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第3章

3 - 3 レールガンvs銭投げ

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《かなり遠くまで来ましたね~》

(ああ……もっとも、フライで飛行してるから然程日数もかかってないんだけどね)

時間は早朝──

俺はみんながまだベットで寝ている間に一人フライで朝焼けの中を高速で飛行している。

目指す先は誘拐事件に加担しているツェーザルの領地
ファルドとルナバスを懲らしめた後、かなりの時間が経ってしまったが放置する訳にも行かない案件だ。
なぜなら俺は女神ポメリーとの契約の元、弱きを助け、悪を挫く───と言えば聞こえはいいが、所謂正義の下請けだな。

世の中にはびこる悪行を減らし、善に満ちた世界にするのが俺と女神との契約。
常に一日一善を心がけている俺としては願ったり叶ったりの契約だ。


話は戻るが、なぜ早朝に飛行しているかと言えば…次の目的地を家のみんなに言ったところ…

「雷斗さん!また旅行に行くんですか?」
「雷斗様~今度は何処に連れてってくださるんですか?」
「カナたのしみだな~えへへ」

さすがに毎回馬車でチンタラ移動なんてしてられません!馬車なんて使ったらまた往復で一か月かかっちゃうし…

という事で、俺は朝早くから飛行し、女神さまから新たに授かった拠点間移動魔法【ポータル】を使って適度に屋敷に戻るっていう算段だ。

これなら移動も早いし、目的地に着いたところで【ポータル】を使ってみんなを連れてくればいいだけと大変お手軽に時間短縮ができる。


《しかしですね…普通はフライ使ったってこんなに早く飛びませんよ……トルネイドを常に後方に飛ばして速力を確保なんて…本来なら速度に体が持ちませんよ!》

(ふははは!不死身ならではの壊れ技だな!)

《一つの魔法を教える→それを勝手に改良する……雷斗さんが異常なのは仕様なのですかね……》

(ま、おばあちゃんには無い創造力が若い俺にはあるのだよ!)

《ムキー!おばあちゃんじゃないし!その気になれば幼女にだってなれるんですらかね!》

(あーはいはい。そしたら頭撫で撫でして抱っこしてヨシヨシしてあげまちゅからね~)

《ハァハァ……それなんてご褒美!是非お願いします!》

(だああああ!うぜええええ!あっ……)

漫才中に壊れ発言をぶっ放した女神さまのせいで動揺してしまった俺は二重魔法の制御に失敗!

「おわああああああああああ!!とまらねえーーー!」


ズガガガガガ!ズカッ!ズカッ!ドゴッ───

後方に飛ばしていたトルネイドがいい具合に失敗し体に巻き付き、俺は錐揉み回転しながら目下に広がる山岳部に大落下!!

「いてて……不死身じゃなかったら即死だったわ……」

《良かったですね~加護のおかげですね~》

(ああ。もらったのおかげだな)

《ムキー!》(ムキムキ?マッチョになりたいの?)

《後で覚えてなさい!絶対に泣かせてやるんだからっ!》

(マッチョになって?)《知りません!ふんっだ!》

それ以降何を言っても返事が帰って来なくなってしまった。
きっと筋トレでもしているのだろう……


そんな女神さまは放っておいて─────
とりあえず「【フライ】」と念じて飛ぼうとするも……

ぬっ!飛べない……
どうやら肉体のダメージの回復に使ってしまったのか、魔力切れを起こしたようだ。

「あぁ。そういえばリバイブを全力で使った時に軽く魔力切れ起こしたもんなぁ……」

仕方ない歩くか……えーっと……マップマップっと


脳内の地図を開けば少し離れたところに村?らしき集落の存在を発見した。

(さすが女神さまの加護!マーカーが勝手に点灯するようになってからの利便性は計り知れないですな!)

《……………………》

ぐぬっ!折角よいしょしたのに無視されてしまったよ……

いいけどね別に……


───テクテクテクテク────

俺は数時間歩き太陽が頂点に昇った頃───なんとか地図に表示されている村に辿り着いた。

辿り着いた村は寂れてはいないが栄えてもいない、ごくごく普通の田舎にあるような村だった。

「すいませ~ん!」

「お?見ない顔だねえ。どこから来たんだい?」

俺は土を耕している老夫婦を見つけ、声をかけると気さくに返事を返してくれる。

田舎って素晴らしい!

「えっと、俺はファルド子爵領の街から来たのですが……」

「何処だいそれ?」「さあ……何処だっけかな」

と夫婦揃って?顔

「えーっと……この山を降りて森を抜けて……歩いて1ヶ月ってとこでしょうか……」

「あんれ!そんな遠くからどーしてこんな山中に?」

「ツェーザル領へ移動している最中だったんですが…道に迷いまして…この村に休憩できる施設があれば教えて頂きたいのですが…」

俺がそう言うと夫婦は顔を見合せ「う~ん」と唸り

「この村にはそんな所はねーかんなぁ……」

「それじゃ仕方ない…その辺で適当に転がるとします。ありがとうございました」

と俺は頭を下げ、その場を去ろうとすると───

「待ちんさい」

とおじいちゃんに声をかけられ立ち止まると

「我が家で良ければ休憩していくとええ」

「え!それは大変嬉しいですけど……よろしいんですか?」

「その代わりと言っちゃあなんだけども、家には孫娘が居ってな…それに街の話を聞かせてやってくれんかね?」

「何分ここは田舎だかんね~」

いずれは街へ行くだろうからね……という老夫婦

「なるほど、それならお役に立てるでしょう。宜しくお願いします」

そして俺は老夫婦に連れられ家へと向かう。


「帰ったぞ~」「ただいま~」

と老夫婦の帰宅の声を聞き、奥から若い少女が現れた。

「お帰りなさい。おじいちゃん、おばあちゃん」

そして後ろの俺を見て

「あら?そちらは何方ですか?」

「俺は此処から歩いて一月ぐらいの所にあるファルド子爵領から歩いて旅をしている者です。ツェーザル領へ向かう途中でどうやら迷ってしまったみたいで……この村にたまたまたどり着いたので休憩する場所を探して居たところ……」

