旧校舎の少女

チャロコロ

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制服の少女

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 「はーい、授業を再開するからね」
 先生が教壇に戻ると、生徒達の視線が彼女に向く。先生が問題の元となった小説の題名、著者や経歴等について簡単に説明した後、生徒を当てながら問題の解説を始めた。
 ペタッ……。
 問題を当てられた笹原がとんちんかんな答えを言うと、皆に笑いが起きた。
 お調子者な彼は「おっかしいなぁ、さっきまでは分かってたんすよ」と頭を掻きながら席を座る。
 ペタッ……ペタッ……。
 廊下を歩く時の、スリッパの擦る音が君島の耳に届いた。廊下に眼をやるが誰もいない。他の生徒も数人、廊下に眼を向けたがすぐに前を向き直す。気にする様子はない。  
 ペタッ……ペタッ……ペタッ……。
 もう一度廊下を見るが、誰もいない。
 確かに聞こえたはずなのに、そう思った矢先にまた同じ音が小さく響いた。
 ペ……タ……。
 君島はその音が廊下からしていたのではないことにようやく気付いた。その音は廊下とは反対側、校庭の方から聞こえていたのだ。校庭を見回すが誰もいない。
 自分の額からじわじわと汗が染み出てきているのが分かった。その汗がまつ毛を越えて波のように視界に入ってくる。
 君島は汗を拭うのも忘れたまま、校庭から視線を移さなかった。いや、それ以上移せなかったのだ。
 旧校舎の方から、重く薄気味の悪い空気が君島の肩にずっしりと乗ってきた。
 黒く濁りきった霧が充満し、その各々が強烈な悪意を持って、生徒の身体を内部からじっくりと侵そうとしているかのようだ。
 見たくない。
 そう思いながらも、君島の防衛本能が瞼を大きく開いて固定し、眼球を旧校舎に向けさせる。君島の抵抗はあっさりと打ち砕かれた。彼女の眼球は旧校舎を追った。
 ……いた。
 突如全身を凍らせるほどの悪寒が君島を襲った。心臓の鼓動が速くなるにつれて心音が大きくなっていき、耳元まで届いてくる。酸素を取り込めなくなった身体は必死に呼吸を試みるが意思に反して視界はぼやけていき、意識も混濁してくる。
 それでも痙攣で震える瞼の中の瞳は、同じくらいの歳の少女をしっかりと捉えていた。
 昨日見た少女と同じだ。
 この娘が縷々子さんなの?      
 制服姿の少女は、旧校舎の廊下をゆっくりと歩いていた。
 歩く度に綺麗な黒髪が揺れて、校庭を挟んだこの教室まで良い香りが漂ってきそうだった。
 その瞬間君島の身体は一気に軽くなり、その勢いでガタンと音をたてて席を立った。
 「君島さん、どうしたの?君島さん?」
 先生の声は君島には届かなかった。君島は旧校舎を見つめたまま動かない。生徒からはクスクスと忍び笑いが漏れていた。
 「きみし……」
 君島の視線を追った三嶋先生の顔がみるみる蒼白になる。
 2人の異様な態度に他の生徒の笑いが一瞬で消えた。
 「誰?」
 クラスメイトの一人が旧校舎を指差した。「えっ?」「誰あれ」「どうやって入ったの?」「あそこに入るのはまずいだろ」「停学かもな」生徒達が口々に騒ぎ始めた。教室内は授業中であることを忘れて犯人探しに没頭し始めている。
 旧校舎にいる少女が生きているのか、死んでいるのか、その根本を疑う者はほとんどいなかった。彼女が一言呟くまでは。
 「縷々子さん……」
 三嶋先生は小さく、しかしはっきりとその名前を口にした。
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