうした事も有るので非常に難しいのですが。無期懲役か、七年以下の懲役となるかと」
『死刑では無いんですね』
「まだ分かりませんが、最悪は、そうなる事も有ります」
『どうか、甲を宜しくお願い致します』
「はい」
『あの、警察の方が仰っていたんですが、本当に無料なのでしょうか』
「はい」
『そうなんですね』
「あの、もし宜しければ何かしらの補助金や、そうした手続きのお手伝いもしておりますが」
『ですけど、あの、ウチは随分と滞納していまして』
「理由によっては免除や延期、分割払いも有りますから大丈夫ですよ」
『主人に、知られてしまわないでしょうか』
「それは」
『あ、あの、先ずは主人と相談してみます』
「支援を受ける事は恥ずかしい事では無いんです、誰しも不意の怪我や病に罹りますから、遠慮なさらず」
『はい』
「では、先ずは今日はこの位で。次にお伺いしても問題無い日時を、お伺いしても宜しいでしょうか」
『あの、何処かで』
「あぁ、構いませんよ、来る途中に土手も有りましたし。そうした場所でも構いませんが、如何ですか」
『はい、明後日の今頃は、どうでしょうか』
「分かりました、では土手の看板の前で、〇〇時に」
『はい』
だが、細君が来る事は無かった。
《ご主人に捕まってしまっているんでしょうか》
「あぁ、かも知れないな」
《お弁当、頑張ったんですけどね》
「今日は何が入っているんだろうか」
《おにぎりは勿論、お稲荷さんに卵焼き、それとゆで卵と竹輪入りキンピラ。お漬物に、インゲンの胡麻和えと、焼き鳥の残りです》
「良いねぇ、腹が減ったなぁ」
《ですねぇ》
「先に食べてなさい、暑いのだし」
《では、お言葉に甘えて》
梅雨の前の蒸し暑い時期。
細君は遺体となっていた。
『まだ詳しくは分からんのだけれど、押し込みか、ご主人かと疑っている次第だよ』
《では、ご主人は》
『行方知れずだ』
《あの、詳しくお伺いする前でして、日雇いをやってらっしゃるとしか》
『あぁ、夜中の土木作業員だが、暫くは出勤していなかったらしい』
《私達がお伺いした時は、いらっしゃらなかったんですけどね》
『家に帰るのが面倒だからと、同僚の家に泊まっていた事も何度か有ったらしい。だが家に帰ると言ったきり、暫く見掛けなかったそうだ』
《本当に、申し訳無いんですが。その、借金が有った、女だ博打だとかは》
『いや、それが無いんだ、と言うか借金も無いが金も無い。そうした状況だったらしい』
《不思議ですね、ではお金は何処へ行っていたんでしょうか》
『あぁ、全くの謎だよ』
ですが、数日して原因が分かりました。
「愛人」
《はい、奥様に愛人が居たそうで、その方も亡くなっていたそうです》
「彼は、知っていたのだろうかね」
《どうでしょう、警察の方も知るまでに少し掛かっていたそうですし》
「はぁ、尋ね方を考えなければならないね」
《亡くなった事をお伝えした時は、どうだったんですか?》
彼は既に刑務官により知らされており。
「やぁ、どうだい」
『母が、亡くなったそうで』
「あぁ、僕も立ち会いをしたよ」
『母は、苦しんだのでしょうか』
「分からないが、安らかな顔だったよ」
僕は嘘を吐いた。
細君は見るも無惨に悶え苦しんだ形相のまま、亡くなっていた。
下手に首を絞め続けたせいで、そうなったのだろう、と。
『そうですか』
俯いた彼は、暫くすると静かに涙を流した。
膝に揃えられた手の上に、1つ、2つ。
「先ずは親戚の事を尋ねようとしていたんだけれど、どうだろう、親戚付き合いは有ったのだろうか」
『いえ』
「何故か知っているかい」
『母と父は、駆け落ち、だそうで』
「成程」
『僕の七五三の写真を送り、送り返され、父が怒っていたのを覚えています。折角、男を産ませてやったのにって』
「そうか」
『それから、母を詰ったり、手を挙げたり。僕が庇うと、直ぐ僕が叩かれる様になりました』
「誰か、近所や」
『母は、金持ちの娘で、家事が何も出来無くて。ゴミ捨ても、なので、近所からも嫌われていて』
「学校では」
『また母へ、それでも我慢が出来無いと、偶に僕へ』
「通報は、無かったそうだけれど」
『父は怒鳴らないんです、淡々と、静かに怒るんです』
「素手だろうか」
『はい』
「そうか」
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