54 / 84
中学時代の思い出 12
しおりを挟む
「これが冴子と佐々木君の交換日記の話」
「やっぱ真鍋さんか、そんなとこだろうと思った。それに真鍋さんは同じクラスじゃん」
「その方が面白いでしょ?」
「まあね」
「でも羨ましいわ、あの二人」
「羨ましい?どうして?昔からケンカばっかしてるよ」
「私は転校生だから、ああいう関係に憧れるの。
それにあの二人はすでに進路を決めてる。
私はいくら悩んでも将来どうしたいか分からない」
彼女の吐息が白くなっている。
「それは俺も一緒だよ。みんな同じように悩んでるんじゃないの?」
佐々木は実家の会社を継ぐために建築関係の勉強をしたいと言っていたし、真鍋さんも甘い物好きが高じてパティシエになりたいと宣言していた。
「本田君は進路とか考えてるの?」
「俺は逆に興味あることだらけで絞れてない。
パイロットになりたいし、建築士や警察官、それに芸術系にも興味あるしね」
「なりたいものだらけね、私とは違う。
私はやりたいことが見つからないの。
よく分からないまま勉強しているだけ。
想像するのはつまらなそうに仕事する大人になった私」
「今から将来決めてもしょうがないよ。
それに大人になった自分を想像できるってことはすごいことだと思うよ」
「すごい?」
彼女は妖怪を見つけたかのようにこちらを見た。
「うん、俺はいくら考えても大人になった自分を想像することができないから。
そもそも俺は大人になるのか?と思うよ」
「ずっと中学生のままってこと?」
「そういう訳じゃないんだけど。
スーツ着て満員電車に揺られたり、一日中上司や客に頭下げる自分が想像できないっていう
か……」
「生きてる以上、年は取るわ」
「そんなことぐらいは分かってるけど」
「私達は毎日、そして確実に『死』に向かっている」
「それは考えたことない。俺は生きてるのが当たり前と思ってるから」
月野さんは俺なんかよりずっと大人だ。だからこそ難しいことを考えるし、その分不安感も強い。
既に真っ暗になった中学校の駐車場からテールランプを光らせた車が出て行った。仕事を終えた先生が帰ったのだろう。
「私も常に『死』について考えてる訳じゃないよ。毎日つまらないことでクヨクヨ悩ん
でいるだけ」
茫然と車を眼で追っていると、月野さんが自嘲気味に笑った。
「へえ、月野さんでも悩むことあるんだ?」
「当たり前じゃん。悩んでばっかだよ私」
こんなに綺麗で頭も良い人が悩むものなんだな。俺は素直に関心した。
「俺なんかずっと楽しく生きてたいと思ってるだけ」
「それはそれで良いんだよ」
しばらく沈黙が続いた。いつもなら話題を懸命に探すところだが、常に流れる微風が木々の葉を擦り合わて静かに歌ってくれているので苦には感じなかった。
「手寒くない?震えてるよ」
彼女が口を開いた。
「うん、大丈夫。寒くない」
何故か嘘をついた。予感がしたから。
「そっか……」
彼女の言葉から妙な間を感じた。
「うん」
返す言葉も短くなる。
「……ねえ?」
「うん?」
月野さんは無言で手を取ってきた。
温かくて柔らかい感触が手から伝わり、血液のように全身に循環する。
彼女に触られたことで驚いたのか、心音がはっきりと感じとれた。
「冷たい……」
彼女は頬に手を当てて俯いている。
もし自分が70歳まで生きるとしても、残りの人生でここまで幸せを感じることができる瞬間はあとどれくらいあるのだろう?
