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12月2日 存在
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12月2日
鈴原はいつも通りの時間に登校した。
教室に入ると既に20人程度の生徒が登校してきており、受験に向けて勉強をする者、おしゃべりに興ずる者等、思い思いの時間を過ごしていた。
空席になった木島の席を見て、鈴原は昨日のことを思い返した。
縷々子さんの一件以降、自分達のクラスを始め、学校中が大騒ぎになった。全ての部活は中止、自習などで残ることも一切禁止して他のクラスの生徒は早急に帰宅させることになった。
鈴原のクラスだけは残って先生に状況を説明することとなったが、あんなことのあった教室には戻りたくないとの生徒の強い要望から体育館に集まることになった。
事情聴取は教頭が直々に訪れて、1人1人から話を訊いていた。鈴原も起きたことをありのまま教頭に説明した。
ほとんどの生徒が先程起きた不可解な出来事を思い出しては恐怖に震えながらも何とか話をしていたが、川原だけは彼氏が神隠しのように眼前から消えてしまったことでショックを受け、終始号泣しっぱなしで、とても話をできる状態ではなかった。
一通り話を訊き終えた教頭始め教師陣は首を傾げながらも、取り敢えず教室を確認することにしたが、教室は全く異変がないのを確かめると、受験前という大事な時期なので早く忘れることと、他の生徒や親には話をしないように指導した。
木島が突如謎の失踪をしたことから、精神的ダメージを受けた生徒が集団催眠状態に陥って幻覚を見た。
その様にでも判断したのだろう、鈴原は思った。
だが、鈴原は教師の判断を全否定することができなかった。
現に教室には何の異変もなく、現時点で縷々子さんの現象を証明できるものがなかったからだ。
自分達の話を信用してもらえなかった鈴原達はとぼとぼと帰宅するほかなかった。
鈴原は昨夜、縷々子さんのことをずっと考えていた。
最初に縷々子さんに気付いたのは君島だった。彼女は矢庭に立ち上がったかと思うと、無言で旧校舎を見つめていた。最初は不思議に思った鈴原も、前日のことを思い出し、まさかと思って君島の目線を追うと、制服姿の黒髪の少女が旧校舎の廊下をゆっくりと歩いていたのだった。
君島が縷々子さんらしき少女を目撃していたことは訊いていた。
だが、鈴原は君島のことを信じたいと思う反面、心のどこかで彼女の勘違いか勉強の疲れから幻覚を見ていたと
推し量っていた。同じように少女を見た三嶋先生が「縷々子さん」と口にするまでは。
クラス全員が縷々子さんを目撃してしまったのだ。
今考えてみると、こちらの視線に気付いていたのかも知れない。縷々子さんはゆっくりと歩き、いつの間にか教室に入り込んでいた。
彼女は木島の前に立って透明な液体を床にこぼすと、その瞬間暴風と共に強烈な炎が……。
そこまで思い出して、自分の呼吸が荒くなっていることを気色取った。手は汗ばみ、ぬめぬめと不快な感触が伝わってくる。
念のため、木島の机をもう一度確認する。やはり焦げ跡一つついていない。あれは縷々子が作った幻だった。これが鈴原が出した結論だった。
そうでなければあれ程の炎が上がりながら他の生徒が誰一人火傷していない理由の説明がつかない。
鈴原は仮説を立ててみた、そもそも縷々子さん自体が幻覚だったのではないか。
鈴原のクラスである3年5組全員と三嶋先生を巻き込んだ集団催眠だ。
鈴原もその渦中にいたため、完全に否定することはできない。彼は君島から事前に縷々子さんの情報を得ており、縷々子さんの幻覚を見たことは否定できない。
だが、それなら生徒全員が縷々子さんを目撃したことの説明にはならない。
他の生徒は縷々子さんの存在自体は知っていても、旧校舎で縷々子さんを目撃した時の反応は霊を見たというより、立入禁止場所に無断で侵入した不良生徒という感じで縷々子さんを見ていた。
恐怖心は感じていなかったのだ。あの時点では誰もパニックには陥っていなかった、君島以外は。
やはり、縷々子さんの存在は『いた』と考えるのが妥当だろう、鈴原は舌打ちした。
