18 / 100
18 吐露。
しおりを挟む
贈り物はしっかり自ら選んで欲しい、自分だけを好き、一緒に出掛ける時には余所見をしないで欲しい。
今となっては、当たり前だと思える事でも、幾ばくか面倒に感じていた。
そうした要望の1つ1つは理解しているつもりだったが、憂鬱だった。
理解していると思えばこそ、毎回、当たり前の事を言われ続け。
億劫だ、面倒だと感じていた事にすら気が付かなかった。
好意には好意を、いずれ夫婦になるのだから、出来るだけ相手の意向を汲もう。
そうした常識は知っていた。
だからこそ会えば必ず褒める様にし、機嫌を伺い、話題を合わせた。
コレが当たり前なのだと、常識なのだと、理解したつもりでいた。
けれどそれが堪らなく億劫だったと、好意が全く無かったのだと、今なら分かる。
「当時は」
『自身に情愛が欠けているのか、情熱的な恋や愛は他人が大袈裟に言っているだけか、まだまだ自分が幼いからか』
多少は面倒に感じる事も有るだろう、時には自身の情愛すら疑う事も有るだろう。
そう言われ、自身の感じる事に何の疑いも生じなかった。
「コレが初恋ですか」
『あぁ』
「初恋の相手と娼館に居るって、かなり強烈ですね」
『だな、思いもしなかった』
「どうして、今は好きだと言えるんでしょうか」
『構いたくて仕方が無い、そして構われたい』
「情愛はそうしたモノだと、そう聞かされませんでしたか」
『情愛が薄ければ冷めた様な関係に見える場合も有る、けれども情欲が有れば、不安を抱く必要は無い』
「あぁ、夫婦の形も、情愛も其々だと」
『だとしても、悪い事をしたと思っている』
「いやでも、押してダメなら引いてみて、それでもダメなら身を引くしか無いじゃないですか」
『ずっと冷たいままなら、こうなるのだと良く分かった』
「そんな冷たいですかね」
『いや、検討するとは言ってくれたな』
「あ、2号ちゃん大丈夫かしら」
『仕事だと言って有る、万が一にも何か有れば直ぐに連絡が来る、それに少しは勉強して貰う必要も有るだろう』
「まぁ」
『最初から、こうして語り合っていれば良かった。見栄を張らず、保身に走らず、そうすればネネは教えてくれたろう』
「本当だと分かれば、ですけど」
『ネネは優しい、言えば言う、情や義理を良く理解しているのだと。今なら、分かるんだが』
「居心地が悪いので言うだけの、お人好しなだけです」
『言われて嫌だと思う事でも、敢えて言ってくれるだろう』
「いつか切れる縁だと思ってますから」
『ネネを捨てた男も、俺も馬鹿だと思う』
「アナタの方が、多分、マシです。ルーイの様子を見に行きます」
『あぁ、俺が行く』
「はい、お願いします」
気を使っているのか、念入りに洗っているのか、ルーイの考えは全く分からないが。
ネネを好いている事は間違い無いだろう。
『ルーイ』
《あ、もう上がる》
『あぁ、待っている』
湯上がりに直ぐ魔道具を使って、それを確認したネネが、今度は浴室へ。
《ふーふーするくらいは良いよね?》
『魔法さえ使わなければ、構わないだろう』
《何か話した?》
『反省と、俺の言い訳だ』
《それは別に、僕も好意をそこまで理解して無かったとも言えるし》
『そろそろ、全て』
《分かってる、レオンハルトが入ったら、改めてちゃんと話し合う》
『俺は仲裁に入れないが』
《うん》
言わなきゃいけない事、言いたい事が沢山有る。
それに、謝らなきゃいけない事も。
「はい、交代」
《ちゃんと洗った?》
「洗い過ぎ厳禁ですし、体臭も重要ですから、どうぞ」
《どうぞ》
『あぁ』
そしてレオンハルトは浴室へ、シルクのローブを羽織っただけのネネは、直ぐに箱の前へ。
「コレ、名称有りますか」
《あぁ、魔法印だよ》
「それ以外で」
《どうだろう、無いと思うけど》
「コレ、向こうで、淫紋と呼ばれてるんですけど」