もしかしたら、二度と訪れることはないかも知れない。
「絶対に守るから……。俺が月野さんを守れるような強い男になるから」
頭を撫でると、彼女は俯いたまま小さく頷いた。
そして顔を上げると涙目で微笑んだ。
「私達が大人になれたら、お嫁さんにしてよね」
「やっぱ真鍋さんか、そんなとこだろうと思った。それに真鍋さんは同じクラスじゃん」
「その方が面白いでしょ?」
「まあね」
「でも羨ましいわ、あの二人」
「羨ましい?どうして?昔からケンカばっかしてるよ」
「私は転校生だから、ああいう関係に憧れるの。
それにあの二人はすでに進路を決めてる。
私はいくら悩んでも将来どうしたいか分からない」
彼女の吐息が白くなっている。
「それは俺も一緒だよ。みんな同じように悩んでるんじゃないの?」
佐々木は実家の会社を継ぐために建築関係の勉強をしたいと言っていたし、真鍋さんも甘い物好きが高じてパティシエになりたいと宣言していた。
「本田君は進路とか考えてるの?」
「俺は逆に興味あることだらけで絞れてない。
パイロットになりたいし、建築士や警察官、それに芸術系にも興味あるしね」
「なりたいものだらけね、私とは違う。
私はやりたいことが見つからないの。
よく分からないまま勉強しているだけ。
想像するのはつまらなそうに仕事する大人になった私」
「今から将来決めてもしょうがないよ。
それに大人になった自分を想像できるってことはすごいことだと思うよ」
「すごい?」
彼女は妖怪を見つけたかのようにこちらを見た。
「うん、俺はいくら考えても大人になった自分を想像することができないから。
そもそも俺は大人になるのか?と思うよ」
「ずっと中学生のままってこと?」
「そういう訳じゃないんだけど。
スーツ着て満員電車に揺られたり、一日中上司や客に頭下げる自分が想像できないっていう
か……」
「生きてる以上、年は取るわ」
「そんなことぐらいは分かってるけど」
「私達は毎日、そして確実に『死』に向かっている」
「それは考えたことない。俺は生きてるのが当たり前と思ってるから」
月野さんは俺なんかよりずっと大人だ。だからこそ難しいことを考えるし、その分不安感も強い。
既に真っ暗になった中学校の駐車場からテールランプを光らせた車が出て行った。仕事を終えた先生が帰ったのだろう。
「私も常に『死』について考えてる訳じゃないよ。毎日つまらないことでクヨクヨ悩ん
でいるだけ」
茫然と車を眼で追っていると、月野さんが自嘲気味に笑った。
「へえ、月野さんでも悩むことあるんだ?」
「当たり前じゃん。悩んでばっかだよ私」
こんなに綺麗で頭も良い人が悩むものなんだな。俺は素直に関心した。
「俺なんかずっと楽しく生きてたいと思ってるだけ」
「それはそれで良いんだよ」
しばらく沈黙が続いた。いつもなら話題を懸命に探すところだが、常に流れる微風が木々の葉を擦り合わて静かに歌ってくれているので苦には感じなかった。
「手寒くない?震えてるよ」
彼女が口を開いた。
「うん、大丈夫。寒くない」
何故か嘘をついた。予感がしたから。
「そっか……」
彼女の言葉から妙な間を感じた。
「うん」
返す言葉も短くなる。
「……ねえ?」
「うん?」
月野さんは無言で手を取ってきた。
温かくて柔らかい感触が手から伝わり、血液のように全身に循環する。
彼女に触られたことで驚いたのか、心音がはっきりと感じとれた。
「冷たい……」
彼女は頬に手を当てて俯いている。
もし自分が70歳まで生きるとしても、残りの人生でここまで幸せを感じることができる瞬間はあとどれくらいあるのだろう?
もしかしたら、二度と訪れることはないかも知れない。
「絶対に守るから……。俺が月野さんを守れるような強い男になるから」
頭を撫でると、彼女は俯いたまま小さく頷いた。
そして顔を上げると涙目で微笑んだ。
「私達が大人になれたら、お嫁さんにしてよね」
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。
源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。
長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。
そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。
明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。
〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる