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1.バルカロール
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少し時代遅れのモーニング・コートに袖を通す。淡いクリーム色をした下地に細いゴールドのストライプが入っている生地は肌に触れるとさらりとベルベットのようだ。真っ白のシャツには 深いコバルトブルーのタイをしっかりと巻いてきつく結び、コートと同じ色のベストの中にしまいこむ。一度鏡の前で襟を正し、ぴかぴかに磨き上げたチャコーブルラウンのダブルモンクを履いて、最後にチェストに置いていた細身の眼鏡をかけた。
薔薇の刺繍がしてあるレースのカーテンから外を見ると山の向こうからゆっくりと太陽が昇ってくるのが見えた。とろりと溶けた桃色の端っこから少しずつその色が濃くなってくる。広大な庭と大きな池に反射してエメラルドと紫が見事に調和していき、黄金を思わせる輝きを放っていた。
家庭教師の朝は早い。本来なら決まった時間にだけ主人の部屋に行って授業を行えばいいのだが、この屋敷には専属の執事が存在しない。そのため俺の肩書きは家庭教師ではあるが実際は執事とほぼ同じだけの仕事をしていた。主人が起きる前にすべての身支度を整え、食事の準備も終え、毎朝読まれる新聞にアイロンをかける。それから給餌をしながらその日の予定を伝えて食後の紅茶を淹れる。お腹も落ち着いたら午前中の授業、昼食を取ったら午後はバイオリンやピアノ、社交ダンスなどの音楽も俺が担当する。豪華な夕食が終わってもまだ仕事は続き、寝る前の支度をして部屋の電気を消すまでが俺の仕事だ。
寝る準備も色々とあって、眠りにつきやすいようにと香を焚いたりホットミルクを作ったり部屋を温めたりとやるべきことは山ほどある。今日は一体どんな一日になるのだろうか。
「さて、行くか」
耳の上で少し跳ねている自分の髪を軽く引っ張って、結局その努力は無駄になるのだと思い諦めることにした。襟元に止めた羽の飾りを一度撫でて、俺は自室を後にした。
そこまで広くはない屋敷だが、使用人たちは数十人いる。俺はその中でも唯一個室を与えられ、日当たりのいい部屋をもらっていた。それは日々の仕事が多く、何かあればすぐに駆けつけることができるように、との配慮からだった。だがそのおかげで使用人たちの食堂までは少し遠い。決められた時間の十分前に部屋を出ないと食事は全てなくなっていることもある。
早足で歩きながらタイのズレを直し、窓に映った自分の顔を横目で眺めた。ストロベリーブロンドの髪は気を抜くとすぐに寝癖まみれになるけれど今日はきちんとまとまっている。空と同じ色をした目の下には、うっすらとだがクマがあった。後でよく揉みほぐしておこう。こんな顔で主人の前には立てられない。
「おはよう、ヴィンス」
「ああ、おはよう。今日の紅茶は……セイロンか」
「その通り。ウバにしてみたの」
厨房を開けた途端ふわりと漂ったのは香り高い紅茶と甘くて華やかな薔薇の香りだった。これほど上質な香りがするということは、おそらく茶葉もかなりいいものなのだろう。しかしハイ・グロウン・ティーであるウバはかなり渋みが強い。このままではおそらく文句を言われるだろうと思い、戸棚からミルクピッチャーを取り出しそっとトレイの上に置いた。
この国ではあまり飲まれない紅茶だけど、もともとイギリスに関係のある家系だからなのか普段から飲まれるのはコーヒーよりも紅茶だ。しかもたっぷりのミルクを入れた、ミルクティー。最近ではこれを飲まないと目が覚めなくなってしまったから、慣れというのは恐ろしいものだ。
「さあ、早くご飯を食べちゃって。せっかくの紅茶が冷めちゃうわよ」
胸元から懐中時計を取り出すと、短針は六の字を示している。主人の朝食まであと三時間。これが家庭教師兼執事である俺に与えられた唯一の自由時間である。こじんまりとした従者用の食堂にはまだ誰も来ておらず、一番陽当たりの良い席に座ると料理人のアリーチェが大きな木のプレートを運んできた。それと一緒にキルトでできたティー・コージーで包まれたポットと温められたカップも置かれる。
使い込まれて艶が出ている皿の上には分厚く切られたハムがじゅうじゅうと肉汁を垂らしながら二枚鎮座している。その隣には一晩煮込まれて柔らかくなったひよこ豆のベイクドビーンズと、ぷるりと黄身が揺れる半熟の目玉焼きが添えられている。彩りを考えてかインゲン豆のバターソテーや油で炒めたトマトも皿から溢れそうなくらいに盛り付けてある。この屋敷で唯一の料理人であるアリーチェはイタリアの血を引いているためか、伝統的なフィカリア料理の中に彼女の故郷を思い出させる素材を入れてくることがある。フィカリアではあまり使われないにんにくやアンチョビ、今日のようにトマトが皿の中にあると同じくイタリア系の俺には懐かしい故郷の味を思い出させくれて、これから始まる一日の活力を得られるのだ。
「トースト、スコーン、ボリッジ。どれがいい?」
「スコーン……いや、トーストにしよう。蜂蜜をくれないか?」
「はいはーい」
アリーチェが一度調理場に戻る間に大きなティーポットからとぷとぷと紅茶を注ぐ。七分目ほどまで注いで、温められた牛乳を入れると甘い香りが立ち上った。主人のブレックファーストには最上級のウバが使われるが、従者たちの普段用のものは様々な茶葉がブレンドされたものだ。しかしそれらも普通に市場で買えばかなり高級なもののため、口に含んだ途端鼻から抜ける芳香は春の草原を思い出させた。
「はい、お待たせ。こっちの生活にはもう慣れた?」
「おかげさまで。ここは自然が多くて気持ちがいいな」
「あちらのお屋敷はお忙しそうだものね。今日は何の授業があるの?」
「ありがとう……ラテン語の予定だ、一応」
授業が出来ればな、という一言は琥珀色の蜂蜜と一緒に飲み込むことにした。それを見たアリーチェは「またランチにね」と続々と増えてくる従者たちの食事を準備するために厨房に戻っていった。本邸に比べれば少ない方だが一人でやりくりするには多すぎる数だ。本来なら手伝いたいところだが俺にもあまり時間は残されていない。
デザートの桃のコンポートを食べ終わった頃にはもうすっかり食堂は人で埋め尽くされており、場所を開けるために早々に立ち上がった。口元を拭い主人のブレイクファーストの準備をする。完璧なタイミングで主人の口に入るように計算されて淹れられた紅茶と、綺麗な黄色をしたふわふわのオムレツ、隣には今にも弾けそうなほど中身がずっしりと詰まったソーセージが二本。摘みたてのハーブで作られたサラダには水々しいトマトが乗っている。甘くないパンケーキには蜂蜜、ジャム、クロテッドクリームが彩りよく添えられて白い湯気を立てていた。
