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第3章

3 - 6 バレバレの執行者

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あれから村を出て二日──俺とライラはツェーザルが直接統治している街に到着、天馬に乗ったままでは怪しさ大爆発だからと、ちょっと離れた所に着陸し入管に入税を支払い街へと入る。

《あの距離を二日で踏破するなんて…あり得ないですよ!》

(くくく…馬の周囲に微弱なトルネイドで風の壁を作って後方に向けてトルネイドを飛ばし続けたのだよ…そして馬にはリカバリーで全力を出し続けさせたのさ!)

《またトルネイド…》

(トルネイドこそ至高の魔法!便利すぎて頭が下がるぜ!わっはっはっ~)

と女神さまとどーでもいい会話をしていると、ライラから声が聞こえてくる


「うわぁ~…久世さん久世さん!石つくりの建物が一杯ありますよ!」

「はは。ライラ、あまりはしゃぐと転ぶよ?」

そう、初めての街にライラは少女の様にはしゃぎ…今の彼女はお上りさん全開なのだ。

《村は木やら藁で家を作ってましたもんね。きっと目にする全てが新しいんですよ》

(連れてきてあげて良かったですね)

そうしている間にもライラは食い物系露店を見て「うわぁ」と瞳を輝かせ、小物系露店を見て「はぅ~」と感嘆の吐息を吐いたりと忙しそうだ。

「ライラ。取りあえず街まで連れて来るっていう話は完遂した訳なんだけど、ライラはこれからどうしたいんだい?」

「う~ん…そうですね…急だったもので、特にこれといった事はないんですよね…」

「まぁ、おじいちゃんも街を見るだけ見て帰って来てもいいって言ってたしね」

「でも折角こんなキレイな街まで出て来たんですから…何かしたいですね…」

う~む…話が急だったし、おじいちゃん達の見切り発車だった感は否めないか。
ライラもとりわけやりたい事があって来たわけじゃないし…ここ二日の間に話を聞いた感じだと、村では家事と簡単な農作業しかやってこなかったみたいだし…この街で彼女は何が出来るんだろう

《そうですねぇ…娼館とか?初物は高値が付きますし?》

(おいこら!あなたは善行の女神ですよ!そこんとこ忘れてないですか⁉)

《はっ!》

(いや…はっ!ってお前…)

《勿論冗談です。酒場とかのウエイトレスや宿屋の受付辺りならこなせると思いますよ?》

(ふむ…それならまぁ誰でもできる仕事だしな)

《商業ギルドに行けば、そういった仕事の斡旋もしているはずですよ?》

なるほど、取りあえずの行き先は決まったか


「ライラ~」

「なんでしょうか?」

「取りあえず何か仕事がないか、この街の仕事を斡旋している所に行ってみないかい?」

「ええ!その様な場所があるんですか!さすが大きな街は違いますね…」
などと、この街に来てからしきりに感動しているライラがちょっと可愛い…齢は同じなはずなんだけどなぁ…どこか妹みたいな感じがする子だ。
俺はそんな愛らしいライラへ微笑み「では行ってみようか」と右手を差し出す

「はっ…はいっ!」と元気に返事をするライラは俺の右手を取り…なんだか顔が赤いな、ここ二日の飛行で疲れてしまったのだろうか…

《雷斗さん?そういう流行りの病気には掛からないでもらえませんかね?》

(なにっ!病気だと!おいダ女神!お前の加護はどーなった!)

《加護じゃ治らないですよ…所謂不治の病的なやつなんで…》

(なん…だと…)

そうこうしている内にも脳内地図のナビに従った俺の目の前には商業ギルドの看板が──

「着いたよライラ。ここがこの街の商業ギルドらしい」

しかしどこの街の商業ギルドも豪華な造りしてんだな…

「はぁぁ…なんかすごい建物ですね~」

とライラも目の前の豪華な建物を見上げてホケーっと口を開けている。

「ここでライラが出来る仕事を探そうか」

「はい。よろしくお願いします」

と言うことで───

「すみません。この子に仕事を斡旋して頂きたいのですが…出来れば食事処とかのウエイトレスか宿屋の軽作業があると嬉いです」

と俺はギルドの扉を開け、足早に受付へと向かい、受付嬢に早口で捲し立てた。
こういうのは勢いが肝心だからな。

「あ…ぅぇ…し…少々お待ち下さい!」

と受付嬢は俺に捲し立てられた為か、慌てて資料を取りに行く。

そして待つこと少し、奥から強面のお兄さんが先ほど受付嬢が座っていた席…つまり俺の前に現れた。

「仕事を探してるんだって?そこの嬢ちゃんのだけか?」

と強面は俺をギラリと一睨み
しかし俺はそんな眼光を気にも留めず会話を続ける

「ええ。そうですがよ。それに先ほどの女性の方へ希望の職種を伝えたのですが?」

目の前の強面に、ちゃんと説明も受けずに来たのか?ぁぁん?と暗に告げると

「ああ、勿論聞いてるよ。これとこれ、それからこれなんかがいいだろうよ」

と強面は資料を俺に手渡してくる。
その際強面はやはりギラリと眼光を鋭く光らせるが俺は特に気にせずライラへと向き直り──

「ライラ。今の君が出来そうな仕事を見繕ってもらったよ。この中からならどれがいい?」

と受け取った書類をライラへ手渡す

そしてライラが書類を見始めると、目の前にいる強面から声をかけられる

「おいお前、少しツラぁ貸してくんねーか?」


という強面を俺は上から下まで舐めるように見た後──

「俺のツラを貸して欲しいだなんて…お前…よっぽどモテないんだな」

という俺の言葉に周囲の女性陣からはプッと失笑が漏れ聞こえる。

「ぅるっせぇ!いいからちょっと来い!」

強面は顔を茹でたタコのように真っ赤に染めて大声を張り上げる。

《本人も気にしてるみたいですし、あまりお顔の事は言ってあげない方がよろしいですよ?》

(だって…見るからにタコボウズなんだもん)

《周囲を見てください。女性達が笑いを堪えるのに必死になってるじゃないですか…》

ふむ…確かに皆一様に口を押さえたり、うずくまったり、目尻に涙を浮かべたり…と必死に我慢しているのが窺える。

少し可哀想な事をしたな…仕方ない、詫びも兼ねて着いていってやるか…

「いいぜ。ライラ…少し彼と奥で話してくるから、その間に仕事を決めといてね」

と声をかけ、俺は強面と一緒に奥へと引っ込んで行った。




俺は強面に連れられるまま奥へと進み、一つの部屋へと通された。

「どうぞお掛け下さい。そして先程の非礼をお詫びしたい」

と言われた通り腰かけた俺に強面はそのツルツルな頭部を俺にさらけ出す

「一体どうしたんです?そしてこの部屋は?」

「この部屋は私の部屋でございます。これでもこの商業ギルドのマスターを勤めさせて頂いてまして…」

こいつは驚きだ!《まさかこの茹で上がったタコが人の上に立つマスターとは……》
(おまっ!散々俺には注意しときながら……)


「それでですね…この街にはどういった要件で赴かれたのです?様?」

チッ…この部屋に入ってから妙だとは思っていたが…
やはりこいつ…俺の正体に気付いてやがった…

俺は驚いたが、表情には一切その事は出さず

「執行者?何の事か私にはわかりかねますが」

と誤魔化して見るも──

「はははっ。商業ギルドの情報網を甘く見ないで下さい。バルナバス男爵領で冒険者ギルドに執行者と名乗りましたよね?」

そういうタコに俺は無言を貫くと

「そしてその前にはファリド子爵領内の商業ギルドで同じように名乗られたはずです。人相は今まで見たことがない黒い髪に黒い目、中肉中背で歳は18才~20才前後。ほら、貴方にピッタリだ」

と眼光を鋭く光らせるタコ
《これはもう仕方ないですね……》
(さすがに人の口には扉を立てれない…か)

はぁ…と俺はため息を吐き

「んで…俺が執行者と知ったうえで接触した訳を教えてもらおうか?」

くくっとタコは笑い

「いえね…ファリド子爵もバルナバス男爵も貴方が街に現れてから数日の間に行方不明、挙げ句彼らの屋敷は跡形もなく吹き飛んでいる…となれば──」

「なれば?」

「ここの領主、ツェーザル男爵様もただでは済まないな──とね。領主様の加担が噂されている少女誘拐の件で王国から派遣されて来たって所ですかね?」

なるほど、どうやら俺は少しこの世界のギルドという存在を甘く見ていたか……

「そうだとすれば、お前はどうするんだ?」

と俺はタコを鋭く睨み、体に魔力を纏っていく──
するとタコは突然慌てて「待って待って!」とジェスチャー込みで俺をなだめ───

「何も敵対したいなんて言ってないじゃないですか!いいですか?貴方が執行者という事は我々が知っているという事は、領主様も知ってるという事も考えられると言う事を伝えたかっただけなのです!」

「ふむ…」

「そして一緒に入って来たか女が居るのも既に相手方にも伝わっているでしょうから、あの嬢ちゃんがこの街で働くのは危険ですよ?」

なるほど…言われてみればその通りだ。

「ですのでここは一つ、商業ギルドであの嬢ちゃんを預かろうって話をしたかったんですよ!ここなら腕利きのガードマンが数名居るので安心して働けるはずです」

「ほぅ……そして俺に恩を売って俺とのパイプを持ちたいって所か?」

という俺の問いにタコは首を横に振り

「そこまで大それた事は思ってないですよ。むしろ噂とはいえ、領主が悪事を働いているかもしれないのに、冒険・商業の両ギルドは何も出来ない…そこに憤りを感じていただけなのです」

そこまで言うとタコは俺に輝く頭部を見せ付け

「勝手ではございますが、何卒!この街をよろしくお願いします…」

と額をテーブルに打ち付ける。
俺は「わかった」と一言了承の意識を告げ、その後二人でライラの元へと戻り──

「ライラ。仕事の件なんだけど…ここのタコ…じゃない、マスターと話をして、受付嬢をやらせてもらえる事になったから!」

と伝えると「ぇぇぇ!」と驚いたライラはタコを上目遣いに見上げて──

「そんな急に……あの……大丈夫なんですか?」

「お…おう!明日から宜しくな!」

顔を真っ赤にしたタコ……どうやらライラの上目遣いにヤられて茹で上がったらしい……はライラから視線を反らしながら答えたのだった──


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