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過去 4
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後任の教師との引き継ぎを終え、荷物をまとめ終わったころには午9時を回っていた。
職員室を見回しても誰もいない。彼女が最後の荷物を車まで持ち運ぼうとした時、ポケットが規則的に震えていることに気付いた。電話がかかってきている。急いで荷物を置き直すと、携帯電話のモニターを見た。知らない番号からだ。不審に思いながらも電話に出ると、聞き覚えのある声が出た。
「やっほー、久しぶり。元気?嬢ちゃんって言えば思い出してくれるかな?」
懐かしい声だった。最後に会ったのは大学以来だから、もう10年近くも彼女とは会っていない。嬢ちゃんの人懐っこくて活発な声は変わっていなかった。
「忘れる訳ないじゃん。わぁ懐かしい。元気そうだね」
「元気過ぎるくらいよ。絵里はどう?先生頑張ってる?」
嬢ちゃんの声に、疲れが一気に吹っ飛んだ気がした。
「まあ何とかやってるよ。嬢ちゃんはどうなの?」
「よくぞ訊いてくれました。5年前に夢の公認会計士になって、バリバリやってまーす」
「すごい、超難関の試験に受かったんだ」
素直に関心した。合格率の低い公認会計士になるには並大抵の努力では受からない。
「奇跡よ奇跡。合格を知った時、ビックリし過ぎて顎がはずれたもん」
「またぁ。嬢ちゃんは」
「ふふっ、絵里も元気そうで良かったわ」
受話器の向こうから聞こえる変わらぬ声に、絵里の気持ちは高校生に戻っていた。
「そうだ、丁度良かったわ。嬢ちゃんは驚くかも知れないけど……」
「えっ、何何?」
「今度の春から母校で先生やることになったんだよ」
「えっ?えー?」
「ちょっと驚き過ぎよ。まあ私も異動が決まった時にはびっくりしたけど。でも異動し
たら学校を回って思い出巡りをしてくるわ。それだけが楽しみ」
「仕事しろ仕事」
一通り話の区切りがついたところで、嬢ちゃんが本題を切り出してきた。
「今度みんなで一泊旅行に行こうと思うんだけど。絵里もどう?行かないかなと思って」
「みんな?」
「やあねぇ、忘れちゃった訳じゃないでしょ?私とヒカリ、それにガッツ」
ガッツという名前を訊いた途端、絵里の心臓が高鳴ってフワリと身体が浮いた気がした。彼と最後に会ったのは20歳の時に四人で集まった時以来だ。
31歳になった彼はどんな大人になっているのだろう。変わってない?渋くなった?禿げた?太った?落ち着いた?
結婚してるのかな?それともまだ独身?
絵里は受話器を耳に当てながら、急いで手鏡を取り出した。
私は?おばさんになってないかな?若さをキープしてる?
相手のことを気にしているとはいい御身分だ。自分をけなした。10年以上も逢ってないんだ。今からでもしっかり肌のケアをしておかないと……。
「あっ、ガッツは違った」
「えっ?どういうこと?来れないってこと?」
思わずがっついてしまった。恥ずかしい。絵里は年がいもなく赤面した。
「ガッツは子供と来るんだって」
「子供と?」
「3年前に事故で奥さんを亡くしてから1人で育ててるからね。5歳の娘も一緒に連れ
てかないと行けないって。まあ他に面倒を見る人がいないから仕方ないけどね」
ガッツが結婚したこと、子供がいたこと、それに奥さんと死別したことを知っていた嬢ちゃん。彼のことをあっけらかんと話す嬢ちゃんが、絵里は少し面白くなかった。嬢ちゃんが悪くないのは分かっている。頭では分かっているが、心は簡単に折り合いがつかなかった。
職員室を見回しても誰もいない。彼女が最後の荷物を車まで持ち運ぼうとした時、ポケットが規則的に震えていることに気付いた。電話がかかってきている。急いで荷物を置き直すと、携帯電話のモニターを見た。知らない番号からだ。不審に思いながらも電話に出ると、聞き覚えのある声が出た。
「やっほー、久しぶり。元気?嬢ちゃんって言えば思い出してくれるかな?」
懐かしい声だった。最後に会ったのは大学以来だから、もう10年近くも彼女とは会っていない。嬢ちゃんの人懐っこくて活発な声は変わっていなかった。
「忘れる訳ないじゃん。わぁ懐かしい。元気そうだね」
「元気過ぎるくらいよ。絵里はどう?先生頑張ってる?」
嬢ちゃんの声に、疲れが一気に吹っ飛んだ気がした。
「まあ何とかやってるよ。嬢ちゃんはどうなの?」
「よくぞ訊いてくれました。5年前に夢の公認会計士になって、バリバリやってまーす」
「すごい、超難関の試験に受かったんだ」
素直に関心した。合格率の低い公認会計士になるには並大抵の努力では受からない。
「奇跡よ奇跡。合格を知った時、ビックリし過ぎて顎がはずれたもん」
「またぁ。嬢ちゃんは」
「ふふっ、絵里も元気そうで良かったわ」
受話器の向こうから聞こえる変わらぬ声に、絵里の気持ちは高校生に戻っていた。
「そうだ、丁度良かったわ。嬢ちゃんは驚くかも知れないけど……」
「えっ、何何?」
「今度の春から母校で先生やることになったんだよ」
「えっ?えー?」
「ちょっと驚き過ぎよ。まあ私も異動が決まった時にはびっくりしたけど。でも異動し
たら学校を回って思い出巡りをしてくるわ。それだけが楽しみ」
「仕事しろ仕事」
一通り話の区切りがついたところで、嬢ちゃんが本題を切り出してきた。
「今度みんなで一泊旅行に行こうと思うんだけど。絵里もどう?行かないかなと思って」
「みんな?」
「やあねぇ、忘れちゃった訳じゃないでしょ?私とヒカリ、それにガッツ」
ガッツという名前を訊いた途端、絵里の心臓が高鳴ってフワリと身体が浮いた気がした。彼と最後に会ったのは20歳の時に四人で集まった時以来だ。
31歳になった彼はどんな大人になっているのだろう。変わってない?渋くなった?禿げた?太った?落ち着いた?
結婚してるのかな?それともまだ独身?
絵里は受話器を耳に当てながら、急いで手鏡を取り出した。
私は?おばさんになってないかな?若さをキープしてる?
相手のことを気にしているとはいい御身分だ。自分をけなした。10年以上も逢ってないんだ。今からでもしっかり肌のケアをしておかないと……。
「あっ、ガッツは違った」
「えっ?どういうこと?来れないってこと?」
思わずがっついてしまった。恥ずかしい。絵里は年がいもなく赤面した。
「ガッツは子供と来るんだって」
「子供と?」
「3年前に事故で奥さんを亡くしてから1人で育ててるからね。5歳の娘も一緒に連れ
てかないと行けないって。まあ他に面倒を見る人がいないから仕方ないけどね」
ガッツが結婚したこと、子供がいたこと、それに奥さんと死別したことを知っていた嬢ちゃん。彼のことをあっけらかんと話す嬢ちゃんが、絵里は少し面白くなかった。嬢ちゃんが悪くないのは分かっている。頭では分かっているが、心は簡単に折り合いがつかなかった。
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