泣き虫龍神様

一花みえる

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霧時雨【10月長編】

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    夜中に大きな馬車が迎えにきて、それに揺られて約半日。到着したのは大きな鳥居が悠然と聳え立つ大社だった。あらかじめ用意されていた宿に向かい、荷物を預ける。大半が着物ではあるが、それ以外の細々したものもあるせいで手間取ってしまう。
 そんなことをしていると、隣からそっと俺を助ける手が差し出された。
「これ、おろせばいいの?」
「え、ああ。うん」
「はーい」
 おみが二人分の帯が入った風呂敷を馬車から下ろし、土間へと運んでいる。おかげで俺のすべきことはほとんどなくなってしまった。しかし、これは。わかってはいたが。
「……慣れないな」
 走り去っていく後ろ姿を見送りながら、トランクを抱えた。

 俺たちに用意されたのは、奥の離れだった。中庭を通り、一軒家のような建物へと向かう。飛石が並び、その間には季節の花々が咲いている。一階が俺、二階がおみの部屋と聞いている。風呂も厨房もついているからかなり気楽だ。
 一足先に離れに到着していたおみが電気をつけてくれている。明かりのついた家に帰ってきた気分になり、なぜだか懐かしい気分になった。そんな記憶が俺にあるかなんて、考えたくもないのに。
「おみ、荷物は運んだのか?」
「運んだよ、ほら」
「あー……うん。そうだな」
「涼太?」
 つい普段の感覚で話しかけて、返事のたびに驚いてしまう。声色はそこまで変わらないが、舌足らずでも甘えた口調でもない。それもそうだ。話し方だけではない。今のおみは、かなり特殊な状況に置かれているのだから。
「すごい。着物の丈もぴったりだ。ぼくがこうなるって分かってたんだ」
「記録が残ってたからな。ある程度はわかっていた」
「涼太はすごいね。着物のデザインもお洒落だ」
 いつも膝くらいまでしかなかった背丈が、今は俺の脇腹くらいまで伸びていた。髪も肩くらいまで長くなり、簡単なハーフアップでまとめている。顔立ちは大人っぽくなり、柔らかくて丸かった頬はやや骨張っていた。
 見た目で言うと十二、三歳くらいだろうか。おみは、この地に近づくにつれて成長したのだ。
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