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中学時代の思い出 1
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「あっちいーなー」
「おいっ佐々木、さっきから暑い暑いうるせーんだよ」
「あっちいもんはあっちいんだよ」
教室に入って来た馬場先生がこっちを向いた。
「佐々木、もうちょっとシャキッとしろよ」
「えー?暑過ぎなんすよ。先生の金でエアコン買ってくださいよ」
「はー?先生はこの前家買って35年の住宅ローン組んだばっかなんだぞ。
そんな金ある訳ないだろ。これぐらいの暑さ、多額の借金背負った俺に比べればかわいいもん だ。ほれ、ボタンを留めろ」
「はーい」
佐々木はボタンを留めたが、次は下敷きで顔を仰ぎ始めた。
はぁ、何で俺の席廊下側なんだよ、夏はやっぱ窓側の方がいいよな。おかげでノートが汗で湿っている。ホントたまんねえな。
馬場先生の数学の授業には耳を貸さずに窓際の席を見ると、教室を覆ったカーテンがふんわり膨らんだ。やっぱり、あっちの方が風通りいいよなー。うらやましい。
そもそも馬場先生、サインコサインタンジェントって何だよ。こんなんいつ使うんだよ。大人になって何に使うんだよ、ったく。こんなムカつくのは暑過ぎるせいだな、間違いない。
斜め前の佐々木は夏バテして頬杖をついている他の生徒とは違い、黒板を見ていた。こいつはこんなアホみたいな性格をしているが、成績だけは校内でもトップクラスだった。しかも実家は建設会社を経営している。何だよ、全然そんな風に見えねえじゃん。うらやましいなおい。
「じゃあこの問題は誰に解いて……、おいお前らちゃんと授業訊けよ。
ほらほら、顔を上げて。ったく、おっ、本田、この問題解いてくれ」
しまった、先生と眼が合ってしまった。
こういう時は眼を合わさずに下を向くのがベストなのは馬鹿な中学生なら誰もが知っている常識だ。生徒によっては机の上でシャーペンをバツ印にして両手を合わせている。そこまで当てられたくないなら少しは勉強しろよ。俺はしぶしぶ席を立つと黒板に向かう。少し考えながら答えを書いて席に戻った。
「おっ、さすが本田。間違ってるぞ」
「……すんません」
くそっ、やな先生だ。借金増えろ!
こんな計算、大人になっても使わないだろ。
佐々木が嬉しそうな顔で俺を見た。こいつもうざい。しかも変顔をしてきた。面白いじゃねえか。
黒板と席を往復しただけで汗がしたたり落ちた。
汗かきの俺には本当辛い。あっ、またノートひっついた、あーもう。セミもミンミン合唱止めろよな。もう少し涼しい季節になったら鳴いてくれ。
その時にはセミもいないか。せめて暗くなってから鳴いてくれよ。
「俺は夏が大嫌いだ。暑いし、部活の練習時間も長い。勉強にも集中できん」
佐々木に文句を言ってもしょうがないが、つい愚痴がこぼれた。
「伊吹は冬でも勉強してねえじゃん」
「冬は寒いから勉強できねえんだよ」
「じゃあいつ勉強するんだよ」
「いつって……、まあ涼しくなったらだよ」
「お前が勉強する時期はかなり限定されるな」
「悪かったな」
お前も一緒だろ。と言いたいところだが、成績で完敗しているのでまるで言い返せない。今回は我慢してやろう。
「まあそんなにカッカするな。こんな暑さもあと少しだと思うと寂しいぜ」
佐々木が遠い眼で校舎を見つめる。さっきまで先生にエアコン付けろって言ってた奴が何言ってんだこの野郎。
それにしても今年の夏は本当に暑い。もう九月下旬だぞ。
団扇で風を作るが、生温い風は心地いいものではない。俺は日本の四季の中でも夏が一番嫌いだ。冬は着こめばどうにかなるが、夏は薄着になっても暑い。
身体が溶けそうだ。おまけに臭い。夏で好きなのは夏休みだけだ。
短い放課の間に一階に降りて水飲み場に行くが、この暑さのせいか他の生徒も水をがぶ飲みしている。
自分の番になると例外なく水をたらふく飲んで、頭に水をかけた。
俺が異常に汗かきなのは水分の摂り過ぎかも知れないと思ったが、これぐらい飲まないと脱水症状になってしまう。
濡れた髪を掻き上げると強い太陽光が顔に当たり、反射的に眼を細めた。あと一時間で今日の授業が終わる。あと少しの我慢だ。キーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴った。
「やべっ」
俺は全速力で階段を駆け上って教室に滑り込んだ。
チャイムが鳴り終わるまでに教室に入ればセーフだ。足には一応自信があった。先生が来ているといけないので後ろの扉から入ると、皆が学級委員の声で気を付けをしているところだったので何くわぬ顔で生徒に混じる。
先生は一瞬視線をこちらに向けたが、気にしていない様子だ。助かった。でもまた無駄な汗をかいた。
国語の授業を終えると、練習用のユニフォームに着替えてグランドに出た。
野球部の俺はダラダラとランニングを始める。
小学生からやっている野球は嫌いじゃないが、毎日毎日同じ練習の繰り返しだとさすがにうんざりする。もう一生分の素振りとキャッチボールをした気分だ。反復練習にはもう飽きた。
