不幸つき異世界生活

長岡伸馬

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「レイジ選手の勝利です!!!」
「「「うおおおおお!!!」」」

 勝利宣告を受けて選手控室に向かう。
 二戦目も順当に勝利を収めた。
 相手も慎重になっていたので一戦目よりは時間が掛かったけど、俺の動きは良くなったと思う。対人戦闘に慣れたのだ。
 一戦目は途中までメイスを武器に戦っていたけど、二戦目は最初から武器は持たないことにした。武器だと殺す気が無くても殺しちゃいそうになるし、素手の方が断然手加減がし易い。
 武器を持たないことで近接攻撃のリーチは短くなったけど、その代わり投げ技や組み技なんかが使い易くなった。何より、肉盾バッシュがやり易い。肉盾バッシュは相手の一人を捕まえないとダメだからね。
 それにしても、肉盾バッシュはマジで使える!攻撃を防げるのは勿論、肉盾を向けるだけで攻撃の手が鈍るのだから。同士討ち怖いんだろうね。
 あと、肉盾にされたくないのか近接攻撃組の踏み込みがいまいちなので相手の攻撃に対応するのが楽だった。これも肉盾バッシュのメリットと言えるかな。
 そんな訳で、肉盾バッシュをメインに戦闘をすれば思いの外楽に戦いを進められた訳だ。
 これは、多人数相手の決闘の鉄板戦法確立と言っていいかな。

「あー、やっぱりここの留め具はダメだな。あと一戦あるのに」

 さっきの二戦目、相手の攻撃を受けて皮鎧の留め具が一か所壊れてしまったのだ。

「うーん、皮鎧は着けずに戦おうかな。ずれるのが気になるし」

 皮鎧の留め具が壊れてから動く度に微妙にずれるので気になって仕方なかった。まだ動きを阻害する程ではないんだけど、いつまでもそうだとは思えない。壊れていない留め具に余分に負荷が掛かってそっちもダメになると思うから。
 それに、ぶっちゃけ、皮鎧なんかより生身の方が防御力は圧倒的に高いのだから防具としての意味などほとんど無いのだ。
 見た目的に、戦う意思があると、冒険者やってるよってアピールするファッション的な意味の方が大きかった。

「攻撃を食らった時の周りの反応が気になるけど、特急料金を払ってまで応急修理をしてもらうのもな。ただでさえノーギャラなのに・・・。うん。やっぱり皮鎧は置いて行こう」

 壊れた皮鎧の補修は冒険者ギルドでもしてもらえるんだけど、三戦目までの時間を考えると応急修理にしかならないし特急料金を取られる。
 ノーギャラの決闘である以上、余計な出費は許容出来なかった。

「よーし、じゃあ、この後の三戦目もさくっと勝っときますか」

 休憩を終えた俺は選手控室を出て訓練場へと向かう。
 三戦目もさくっと勝って、このバカげた決闘騒ぎをさっさと終わらせるのだ。



「レイジ選手はこれで三戦目ですけど疲れなどは見えませんね」
「ええ。大したものです。雑魚が相手では疲れないのでしょうね」
「そうかもしれません。鎧も外しちゃってますし」
「雑魚相手に鎧など必要無いと言うことでしょう。一戦目、二戦目も攻撃をまともに食らうことはありませんでしたから」
「そうですね。今回もまた圧勝劇を見せてくれるのでしょう」

 訓練場に俺と決闘相手が入場すると、エリシアさんの実況とヨハンの解説が響き始める。相変わらず俺贔屓の実況と解説だ。俺の決闘相手を挑発しているとも言える。
 そんなことを思いながら対戦相手の様子を窺うと、一戦目、二戦目の決闘相手と違って静かだった。
 一戦目の決闘相手と違って殺気立っている訳でもなく、二戦目の決闘相手と違って虚勢を張って喚く訳でもなく、ただ単に開始の合図を待っているのが気に掛かる。エリシアさんとヨハンに雑魚扱いされているにもかかわらず。
 一戦目、二戦目の決闘相手みたいにエリシアさんとヨハンの声が耳に入っていないのならいいんだけど、耳に入ってなお挑発に乗らずに自制している腕のいい冒険者って雰囲気があるんだよ。
 そんな一抹の不安を抱いていると立会人が決闘ルールの最終確認を終えて身構えた。