「わしが招待したと言うわけじゃ。」

と俺の説明に付け足してくれるおじいちゃん。

娘さんは少し考えた後、俺に笑顔を向け

「そうですか。それではさぞお疲れでしょう。すぐに食事の用意をしますので居間で寛いでいて下さいね」

と言うとパタパタっと奥に戻って行ってしまった。

「お若いの。こっちじゃ~」おじいちゃんの手招きで俺は家に上がり居間にある椅子に腰を掛ける。

「あの……失礼ですが、息子さん夫婦はご在宅ではないのですか?」と質問すると──

「息子達は山で実りを収穫している時に魔物に襲われてな……もう居らんのじゃよ」と悲しげな瞳で語るおじいちゃん

「それは気使いがたりませんでした」と俺は頭を下げる。


少々空気が重くなった所に、食事の用意が出来たのか、おばあちゃんと孫娘さんが食事をテーブルに並べていく。

「では、頂くとしましょうか」
おじいちゃんの一言でおばあちゃんと孫娘さんも椅子に座り食事の時間となる。

食事の間、俺は自己紹介も兼ねどういった街に住んでいて、どういった仕事があって……旅の目的は上手く誤魔化し……俺の話しを瞳を輝かせながら聞く孫娘さん……<名をライラと言う>を見つめる老夫婦。


俺は食事を終え居間で食後のお茶を飲んでいると────

キャァァァァァ!と外から悲鳴が響いた

急いで玄関を開け家を出ると……さっきまで晴天だった空が黒く淀んでいる。
そして老夫婦も悲鳴を聞いたのか、俺の後に続き家から出て来ていた。

「なぜ突然辺りが暗く…それに悲鳴が聞こえたような…」

「天気はわかりませんが…悲鳴は確かに聞こえました」

とりあえず、おばあちゃんにはライラの所に行ってもらい、俺とおじいちゃんは家から出て辺りの様子を窺う───


周囲に微かだが漂う錆びた鉄の香りを敏感に感じ取った俺は

「微かだけど血の匂いがします。なにが起きているのか解りませんが……周囲の様子は俺が見てきます。おじいちゃんは家で家族を守っていてください」

とおじいちゃんに家に居るよう言い付け、村の広場へと飛び出した。



脳内の地図を確認すれは白と……赤のマーカー!

白に重なるように移動する赤のマーカーがぶつかった瞬間……
白のマーカーは消滅した───

どうやらこの村は魔物の襲撃に遭っているらしい。

俺はすかさず近くの赤いマーカーにむけ走り【インベントリ】から取り出した鉄貨を全力で投擲!
女神さまから頂いた身体能力補正によって人類が辿り着けるはずのない速度で鉄貨はマーカーへと吸い込まれていく。

バガッ!

という音と共に地図からマーカーが一つ減ったのを確認し…魔力の回復具合を確かめるも1割といったところか。

しかし脳内の地図では増え続ける赤のマーカーに俺は顔を顰めた。
魔力は温存して物理で闘いたいところだな…
しかし…こんなにも薄暗くなってしまっては間違って村人を攻撃しかねない

(女神さま!喧嘩してる場合じゃないですよ!返事をしてください!女神さま!)

《ポメリエモンになにか用ですか?》
とかなり……いや、超絶不機嫌な女神さまの声が聞こえた。

(すいません!謝りますから!辺りを照らす魔法を!このままではこの村がやばい!女神さまにもマーカーが見えてるんでしょ!)

《もう!結局こういう時だけは頼るんだからっ!雷の玉をイメージして【ライトニングボール】と唱えてくれれば掌大の雷球が生まれます》

(助かる!女神さま!)「【ライトニングボール】」俺が念じた瞬間掌に光が集まり雷球を作る。

俺はそれに「【レビテーション】」と浮遊の魔法を付与し打ち上げる!《またそうやってアレンジしてー!ぶーぶー!》と苦情が聞こえるが今は無視だ!

俺は照らされた村をフライで飛び上がり確認する……

(女神さまがぶーぶー言ってるから豚が出たじゃないですか!)

《言い掛かりです!》(しかし……女神さまがちょっとぶーぶー言っただけで二足歩行の豚が大量に現れるってのはどうなんですか?女神さま的に)《だから言い掛かりだと言っているブヒー!!》
(ブヒってんじゃねーよまったく…)

そう……飛び上がり下を見渡した俺には二足歩行の豚がこん棒を持って村人を襲っているように見えたのだ。

それがマーカーを見る限り15体!

俺は鉄貨を取り出し……「レールガン!」と振りかぶり全力で投擲!

ギュン!と高速で飛ぶ鉄貨は狙いたがわず豚の頭部へと弾着。
その威力に貫かれた豚の頭部は爆発!脳みそを四散させ息絶える。

「ナイスコントロールだな」うんうんと頷き残りの豚にも同様に爆散してもらった。

《レールガンってなんですか!今のは超絶有名な銭投げでしょ!平次さんの超素敵で最高な必殺技にどっかのビリビリっ子みたいなチャラい名前を付けるんですか!今すぐ平次さんに謝罪してください!さあ!今すぐにー!》

(ビリビリっておばあちゃん……血圧上がるからもう少し静かにした方がいいよ?)

《おばあちゃんちゃうねんで!》(なんで関西風…)面倒臭い……



そうして村の危機は俺のレールガ《銭投げ!!》によって去ったのであった。
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