大学や社会人になっても同じスポーツをする人はよっぽど好きなんだろう。俺には真似できない。部活が終わると自転車で自宅に帰る。
毎日毎日同じことの繰り返しだ。つまんねえな。
何かこう……、面白えことねえかな。
「おいっ佐々木、さっきから暑い暑いうるせーんだよ」
「あっちいもんはあっちいんだよ」
教室に入って来た馬場先生がこっちを向いた。
「佐々木、もうちょっとシャキッとしろよ」
「えー?暑過ぎなんすよ。先生の金でエアコン買ってくださいよ」
「はー?先生はこの前家買って35年の住宅ローン組んだばっかなんだぞ。
そんな金ある訳ないだろ。これぐらいの暑さ、多額の借金背負った俺に比べればかわいいもん だ。ほれ、ボタンを留めろ」
「はーい」
佐々木はボタンを留めたが、次は下敷きで顔を仰ぎ始めた。
はぁ、何で俺の席廊下側なんだよ、夏はやっぱ窓側の方がいいよな。おかげでノートが汗で湿っている。ホントたまんねえな。
馬場先生の数学の授業には耳を貸さずに窓際の席を見ると、教室を覆ったカーテンがふんわり膨らんだ。やっぱり、あっちの方が風通りいいよなー。うらやましい。
そもそも馬場先生、サインコサインタンジェントって何だよ。こんなんいつ使うんだよ。大人になって何に使うんだよ、ったく。こんなムカつくのは暑過ぎるせいだな、間違いない。
斜め前の佐々木は夏バテして頬杖をついている他の生徒とは違い、黒板を見ていた。こいつはこんなアホみたいな性格をしているが、成績だけは校内でもトップクラスだった。しかも実家は建設会社を経営している。何だよ、全然そんな風に見えねえじゃん。うらやましいなおい。
「じゃあこの問題は誰に解いて……、おいお前らちゃんと授業訊けよ。
ほらほら、顔を上げて。ったく、おっ、本田、この問題解いてくれ」
しまった、先生と眼が合ってしまった。
こういう時は眼を合わさずに下を向くのがベストなのは馬鹿な中学生なら誰もが知っている常識だ。生徒によっては机の上でシャーペンをバツ印にして両手を合わせている。そこまで当てられたくないなら少しは勉強しろよ。俺はしぶしぶ席を立つと黒板に向かう。少し考えながら答えを書いて席に戻った。
「おっ、さすが本田。間違ってるぞ」
「……すんません」
くそっ、やな先生だ。借金増えろ!
こんな計算、大人になっても使わないだろ。
佐々木が嬉しそうな顔で俺を見た。こいつもうざい。しかも変顔をしてきた。面白いじゃねえか。
黒板と席を往復しただけで汗がしたたり落ちた。
汗かきの俺には本当辛い。あっ、またノートひっついた、あーもう。セミもミンミン合唱止めろよな。もう少し涼しい季節になったら鳴いてくれ。
その時にはセミもいないか。せめて暗くなってから鳴いてくれよ。
「俺は夏が大嫌いだ。暑いし、部活の練習時間も長い。勉強にも集中できん」
佐々木に文句を言ってもしょうがないが、つい愚痴がこぼれた。
「伊吹は冬でも勉強してねえじゃん」
「冬は寒いから勉強できねえんだよ」
「じゃあいつ勉強するんだよ」
「いつって……、まあ涼しくなったらだよ」
「お前が勉強する時期はかなり限定されるな」
「悪かったな」
お前も一緒だろ。と言いたいところだが、成績で完敗しているのでまるで言い返せない。今回は我慢してやろう。
「まあそんなにカッカするな。こんな暑さもあと少しだと思うと寂しいぜ」
佐々木が遠い眼で校舎を見つめる。さっきまで先生にエアコン付けろって言ってた奴が何言ってんだこの野郎。
それにしても今年の夏は本当に暑い。もう九月下旬だぞ。
団扇で風を作るが、生温い風は心地いいものではない。俺は日本の四季の中でも夏が一番嫌いだ。冬は着こめばどうにかなるが、夏は薄着になっても暑い。
身体が溶けそうだ。おまけに臭い。夏で好きなのは夏休みだけだ。
短い放課の間に一階に降りて水飲み場に行くが、この暑さのせいか他の生徒も水をがぶ飲みしている。
自分の番になると例外なく水をたらふく飲んで、頭に水をかけた。
俺が異常に汗かきなのは水分の摂り過ぎかも知れないと思ったが、これぐらい飲まないと脱水症状になってしまう。
濡れた髪を掻き上げると強い太陽光が顔に当たり、反射的に眼を細めた。あと一時間で今日の授業が終わる。あと少しの我慢だ。キーンコーンカーンコーンというチャイムが鳴った。
「やべっ」
俺は全速力で階段を駆け上って教室に滑り込んだ。
チャイムが鳴り終わるまでに教室に入ればセーフだ。足には一応自信があった。先生が来ているといけないので後ろの扉から入ると、皆が学級委員の声で気を付けをしているところだったので何くわぬ顔で生徒に混じる。
先生は一瞬視線をこちらに向けたが、気にしていない様子だ。助かった。でもまた無駄な汗をかいた。
国語の授業を終えると、練習用のユニフォームに着替えてグランドに出た。
野球部の俺はダラダラとランニングを始める。
小学生からやっている野球は嫌いじゃないが、毎日毎日同じ練習の繰り返しだとさすがにうんざりする。もう一生分の素振りとキャッチボールをした気分だ。反復練習にはもう飽きた。
大学や社会人になっても同じスポーツをする人はよっぽど好きなんだろう。俺には真似できない。部活が終わると自転車で自宅に帰る。
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