《淫紋?》
「サキュバス居ますよね」
《うん》
「ソレが付ける印とされてるんです」
《性別を変えるのに付けるの?》
「と言うか、感度を上昇させるらしい」
《えっ?》
「ですよね」
《コレ、そうなのかな?》
「どう、なんでしょうね」
《止めとく?》
「いえ、どうせ男になるんですし、多分、大丈夫かと」
《無理しないでね》
「そちらこそ、男性は女性の快楽の半分以下だそうですから」
《それで感度が上がったら失神しそう》
「ですね」
そして直ぐに、ネネはローブの前を開けさせ。
魔法印を押し、僕と同じ様に、ふーふーパタパタとし始めた。
《嘘ついてたんだ、ごめんね》
「どの事、でしょう」
《ネネが怒る位の事》
「ユノと寝た」
《いや、それは無いよ、ユノは友人だもの》
「私を好きじゃない」
《好き、寧ろ囲いたい位に好き》
「えっ、嘘が有るのが嘘?」
《僕の方が皇太子、レオンハルトは隣国の王子で近衛》
多分、魔道具に反応が無いから分かる筈。
コレは真実。
「何か嘘を言って下さい」
《ネネの料理、嫌い》
嘘をつけば魔道具が反応する、時に暖かくなったり冷たくなったり、音が歪んで聞こえたり。
だからきっと、今は反応が有る筈。
僕らの味付けに合わせてくれたネネの料理って、凄く美味しいし、料理中のネネは集中してるから表情豊かで好き。
「えっ」
《うん、ごめんね》
「えー」
《それに絡んでもう1つ、僕とレオンハルトは、お互いに婚約者に同じ事をした。レオンハルトは僕の婚約者を唆し、僕は僕で彼の婚約者を唆した、最初は僕が唆した》
「何故」
《愛が無いと思えたから》
レオンハルトから出るのは溜め息か悩みばかり、彼女からは愚痴ばかりだと調査員から聞いていた、彼女の方から望んだにも拘わらず。
だから僕は両者を試す為にも、レオンハルトと彼の父親、それから皇帝からの了承を得て実行する事にした。
僕はレオンハルトの部下として接触して、取り入って、唆した。
簡単に落ちたからこそ、レオンハルトだけが悪いとは今でも思っていないし、僕は正しかったと思ってる。
「それで、何故アナタの婚約者を」
《婚約者を選ぶ際、敢えて潰したい家の子と婚約したんだ、少し手強くて隙を見せる必要が有ったから。けどレオンハルトは清い身だよ、そこまでしなくても十分だったから》
「アナタが本当に皇太子なら、彼の婚約者に、そこまでする必要は無いのでは」
自分でも少し狡いとは思う。
もしネネが何も違和感に気付かなければ、僕は言うつもりが無かった、あまり言いたくは無かった。
《あぁ、彼の婚約者とは何も無いよ。辺境を回ってる時に、狂った辺境伯が、娘を。もう殺したから大丈夫、全員、一族郎党皆殺しにしたから誰も知らないよ》
同情心は、欲しく無かったから。
「あの、あのパイプの使い方、ご存知ですかね」
ネネが指差したのは、大きなガラスの喫煙具。
《あぁ、うん、けど向こうと同じで少し体に悪いよ?》
「取り敢えず、一口で」
《少しだけね》
こうした道具の手入れは、男の仕事。
外交手段は勿論、男としての最低限の教養とされているけれど、ココでこんな風に活かされるとは思わなかった。
「手慣れてる」
《男の社交場では使う事も有るから、はいどうぞ》
「あぁ、どうも」
ネネがココまで混乱するのは、多分、初めて会った時以来だと思う。
いつもはしっかりしているのに、繊細な出来事には繊細に反応して。
可愛い。
《僕は殆ど覚えて無いし、気にして無いんだけど》
「同情されたくない、だけですかね」
《うん、だからネネも気にしないで欲しいけど、ネネにしてみたら難しいよね》
「いや、もう、実質童貞なのでは」
自分の不利益より、僕への気遣いを優先させてくれた。
根から優しい、その優しさに僕は平気で付け入ろうとしている。
でもきっと、ネネは許してくれる。