「始め!」

 立会人の合図で三戦目が始まった。
 俺の方針としては取り敢えず一人捕まえて肉盾にする。後は肉盾を使い捨てながら数を減らしていけばいいだろう。
 そう思って相手方の様子を見ると、短剣を両手に持った男と、長剣を持った男、戦斧を持った男が三方向から突っ込んで来たのだ。
 流石にこのまま接近されると同時に相手をしないといけないので面倒くさい。
 俺は一番接近するのが早い短剣を持った男を標的に定めると、長剣男と戦斧男に魔法で火の玉を放つ。
 今まで見せていなかった魔法攻撃だ。こちらの想定通りに奴らは一瞬動きを止め、魔法を回避する為の行動を強いられていた。
 これで、僅かではあるが時間が稼げた。近接戦については短剣男を優先出来る。

「っ!」

 距離が詰まった途端、短剣男がしゃがみ込んだと思ったらすぐに矢が飛んで来た。
 何とかその矢を躱すが、それで体制を崩したところに短剣男が下から足元へ攻撃してくる。
 俺はそれをバックステップで躱すけど、躱した先に矢と魔法が飛んで来た。
 それも無理矢理体を捻るなどして躱していく。
 そうしていると、他の面々までもが攻撃に混ざってくるようになった。

 くそっ!今回は連携が出来る人が混ざってる!

 対戦前の不安が的中した。
 対戦相手の三分の一くらいがお互いの攻撃の隙を埋める様に入れ替わりながら攻撃してくる。
 後ろから飛んで来る矢や魔法を気にすること無く突っ込んで来る近接攻撃組に、近接攻撃組が俺から離れた僅かな瞬間に躊躇無く攻撃してくる遠距離攻撃組。こんなこと普段から一緒に行動しているパーティーじゃないと出来ないだろう。
 決闘相手は何戦目に出場するのかは抽選だったはずだけど、何だか作為的なものを感じる。俺のコメントを捏造していたし、ここのギルドの職員ならやりかねない。決闘を最後まで楽しめる様にする為だとか言って。

 うん。ここの連中は本当にやりそうだよ。

 俺はそんなことを思いながら攻撃を回避し続ける。
 相手の連携が取れた連続攻撃を側転やバク宙などのアクロバットな動きまでして躱しているけど、こんなことこの体になる前じゃ無理だったぞ。

「「「おおお!」」」

 アクロバットな動きに観客は盛り上がっている様だけど、俺としては望ましい展開じゃない。
 回避に追われて反撃出来ないのだから。
 如何にかして反撃に転じたいけど、このまま回避し続けて相手が攻め疲れるのを待つしかないのだろうか?
 そんなことを考えながら回避を続けていくが、段々と回避するのが難しくなっていく。
 元々連携が取れていた者達にそれ以外の者達が加わって相手の手数が増えていくのだから。
 状況を打開しようと連携が上手くない者達が攻撃してくるのに合わせて反撃を試みようとしても、連携の巧みな者達に阻まれてしまう。
 そして、結果的に相手の手数が増えていくことになってしまっていた。

「!」

 遂に躱し切れなくなった攻撃が俺に向かって飛んで来る。それは、長剣男の突きだった。
 如何にか盾で逸らそうとするものの叶わず、盾の木で出来た部分を貫かれてしまった。そして、更に抜けてこようとする。角度を変えて力を入れることで何とか刃先は止めたけど、盾を持つ左手は長剣男の動きを押し止めることしか出来なくなった。いや、むしろ長剣男に盾と左手の動きを縛り付けられたと言った方がいいかもしれない。
 どう考えたって盾と左手は長剣男以外の攻撃に対応させることが出来ないのだから。