それらを丁寧にワゴンに乗せて、ゆっくりと真紅の絨毯が敷かれた長い廊下を歩く。奥から二番目、かつてはゲストルームだったその部屋の扉を、軽く三回ノックした。
「おはようございます」
中から返事はない。仕方がないので真鍮の取手をひねりそっと開けた。分厚いカーテンがしてある部屋の中はまだ薄暗く、昨晩焚いた香の香りがまだうっすらと残っている。大きなベッドが一度もぞりと動いて、その拍子にぴょこんとブルネットの髪が飛び出てきた。
「起きてください、朝ですよ」
「うーん……」
カーテンを開ける。昨日までの曇りがちな灰色の空とは打って変わって、吸い込まれるような青空が広がっている。
「んー……ヴィンチェンツォ……?」
「はい。さあ、朝食の時間ですよ」
のそりと起き上がった幼い主人に、淀みないロマンス・フィカリア語で声をかけた。
「おはようございます、ディヴィッド様」
こうして、若干十二歳の主人、ディヴィッド・ノールズの一日が始まる。
ノールズ家はフィカリア国の首都、トラニアを拠点とする由緒正しい貴族の一族である。昔から政治、学問、芸術等幅広い分野で活躍し、今日のフィカリア社会に多くの影響を与えている存在の一つと言っても過言ではない。当主のジョージ・ノールズ伯爵は航空業を、先代のリチャード公爵は考古学の分野で今尚その名前を大々的に世間に広めている。
そして時期当主となる、ディヴィッド・ノールズはというと。
「ディヴィッド様! 待ちなさい、逃げるんじゃあありません!」
「待てって言われて待つやつがいるか! 逃げるに決まってるだろ!」
だだっ広い屋敷の中を走り回っていた。
シルクで仕立てられたチャコールグレーのジャケットを肩にかけ、同じ素材で出来た膝までのパンツは走るたびにひらひらと裾が舞う。革で出来たソックスガーターによってネイビーの靴下は下がることなく、桃のように赤い膝が露わになっていた。そもそもシルクというのはその手触りと生産過程に手間がかかるため高価なわけであって、決して動きやすさや実用性があるわけではない。そのためディヴィッド様もなかなか動かしづらい足を必死になってかき回しているのだが、果たしてなぜこのように彼は服を破ってしまいそうになりながら汗だくで走っているのか。
それは遡ること三時間程前のことである。俺が給仕した朝食を食べ終え、着替えと身支度を済ませたディヴィッド様を待っていたのは大量のラテン語の本だった。内容はこの歳にしてはかなり難しい部類になるだろう。ディヴィッド様は頭がとても良いので一度教えればすぐに理解できる。
しかしその努力が嫌いなのだ。今すぐに使えるものじゃあないからしたくない! と駄々をこねて、しかも頑固なものだから一度したくないと思ったら絶対にやろうとしない。その気力をせめて勉強の方に向けて欲しいと思うけれど、なぜかそれは絶対にしない。何度言っても不貞腐れて、いつ逃げられるかと隙を伺っている。まるで怪我をした子猫のようにソワソワと。
だから、「今日こそはちゃんと授業を受けてもらいますからね」と睨みを聞かせたおかげか一度は真面目に万年筆を手にしたが、わざと本を落とし俺が拾い上げる隙をついて部屋から飛び出したのだ。それに気づいて慌ててそのあとを追いかけてから、かれこれ約二時間半が経とうとしているが未だに捕まる気配はない。この館に来てまだ二週間ほどの俺には、次に主人がどこに行くか先を読むことができるほど完全に把握できていないのだ。
ノールズ家の本館は首都であるトラニアの郊外にある。パーティーが出来る大広間を持つ母屋とは別に船遊びをするための池、四季折々の花を楽しめる庭、従者たちが住む別館とノールズ家専用の教会までもその敷地内に有している。そこには俺の父親であるチェーザレがジョージ様の執事として勤めており、ジョージ様の妻であるマリア様には俺の母が女中頭として仕えている。代々我がドメーニコ家はノールズ家の家庭教師、そして執事として仕えてきた。俺の祖父にあたるエンツォもリチャード様が幼いころから教育をし、時にはよき理解者としてずっと側にいた。そのリチャード様は最近エジプトで新しい遺跡が見つかったということで共同研究者たちを引き連れて現地に向かってしまったため、それに爺さんも同行している。
「くそっ……完全に見失った……」
ここ、フィカリアの地方都市であるジェラニアに建てられた別館は本館と比べてそこまで広いわけではない。しかしそれでも館の中は迷路のように廊下が入れ組み、部屋の数も相当数存在する。その一つ一つを見ていては授業の時間はとっくに過ぎてしまうし、そんな気力も忍耐も俺にはなかった。
ディヴィッド様はノールズ家の中でも特に変わった性格をしていると言われている。父や祖父がある分野に特化して優れており、またその気質も紳士のお手本であるかのようであるというのに、ディヴィッド様は容姿こそ似ているとしてもその性格は全くもって反対であった。嫌いな言葉は「努力」と「頑張る」。貴族たちが城で使う正当なフィカリア語ではなく街の子供が使うような言葉を話し、大人にも尊大な口を聞く。それは自分の両親に対しても同じことだったが唯一彼が子供らしい顔をみせるのが祖母であるエリザベス様の前でだけだった。彼が今この館にいるのも「あと数ヶ月後に全寮制のパブリック・スクールに入学するまでの短い期間はリズおばあちゃんと過ごしたい」というわがままからである。しかしエリザベス様もリチャード様の代わりにやるべきことはたくさんある。それにパブリック・スクールに入学するまでに最低限の学問や所作を学んでなければいけない。そして白羽の矢が立ったのが、本館で従僕として働いていたチェーザレの息子、つまりまだ二十歳になったばかりの俺だったのである。
走り回って汗ばんだせいか鼻のうえでずれる眼鏡を直しながら一度立ち止まった。ジャケットを脱いでシャツをまくり、ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭いながら果たしてディヴィッド様はどこに行ったのかと考える。昨日は誰も使っていない屋根裏部屋に隠れていた。一昨日は洗濯籠の中、その前は馬車の影。なんでまたこんなところに、と思うような場所でいつもぼんやりと空を眺めている。一度見つけるとそれ以降はもう抵抗しないけれど、その頃になるともう授業なんてできる時間ではなく結局俺は一日の大半をこの敷地内を走り回るだけになるのだ。