《でも全く覚えて無いワケじゃないし、そうした事も有るかもって、覚悟はしてたし》
「で、今は娼館に居る」
《うん》
「しかも女になろうとしてる」
《うん》
「はぁ」
《ごめんね、嘘言って》
「いや、時と事情によるでしょうよ」
《でも、大事な事だから、選ぶには知るべきだと思う》
「すみません、失敗しました。もっと非道に扱って、それこそ接待術なんか」
《それは僕が近衛だと思ったからでしょ?》
「嘘です、皇太子だって分かってました」
《嘘でしょ、ごめんね》
僕も魔道具は所持してるんだけど、こうして抗おうとするのが本当に可愛い。
「あ、アレは、立食会の」
《うん、レオンハルトが僕の色を身に付けてたし、僕が近衛の格好をしてたから。それで驚いてた人も居たね》
「ややこしい事を」
《君達は強力な存在だから、ごめんね》
「仲が良いんですね、レオンハルト様と」
《それ、ちょっと複雑だな、僕の事は今度は名で呼ばずに殿下って呼ぶんでしょ?》
「ですね」
《身を守る為にも、前のままが良いな》
名で呼ばれたい、だなんてどうでも良い事だと思っていたけれど。
ネネを好きになって初めて、そう考える理由を理解した。
立場じゃなく個で捉え、個として扱って欲しい。
「はぁ」
《それ殆ど害が無いけど、もう止めて?》
「凄い同情心しか無いんですけど」
《だよね、ネネは優しいから》
ネネの優しさに対する考えは、未だに不安定だけれど。
完璧じゃない所も可愛い。
「あ、エリザベート様は」
《うん、流石に僕らの事を知ってるからね、ちょっとドキドキしてた》
「あぁ、それで他にも会わせたくなかったと」
《カイルは赤の憤怒の王子だよ、僕が襲われた国だから、ずっと一緒に居てくれてるんだ》
「同情で抱かれるのはどうなんですか?」
《ちょっと、それでも良いかなとは思う、夜伽専用の指導者から一通りは教わってるし》
「寧ろ逆に、女を抱けない可能性が」
《それは大丈夫》
「何故、そう言い切れ」
《ネネは慣れてるかも知れないけど、凄く無防備なんだもの》
窓辺に向かって椅子に座ってるけど、色々と肌は見えてるし、シルクのローブだから何も付けてないのが丸わかりだし。
「もし、乾く前にして、途中で乾くとどうなるんでしょうね?」
《確かに》
「国に無いんですか?」
《ウチはピアスだけだから》
「あぁ」
もう一押し。
《僕は童貞?》
「多分、ほぼ童貞かと」
もう少し押せば出来るだろうけど。
真に納得を得られなければ、例え今抱けても、きっといつかネネは手からすり抜けてしまう。
《それをネネに見極められる?》
落ちて欲しいし、抗って欲しい。
僕がネネに求める事が、少し複雑な事は自覚している。
「ちょっと流されそうなので、状況を整理させて下さい」
《好き、うん、良いよ》
ネネは暫く考え込んでいたけれど、結局は整理が難しかったらしく、コチラに振り向いて口を開いた。
「想定と条件が全く違うので、ちょっと、廃嫡となった場合は」
《レオンハルトの場合は王族を辞めるだけで、僕の近衛である事は変わらない。けど僕の廃嫡は、当面は本当に無職になるね》
「いやだからそこまで」
《じゃあレオンハルトを選ぶ?》
「何か、それもそれで、凄い失礼な気が」
《両方選んじゃう?》
「は?」
良い具合に揺さぶる隙が出来た。
《ふふふ、ネネはさ、重要な事を知っちゃったよね》
どうしても選んでくれなかった時の、最終手段。
ネネには正義感が有るし、義理堅いからね。
「は、謀ったな」
《うん、だからどっちか、両方か》
「良く譲れますね」
《寧ろネネは大勢を従えられるんだよ、魔獣だって魔族だって、心根の良い者が好きだからね》
善神、悪神のどちらかが世界を見守っているとするなら、この世界は多くの善神が見守っていると思う。
だからこそ、心根の良い者、正直で有ったり正義感の有る者を殆どの者が好む。
