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存在しない人
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「順を追って考えてみろよ。お前が遥ちゃんと再会したのはつい最近のことだろ?
それが真実だったら俺やお前のお母さんに遥ちゃんを婚約相手として紹介するはおかしいだろ。 お前の話が本当だったら、当然遥ちゃんと再会してない訳だし。
そもそも水族館に行った時に一緒に写ってるのが遥ちゃんという時点でお前の記憶違いと考える のが普通だろ」
「……まあな」
「水族館に行ったのはいつ頃だったんだ?」
「佐々木達に婚約の報告をする直前だったと思う」
「そうなると、お前が婚約の報告をしてきた時に、遥ちゃんはいたことになるじゃねえか」
頭では分かっていたことだ。
「それに、琴音って娘が実際にいたなら何で遥ちゃんが出てきてから一度も姿を現さないんだ?
婚約するような相手が突如音信不通になるのもおかしいぞ。
うーん、そうだな。例えば、お前の気持ちが遥ちゃんに移ったことに彼女が気付いて離れていっ たんだとしても、嫌みの一つでも言ってから別れるだろ。
そう考えると、お前の携帯電話のメモリーやメールの履歴が全部無くなってるっていうよりも、 最初からそんな記録がないって考える方が妥当だと思うぞ」
「じゃあ何で琴音と遥の料理の味付けが全然違うんだ?」
「過労で味覚がおかしくなってたんだと思う。
伊吹はここ最近忙しすぎて、毎日終電で疲労困憊の状態だった。
精神的にも肉体的にも限界だったのなら、味覚が異常をきたしてもおかしくないだろう。俺も同 じような経験あるし」
私は項垂れた。佐々木に論破されたからではない。彼の意見は至極当然だったからだ。
「遥は何で自分のことを琴音って言ったんだろう……」
「それも訊き間違いと考えるのが普通だろうな」
私が彼女に名前を訊ねた時、確かに「琴音」と言っていた気がした。
しかし、佐々木の話を訊く限りでは、琴音という想像上の女性がいたと信じていた私が勘違いしたのだろう。
だが、もし遥が自分の名前を琴音と言っていたのなら、何故そんなことを言う必要があったのか。 遥は自身の名前を語ることができない事情でもあるのか?
借金に追われているとか?指名手配犯人で逃走中だとか?
思わず苦笑した。馬鹿馬鹿しい。そんな漫画みたいな話がある訳ない。
何やってんだ俺は……。
佐々木に礼を言って最寄りの駅から降りた途端、疲れがどっと出た。
自分の思考と感情を制御できない。休日なのに足取りは仕事の時のそれと変わらない。
「遥ちゃんって娘によろしくな」
別れ際に佐々木は軽く手を振った。
それにしても「遥ちゃんって娘」って。
同じ中学校だった割に他人行儀な言い方だな。あいつなりの気遣いなのだろうだろうか。
それにしても、物事を複雑に考え過ぎた。
遥も最近の私の異様な態度に違和感を覚えているだろう。
彼女は私が疲れていることに感づいて休ませるために距離を取ってくれているのかも知れない。あるいは私の行動の気味悪さに幻滅しているのかも知れない。
遥を疑って、怖がって、気味悪がって、私は何も信じていなかった。
遥も仕事をしているのに忙しい、辛い、運が悪いと思っているのは自分だけだと思い込んで、毎日ご飯を作ってくれている彼女に礼すら満足に言えてない。
結局、自分のことしか考えていなかったんだ。
河合琴音なんて女性は最初からいなかった。
多忙を言い訳にして仕事から逃げることばかりを考えていた。こんな時にそばにいてくれて、癒してくれる女性がいたらどんなに幸せだろう。
玄関を開けると、真っ黒で一寸先も見ることが出来ない室内を茫然と眺めながらくだらない妄想ばかりを募らせていた。
正直、遥は所謂癒し系と呼ばれるようなタイプの女性ではない。
だが、社会の厳しさに苦しみ、辛い立場にいる私を支えてくれているのが遥であることは間違いない。
いつまでも妄想に取り憑かれていては遥に失礼だ。下を向いていてはダメだ。
これから結婚して一緒に生きていかなければならないのに、いつまでも醜態を晒す訳にはいかない。
明日は早く帰って彼女に直接礼を言おう。
それに、遥はクラスが違ったので関係ないが、今週末クラス会に行くことは伝えておこう。
それが真実だったら俺やお前のお母さんに遥ちゃんを婚約相手として紹介するはおかしいだろ。 お前の話が本当だったら、当然遥ちゃんと再会してない訳だし。
そもそも水族館に行った時に一緒に写ってるのが遥ちゃんという時点でお前の記憶違いと考える のが普通だろ」
「……まあな」
「水族館に行ったのはいつ頃だったんだ?」
「佐々木達に婚約の報告をする直前だったと思う」
「そうなると、お前が婚約の報告をしてきた時に、遥ちゃんはいたことになるじゃねえか」
頭では分かっていたことだ。
「それに、琴音って娘が実際にいたなら何で遥ちゃんが出てきてから一度も姿を現さないんだ?
婚約するような相手が突如音信不通になるのもおかしいぞ。
うーん、そうだな。例えば、お前の気持ちが遥ちゃんに移ったことに彼女が気付いて離れていっ たんだとしても、嫌みの一つでも言ってから別れるだろ。
そう考えると、お前の携帯電話のメモリーやメールの履歴が全部無くなってるっていうよりも、 最初からそんな記録がないって考える方が妥当だと思うぞ」
「じゃあ何で琴音と遥の料理の味付けが全然違うんだ?」
「過労で味覚がおかしくなってたんだと思う。
伊吹はここ最近忙しすぎて、毎日終電で疲労困憊の状態だった。
精神的にも肉体的にも限界だったのなら、味覚が異常をきたしてもおかしくないだろう。俺も同 じような経験あるし」
私は項垂れた。佐々木に論破されたからではない。彼の意見は至極当然だったからだ。
「遥は何で自分のことを琴音って言ったんだろう……」
「それも訊き間違いと考えるのが普通だろうな」
私が彼女に名前を訊ねた時、確かに「琴音」と言っていた気がした。
しかし、佐々木の話を訊く限りでは、琴音という想像上の女性がいたと信じていた私が勘違いしたのだろう。
だが、もし遥が自分の名前を琴音と言っていたのなら、何故そんなことを言う必要があったのか。 遥は自身の名前を語ることができない事情でもあるのか?
借金に追われているとか?指名手配犯人で逃走中だとか?
思わず苦笑した。馬鹿馬鹿しい。そんな漫画みたいな話がある訳ない。
何やってんだ俺は……。
佐々木に礼を言って最寄りの駅から降りた途端、疲れがどっと出た。
自分の思考と感情を制御できない。休日なのに足取りは仕事の時のそれと変わらない。
「遥ちゃんって娘によろしくな」
別れ際に佐々木は軽く手を振った。
それにしても「遥ちゃんって娘」って。
同じ中学校だった割に他人行儀な言い方だな。あいつなりの気遣いなのだろうだろうか。
それにしても、物事を複雑に考え過ぎた。
遥も最近の私の異様な態度に違和感を覚えているだろう。
彼女は私が疲れていることに感づいて休ませるために距離を取ってくれているのかも知れない。あるいは私の行動の気味悪さに幻滅しているのかも知れない。
遥を疑って、怖がって、気味悪がって、私は何も信じていなかった。
遥も仕事をしているのに忙しい、辛い、運が悪いと思っているのは自分だけだと思い込んで、毎日ご飯を作ってくれている彼女に礼すら満足に言えてない。
結局、自分のことしか考えていなかったんだ。
河合琴音なんて女性は最初からいなかった。
多忙を言い訳にして仕事から逃げることばかりを考えていた。こんな時にそばにいてくれて、癒してくれる女性がいたらどんなに幸せだろう。
玄関を開けると、真っ黒で一寸先も見ることが出来ない室内を茫然と眺めながらくだらない妄想ばかりを募らせていた。
正直、遥は所謂癒し系と呼ばれるようなタイプの女性ではない。
だが、社会の厳しさに苦しみ、辛い立場にいる私を支えてくれているのが遥であることは間違いない。
いつまでも妄想に取り憑かれていては遥に失礼だ。下を向いていてはダメだ。
これから結婚して一緒に生きていかなければならないのに、いつまでも醜態を晒す訳にはいかない。
明日は早く帰って彼女に直接礼を言おう。
それに、遥はクラスが違ったので関係ないが、今週末クラス会に行くことは伝えておこう。
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