「あのくそがき、絶対に見つけてやる!」
親が聞いたらビンタの一発では済まされないようなことを言い捨てて、最後の手段だとばかりに、庭に面した窓を開けて大声で叫んだ。
「ディヴィッド様あああ! これ以上逃げるおつもりならエリザベス様に言いつけますよ!」
その途端、庭にある薔薇の茂みががさりと動いた。
「そこか!」
一窓をひらりと飛び越え、全速力で薔薇園に向う。ここが一階でよかった。飛び出してきた小さな塊に向かって押さえつけるように抱き込むと、両足をじたばたと動かして暴れるディヴィッド様が葉っぱまみれになってもがいていた。
「やっと捕まえましたよ、ディヴィッド様!」
「うわあ! 離せよー!」
「離したらまた逃げるでしょう! ほら、部屋に戻りますよ。……じゃないとエリザベス様にお伝えしなければならないのですが」
そう言うとそれまでの騒ぎが嘘のようにディヴィッド様の動きがぴたりとやんだ。そしてそのまま、今度はふるふると頭を小さく振って「いやだ」と呟く。今にも泣き出しそうな声にしまった、やりすぎたかと思い、一瞬腕の力を緩めた瞬間、するりと隙間から出て行ったディヴィッド様はいたずらが成功した子供の顔で薔薇園の奥に走り去ってしまった。
「ちょ、っ、このバカ!」
「バカって言う方がバカなんですぅー!」
結局この日は昼食までこの調子で、予定していたラテン語の詩は全く読むことはできなかった。
***
「あらぁ、お疲れね」
昼食の後、食堂の入り口に腰掛けて煙草を吸っていると、アリーチェがどこか楽しそうに声をかけた。手には大量のタオルが入った籠を持っている。これから洗濯女中のところに持っていくのだろう。手伝おうかと言うと「そんなに疲れ切っている人には頼めないわよ」と笑って断られた。
俺はそんなに疲れた顔をしているのだろうか。いや、しているのだろう。その証拠に足は走り回ってすごく痛いし、薔薇の棘が刺さったせいで腕は傷だらけだし。誰とも何も話さずに昼食を腹に詰め込んで、熱々の紅茶を飲み干してようやく息がつけるようになったのだ。
それは確かに、疲れている。果てしなく。
「それで、今日はどこに隠れてらっしゃったの?」
「……薔薇園だよ。棘があるっつってんのに無視して走り回るもんだから、いつ服が破れないかヒヤヒヤしたぜ」
「トトとマッテオにバレなくてよかったわね。あの二人、薔薇の手入れに命かけてるところあるから」
「マンマミーア……」
思わず母国語が漏れてしまった。生まれも育ちもフィカリアだが、先祖はイタリアの生まれなのだ。とはいえそれも随分と昔の話だから俺にイタリアに対する愛国心はそれほどないけれど。両親や祖父母がたまにこぼすイタリア語は、俺にとっては子守唄のようなもので、はっきりとは覚えていないけれど体の芯にはしっかりと残っている。
重たいタールを吸い込んでゆっくりと吐き出す。白い煙がふわふわ登っていくのを見届けながら、頭のなかでは午後のスケジュールを組み立て直していた。本来なら午後はヴァイオリンの練習が入っている。しかしこの調子だとおそらくそれも予定通りには進まないだろう。どうしたものか、と短くなったフィルターを灰皿で潰していると視界の端に鮮やかなミントグリーンのドレスが映った。足取りはゆったりとはしているが堂々たるもので、よどみない足音がこつこつと石畳を叩いている。
「エ、エリザベス様……!?」
それはまさしく、ディヴィッド様が誰よりも愛し、敬愛しているエリザベス・ノールズその人であった。
「ごきげんよう、ヴィンチェンツォ」
「は、はい……」
朝方の騒動のせいでせっかく綺麗にまとめた髪はぼさぼさになり、ジャケットは皺にならないように肩にかけてはいるがベストのボタンを開けっぱなしだしシャツの腕はまくりあげたままだ。しかも正装の時はしない普段使いの眼鏡もかけたままで、こんなにだらしない格好を見られるということに一瞬で背筋に冷たい汗が流れた。
慌てて立ち上がり服を整えようとすると、小さく笑いながら彼女は俺を制した。
「ああ、そんなにかしこまらなくてもいいのですよ。今日はちょっとあなたに聞きたいことがあって来たのです」
「俺……私に、ですか」
「ディヴィッドのことです」
つい先ほどまで考えていた名前を出されて、一度ごくりと喉を鳴らした。一見すると洗練され品のある女性ではあるが、彼女もノールズ家の者である。その洞察力と物怖じしない強い心をしっかりと持っていた。
「あの子があなたに迷惑をかけていると思ったのです。あまり言うことを聞かないでしょう?」
「あまり……はあ、まあ……」
あまりどころか全くですけれど、とはさすがに口が裂けても言えない。
「許してやってくれ、とは言いません。むしろ厳しく躾をして欲しいとさえ思います。でもね、あなたには一つ知っていて欲しいことがあるのです」
「なんでしょうか」
「あの子は、昔から一人で過ごすことが多い子供でした。両親はどちらも忙しい身でしたし、かといって周りには同じ年代の子供は一人もいない。おまけにトラニアだからそんなに外に遊びにいけるわけでもない。だから年に数回、ここに来た時は喜んでいたものですよ。私もその時はまだここまで忙しくはありませんでしたからね。一緒に薔薇園でお花を見たり、馬車に乗って山へ行ったり、小さな屋根裏部屋で昔話をしてあげたり」
「そう、だったのですね」
そうか、授業をサボるために隠れていた場所は、すべてエリザベス様との思い出の場所だったのか。かつて共に過ごした楽しかった思い出を一つ一つ確かめるように。ひとりぼっちでそこに蹲っていたディヴィッド様は一体何を思っていたのだろうか。
それまで俺はディヴィッド様のことをわがままで減らず口を叩く生意気な子供だと思っていた。しかし今この話を聞くと、ただの寂しがりやで甘えん坊な十二歳の子供にしか思えなかった。そして物分かりが良すぎるため「寂しい」と言えない、不器用で小さな子供だった。
「私はあの子がここまで楽しそうにしているのを久しぶりに見ました。あなたにとっては大変かもしれませんが、本当はあなたのことを気に入っているんですよ」
「そうだといいのですが」
「そうですよ。それじゃあ、私はこの辺で。ディヴィッドのことよろしく頼みましたよ」
そう言って立ち去っていくエリザベス様の後ろ姿を見送りながら一度小さくため息をついた。気に入っている、なんて。まさか彼女が世辞をいうはずがない。だとしたら本当なのだろう。でも、一体どこが? 俺にはそれが、全くわからない。
わからないけれど、その言葉はなぜかやけに嬉しく思えた。頰がゆるりと緩む。それまで身体中はズシリと重たかったけれど、途端に羽が生えたように軽くなった気がした。とはいっても勉強はきちんとしなければいけない。決められたテキストをきちんと期間までに終わらせることが、パブリック・スクールに入学するための条件なのだ。
しかし座ったまま行う座学はきっと嫌がるだろう。俺だって嫌だ。こんなに晴れて、心地の良い日に、部屋に閉じこもって本とにらめっこするなんて。
「終わらせたらいいんだよな」
それならこちらにも考えがある。
急いで自室に戻ると、クローゼットの奥にしまっていた小さな箱を取り出して中からお目当てのものを取り出した。ヴェネツィアンガラスで出来た瓶にはとろりとした液体が入っている。かつて、俺がまだ子供だった頃。両親にもらった数少ないものの一つがこれだった。
執事になんてなりたくない、家庭教師なんて嫌だと自分の未来を恨み、絶望していた頃。どんなに願っても決して叶わないとわかっていても、異なる未来を望んでいた頃。せめてこれで子供らしい遊びをしなさいと与えられたものだ。もうこの歳になって今更遊ぶなんてことはしないけれど、ここに来るときなぜか荷物に入れていたのがこの硝子瓶だった。
「別に、ほだされたわけじゃあ、ない」
誰もいない部屋で、言い訳がましく呟いた。ただ俺にもディヴィッド様の気持ちが少しわかるところがあった。父も母も物心ついた時からジョージ様とマリア様に仕えていた。メイドと執事という、本来なら許されていない結婚を快く許可してくれたジョージ様たちへの感謝のためか、両親は本当に素晴らしい従者であった。しかしその結果、子供の俺とはまともな家族らしいコミュニケーションをとることはなかった。朝起きる時も夜眠る時もいつも一人で、食事は同じ年代の従僕たちと取っていたが仕事が始まればまた一人になる。しかし両親の仕事はよく理解しているつもりだったから、それはもうしょうがないことと自分に言い聞かせていた。だから今の俺にとって、ディヴィッド様はかつての自分を見ているような気がしてならなかったのだ。
懐中時計を見るとそろそろ午後の授業が始まる時間だ。朝よりも少しだけ軽い足取りではディヴィッド様の部屋に向かった。
***
「失礼します、ディヴィッド様」
扉を開けるとつまらなそうに机にふて寝をしているディヴィッド様がちらりと視線を送ってきた。
「……午後は、なんだっけ」
「ヴァイオリンの練習ですよ……本来ならね」
しかし俺の手にはヴァイオリンを入れたケースはなく、代わりに青い瓶と細長い小さな筒が握られていた。それに気づいたのか不思議そうな顔をして俺を見つめてくる。いつもなら俺が部屋に入ってきただけで不機嫌そうな顔をするけれど、今日は好奇心に満ち溢れた年相応とも言える顔つきをしている。
「今日は、ヴァイオリンはお休みです。外に行きましょう」
「外? なんで?」
「いいからいいから」
不思議そうな顔をしつつも見た事のない瓶と筒に興味があるのか、素直についてくる姿を見るとどんなに生意気ぶっていてもやはり十二歳なんだと思わずにはいられない。思わず妹たちにやっていたように手を取ろうとすると「子供扱いするなよな!」と振り払われたので、苦笑しながらも広い庭へと向かう。午前中走り回った薔薇園を通り過ぎて、こじんまりとした東屋のある中庭に足を向ける。
空は透けるように青く、高かった。
「この辺でいいですかね」
「なあ、何すんの?」
「まあ見ててください」
大きな雫のような形をした蓋を開け、そこに筒を入れる。何度か上下させてゆっくり引き上げると先を加えて少しずつ息を吹き込んでいく。昔のようにうまくいくかと少し心配したが、ちゃんと筒の先には薄い膜が張っていた。
「うわあ!」
ふわりと作られたのは、虹色に輝くシャボン玉だった。割れないよう加減に気をつけながら息を入れながら少し筒を動かすと、風にのってふんわりとシャボン玉が浮いた。
「すっごい! なにこれ!」
「私が幼い頃よく遊んだものです。さあ、今シャボン玉はいくつありますか? ラテン語でお答えください」
「えっと……ウーヌム」
「その通り、じゃあこれは?」
はじめに作ったしゃぼんが割れないうちに小さなものを三つ作る。太陽の光を受けてお互いに反射しながら空高くまでのぼっていく。
「さあ、割れないうちに」
「えっと、クァットゥオル!」
「すごいじゃあないですか!」
「やれば出来る子なんだって。知らなかった? なあ、次僕にもやらせて!」
瓶と筒を手渡すと待ちきれないとばかりにしゃぼんを作り始める。最初は加減がわからず何度も割っていたが次第にコツを掴んできたらしく、いつの間にかあたりはたくさんのしゃぼんに囲まれていた。
「見て見てヴィンチェンツォ!」
一際大きく出来た、パールのように光るしゃぼんを見せようとディヴィッド様が手を伸ばした途端それは音もなくぱちんと空で消えた。まるでそこに何もなかったかのように虚しくディヴィッド様の手がさまよう。
「消えちゃった……」
「儚いものなんですよ、しゃぼんというのは」
その声に反応したのか強く吹いた風に煽られて浮いていたしゃぼんは全て割れていった。音もなく、痕跡もなく、しかしそれまで確かに華麗に存在していた場所を見ながらディヴィッド様はぽつりと何か呟いた。
「え、なんですか?」
「……なんでもない!」
そうしているうちに夕食の時間が近づいてきて、山の向こうに落ちていく夕陽を見ながら屋敷まで二人で歩いて帰った。その間ディヴィッド様はぎゅっと瓶を握りしめたまま俯いていたが、少しずつ暗くなっていく空のせいで一体何を考えているのか俺にはわかることができなかった。
一概の家庭教師がこの幼い次期当主の小さな肩にのしかかる重圧を計り知ることはできない。むしろ重圧を与えている立場だ。毎日好きでもない勉強やヴァイオリンを無理やりやらせようとしているのは、たとえそれが仕事だと言い訳をしてもまさに自分そのものなのだ。
せめて何かしてやることはできないかと考えるが今日みたいにしゃぼん玉を与えることしかできない。一人前の執事というのはそういう主人の抱えるストレスを減らすことも仕事のうちなのだ。半人前だとか、それまでそういう教育を受けていないとか、そんな言い訳はいくらでもできる。でもディヴィッド様にとって俺は絶対的な家庭教師で、どんなに俺が未熟だとしてもたった一人の執事なのだ。
一体どうすればいいのだろうかと考えても俺にはいい答えが浮かばない。俺よりも少し前を歩くディヴィッド様の小さな背中を見つめながらこっそりと心の中で謝罪の言葉を呟く。この行為こそが主人への冒涜であり、誠意のないことだとはわかっていても、彼を一人の人間として見たいと思わずにはいられなかった。
自分の不甲斐なさや、ディヴィッド様の抱える辛さを思うと、苦しい気持ちだけが胸に残って楽しみだった夕食の時間も色褪せてしまうような気持ちだった。
薔薇の刺繍がしてあるレースのカーテンから外を見ると山の向こうからゆっくりと太陽が昇ってくるのが見えた。とろりと溶けた桃色の端っこから少しずつその色が濃くなってくる。広大な庭と大きな池に反射してエメラルドと紫が見事に調和していき、黄金を思わせる輝きを放っていた。
家庭教師の朝は早い。本来なら決まった時間にだけ主人の部屋に行って授業を行えばいいのだが、この屋敷には専属の執事が存在しない。そのため俺の肩書きは家庭教師ではあるが実際は執事とほぼ同じだけの仕事をしていた。主人が起きる前にすべての身支度を整え、食事の準備も終え、毎朝読まれる新聞にアイロンをかける。それから給餌をしながらその日の予定を伝えて食後の紅茶を淹れる。お腹も落ち着いたら午前中の授業、昼食を取ったら午後はバイオリンやピアノ、社交ダンスなどの音楽も俺が担当する。豪華な夕食が終わってもまだ仕事は続き、寝る前の支度をして部屋の電気を消すまでが俺の仕事だ。
寝る準備も色々とあって、眠りにつきやすいようにと香を焚いたりホットミルクを作ったり部屋を温めたりとやるべきことは山ほどある。今日は一体どんな一日になるのだろうか。
「さて、行くか」
耳の上で少し跳ねている自分の髪を軽く引っ張って、結局その努力は無駄になるのだと思い諦めることにした。襟元に止めた羽の飾りを一度撫でて、俺は自室を後にした。
そこまで広くはない屋敷だが、使用人たちは数十人いる。俺はその中でも唯一個室を与えられ、日当たりのいい部屋をもらっていた。それは日々の仕事が多く、何かあればすぐに駆けつけることができるように、との配慮からだった。だがそのおかげで使用人たちの食堂までは少し遠い。決められた時間の十分前に部屋を出ないと食事は全てなくなっていることもある。
早足で歩きながらタイのズレを直し、窓に映った自分の顔を横目で眺めた。ストロベリーブロンドの髪は気を抜くとすぐに寝癖まみれになるけれど今日はきちんとまとまっている。空と同じ色をした目の下には、うっすらとだがクマがあった。後でよく揉みほぐしておこう。こんな顔で主人の前には立てられない。
「おはよう、ヴィンス」
「ああ、おはよう。今日の紅茶は……セイロンか」
「その通り。ウバにしてみたの」
厨房を開けた途端ふわりと漂ったのは香り高い紅茶と甘くて華やかな薔薇の香りだった。これほど上質な香りがするということは、おそらく茶葉もかなりいいものなのだろう。しかしハイ・グロウン・ティーであるウバはかなり渋みが強い。このままではおそらく文句を言われるだろうと思い、戸棚からミルクピッチャーを取り出しそっとトレイの上に置いた。
この国ではあまり飲まれない紅茶だけど、もともとイギリスに関係のある家系だからなのか普段から飲まれるのはコーヒーよりも紅茶だ。しかもたっぷりのミルクを入れた、ミルクティー。最近ではこれを飲まないと目が覚めなくなってしまったから、慣れというのは恐ろしいものだ。
「さあ、早くご飯を食べちゃって。せっかくの紅茶が冷めちゃうわよ」
胸元から懐中時計を取り出すと、短針は六の字を示している。主人の朝食まであと三時間。これが家庭教師兼執事である俺に与えられた唯一の自由時間である。こじんまりとした従者用の食堂にはまだ誰も来ておらず、一番陽当たりの良い席に座ると料理人のアリーチェが大きな木のプレートを運んできた。それと一緒にキルトでできたティー・コージーで包まれたポットと温められたカップも置かれる。
使い込まれて艶が出ている皿の上には分厚く切られたハムがじゅうじゅうと肉汁を垂らしながら二枚鎮座している。その隣には一晩煮込まれて柔らかくなったひよこ豆のベイクドビーンズと、ぷるりと黄身が揺れる半熟の目玉焼きが添えられている。彩りを考えてかインゲン豆のバターソテーや油で炒めたトマトも皿から溢れそうなくらいに盛り付けてある。この屋敷で唯一の料理人であるアリーチェはイタリアの血を引いているためか、伝統的なフィカリア料理の中に彼女の故郷を思い出させる素材を入れてくることがある。フィカリアではあまり使われないにんにくやアンチョビ、今日のようにトマトが皿の中にあると同じくイタリア系の俺には懐かしい故郷の味を思い出させくれて、これから始まる一日の活力を得られるのだ。
「トースト、スコーン、ボリッジ。どれがいい?」
「スコーン……いや、トーストにしよう。蜂蜜をくれないか?」
「はいはーい」
アリーチェが一度調理場に戻る間に大きなティーポットからとぷとぷと紅茶を注ぐ。七分目ほどまで注いで、温められた牛乳を入れると甘い香りが立ち上った。主人のブレックファーストには最上級のウバが使われるが、従者たちの普段用のものは様々な茶葉がブレンドされたものだ。しかしそれらも普通に市場で買えばかなり高級なもののため、口に含んだ途端鼻から抜ける芳香は春の草原を思い出させた。
「はい、お待たせ。こっちの生活にはもう慣れた?」
「おかげさまで。ここは自然が多くて気持ちがいいな」
「あちらのお屋敷はお忙しそうだものね。今日は何の授業があるの?」
「ありがとう……ラテン語の予定だ、一応」
授業が出来ればな、という一言は琥珀色の蜂蜜と一緒に飲み込むことにした。それを見たアリーチェは「またランチにね」と続々と増えてくる従者たちの食事を準備するために厨房に戻っていった。本邸に比べれば少ない方だが一人でやりくりするには多すぎる数だ。本来なら手伝いたいところだが俺にもあまり時間は残されていない。
デザートの桃のコンポートを食べ終わった頃にはもうすっかり食堂は人で埋め尽くされており、場所を開けるために早々に立ち上がった。口元を拭い主人のブレイクファーストの準備をする。完璧なタイミングで主人の口に入るように計算されて淹れられた紅茶と、綺麗な黄色をしたふわふわのオムレツ、隣には今にも弾けそうなほど中身がずっしりと詰まったソーセージが二本。摘みたてのハーブで作られたサラダには水々しいトマトが乗っている。甘くないパンケーキには蜂蜜、ジャム、クロテッドクリームが彩りよく添えられて白い湯気を立てていた。
それらを丁寧にワゴンに乗せて、ゆっくりと真紅の絨毯が敷かれた長い廊下を歩く。奥から二番目、かつてはゲストルームだったその部屋の扉を、軽く三回ノックした。
「おはようございます」
中から返事はない。仕方がないので真鍮の取手をひねりそっと開けた。分厚いカーテンがしてある部屋の中はまだ薄暗く、昨晩焚いた香の香りがまだうっすらと残っている。大きなベッドが一度もぞりと動いて、その拍子にぴょこんとブルネットの髪が飛び出てきた。
「起きてください、朝ですよ」
「うーん……」
カーテンを開ける。昨日までの曇りがちな灰色の空とは打って変わって、吸い込まれるような青空が広がっている。
「んー……ヴィンチェンツォ……?」
「はい。さあ、朝食の時間ですよ」
のそりと起き上がった幼い主人に、淀みないロマンス・フィカリア語で声をかけた。
「おはようございます、ディヴィッド様」
こうして、若干十二歳の主人、ディヴィッド・ノールズの一日が始まる。
ノールズ家はフィカリア国の首都、トラニアを拠点とする由緒正しい貴族の一族である。昔から政治、学問、芸術等幅広い分野で活躍し、今日のフィカリア社会に多くの影響を与えている存在の一つと言っても過言ではない。当主のジョージ・ノールズ伯爵は航空業を、先代のリチャード公爵は考古学の分野で今尚その名前を大々的に世間に広めている。
そして時期当主となる、ディヴィッド・ノールズはというと。
「ディヴィッド様! 待ちなさい、逃げるんじゃあありません!」
「待てって言われて待つやつがいるか! 逃げるに決まってるだろ!」
だだっ広い屋敷の中を走り回っていた。
シルクで仕立てられたチャコールグレーのジャケットを肩にかけ、同じ素材で出来た膝までのパンツは走るたびにひらひらと裾が舞う。革で出来たソックスガーターによってネイビーの靴下は下がることなく、桃のように赤い膝が露わになっていた。そもそもシルクというのはその手触りと生産過程に手間がかかるため高価なわけであって、決して動きやすさや実用性があるわけではない。そのためディヴィッド様もなかなか動かしづらい足を必死になってかき回しているのだが、果たしてなぜこのように彼は服を破ってしまいそうになりながら汗だくで走っているのか。
それは遡ること三時間程前のことである。俺が給仕した朝食を食べ終え、着替えと身支度を済ませたディヴィッド様を待っていたのは大量のラテン語の本だった。内容はこの歳にしてはかなり難しい部類になるだろう。ディヴィッド様は頭がとても良いので一度教えればすぐに理解できる。
しかしその努力が嫌いなのだ。今すぐに使えるものじゃあないからしたくない! と駄々をこねて、しかも頑固なものだから一度したくないと思ったら絶対にやろうとしない。その気力をせめて勉強の方に向けて欲しいと思うけれど、なぜかそれは絶対にしない。何度言っても不貞腐れて、いつ逃げられるかと隙を伺っている。まるで怪我をした子猫のようにソワソワと。
だから、「今日こそはちゃんと授業を受けてもらいますからね」と睨みを聞かせたおかげか一度は真面目に万年筆を手にしたが、わざと本を落とし俺が拾い上げる隙をついて部屋から飛び出したのだ。それに気づいて慌ててそのあとを追いかけてから、かれこれ約二時間半が経とうとしているが未だに捕まる気配はない。この館に来てまだ二週間ほどの俺には、次に主人がどこに行くか先を読むことができるほど完全に把握できていないのだ。
ノールズ家の本館は首都であるトラニアの郊外にある。パーティーが出来る大広間を持つ母屋とは別に船遊びをするための池、四季折々の花を楽しめる庭、従者たちが住む別館とノールズ家専用の教会までもその敷地内に有している。そこには俺の父親であるチェーザレがジョージ様の執事として勤めており、ジョージ様の妻であるマリア様には俺の母が女中頭として仕えている。代々我がドメーニコ家はノールズ家の家庭教師、そして執事として仕えてきた。俺の祖父にあたるエンツォもリチャード様が幼いころから教育をし、時にはよき理解者としてずっと側にいた。そのリチャード様は最近エジプトで新しい遺跡が見つかったということで共同研究者たちを引き連れて現地に向かってしまったため、それに爺さんも同行している。
「くそっ……完全に見失った……」
ここ、フィカリアの地方都市であるジェラニアに建てられた別館は本館と比べてそこまで広いわけではない。しかしそれでも館の中は迷路のように廊下が入れ組み、部屋の数も相当数存在する。その一つ一つを見ていては授業の時間はとっくに過ぎてしまうし、そんな気力も忍耐も俺にはなかった。
ディヴィッド様はノールズ家の中でも特に変わった性格をしていると言われている。父や祖父がある分野に特化して優れており、またその気質も紳士のお手本であるかのようであるというのに、ディヴィッド様は容姿こそ似ているとしてもその性格は全くもって反対であった。嫌いな言葉は「努力」と「頑張る」。貴族たちが城で使う正当なフィカリア語ではなく街の子供が使うような言葉を話し、大人にも尊大な口を聞く。それは自分の両親に対しても同じことだったが唯一彼が子供らしい顔をみせるのが祖母であるエリザベス様の前でだけだった。彼が今この館にいるのも「あと数ヶ月後に全寮制のパブリック・スクールに入学するまでの短い期間はリズおばあちゃんと過ごしたい」というわがままからである。しかしエリザベス様もリチャード様の代わりにやるべきことはたくさんある。それにパブリック・スクールに入学するまでに最低限の学問や所作を学んでなければいけない。そして白羽の矢が立ったのが、本館で従僕として働いていたチェーザレの息子、つまりまだ二十歳になったばかりの俺だったのである。
走り回って汗ばんだせいか鼻のうえでずれる眼鏡を直しながら一度立ち止まった。ジャケットを脱いでシャツをまくり、ポケットからハンカチを取り出して額の汗を拭いながら果たしてディヴィッド様はどこに行ったのかと考える。昨日は誰も使っていない屋根裏部屋に隠れていた。一昨日は洗濯籠の中、その前は馬車の影。なんでまたこんなところに、と思うような場所でいつもぼんやりと空を眺めている。一度見つけるとそれ以降はもう抵抗しないけれど、その頃になるともう授業なんてできる時間ではなく結局俺は一日の大半をこの敷地内を走り回るだけになるのだ。
「あのくそがき、絶対に見つけてやる!」
親が聞いたらビンタの一発では済まされないようなことを言い捨てて、最後の手段だとばかりに、庭に面した窓を開けて大声で叫んだ。
「ディヴィッド様あああ! これ以上逃げるおつもりならエリザベス様に言いつけますよ!」
その途端、庭にある薔薇の茂みががさりと動いた。
「そこか!」