世界がそうした流れだからこそ、誰もがそう生きる。
結局は正直で正しい方が得をする、そうした仕組みの元、ココは出来ているのだから。
「アナタの手で殺したんですか」
《うん、その娘と父親だけね》
「慰めセックスはちょっと、どうかと」
《ん?あぁ、愛だけの方が嬉しいは嬉しいよね》
「レオ、殿下がのぼせてないか心配なんですが」
《ネネが選んでくれたら呼ぶ、それまで出ない筈だから、逆に風邪を引いちゃうかもね》
「一定の利益を提供するので、どうか見逃しては」
《何がダメ?出来るだけ直すし、直させる》
「腹黒い」
《でもネネには正直だよ?もう嘘は言わないし、嘘は無い》
「年下」
《そう思って無かったでしょ?》
「謀られるの嫌い」
《もうしないし、策略から君を守る。顔も姿も、望むなら変えるし、穏便に廃嫡だってされる。だから言って、どうしたら良い?》
「詰んだ状況にしないで下さい」
《勿論嫌なら解放する、何処が嫌?顔?声?匂い?》
「愛が重い」
《そこはごめんね、我慢して》
「顔が良い」
《嫉妬させない様にするし、僕を閉じ込めても良いよ》
「何が、こんな」
《凄く強い優しい魔獣みたいで、誰だって好きになるよ、ならない方がどうかしてる》
他にももっと有るんだけど、今はこの位で。
きっと、まだ言うだけじゃ足りないからね。
「コレすら見極めなら、殺してユノと逃げる」
《じゃあユノを大事にするし生かすって約束する、信用して欲しいな》
「まだ、乾きませんか」
《ね、不具合かな、どっちでも良いから早くネネとしたいのに》
すればきっと、ネネはもっと受け入れてくれる筈。
そう仕向ける為にも、改めて座学も勉強したし。
「なら、あの、離れて道具箱を再確認して貰えますかね」
《うん、分かった》
見回りは無事に終えてる筈、しかも製品の不具合は有り得ない筈だけれど。
コレも、ある意味で運なのかな。
今となっては、当たり前だと思える事でも、幾ばくか面倒に感じていた。
そうした要望の1つ1つは理解しているつもりだったが、憂鬱だった。
理解していると思えばこそ、毎回、当たり前の事を言われ続け。
億劫だ、面倒だと感じていた事にすら気が付かなかった。
好意には好意を、いずれ夫婦になるのだから、出来るだけ相手の意向を汲もう。
そうした常識は知っていた。
だからこそ会えば必ず褒める様にし、機嫌を伺い、話題を合わせた。
コレが当たり前なのだと、常識なのだと、理解したつもりでいた。
けれどそれが堪らなく億劫だったと、好意が全く無かったのだと、今なら分かる。
「当時は」
『自身に情愛が欠けているのか、情熱的な恋や愛は他人が大袈裟に言っているだけか、まだまだ自分が幼いからか』
多少は面倒に感じる事も有るだろう、時には自身の情愛すら疑う事も有るだろう。
そう言われ、自身の感じる事に何の疑いも生じなかった。
「コレが初恋ですか」
『あぁ』
「初恋の相手と娼館に居るって、かなり強烈ですね」
『だな、思いもしなかった』
「どうして、今は好きだと言えるんでしょうか」
『構いたくて仕方が無い、そして構われたい』
「情愛はそうしたモノだと、そう聞かされませんでしたか」
『情愛が薄ければ冷めた様な関係に見える場合も有る、けれども情欲が有れば、不安を抱く必要は無い』
「あぁ、夫婦の形も、情愛も其々だと」
『だとしても、悪い事をしたと思っている』
「いやでも、押してダメなら引いてみて、それでもダメなら身を引くしか無いじゃないですか」
『ずっと冷たいままなら、こうなるのだと良く分かった』
「そんな冷たいですかね」
『いや、検討するとは言ってくれたな』
「あ、2号ちゃん大丈夫かしら」
『仕事だと言って有る、万が一にも何か有れば直ぐに連絡が来る、それに少しは勉強して貰う必要も有るだろう』
「まぁ」