 そうして、長剣男との攻防で動きを一瞬止められたところに相手方の次の一手が襲ってくる。
 それは、単純な攻撃より性質が悪かった。俺の右足の周りの土が盛り上がって纏わりついてきたのだ。
 矢や魔法の攻撃など飛来してくるものを警戒していて足元など警戒していなかった俺には躱すことも出来ない。
 しかも、振り払おうにも纏わりついた土は忽ち岩の様に固くなったので足を動かしようがなかった。

 右足を土魔法で固められてしまって移動が出来ない。
 そこに斧男が振り被った斧が迫ってくる。
 右足が拘束されて躱すことも出来ず、盾を持つ左手は長剣男への対応で手一杯なので盾で防ぐことも無理だった。
 俺は仕方なく開いている右手で受け止めることにした。

 パチーン!

 強烈なはずの斧の一撃を掌で受け止める。
 肉が斬られることも無く、骨も砕かれたりしない。本当にチートボディー様様だよ。感覚としては手刀を受け止めた様な感じだな。

「受け止めたー!レイジ選手、斧の一撃を素手で受け止めたー!!!」
「「「おおおおお!!!」」」

 実況だけでなく、斧を受け止めた際のあり得ない音に観客が湧きたった。
 盾で受け止めるでもなく、武器で受け止めるでもなく、素手で斧を受け止める様子を見たのだから観客が興奮するのは当たり前かもしれない。
 でもまあ、そんなことはどうでもいい。斧の一撃を防いだからといって相手の攻撃が止んだ訳ではないのだから。
 両手を塞がれ、右足を拘束されて移動も出来ない状態の俺を見逃してくれる程決闘相手は甘くない。
 そんな俺の予想通りに火の魔法による火球が飛んで来た。
 両手を塞がれ移動も出来ない状況では出来ることはしれている。

「マジックキャンセル!」

 飛んで来る火球を打ち消そうと魔法を使うが、火球の大きさを小さくは出来たものの消し去ることまでは出来なかった。
 俺は顔面目掛けて飛んで来るソフトボール大の火球を首を傾けて躱そうとする。
 だけど、やはり完全に躱しきることは出来なかった。火球が右のこめかみ付近を撫でて後ろへと抜けていく。
 チートボディーだけにダメージは無く、感じた熱さもカイロくらいの熱でしかない。
 だけど、髪の毛だけは焼けて嫌な臭いを放っていた。

 くそっ!また髪の毛が。この前、髪を切ったばかりだって言うのによ!

 ブルータスといい、今回の魔法使いといい、魔法を使う奴はどいつもこいつも俺の髪の毛に攻撃を当てやがる!これじゃあ、月に何度も散髪に行かないといけないじゃないか!
 盾を壊され、髪の毛も燃やされた。これはひとえに相手の人数を減らせずにいたことが原因だ。
 そもそも、俺の最大の武器は圧倒的な防御力だ。攻撃を回避する敏捷性じゃない。相手の攻撃を避けるだけなんて間違いでしかなかったのだ。
 回避に追われるくらいなら相手の攻撃を受けてでも反撃する。それがこのチートボディーを生かした戦い方だ。
 この場に居る者達に引かれると思ってやらなかったけど、斧の一撃を素手で止めているのでもう気にすることじゃない。

「くたばれ!!!」

 短剣男が俺の首筋に斬り掛かってくる。
 首筋には切られて困る装備も髪の毛も無い。だったら相手の攻撃なんて避けなくていい。ダメージなんてほとんど無いのだから。
 俺は斬り掛かってくる男へカウンター攻撃を当てることにだけ集中して待ち構えた。
 スピードの乗った短剣が首筋に当たる。感覚としては軽めのチョップを食らったくらいだ。何も問題は無い。
 俺は最高の打撃を食らわせられるタイミングまで待ってから、斬り付けてきた短剣男に盾を手放した左拳を叩き込んだ。

 ドズン。

 相手が突っ込んで来たスピードと体重に、俺の全力の拳が合わさる。
 短剣男は四メートル程飛んで気絶した。

「吹っ飛ばされたー!レイジ選手の首を狙った一撃は届かなかったのかー!?」
「いいえ。しっかりと当たっていましたよ。当たっても斬れなかった。それだけですね」
「それだけって結構大事だと思いますけど・・・。普通死んじゃいますよ」
「そうですね。魔法も使わずにあんな事が出来るのはレイジ選手くらいでしょう。良い子は真似しちゃダメですよ」
「いや、真似なんて無理だから!死んじゃうから!良い子じゃなくても絶対に真似しちゃダメなやつですから!!!」

 確かに、エリシアさんの言う通り今のカウンターは絶対に真似しちゃダメなやつだよ。
 それにしても、ヨハンも俺がブルータスに首筋噛まれた時は心配してくれたものだけど、今は平然と真似するななんて解説しているんだもんな。
 まあ、あれがあったから平然としているんだろうけど。

「取り敢えず、これで勝敗がはっきりしてしまいましたね。レイジ選手の勝利です」
「まだ一人倒されただけですけど」
「斧の一撃を素手で受け止め、首を斬り付けられても怪我すらしないレイジ選手相手に彼らがどうこう出来る訳ないでしょ」
「まあ、そうだと思いますけど・・・。でも、一人倒されただけで勝利が確定してしまうとこの後の楽しみが無いじゃないですか」
「ムカつく連中がぼこぼこにされるのを楽しめばいいんじゃないですか?」
「それはそれでスカッとしますけど、私は美少年がピンチに陥ってぼろぼろになる姿が見たいんです!」
「・・・」

 エリシアさん、『美少年がぼろぼろになる姿が見たい』って衆人環視の中する発言じゃないでしょ!

 実況と言う立場で魔道具によって声を拡散しているからこの場に居る全員が聞いているんですけど。
 何人かエリシアさんの言葉に同意して頷いている人も居るけれど。男女問わず。
 まあ、深く考えるのはよそう。あれは踏み込んではいけない領域だ。

 それにしても、一人倒しただけなのに勝利宣告されてしまったよ。
 まあ、相手の攻撃は俺に効かないから勝利するのは時間の問題なんだけど。
 それは相手方も想像出来てしまったんだろうね。完全に動きが止まってる。このチャンスを逃す訳にはいかない。
 俺はすぐにこちらから仕掛けた。

 先ずは側に居る長剣男と斧男を標的にする。
 二人はすぐ側で俺が首で攻撃を受けたところを見ていた為、他の者達よりも呆然とし動きが鈍っているのだ。

「身体強化!」

 俺は土魔法による右足の拘束を解こうと下半身を強化する。そして、思いっ切り右足を振り抜いた。

 ボゴッ!

 『マジックキャンセル』の余波で脆くなっていた土魔法の拘束は、『身体強化』によって強化された右足を拘束し続けることが出来なかったようだ。
 右足を振り抜いたことで纏わりついていた土魔法の拘束が石礫となって飛んでいく。
 それらが決闘相手たちにダメージを与えているのが見えた。
 まあ、それによる脱落者はいないけど。
 でも、これで相手をひるませることは出来た。僅かな時間だとしても邪魔は入らない。
 俺は右手で持っている斧を引き寄せると、つられて引き寄せられた男の顎に左拳を叩き込んだ。

 グシャッ!

 顎の骨が砕ける感触と共に男がその場に崩れ落ちていく。
 これで斧男を仕留めたと判断した俺は、まだ側に居る長剣男を標的にする。
 長剣男が手にしている長剣は、まだ俺が手放した盾に刺さったままだ。自在に操ることは難しい。そこを狙わない手はないのだから。
 俺に狙われていることに気付いた長剣男は一旦距離を取って盾から長剣を外そうとするが、そんなことを待ってやる義理は無い。
 俺は強化した下半身で長剣男に一気に迫るとそのまま右足を振り抜いた。

 ボギャッ!