一窓をひらりと飛び越え、全速力で薔薇園に向う。ここが一階でよかった。飛び出してきた小さな塊に向かって押さえつけるように抱き込むと、両足をじたばたと動かして暴れるディヴィッド様が葉っぱまみれになってもがいていた。
「やっと捕まえましたよ、ディヴィッド様!」
「うわあ! 離せよー!」
「離したらまた逃げるでしょう! ほら、部屋に戻りますよ。……じゃないとエリザベス様にお伝えしなければならないのですが」
そう言うとそれまでの騒ぎが嘘のようにディヴィッド様の動きがぴたりとやんだ。そしてそのまま、今度はふるふると頭を小さく振って「いやだ」と呟く。今にも泣き出しそうな声にしまった、やりすぎたかと思い、一瞬腕の力を緩めた瞬間、するりと隙間から出て行ったディヴィッド様はいたずらが成功した子供の顔で薔薇園の奥に走り去ってしまった。
「ちょ、っ、このバカ!」
「バカって言う方がバカなんですぅー!」
結局この日は昼食までこの調子で、予定していたラテン語の詩は全く読むことはできなかった。
***
「あらぁ、お疲れね」
昼食の後、食堂の入り口に腰掛けて煙草を吸っていると、アリーチェがどこか楽しそうに声をかけた。手には大量のタオルが入った籠を持っている。これから洗濯女中のところに持っていくのだろう。手伝おうかと言うと「そんなに疲れ切っている人には頼めないわよ」と笑って断られた。
俺はそんなに疲れた顔をしているのだろうか。いや、しているのだろう。その証拠に足は走り回ってすごく痛いし、薔薇の棘が刺さったせいで腕は傷だらけだし。誰とも何も話さずに昼食を腹に詰め込んで、熱々の紅茶を飲み干してようやく息がつけるようになったのだ。
それは確かに、疲れている。果てしなく。
「それで、今日はどこに隠れてらっしゃったの?」
「……薔薇園だよ。棘があるっつってんのに無視して走り回るもんだから、いつ服が破れないかヒヤヒヤしたぜ」
「トトとマッテオにバレなくてよかったわね。あの二人、薔薇の手入れに命かけてるところあるから」
「マンマミーア……」
思わず母国語が漏れてしまった。生まれも育ちもフィカリアだが、先祖はイタリアの生まれなのだ。とはいえそれも随分と昔の話だから俺にイタリアに対する愛国心はそれほどないけれど。両親や祖父母がたまにこぼすイタリア語は、俺にとっては子守唄のようなもので、はっきりとは覚えていないけれど体の芯にはしっかりと残っている。
重たいタールを吸い込んでゆっくりと吐き出す。白い煙がふわふわ登っていくのを見届けながら、頭のなかでは午後のスケジュールを組み立て直していた。本来なら午後はヴァイオリンの練習が入っている。しかしこの調子だとおそらくそれも予定通りには進まないだろう。どうしたものか、と短くなったフィルターを灰皿で潰していると視界の端に鮮やかなミントグリーンのドレスが映った。足取りはゆったりとはしているが堂々たるもので、よどみない足音がこつこつと石畳を叩いている。
「エ、エリザベス様……!?」
それはまさしく、ディヴィッド様が誰よりも愛し、敬愛しているエリザベス・ノールズその人であった。
「ごきげんよう、ヴィンチェンツォ」
「は、はい……」
朝方の騒動のせいでせっかく綺麗にまとめた髪はぼさぼさになり、ジャケットは皺にならないように肩にかけてはいるがベストのボタンを開けっぱなしだしシャツの腕はまくりあげたままだ。しかも正装の時はしない普段使いの眼鏡もかけたままで、こんなにだらしない格好を見られるということに一瞬で背筋に冷たい汗が流れた。
慌てて立ち上がり服を整えようとすると、小さく笑いながら彼女は俺を制した。
「ああ、そんなにかしこまらなくてもいいのですよ。今日はちょっとあなたに聞きたいことがあって来たのです」
「俺……私に、ですか」
「ディヴィッドのことです」
つい先ほどまで考えていた名前を出されて、一度ごくりと喉を鳴らした。一見すると洗練され品のある女性ではあるが、彼女もノールズ家の者である。その洞察力と物怖じしない強い心をしっかりと持っていた。
「あの子があなたに迷惑をかけていると思ったのです。あまり言うことを聞かないでしょう?」
「あまり……はあ、まあ……」
あまりどころか全くですけれど、とはさすがに口が裂けても言えない。
「許してやってくれ、とは言いません。むしろ厳しく躾をして欲しいとさえ思います。でもね、あなたには一つ知っていて欲しいことがあるのです」
「なんでしょうか」
「あの子は、昔から一人で過ごすことが多い子供でした。両親はどちらも忙しい身でしたし、かといって周りには同じ年代の子供は一人もいない。おまけにトラニアだからそんなに外に遊びにいけるわけでもない。だから年に数回、ここに来た時は喜んでいたものですよ。私もその時はまだここまで忙しくはありませんでしたからね。一緒に薔薇園でお花を見たり、馬車に乗って山へ行ったり、小さな屋根裏部屋で昔話をしてあげたり」
「そう、だったのですね」
そうか、授業をサボるために隠れていた場所は、すべてエリザベス様との思い出の場所だったのか。かつて共に過ごした楽しかった思い出を一つ一つ確かめるように。ひとりぼっちでそこに蹲っていたディヴィッド様は一体何を思っていたのだろうか。
それまで俺はディヴィッド様のことをわがままで減らず口を叩く生意気な子供だと思っていた。しかし今この話を聞くと、ただの寂しがりやで甘えん坊な十二歳の子供にしか思えなかった。そして物分かりが良すぎるため「寂しい」と言えない、不器用で小さな子供だった。
「私はあの子がここまで楽しそうにしているのを久しぶりに見ました。あなたにとっては大変かもしれませんが、本当はあなたのことを気に入っているんですよ」
「そうだといいのですが」
「そうですよ。それじゃあ、私はこの辺で。ディヴィッドのことよろしく頼みましたよ」
そう言って立ち去っていくエリザベス様の後ろ姿を見送りながら一度小さくため息をついた。気に入っている、なんて。まさか彼女が世辞をいうはずがない。だとしたら本当なのだろう。でも、一体どこが? 俺にはそれが、全くわからない。
わからないけれど、その言葉はなぜかやけに嬉しく思えた。頰がゆるりと緩む。それまで身体中はズシリと重たかったけれど、途端に羽が生えたように軽くなった気がした。とはいっても勉強はきちんとしなければいけない。決められたテキストをきちんと期間までに終わらせることが、パブリック・スクールに入学するための条件なのだ。
しかし座ったまま行う座学はきっと嫌がるだろう。俺だって嫌だ。こんなに晴れて、心地の良い日に、部屋に閉じこもって本とにらめっこするなんて。