『最初から、こうして語り合っていれば良かった。見栄を張らず、保身に走らず、そうすればネネは教えてくれたろう』
「本当だと分かれば、ですけど」
『ネネは優しい、言えば言う、情や義理を良く理解しているのだと。今なら、分かるんだが』
「居心地が悪いので言うだけの、お人好しなだけです」
『言われて嫌だと思う事でも、敢えて言ってくれるだろう』
「いつか切れる縁だと思ってますから」
『ネネを捨てた男も、俺も馬鹿だと思う』
「アナタの方が、多分、マシです。ルーイの様子を見に行きます」
『あぁ、俺が行く』
「はい、お願いします」
気を使っているのか、念入りに洗っているのか、ルーイの考えは全く分からないが。
ネネを好いている事は間違い無いだろう。
『ルーイ』
《あ、もう上がる》
『あぁ、待っている』
湯上がりに直ぐ魔道具を使って、それを確認したネネが、今度は浴室へ。
《ふーふーするくらいは良いよね?》
『魔法さえ使わなければ、構わないだろう』
《何か話した?》
『反省と、俺の言い訳だ』
《それは別に、僕も好意をそこまで理解して無かったとも言えるし》
『そろそろ、全て』
《分かってる、レオンハルトが入ったら、改めてちゃんと話し合う》
『俺は仲裁に入れないが』
《うん》
言わなきゃいけない事、言いたい事が沢山有る。
それに、謝らなきゃいけない事も。
「はい、交代」
《ちゃんと洗った?》
「洗い過ぎ厳禁ですし、体臭も重要ですから、どうぞ」
《どうぞ》
『あぁ』
そしてレオンハルトは浴室へ、シルクのローブを羽織っただけのネネは、直ぐに箱の前へ。
「コレ、名称有りますか」
《あぁ、魔法印だよ》
「それ以外で」
《どうだろう、無いと思うけど》
「コレ、向こうで、淫紋と呼ばれてるんですけど」
《淫紋?》
「サキュバス居ますよね」
《うん》
「ソレが付ける印とされてるんです」
《性別を変えるのに付けるの?》
「と言うか、感度を上昇させるらしい」
《えっ?》
「ですよね」
《コレ、そうなのかな?》
「どう、なんでしょうね」
《止めとく?》
「いえ、どうせ男になるんですし、多分、大丈夫かと」
《無理しないでね》
「そちらこそ、男性は女性の快楽の半分以下だそうですから」
《それで感度が上がったら失神しそう》
「ですね」
そして直ぐに、ネネはローブの前を開けさせ。
魔法印を押し、僕と同じ様に、ふーふーパタパタとし始めた。
《嘘ついてたんだ、ごめんね》
「どの事、でしょう」
《ネネが怒る位の事》
「ユノと寝た」
《いや、それは無いよ、ユノは友人だもの》
「私を好きじゃない」
《好き、寧ろ囲いたい位に好き》
「えっ、嘘が有るのが嘘?」
《僕の方が皇太子、レオンハルトは隣国の王子で近衛》
多分、魔道具に反応が無いから分かる筈。
コレは真実。
「何か嘘を言って下さい」
《ネネの料理、嫌い》
嘘をつけば魔道具が反応する、時に暖かくなったり冷たくなったり、音が歪んで聞こえたり。
だからきっと、今は反応が有る筈。
僕らの味付けに合わせてくれたネネの料理って、凄く美味しいし、料理中のネネは集中してるから表情豊かで好き。
「えっ」
《うん、ごめんね》
「えー」
《それに絡んでもう1つ、僕とレオンハルトは、お互いに婚約者に同じ事をした。レオンハルトは僕の婚約者を唆し、僕は僕で彼の婚約者を唆した、最初は僕が唆した》
「何故」
《愛が無いと思えたから》
レオンハルトから出るのは溜め息か悩みばかり、彼女からは愚痴ばかりだと調査員から聞いていた、彼女の方から望んだにも拘わらず。
だから僕は両者を試す為にも、レオンハルトと彼の父親、それから皇帝からの了承を得て実行する事にした。
僕はレオンハルトの部下として接触して、取り入って、唆した。
簡単に落ちたからこそ、レオンハルトだけが悪いとは今でも思っていないし、僕は正しかったと思ってる。
「それで、何故アナタの婚約者を」
《婚約者を選ぶ際、敢えて潰したい家の子と婚約したんだ、少し手強くて隙を見せる必要が有ったから。けどレオンハルトは清い身だよ、そこまでしなくても十分だったから》
「アナタが本当に皇太子なら、彼の婚約者に、そこまでする必要は無いのでは」
自分でも少し狡いとは思う。
もしネネが何も違和感に気付かなければ、僕は言うつもりが無かった、あまり言いたくは無かった。
《あぁ、彼の婚約者とは何も無いよ。辺境を回ってる時に、狂った辺境伯が、娘を。もう殺したから大丈夫、全員、一族郎党皆殺しにしたから誰も知らないよ》
同情心は、欲しく無かったから。
「あの、あのパイプの使い方、ご存知ですかね」
ネネが指差したのは、大きなガラスの喫煙具。
《あぁ、うん、けど向こうと同じで少し体に悪いよ?》
「取り敢えず、一口で」
《少しだけね》
こうした道具の手入れは、男の仕事。
外交手段は勿論、男としての最低限の教養とされているけれど、ココでこんな風に活かされるとは思わなかった。
「手慣れてる」
《男の社交場では使う事も有るから、はいどうぞ》
「あぁ、どうも」
ネネがココまで混乱するのは、多分、初めて会った時以来だと思う。
いつもはしっかりしているのに、繊細な出来事には繊細に反応して。
可愛い。
《僕は殆ど覚えて無いし、気にして無いんだけど》
「同情されたくない、だけですかね」
《うん、だからネネも気にしないで欲しいけど、ネネにしてみたら難しいよね》
「いや、もう、実質童貞なのでは」
自分の不利益より、僕への気遣いを優先させてくれた。
根から優しい、その優しさに僕は平気で付け入ろうとしている。
でもきっと、ネネは許してくれる。
《でも全く覚えて無いワケじゃないし、そうした事も有るかもって、覚悟はしてたし》
「で、今は娼館に居る」
《うん》
「しかも女になろうとしてる」
《うん》
「はぁ」
《ごめんね、嘘言って》
「いや、時と事情によるでしょうよ」
《でも、大事な事だから、選ぶには知るべきだと思う》
「すみません、失敗しました。もっと非道に扱って、それこそ接待術なんか」
《それは僕が近衛だと思ったからでしょ?》
「嘘です、皇太子だって分かってました」
《嘘でしょ、ごめんね》
僕も魔道具は所持してるんだけど、こうして抗おうとするのが本当に可愛い。
「あ、アレは、立食会の」
《うん、レオンハルトが僕の色を身に付けてたし、僕が近衛の格好をしてたから。それで驚いてた人も居たね》
「ややこしい事を」
《君達は強力な存在だから、ごめんね》
「仲が良いんですね、レオンハルト様と」
《それ、ちょっと複雑だな、僕の事は今度は名で呼ばずに殿下って呼ぶんでしょ?》
「ですね」
《身を守る為にも、前のままが良いな》
名で呼ばれたい、だなんてどうでも良い事だと思っていたけれど。
ネネを好きになって初めて、そう考える理由を理解した。
立場じゃなく個で捉え、個として扱って欲しい。
「はぁ」
《それ殆ど害が無いけど、もう止めて?》
「凄い同情心しか無いんですけど」
《だよね、ネネは優しいから》
ネネの優しさに対する考えは、未だに不安定だけれど。
完璧じゃない所も可愛い。
「あ、エリザベート様は」
《うん、流石に僕らの事を知ってるからね、ちょっとドキドキしてた》
「あぁ、それで他にも会わせたくなかったと」
《カイルは赤の憤怒の王子だよ、僕が襲われた国だから、ずっと一緒に居てくれてるんだ》
「同情で抱かれるのはどうなんですか?」
《ちょっと、それでも良いかなとは思う、夜伽専用の指導者から一通りは教わってるし》
「寧ろ逆に、女を抱けない可能性が」
《それは大丈夫》
「何故、そう言い切れ」
《ネネは慣れてるかも知れないけど、凄く無防備なんだもの》
窓辺に向かって椅子に座ってるけど、色々と肌は見えてるし、シルクのローブだから何も付けてないのが丸わかりだし。
「もし、乾く前にして、途中で乾くとどうなるんでしょうね?」
《確かに》
「国に無いんですか?」
《ウチはピアスだけだから》
「あぁ」
もう一押し。
《僕は童貞?》
「多分、ほぼ童貞かと」
もう少し押せば出来るだろうけど。
真に納得を得られなければ、例え今抱けても、きっといつかネネは手からすり抜けてしまう。
《それをネネに見極められる?》
落ちて欲しいし、抗って欲しい。
僕がネネに求める事が、少し複雑な事は自覚している。
「ちょっと流されそうなので、状況を整理させて下さい」
《好き、うん、良いよ》
ネネは暫く考え込んでいたけれど、結局は整理が難しかったらしく、コチラに振り向いて口を開いた。
「想定と条件が全く違うので、ちょっと、廃嫡となった場合は」
《レオンハルトの場合は王族を辞めるだけで、僕の近衛である事は変わらない。けど僕の廃嫡は、当面は本当に無職になるね》
「いやだからそこまで」
《じゃあレオンハルトを選ぶ?》
「何か、それもそれで、凄い失礼な気が」
《両方選んじゃう?》
「は?」
良い具合に揺さぶる隙が出来た。
《ふふふ、ネネはさ、重要な事を知っちゃったよね》
どうしても選んでくれなかった時の、最終手段。
ネネには正義感が有るし、義理堅いからね。
「は、謀ったな」
《うん、だからどっちか、両方か》
「良く譲れますね」
《寧ろネネは大勢を従えられるんだよ、魔獣だって魔族だって、心根の良い者が好きだからね》
善神、悪神のどちらかが世界を見守っているとするなら、この世界は多くの善神が見守っていると思う。
だからこそ、心根の良い者、正直で有ったり正義感の有る者を殆どの者が好む。
世界がそうした流れだからこそ、誰もがそう生きる。
結局は正直で正しい方が得をする、そうした仕組みの元、ココは出来ているのだから。
「アナタの手で殺したんですか」
《うん、その娘と父親だけね》
「慰めセックスはちょっと、どうかと」
《ん?あぁ、愛だけの方が嬉しいは嬉しいよね》
「レオ、殿下がのぼせてないか心配なんですが」
《ネネが選んでくれたら呼ぶ、それまで出ない筈だから、逆に風邪を引いちゃうかもね》
「一定の利益を提供するので、どうか見逃しては」
《何がダメ?出来るだけ直すし、直させる》
「腹黒い」
《でもネネには正直だよ?もう嘘は言わないし、嘘は無い》
「年下」
《そう思って無かったでしょ?》
「謀られるの嫌い」
《もうしないし、策略から君を守る。顔も姿も、望むなら変えるし、穏便に廃嫡だってされる。だから言って、どうしたら良い?》
「詰んだ状況にしないで下さい」
《勿論嫌なら解放する、何処が嫌?顔?声?匂い?》
「愛が重い」
《そこはごめんね、我慢して》
「顔が良い」
《嫉妬させない様にするし、僕を閉じ込めても良いよ》
「何が、こんな」
《凄く強い優しい魔獣みたいで、誰だって好きになるよ、ならない方がどうかしてる》
他にももっと有るんだけど、今はこの位で。
きっと、まだ言うだけじゃ足りないからね。
「コレすら見極めなら、殺してユノと逃げる」
《じゃあユノを大事にするし生かすって約束する、信用して欲しいな》
「まだ、乾きませんか」
《ね、不具合かな、どっちでも良いから早くネネとしたいのに》
すればきっと、ネネはもっと受け入れてくれる筈。
そう仕向ける為にも、改めて座学も勉強したし。
「なら、あの、離れて道具箱を再確認して貰えますかね」
《うん、分かった》
見回りは無事に終えてる筈、しかも製品の不具合は有り得ない筈だけれど。
コレも、ある意味で運なのかな。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる