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1章 帝国と姫

22 鈴木、トラップの効果にgkbr!

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 イザベラの屋敷では夕食の時間も終わり、いよいよ屋敷の灯りが消えた頃──

 屋敷を取り囲むようにして複数の人影が闇夜を纏って蠢いている。

 それらは皆、イザベラを狙う刺客であった。
 闇夜の月に照らされぬよう、全員が黒いフードに黒いコートを纏い、それらが皆ジワリジワリと屋敷への距離を詰める。

 そうして、数人が屋敷の壁に取り付くと、一気に壁を飛び越えて──バシュ!
 その乾いた音が静かな闇夜に響く。

 ドサリと音を立て、たった今壁を乗り越えようとした者が落ちてきた。

 小さく呻くソレを見ると、肩口に太く、小さな矢が刺さっていた。
 矢が刺さったソイツはどうやら指先一つとして動かせないらしい。
 恐らくは即効性の毒矢だろうと他の者達は矢が射られた方向を警戒しながら壁へ再び取り付いて──バシュ!

 また一人、今度は反対方向から射られた矢に落とされた。

 ソイツに至ってはブルブルと全身を痙攣させ、口すらも動かせないのか、言葉を発する事も出来ないまま、だらし無くヨダレを垂らしながら事切れた。

 一方で、壁の上に辿り着いた者が居た。
どうやら射られる矢はそこまで広範囲をカバーしている訳ではないらしい。
 そう気が付いた者達は、自然と無事に壁を乗り越えられる範囲に殺到した。
 そこでいざ、壁を乗り越え、敷地内へ飛び降りると──ビキッ!

 敷地内に侵入を果たした全員の足が凍り出し、一歩も動く事が出来なくなってしまった。
 このままでは凍傷で足が壊死してしまうと慌てた者達の中で、火を起こそうとする者が出始めるが、この屋敷はそれを許さない。

 ブワッ!と頭上から何か、網状の物が覆いかぶさってきた。
 ますます身動きが取れなくなった者達は、どうにかして網状の何かを外そうとするのだが……一体どういう訳か、身体に力が入らなくなっていく。
 次第に抵抗する力すら無くなっていき、それぞれが地面に倒れ込むと、そこをビキッ!と地面に凍らされる。
 地面の冷たさか、自身の冷たさか、考える事すら既に出来なくなり、次第に視界が白くボヤケてくる中、この屋敷に手を出した事を後悔しながらソイツ等はゆっくりと目を閉じた。


 翌早朝──

「おお!大漁大漁!……って!全員死んでる?!何故だ!」

 俺は罠に掛かっているであろうマヌケ達のツラを拝んでやろうと日が昇り始めると同時に外に出ると、地面で全身に霜を張って心臓を止めている者ばかり。
 中にはドレインネットで先に生気を全て吸われてミイラになっている者も居た。

「おかしいなぁ……死ぬ程強力な罠じゃなかったんだけどなぁ……生前身動きが取れなくなる程度──あぁ!そっか!」

 俺は自分のうっかりに気が付いてポン!と手を打った。
 領土戦というのがそもそもの参加推奨LvがLv60~だった事をたった今思い出したのだ。
 それもバリバリに課金や適正ダンジョンのドロップで固めたプレイヤーが楽しむコンテンツなのだ。
 そんなプレイヤー達を葬る為に実装されたトラップ達が、プレイヤーとは程遠いい、一般人に毛が生えた程度の者達に向けられればオーバーキルもいいところである。

「いや~失敗失敗。凍結トラップとドレインネットで足止め捕縛程度のつもりだったけど、現実は難しい!……っと、こうなってくるとバリスタ二種の効果が気になるな?っと」

 俺は「よっ」と軽い掛け声で壁の上に飛び乗って下を見ると

「お……居る居る!しっかし、こんだけ黒いのがゴロゴロしてるとgkbrゴキブリみたいだな」

 俺は軽快に飛び降りると、矢を射られて転がる黒ずくめ達に目を向けた。

「う~ん……肩とか膝とか、わりとどうでもいい場所を射られてるのになぁ。見るとかなりの数が死んでるなぁ……お?コイツはまだ生きてるな」

 俺は辛うじて息のある輩に刺さった矢を抜いて、状態異常回復ゼリーをむりやり口に放り込み喉の奥に押し込んでやると、ゲホゲホと咽せ出した。

「大丈夫か?」
「す……済まない。誰だか知らないが助かった」

 ボーとした表情で俺を見る襲撃者。
 疲れからか、ダメージからか、はたまたゼリーのせいか……視点が定まらない襲撃者。
 これならいい情報源になるやもしれんな?と俺は一芝居打つことにした。

「いや、俺はお前等が戻らないから、成否を確認するよう言われて来たんだ。もし失敗していて、生き残りが居るようなら助け出すようにとも指令を受けている……その様子だとダメだったようだな?」

 俺は未だ立ち上がれない襲撃者を心配するような表情で見て、優しく身体を起き上がらせながら、昨日のあらましを聞いた。

「くそ……頭がぼんやりする……中の様子はわからないが、お前のその様だと全滅なのだろう……俺は唐突に矢に射られてからずっと身動きが取れずにいた……」
「何処から射られたか分かるか?」
「多分壁上の左側だ。射られた瞬間、身体の自由が奪われたような感じがして、そこからは一切動く事が出来なかった……」
「そうか……」
「あぁ……右から射られた奴らは痙攣して死んだと壁を越えて行った仲間が言っていた。俺は運が良かった……」
「ああ。そうだな」

 俺は脳内で拘束バリスタに○、パラライズバリスタにXを付けた。

 優しく介抱する俺に、そして生き残った安堵に、襲撃者の警戒心は緩みっぱなしで、安心したのかホッと息を吐いているのを見て、俺の目尻は下がり、口は三日月のようにニヤリと吊り上がる。

「しかし本当に運が良かったな。さぁ、一度引こう。手を貸すぞ」
「すまん……」
「なに……困った時はお互い様さ」

 俺は優しく襲撃者に肩を貸し、未だに頭がハッキリとしないと呑気にほざく襲撃者に、どっちに向かえばいい?と案内をさせるのだった。

 

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