「終わらせたらいいんだよな」
それならこちらにも考えがある。
急いで自室に戻ると、クローゼットの奥にしまっていた小さな箱を取り出して中からお目当てのものを取り出した。ヴェネツィアンガラスで出来た瓶にはとろりとした液体が入っている。かつて、俺がまだ子供だった頃。両親にもらった数少ないものの一つがこれだった。
執事になんてなりたくない、家庭教師なんて嫌だと自分の未来を恨み、絶望していた頃。どんなに願っても決して叶わないとわかっていても、異なる未来を望んでいた頃。せめてこれで子供らしい遊びをしなさいと与えられたものだ。もうこの歳になって今更遊ぶなんてことはしないけれど、ここに来るときなぜか荷物に入れていたのがこの硝子瓶だった。
「別に、ほだされたわけじゃあ、ない」
誰もいない部屋で、言い訳がましく呟いた。ただ俺にもディヴィッド様の気持ちが少しわかるところがあった。父も母も物心ついた時からジョージ様とマリア様に仕えていた。メイドと執事という、本来なら許されていない結婚を快く許可してくれたジョージ様たちへの感謝のためか、両親は本当に素晴らしい従者であった。しかしその結果、子供の俺とはまともな家族らしいコミュニケーションをとることはなかった。朝起きる時も夜眠る時もいつも一人で、食事は同じ年代の従僕たちと取っていたが仕事が始まればまた一人になる。しかし両親の仕事はよく理解しているつもりだったから、それはもうしょうがないことと自分に言い聞かせていた。だから今の俺にとって、ディヴィッド様はかつての自分を見ているような気がしてならなかったのだ。
懐中時計を見るとそろそろ午後の授業が始まる時間だ。朝よりも少しだけ軽い足取りではディヴィッド様の部屋に向かった。
***
「失礼します、ディヴィッド様」
扉を開けるとつまらなそうに机にふて寝をしているディヴィッド様がちらりと視線を送ってきた。
「……午後は、なんだっけ」
「ヴァイオリンの練習ですよ……本来ならね」
しかし俺の手にはヴァイオリンを入れたケースはなく、代わりに青い瓶と細長い小さな筒が握られていた。それに気づいたのか不思議そうな顔をして俺を見つめてくる。いつもなら俺が部屋に入ってきただけで不機嫌そうな顔をするけれど、今日は好奇心に満ち溢れた年相応とも言える顔つきをしている。
「今日は、ヴァイオリンはお休みです。外に行きましょう」
「外? なんで?」
「いいからいいから」
不思議そうな顔をしつつも見た事のない瓶と筒に興味があるのか、素直についてくる姿を見るとどんなに生意気ぶっていてもやはり十二歳なんだと思わずにはいられない。思わず妹たちにやっていたように手を取ろうとすると「子供扱いするなよな!」と振り払われたので、苦笑しながらも広い庭へと向かう。午前中走り回った薔薇園を通り過ぎて、こじんまりとした東屋のある中庭に足を向ける。
空は透けるように青く、高かった。
「この辺でいいですかね」
「なあ、何すんの?」
「まあ見ててください」
大きな雫のような形をした蓋を開け、そこに筒を入れる。何度か上下させてゆっくり引き上げると先を加えて少しずつ息を吹き込んでいく。昔のようにうまくいくかと少し心配したが、ちゃんと筒の先には薄い膜が張っていた。
「うわあ!」
ふわりと作られたのは、虹色に輝くシャボン玉だった。割れないよう加減に気をつけながら息を入れながら少し筒を動かすと、風にのってふんわりとシャボン玉が浮いた。
「すっごい! なにこれ!」
「私が幼い頃よく遊んだものです。さあ、今シャボン玉はいくつありますか? ラテン語でお答えください」
「えっと……ウーヌム」
「その通り、じゃあこれは?」
はじめに作ったしゃぼんが割れないうちに小さなものを三つ作る。太陽の光を受けてお互いに反射しながら空高くまでのぼっていく。
「さあ、割れないうちに」
「えっと、クァットゥオル!」
「すごいじゃあないですか!」
「やれば出来る子なんだって。知らなかった? なあ、次僕にもやらせて!」
瓶と筒を手渡すと待ちきれないとばかりにしゃぼんを作り始める。最初は加減がわからず何度も割っていたが次第にコツを掴んできたらしく、いつの間にかあたりはたくさんのしゃぼんに囲まれていた。
「見て見てヴィンチェンツォ!」
一際大きく出来た、パールのように光るしゃぼんを見せようとディヴィッド様が手を伸ばした途端それは音もなくぱちんと空で消えた。まるでそこに何もなかったかのように虚しくディヴィッド様の手がさまよう。
「消えちゃった……」
「儚いものなんですよ、しゃぼんというのは」
その声に反応したのか強く吹いた風に煽られて浮いていたしゃぼんは全て割れていった。音もなく、痕跡もなく、しかしそれまで確かに華麗に存在していた場所を見ながらディヴィッド様はぽつりと何か呟いた。
「え、なんですか?」
「……なんでもない!」
そうしているうちに夕食の時間が近づいてきて、山の向こうに落ちていく夕陽を見ながら屋敷まで二人で歩いて帰った。その間ディヴィッド様はぎゅっと瓶を握りしめたまま俯いていたが、少しずつ暗くなっていく空のせいで一体何を考えているのか俺にはわかることができなかった。
一概の家庭教師がこの幼い次期当主の小さな肩にのしかかる重圧を計り知ることはできない。むしろ重圧を与えている立場だ。毎日好きでもない勉強やヴァイオリンを無理やりやらせようとしているのは、たとえそれが仕事だと言い訳をしてもまさに自分そのものなのだ。
せめて何かしてやることはできないかと考えるが今日みたいにしゃぼん玉を与えることしかできない。一人前の執事というのはそういう主人の抱えるストレスを減らすことも仕事のうちなのだ。半人前だとか、それまでそういう教育を受けていないとか、そんな言い訳はいくらでもできる。でもディヴィッド様にとって俺は絶対的な家庭教師で、どんなに俺が未熟だとしてもたった一人の執事なのだ。
一体どうすればいいのだろうかと考えても俺にはいい答えが浮かばない。俺よりも少し前を歩くディヴィッド様の小さな背中を見つめながらこっそりと心の中で謝罪の言葉を呟く。この行為こそが主人への冒涜であり、誠意のないことだとはわかっていても、彼を一人の人間として見たいと思わずにはいられなかった。
自分の不甲斐なさや、ディヴィッド様の抱える辛さを思うと、苦しい気持ちだけが胸に残って楽しみだった夕食の時間も色褪せてしまうような気持ちだった。
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