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意外な人 1
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冬だというのに汗で下着が貼り付いている。
服を軽く整えながらキッチンに行くが、遥はいない。当分の間は来ることができないと訊いていても期待してしまう。
昨日、予定なら遥と水族館に行く予定だったが、一昨日に佐々木と別れた後に電話があり、急な仕事で行けないという連絡がきた。
日曜日だったので一日ごろごろしていようかと思ったが大量に仕事が残っていたこともあり、休日出勤をして残務処理をしておいた。
忙しさはピークに達していた。だが、今日は金曜日だ。
今日さえ切り抜ければどうにかなる。
それに明日はクラス会だ。懐かしい顔を拝みたい。遥は今日も晩御飯を作りに来ると言っていたこともあり、今日こそ早く帰宅したい。遥にはクラス会に行くことも伝えておかなければ。
私が会社のデスクに座った途端、後輩がコーヒーを持って歩み寄ってきた。
「おはようっす。どうぞ」
デスクの隅にコーヒーを置いてくれた。
「おはよう。ありがと」
「先輩、昨日も出勤してたんすか?」
後輩が周りをきにしながら訊いてきた。
「ああっ?おう」
「そこまで根詰めて仕事しなくてもいいじゃないすか?」
「しょうがねえだろ、仕事が溜まってるんだから。俺だってやりたくてやってんじゃねえよ」
「仕事が大変ならこっちに回してください。いくらでも手伝いますんで」
「自分の仕事くらい自分でやるからいいよ」
「でも……、仕事量の比重が先輩に偏りすぎっすよ」
「俺だって課長にはムカついてるけど、しょうがねえだろ」
課長の様子を探りながらヒソヒソ話す。
彼がこちらの様子を気にする様子はない。
「……そんなことないす。課長も心配してるっすよ」
「はぁ?あいつがぁ?」
声が大きくなった。課長が驚いた顔をする。すぐに声を元に戻す。
「先輩、声が大きいすよ」
後輩が口をおさえてきた。リアクションが古い。手を払いのけた。
「分かってるよ。お前もさっさと仕事に戻れよ」
「手伝いますって」
「いいって」
いつもよりしつこいな。
「ありがとな、大丈夫だよ。必要になったら仕事頼むから」
半ば強引に追い払った。
後輩はまだ何か言いたげだったが、やがて席に戻っていった。気持ちはありがたいが、自分一人でやった方が早い。今日こそは早めに切り上げよう。
夕方になって社内が慌ただしくなった。状況が一変した。
取引先から苦情があったのだ。それも小さなミスではない。他の社員の単純ミスで、今日中に仕上げないと大きな損害が免れない程の大きなミスだった。
珍しく社長が出てきて社員に直接を指示している。社長と課長が何か話し合っているようだ。
だが、そんなことを気にしていてもしょうがない。
状況から言って、遥と会えるかどうかという次元ではなくなった。
徹夜も覚悟しなければならない。チッ、つい心の中で舌打ちをしてしまう。
文句を言ってもしょうがないが、チェックをしていれば確実に防げたミスだ。余計な仕事を増やしやがって。
社内は明らかに殺気立っていた。
ミスをした当の本人は涙目になっている。怒鳴ってやりたい気持ちもあるが、これ以上彼を責めるのも気が引ける。
全員に仕事を割り振って再度ミスのあった箇所の確認を行う。目の前に来た書類を見て、他の社員も茫然とする。書類が分厚い、分厚過ぎる。
こんな膨大な量を今日中にこなすことが出来るのか?でもやるしかない。この作業に関しては、私の右に出る者はいないだろう。スピードを上げて作業を進める。
作業を進めてすぐに、社長と課長の話し合う声が大きくなる。
課長が怒られているのか?それとも揉めているのだろうか?
今はそんなことしている場合じゃないだろう。やるなら外でやれ。急ピッチで仕事を終わらせていく。そんな中、社長が私の名前を呼んだ気がした。
社長の声に被るように、課長が何かを怒鳴った。
キーボードを打っていた手を止めると、社内は静まりかえって、全員の視線が社長達に向けられていた。
何があったんだ?
様子を伺うために後輩に眼を向けると、後輩は席にいなかった。
社長が何か必死に訴えているが、課長は首を横に振るばかりだ。
課長の横に後輩も立っている。いつもとは違い真剣な表情だ。後輩までもが何かやらしかしたのか?