「があああ!」

 身体強化で下半身を強化した状態でのローキック。それは想像以上の威力だった。
 あり得ない方向に曲がった長剣男の両足。左足なんかズボンから出ている足先の位置が明らかにおかしい。出血も多いし、多分、ズボンの中で千切れてる。ズボンが無ければグロいこと間違いなかったよ。いや、まあ、今の状況でも結構グロいけど。
 俺は呻きながら蹲ることしか出来ない長剣男を一瞥しただけで視線を外す。自分でやったことながら直視し続けるのはちょっとねえ・・・。

 治療係の人、早く治癒をしてあげて!

 出血多量で死んでしまう前に何とかしてほしい。妬みで喧嘩を売ってくるムカつく奴らだけど、殺したい訳じゃないからね。

 まあ、それはそうと、これで連携を取れる近接攻撃組が居なくなった。相手方は連携が難しくなるだろう。
 連携を取れる遠距離攻撃組はまだ残っているけど、彼らだけでは絶え間なく続く連続攻撃など実行出来るはずもない。
 あれは連携を取れる近接攻撃組と遠距離攻撃組が揃って漸く実行出来るものなのだから。

 俺は相手方が立ち直る前に数を減らすべく近くに居る者から手当たり次第に仕留めていく。
 殴って、殴って、殴って、掌底。攻撃は全て手で行う。強化した足では与えるダメージがでか過ぎるから。
 長剣男みたいになっちゃうのは怖いんだもん。
 でもまあ、足を強化したことは無駄ではない。攻撃には使えなくても、相手に接近するのには物凄く役立ってる。間合いなんてあって無いようなものだよ。距離を取っていた遠距離攻撃組へだってあっという間に懐に飛び込める。
 俺は順調に相手方の数を減らせてた。
 まあ、攻撃は食らっているのでシャツやズボンが斬られることはあるけれど。

「あーもうっ!もっと踏み込みなさいよ!浅過ぎ!浅過ぎ!」

 シャツやズボンが斬られる度にエリシアさんが高いテンションで実況する。
 今や完全に決闘相手の方の味方だ。
 ただ、それでも実況ではディスっている様にしか聞こえないけど。

「こらっ!くそ雑魚共!踏み込みが浅いんだよ!!!ちょびっとしか斬れてないじゃないか!!!死にゃあしないんだ!びびらずに踏み込んで斬りやがれ!!!玉付いてんのか!玉は!!!」

 あー、引くわー、マジで引く。
 エリシアさんはそんなに俺がぼろぼろになる姿が見たいのか?
 時間が経つごとに過激になっていく発言には執念すら感じてしまうよ。
 一応、俺は決闘相手を殺さないように注意しているけど、絶対じゃないからね。ちょっと間違えれば死んじゃうんだよ。
 それに、戦闘不能にするだけのダメージは与えている訳で、やられていくお仲間の姿を見ていればなかなか踏み込んだ攻撃は難しいって。
 まあいいか。他所様のことだし。考えるだけ時間の無駄だ。
 俺は俺でさっさと相手を全滅させてこの決闘を終わらせることだけ考えよう。

 そうして順調に相手方の数を減らしていくと、もう残った人数は片手で数えられるくらいになっている。
 そんな時だった。
 魔法を警戒して常時発動している魔力探知の魔法に魔力の反応があった。
 チラッとその魔力の反応がある方を見れば、魔法使いの男が詠唱しながら魔力を練ってる姿が見える。
 その魔力の反応はかなり大きなもので、俺の周りに居る決闘相手の連中も巻き込む様な魔法を発動するつもりに思えた。
 まあ、一か八かなんだろうけど、俺に攻撃魔法が効く訳が無い。
 今までだって俺に命中した攻撃魔法は幾つかあったけど、髪の毛を焦がすか、シャツやズボンを多少傷物にされたくらいだ。実質的にノーダメージと言っていい。
 そんな俺にどんな魔法を使おうと言うのだ。周りを巻き込むくらいではノーダメージで終わることに変わりはないのに。
 だけど、そいつは笑ったのだ。ムカつくくらいににやけやがったのだ。
 俺はその瞬間あることに思い至った。
 ノーダメージでもダメージを与える方法に。
 その直後、魔力探知の魔法で幾つもの魔力が飛んで来るのを感じた。魔法使いの男が無詠唱で魔法を放ったのだ。

