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玲央side 2
しおりを挟む*玲央side**
「なんだこの点数はっ!」
――ガッシャアァアンッ!
クソ親父が、いや、クソったれがテーブルを叩けば乗っていたグラスが床に落ち、割れた。
お袋はあいつを抱えて部屋を出た。それを目で追いながら舌打ちをこぼす。
「うっせぇな。てめぇのプライドのために生きてんじゃねぇんだよ、死ね」
「親に向かってなんて口の聞きかたなんだっ!」
鈍い音がして俺は殴られた。口の中が切れて血の味がする。それをわざと0点を取ってやったテストに唾と一緒に吐けば、もう一度殴られた。
慌ててお袋が仲裁に入る。俺は未だ罵声を飛ばすクソッたれを無視して兄弟部屋に向かった。クソッ、クソッ、クソッ。
苛立ちが納まらない。むしゃくしゃする。今すぐにでもクソったれの顔を殴って、蹴って、殴って、蹴って――。
「お兄ちゃん?」
「……」
兄弟部屋に入れば、無垢な瞳が俺を見る。小虎だ。
やつはその小さな体を俺に向け、なにが起きているかも分からない表情を向けている。
なにも知らないだろう? なぁ、お前はまだなにも知らないだろう?
てめぇの親父は社会の目ってのを気にしてへらへら生きてんだぜ。息子の評価が悪いとそれに怒鳴り散らして手を上げる。
最低だろう? お前を殴る俺とよく似て、最低だろう?
――ガッ!
「うぜぇ」
クソったれから受けた屈辱を晴らす行為は、いつもこいつを殴ることだった。
まだ親父も手を上げていない頃、罵声に苛立っていたとき「お兄ちゃん」なんて呼ぶから、〝うるさくて〟殴ってやった。
それから親父も俺に手を上げ、それ以上の暴力を俺はこいつに向けた。
この無垢な瞳が、俺の一体なにを知っている? なにも知らないだろう? そのくせ期待を込めて呼ぶんだ――お兄ちゃん、と。
「……クソが」
抵抗も知らないその幼い体を殴れば、面白いほど飛んでいく。それで気持ちが晴れるかと問われれば、晴れる。そのときだけは。
だけど行為が終わってやつが言うことは「お兄ちゃん」だ。暴力を受けてなお、アイツは俺にへらへら笑うのだ。まるで、クソッたれが社会にそうするように。
「にーちゃ、」
「黙れよ、しゃべんな」
頬を引っ叩く。そのうちお袋が飛び込んで止めにくるだろう、それまでだ、俺がコイツを殴るのは。
だらん、と落ちた腕が空中を彷徨う。掴んでいた胸倉から手を離そうとしたとき、なにを思ったのか小虎は暴れ出した。
すぐに手を離せば床に落ちる。痛いのだろう、目に涙が浮かんでいた。
珍しく暴れてきたコイツがなにをするのか興味があった。親父に泣きつくか、お袋に泣きつくか、それとも悪くもないのに「ごめんなさい」と、俺にすがるか。
しかし、黙って見ていた俺の腹に寄ってきた小虎は、なぜか必死に手を伸ばして俺の胸を擦る。その手を取って上にあげれば、いともたやすく小さな体は浮いた。
「飛んでけっ!」
「あ?」
打ち所が悪かったのか、それともついにおかしくなったのか。小虎は胸を擦った手をバタバタと揺らす。
気持ちが悪くてその手を離せば、ふたたび小虎の体は床に落ちた。
「飛んでったから痛くないっ!」
「は?」
「痛いの痛いの飛んでったよ、だからお兄ちゃん、痛くないよ!」
「……」
なに、言ってんだ。
驚いていれば、立ち上がった小虎が俺に抱き着いた。
「痛くないよ!」
「……痛いのは、てめぇだろうが」
ポツリと、呟く。
不思議そうな無垢な瞳が俺を見上げた。
「痛いよ? でもお兄ちゃんの痛いより、痛くない」
「……」
「痛くないよ?」
「……はっ」
口から息が漏れる。
なぁ、お前、馬鹿じゃねぇの。
俺の暴力が痛くない? 俺が受けてる屈辱より、痛くない?
なにを知ってるんだ。まだお袋にべったりで、甘えることしか知らないお前が、なにを言ってるんだ。
なんで――そんなことを言えるんだ。
俺はその場に膝をつく。自分よりも小さなその体を抱きしめた。
「……飛んでってねぇよ。いてぇんだよ、まだ……いてぇよ……っ」
自分でもなにを言っているのか分からない。この存在に求めるものはない。それでも、気づいたらそうしていた。
なにも知らないこいつに慰めてもらうなどと、そんな、くだらない。
「痛いの痛いの飛んでけー」
「……はっ、うっぜ……」
小虎が俺の背中を擦り、そう言った。
口では罵声を飛ばしながら、俺の腕はその体を必死に抱きしめている。
勘違いするな。俺は明日もまたお前を殴るだろう。
だからこれは、気まぐれ。そう、気まぐれだ。
――こぼれ落ちた涙が、小虎の肩を濡らした。
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