課長は社員の手が止まっていることに気付くと、仕事を勧めるよう指示した。社員も我に返った様子で作業を再開する。
私もパソコンとの睨めっこを再会すると、誰かに肩を叩かれた。
「ん?何?追加の作業ならそこに置いといて」
私は見向きもせずに応える。
「先輩……」
「何だよ、置いとけよ」
私が苛立った声を上げながらイスごと振り返ると、課長と後輩が立っていた。その表情からは深刻な様子が伺える。
「えっ、あっ?何でした?」
後輩はともかく、課長自らが私の席に来ることはあまりない。また私に仕事を任せてくるのか?それとも、更なるミスでもあったのだろうか。しかし、課長の言葉は私にとって意外なものだった。
「休め」
「えっ?」
「先輩、少し休んでください」
「目途がついたら休憩いれるんで大丈夫です」
課長は軽く頷いた。
「そういうことじゃない、少し休職するんだ」
服を軽く整えながらキッチンに行くが、遥はいない。当分の間は来ることができないと訊いていても期待してしまう。
昨日、予定なら遥と水族館に行く予定だったが、一昨日に佐々木と別れた後に電話があり、急な仕事で行けないという連絡がきた。
日曜日だったので一日ごろごろしていようかと思ったが大量に仕事が残っていたこともあり、休日出勤をして残務処理をしておいた。
忙しさはピークに達していた。だが、今日は金曜日だ。
今日さえ切り抜ければどうにかなる。
それに明日はクラス会だ。懐かしい顔を拝みたい。遥は今日も晩御飯を作りに来ると言っていたこともあり、今日こそ早く帰宅したい。遥にはクラス会に行くことも伝えておかなければ。
私が会社のデスクに座った途端、後輩がコーヒーを持って歩み寄ってきた。
「おはようっす。どうぞ」
デスクの隅にコーヒーを置いてくれた。
「おはよう。ありがと」
「先輩、昨日も出勤してたんすか?」
後輩が周りをきにしながら訊いてきた。
「ああっ?おう」
「そこまで根詰めて仕事しなくてもいいじゃないすか?」
「しょうがねえだろ、仕事が溜まってるんだから。俺だってやりたくてやってんじゃねえよ」
「仕事が大変ならこっちに回してください。いくらでも手伝いますんで」
「自分の仕事くらい自分でやるからいいよ」
「でも……、仕事量の比重が先輩に偏りすぎっすよ」
「俺だって課長にはムカついてるけど、しょうがねえだろ」
課長の様子を探りながらヒソヒソ話す。
彼がこちらの様子を気にする様子はない。
「……そんなことないす。課長も心配してるっすよ」
「はぁ?あいつがぁ?」
声が大きくなった。課長が驚いた顔をする。すぐに声を元に戻す。
「先輩、声が大きいすよ」
後輩が口をおさえてきた。リアクションが古い。手を払いのけた。
「分かってるよ。お前もさっさと仕事に戻れよ」
「手伝いますって」
「いいって」
いつもよりしつこいな。
「ありがとな、大丈夫だよ。必要になったら仕事頼むから」
半ば強引に追い払った。
後輩はまだ何か言いたげだったが、やがて席に戻っていった。気持ちはありがたいが、自分一人でやった方が早い。今日こそは早めに切り上げよう。
夕方になって社内が慌ただしくなった。状況が一変した。
取引先から苦情があったのだ。それも小さなミスではない。他の社員の単純ミスで、今日中に仕上げないと大きな損害が免れない程の大きなミスだった。
珍しく社長が出てきて社員に直接を指示している。社長と課長が何か話し合っているようだ。
だが、そんなことを気にしていてもしょうがない。
状況から言って、遥と会えるかどうかという次元ではなくなった。
徹夜も覚悟しなければならない。チッ、つい心の中で舌打ちをしてしまう。
文句を言ってもしょうがないが、チェックをしていれば確実に防げたミスだ。余計な仕事を増やしやがって。
社内は明らかに殺気立っていた。
ミスをした当の本人は涙目になっている。怒鳴ってやりたい気持ちもあるが、これ以上彼を責めるのも気が引ける。
全員に仕事を割り振って再度ミスのあった箇所の確認を行う。目の前に来た書類を見て、他の社員も茫然とする。書類が分厚い、分厚過ぎる。
こんな膨大な量を今日中にこなすことが出来るのか?でもやるしかない。この作業に関しては、私の右に出る者はいないだろう。スピードを上げて作業を進める。
作業を進めてすぐに、社長と課長の話し合う声が大きくなる。
課長が怒られているのか?それとも揉めているのだろうか?
今はそんなことしている場合じゃないだろう。やるなら外でやれ。急ピッチで仕事を終わらせていく。そんな中、社長が私の名前を呼んだ気がした。
社長の声に被るように、課長が何かを怒鳴った。
キーボードを打っていた手を止めると、社内は静まりかえって、全員の視線が社長達に向けられていた。
何があったんだ?
様子を伺うために後輩に眼を向けると、後輩は席にいなかった。
社長が何か必死に訴えているが、課長は首を横に振るばかりだ。
課長の横に後輩も立っている。いつもとは違い真剣な表情だ。後輩までもが何かやらしかしたのか?
課長は社員の手が止まっていることに気付くと、仕事を勧めるよう指示した。社員も我に返った様子で作業を再開する。
私もパソコンとの睨めっこを再会すると、誰かに肩を叩かれた。
「ん?何?追加の作業ならそこに置いといて」
私は見向きもせずに応える。
「先輩……」
「何だよ、置いとけよ」
私が苛立った声を上げながらイスごと振り返ると、課長と後輩が立っていた。その表情からは深刻な様子が伺える。
「えっ、あっ?何でした?」
後輩はともかく、課長自らが私の席に来ることはあまりない。また私に仕事を任せてくるのか?それとも、更なるミスでもあったのだろうか。しかし、課長の言葉は私にとって意外なものだった。
「休め」
「えっ?」
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「目途がついたら休憩いれるんで大丈夫です」
課長は軽く頷いた。
「そういうことじゃない、少し休職するんだ」
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