「マジックキャンセル!」

 相手の意図を察知した俺はすぐに半身になって膝を上げ、手で腰回りを防御する。
 『マジックキャンセル』で打ち消せなかった魔法の風の刃が無数に通り抜けていく。その度にシャツやズボンが千切れ飛んでいった。

「「「キャー!!!」」」
「チッ!くそっ!」

 会場内に女性たちの黄色い歓声が木霊するなか、魔法を放った男が舌打ちする。
 奴の狙いは俺を全裸にすることだったのだろう。または、下半身を露出させることだったのかもしれない。
 それらが成功していたら体にダメージは無くても、精神的には大ダメージを受けていた。衆人環視の中、全裸を晒すとか、下半身丸出しだとかで決闘なんて続けてなんかいられないから。
 奴らからしたら一発逆転の方法には違いなかったよ。

「むっはー!セェェェクシーー!!!乳首ーー!!!ずたぼろ美少年最っ高ーーーう!!!!!」

 ああ、エリシアさんが完全に壊れてる。本当に今日は彼女の言動にドン引きしてばかりだ。
 確かに、乳首が見えてしまうくらいシャツはぼろぼろだけど、より大事なズボンの方は重点的に守った分短パンくらいでおさまっているんだけどな。下着だって見えてないし。
 はあ、こんなことなら皮鎧を着けておけばよかった。着けていたらシャツがぼろぼろになるのは防げていたから。

 まあ、それはいい。
 そんなことよりも、尊厳を奪いに来た者にはしっかりと鉄槌を食らわさなければならない。奴は超えてはいけない一線を越えたのだから。

 衆人環視の中、俺を全裸にしようと企んだ者には慈悲も手加減も必要無い!己の浅はかな行いを悔いるがいい!!!

「身体強化・・・」

 俺は効果の切れかけていた『身体強化』を再度かけて下半身を強化すると、許すことの出来ない敵に向かって一気に走り寄る。
 そして、強化した状態の右足で男の股間を蹴り上げた。

 グチュッ!

 玉を潰した感覚と共に、蹴られた男が三メートル程宙に浮き上がる。
 俺は白目を剥いて落ちてくるその男の股間をもう一度蹴り上げた。

「チッ!」

 多分、もう一つ玉が残っていたと思うんだけど、そちらの破壊はダメだったみたいだ。
 流石にこれ以上攻撃を加えると観客の印象が悪くなり過ぎるので止めておこうか。少しは気が晴れたし。
 多少気分が良くなったところで残っていた決闘相手の殲滅に向かう。
 残っているのは二人だ。さっきまで残っていた他の奴らは俺と一緒に風の刃の魔法を食らって戦闘不能になっているからな。
 とにかく、強化した下半身を最大限使ってさっさと終わらす。
 俺は片手斧と盾を持つ男との距離を一気に詰めると真横へと飛び、真横からその顎を掌底で打ち抜いた。
 脳震盪を起こして崩れ落ちていく片手斧男を確認した俺は、最後の一人となった槍を持った男に急接近すると、槍男が繰り出した槍を左手で受け流しながら槍男の顔面に右拳を叩き込んだ。
 槍男が崩れ落ちるのを見届けた俺は、すぐに入場口に向かって歩き出した。

「決着ー!レイジ選手の勝利です!!!」
「「「うおおおおお!!!」」」

 後ろから聞こえるエリシアさんの勝利宣告。
 俺は観客の歓声に応える様に軽く手を上げながら足早に訓練場から出ていった。
 予定通り勝ったのはいいけど、装備が、特に服のダメージが酷過ぎる。買い替え必須だ。
 取り敢えず、ギルドで何か着る物を買わないとな。流石に今のぼろぼろの姿で外を歩くのはあり得ないから。
 はあー、本当に何の得にもならない決闘だったよ。
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