集団催眠の方が都合が良かったからだ。
鈴原はいつも通りの時間に登校した。
教室に入ると既に20人程度の生徒が登校してきており、受験に向けて勉強をする者、おしゃべりに興ずる者等、思い思いの時間を過ごしていた。
空席になった木島の席を見て、鈴原は昨日のことを思い返した。
縷々子さんの一件以降、自分達のクラスを始め、学校中が大騒ぎになった。全ての部活は中止、自習などで残ることも一切禁止して他のクラスの生徒は早急に帰宅させることになった。
鈴原のクラスだけは残って先生に状況を説明することとなったが、あんなことのあった教室には戻りたくないとの生徒の強い要望から体育館に集まることになった。
事情聴取は教頭が直々に訪れて、1人1人から話を訊いていた。鈴原も起きたことをありのまま教頭に説明した。
ほとんどの生徒が先程起きた不可解な出来事を思い出しては恐怖に震えながらも何とか話をしていたが、川原だけは彼氏が神隠しのように眼前から消えてしまったことでショックを受け、終始号泣しっぱなしで、とても話をできる状態ではなかった。
一通り話を訊き終えた教頭始め教師陣は首を傾げながらも、取り敢えず教室を確認することにしたが、教室は全く異変がないのを確かめると、受験前という大事な時期なので早く忘れることと、他の生徒や親には話をしないように指導した。
木島が突如謎の失踪をしたことから、精神的ダメージを受けた生徒が集団催眠状態に陥って幻覚を見た。
その様にでも判断したのだろう、鈴原は思った。
だが、鈴原は教師の判断を全否定することができなかった。
現に教室には何の異変もなく、現時点で縷々子さんの現象を証明できるものがなかったからだ。
自分達の話を信用してもらえなかった鈴原達はとぼとぼと帰宅するほかなかった。
鈴原は昨夜、縷々子さんのことをずっと考えていた。
最初に縷々子さんに気付いたのは君島だった。彼女は矢庭に立ち上がったかと思うと、無言で旧校舎を見つめていた。最初は不思議に思った鈴原も、前日のことを思い出し、まさかと思って君島の目線を追うと、制服姿の黒髪の少女が旧校舎の廊下をゆっくりと歩いていたのだった。
君島が縷々子さんらしき少女を目撃していたことは訊いていた。
だが、鈴原は君島のことを信じたいと思う反面、心のどこかで彼女の勘違いか勉強の疲れから幻覚を見ていたと
推し量っていた。同じように少女を見た三嶋先生が「縷々子さん」と口にするまでは。
クラス全員が縷々子さんを目撃してしまったのだ。
今考えてみると、こちらの視線に気付いていたのかも知れない。縷々子さんはゆっくりと歩き、いつの間にか教室に入り込んでいた。
彼女は木島の前に立って透明な液体を床にこぼすと、その瞬間暴風と共に強烈な炎が……。
そこまで思い出して、自分の呼吸が荒くなっていることを気色取った。手は汗ばみ、ぬめぬめと不快な感触が伝わってくる。
念のため、木島の机をもう一度確認する。やはり焦げ跡一つついていない。あれは縷々子が作った幻だった。これが鈴原が出した結論だった。
そうでなければあれ程の炎が上がりながら他の生徒が誰一人火傷していない理由の説明がつかない。
鈴原は仮説を立ててみた、そもそも縷々子さん自体が幻覚だったのではないか。
鈴原のクラスである3年5組全員と三嶋先生を巻き込んだ集団催眠だ。
鈴原もその渦中にいたため、完全に否定することはできない。彼は君島から事前に縷々子さんの情報を得ており、縷々子さんの幻覚を見たことは否定できない。
だが、それなら生徒全員が縷々子さんを目撃したことの説明にはならない。
他の生徒は縷々子さんの存在自体は知っていても、旧校舎で縷々子さんを目撃した時の反応は霊を見たというより、立入禁止場所に無断で侵入した不良生徒という感じで縷々子さんを見ていた。
恐怖心は感じていなかったのだ。あの時点では誰もパニックには陥っていなかった、君島以外は。
やはり、縷々子さんの存在は『いた』と考えるのが妥当だろう、鈴原は舌打ちした。
集団催眠の方が都合が良かったからだ。
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