入れ替わった彼女

チャロコロ

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中学時代の思い出 9

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 部活を終えると周りの様子を伺いながら制服に着替えた。野球部は冬になるとボールを握る機会が減り、練習のほとんどが筋トレにあてられる。
 「伊吹?何やってんだよ。帰ろうぜ」
 泥棒のように抜き足差し足忍び足で校舎に移動しようとしているところを、佐々木に呼び止められた。
 「悪い、先帰ってくれ」
 「何で?忘れ物か?待ってるから行ってこいよ」
 「いや……」
 「何だよ」
 訝しい顔で見つめてきた。こいつには素直に言おう。
 「月野さんと一緒に帰る約束したんだ。今日は悪い」
 佐々木は途端にいやらしい笑顔になる。
 「バカヤロー!何してんだ。早く行ってこいっ」
 俺の肩を叩いて後押しした。「このセリフ一度言ってみたかったんだよ」と満足げに笑う佐々木に「悪いな」と手を上げて俺は走った。
 「ったく、また嫌われ役かよ。損な役回りだぜ」
 渋い声に変わる佐々木。
 そういう言葉は大声じゃなくて独り言のように呟くから格好良いんだよ。
 教室に掛け込もうとしたがすぐに戻ってトイレの鏡で髪を直す。
 教室の前の廊下で深呼吸をした。
 緊張はマックスになって腹が痛くなってきた。
 思い切って扉を開けて中を見回すが誰もいない。
 月野さんはまだ来ていないようだ。安心したようながっかりしたような気持ちになりながら窓からグランドを眺める。
 物寂しい感じの音楽が流れる中で、夕日でオレンジ色に染まった生徒達が自転車や徒歩で帰宅していく。
 誰もいない教室は、数時間前まで生徒がいたとは思えないくらい静かで不気味だった。
下校の音楽がなくなると同時にペタペタと廊下を掛ける足音が聞こえてきて月野さんが教室に入ってきた。
 「遅くなってごめんね」
 「いや全然」
 待ち時間があったおかげで緊張はほぐれていた。
 「みんなが帰っている姿を見るのって、何か不思議な感じだね」
 彼女は隣に来てグランドをボンヤリ見つめると、髪をかきあげた。
 「うん、日も短くなってきたね。もう日が傾いてる」
 隣に並んだ彼女の目線を追うように外を眺めるかたちになる。
 いつの間にか生徒の姿は減り、片手で数えることができる程度になっていた。
 月野さんはグランドを茫然と眺めている。白くて潤いのある肌に、ビー玉のように大きく透き通った眼が近くにある。彼女の横顔をこんな近くで見たのは初めてだ。
 少し見ただけで俺とは造りが全然違うことがよく分かる。男から見ても羨ましい容姿だ。
 「あれっ、あんた達まだいたの?早く帰りなさいよ」
 扉を開ける音とともに山田先生に注意される。肝試しの時に木から飛び降りて恐怖の極致に陥れた女の先生だ。
 「はーい」
 二人で返事をすると先生と廊下に出た。
 「それにしても……二人が……ねえ?」
 山田先生は終始ニヤニヤしている。いつもやる気なさそうに美術の授業をしているイメージしかないが、こういうことには案外興味があるらしい。
 「フョーフョー」
 小声で腹を突いてくる。若いくせに時代遅れなリアクションだ。意外におばさんなのかも知れない。
 「はいはい、若いアベックは帰った帰った」
 アベック?久しぶりに訊いたその言葉。おじさん先生でも言わないぞ。
 「あっ、本田くん」
 先生は思い出したような声を上げた。
 「何ですか?」
 「あの、えーと。私は今たまたま、偶然フリーなんだけど。まあ男には困ってないけど
 紹介してくれるなら会わないこともないけど。今ならチャンスって感じ?あなたのお父
 さんの会社関係の方とか」
 「佐々木くらいしか……」
 「チッ、よりによって天敵佐々木とは」と、校舎中に響き渡るくらいの舌打ちをして山田先生は去っていった。
 それにしても天敵とは……。
 あそこまであからさまに不機嫌になる人も珍しい。
 渋い男がいたら、いの一番に紹介してあげよう。
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