82 / 82
ある少年のお話
しおりを挟む――少年には、家族がいました。
厳格な父親と、美しい母親、そしていつも笑顔の絶えない、けれど弱い弟がいました。
弟はいつも少年のあとを追いかけ、少しも離れようとはしません。そんな彼を疎ましく思う少年でしたが、彼が他の誰かに苛められていれば相手を追い払い、彼が泣きそうになれば自分が母親にしてもらうより加減の知らない手つきで頭を撫でまわしました。
そんなある日、弟は熱を出して倒れてしまいました。
体が弱く、熱を出すことが多かった弟ですが、今回の熱は中々下がりません。
目を伏せて、息を荒く汗を掻く弟の姿に、少年は珍しくも焦りました。
病院に行って、薬も貰っているのにどうして。もしかしてこのまま、死んでしまうのではないかと、子供心にひどく焦ってしまったのです。
けれど誰かを追い払うことはできても、頭をぐしゃぐしゃに撫でまわすことはできても、辛く苦しむ弟を助ける方法を少年は知りませんでした。
ベッドに倒れ、眠ってばかりいる弟の側を少しも離れようとはしない少年に、母親はある提案をします。
それは母親の助けもあれば簡単なことでしたが、乱暴な少年にはとても難しいことです。けれど、少年は掠れた声で自分を呼ぶ弱い弟を、どうしても助けたかったのです。
そうして乱暴な少年は、お粥を作りました。
加減を知らずに研がれたお米は傷つき、そのせいでより水分を含んでいますし、いくども混ぜられたご飯は潰れてドロドロです。
母親が作ってくれるお粥とは全然違うと、強く拒む少年に微笑みながら、けれど母親は弟に差し出しました。
熱のせいで視線の定まらない弟の口に、母親に促された少年はお粥を運びます。あまりの熱さに驚いて、弟はお粥を溢してしまいました。
だから、今度は息を吹きかけ冷ましたものを運びます。一口食べた弟は、じわりと広がるその温かさに微笑みます。
お米の甘さを引き出すための塩は余計に入れられて、まるで涙のようにしょっぱいけれど、熱で心細さを感じていた弟にとって、そのお粥はとても、とても幸せな味がしました。こんなにも簡単に、心までポカポカと温めてくれるお粥が、それを作ってくれた少年が、弟は嬉しくて嬉しくて、こちらを不安げに見つめる少年の名を呼びます。
少年は、弟が溢してしまったお粥を指ですくい上げ、一口食べてみました。とても不味くて、食えたものではありません。
あぁ、だけど。
熱のせいで頬も赤く、潤んだ瞳を細めて喜ぶ弟の姿は、確かに少年の心にも同じ温かさを運んだのです。
夕暮れの光が部屋に差し込み、二人を見守る母親の穏やかさを感じながら、少年は強く、ただ強く思いました。その感情が一体なんなのか、今はまだ知る由もありません。
けれど少年は誓います。この弱く、小さな弟を自分は――。
大人になった少年さえも忘れてしまった、今はもうない、けれど確かにあった、これはそんな、ある少年のお話。
92
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
題名からは想像がつかなかったですが、久々の「ガツン!」でした。
小虎とレオの確執が溶けていく様、そして執着多しの人達の絡みもなかなか面白かった。
この物語、カチッとがちっとまとまって好きです。ありがとう!
可愛らしいタイトルから想像も出来ない程の骨太な人間ドラマを間近で見てしまった様な。ヒリヒリとした空気と切迫感に背中を押され夢中で一気に読ませていただきました。(じつはあまり読まないジャンルですがコトラ達はもちろん、関わる人達の人生も見届けたくて…)後悔、懺悔、贖罪、共依存、憧憬、心酔、盲目…様々な言葉が思い浮かびましたが、どの言葉も足りないくらい複雑な深い思いに圧倒され。この落とし所を見つけたレオの覚悟と執着に泣けました。トラちゃん、よかったねとは言いづらいけれど…それでもよかったね、と思わずにはいられませんでした。途中途中、息苦しく切なく辛かったですが、10年後のみんなも見れてホッとしました✨素敵な物語を見せてくださりありがとうございました!(ある少年のお話しも2人が可愛いし2人の原点の思いを知ることができてなるほど納得です🫶🏻)
完結おめでとうございます!
いつも更新楽しみにして日々の糧にしてました♪小虎とれおの関係と周りの人たちの関係が本当に好きで…
何度も読み返しさせてもらいました!
後日談などあればとても嬉しいです(^-^)