入れ替わった彼女

チャロコロ

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中学時代の思い出 12

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 「これが冴子と佐々木君の交換日記の話」
 「やっぱ真鍋さんか、そんなとこだろうと思った。それに真鍋さんは同じクラスじゃん」 
 「その方が面白いでしょ?」
 「まあね」
 「でも羨ましいわ、あの二人」
 「羨ましい?どうして?昔からケンカばっかしてるよ」
 「私は転校生だから、ああいう関係に憧れるの。
  それにあの二人はすでに進路を決めてる。
  私はいくら悩んでも将来どうしたいか分からない」
 彼女の吐息が白くなっている。
 「それは俺も一緒だよ。みんな同じように悩んでるんじゃないの?」
 佐々木は実家の会社を継ぐために建築関係の勉強をしたいと言っていたし、真鍋さんも甘い物好きが高じてパティシエになりたいと宣言していた。
 「本田君は進路とか考えてるの?」
 「俺は逆に興味あることだらけで絞れてない。
  パイロットになりたいし、建築士や警察官、それに芸術系にも興味あるしね」
 「なりたいものだらけね、私とは違う。
  私はやりたいことが見つからないの。
  よく分からないまま勉強しているだけ。
  想像するのはつまらなそうに仕事する大人になった私」
 「今から将来決めてもしょうがないよ。
  それに大人になった自分を想像できるってことはすごいことだと思うよ」
 「すごい?」
 彼女は妖怪を見つけたかのようにこちらを見た。
 「うん、俺はいくら考えても大人になった自分を想像することができないから。
  そもそも俺は大人になるのか?と思うよ」
 「ずっと中学生のままってこと?」
 「そういう訳じゃないんだけど。
  スーツ着て満員電車に揺られたり、一日中上司や客に頭下げる自分が想像できないっていう  
 か……」
 「生きてる以上、年は取るわ」
 「そんなことぐらいは分かってるけど」
 「私達は毎日、そして確実に『死』に向かっている」
 「それは考えたことない。俺は生きてるのが当たり前と思ってるから」
 月野さんは俺なんかよりずっと大人だ。だからこそ難しいことを考えるし、その分不安感も強い。
 既に真っ暗になった中学校の駐車場からテールランプを光らせた車が出て行った。仕事を終えた先生が帰ったのだろう。
 「私も常に『死』について考えてる訳じゃないよ。毎日つまらないことでクヨクヨ悩ん
 でいるだけ」
 茫然と車を眼で追っていると、月野さんが自嘲気味に笑った。
 「へえ、月野さんでも悩むことあるんだ?」
 「当たり前じゃん。悩んでばっかだよ私」
 こんなに綺麗で頭も良い人が悩むものなんだな。俺は素直に関心した。
 「俺なんかずっと楽しく生きてたいと思ってるだけ」
 「それはそれで良いんだよ」
 しばらく沈黙が続いた。いつもなら話題を懸命に探すところだが、常に流れる微風が木々の葉を擦り合わて静かに歌ってくれているので苦には感じなかった。
 「手寒くない?震えてるよ」
 彼女が口を開いた。
 「うん、大丈夫。寒くない」  
 何故か嘘をついた。予感がしたから。
 「そっか……」
 彼女の言葉から妙な間を感じた。
 「うん」
 返す言葉も短くなる。
 「……ねえ?」
 「うん?」
 月野さんは無言で手を取ってきた。
 温かくて柔らかい感触が手から伝わり、血液のように全身に循環する。
 彼女に触られたことで驚いたのか、心音がはっきりと感じとれた。
 「冷たい……」
 彼女は頬に手を当てて俯いている。
 もし自分が70歳まで生きるとしても、残りの人生でここまで幸せを感じることができる瞬間はあとどれくらいあるのだろう?
 もしかしたら、二度と訪れることはないかも知れない。
 「絶対に守るから……。俺が月野さんを守れるような強い男になるから」
 頭を撫でると、彼女は俯いたまま小さく頷いた。
 そして顔を上げると涙目で微笑んだ。
 「私達が大人になれたら、お嫁さんにしてよね」
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