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叢時雨【11月長編】
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しおりを挟む「さかぐちー!」
「おおっと、おみ坊、でかくなったなァ」
織田さんに教えてもらった社に向かうと、ちょうど坂口さんが一人で歩いているところだった。どうやら七福神の会合も終わったらしい。こんなに遅くまで大変なことだ。
それに坂口さんはこの出雲と深い関係もある。親戚周り(と言って正しいのかは分からないが)も多いだろう。こちらも普段は滅多に見られない白の正装に身を包んでいた。
トレードマークのカンカン帽も被っていない。遠目からだと気づかなかったかも。
「よーう、室生の坊。ちょうど良かったな。あと少し早けりゃ他の奴らと鉢合わせしてたぜ」
「それはよかった……眼鏡をしててもさすがに七福神は霊力が強すぎますから」
「間違いねぇ」
相変わらず、カラカラと気持ちよく笑う。世間で想像される「彼」を容易に想像できた。体型は本来の姿の方がスリムだと思うが。
「そうだ、あの店行ったか」
「最初の日に行った。美味かったぞ」
「だろ? 魚に関しては間違いねぇからな」
「あの店って、もしかして坂口さんがおみに教えたんですか?」
初日の夜、おみに連れられて小さな居酒屋に行った。そこは確かに海鮮料理が豊富で、どれも味がよかったけれど。
まさか坂口さんのオススメだったとは。というか、五歳姿のおみに何を教えているんだこの人は。
「ほら、俺一応漁業も扱ってるから。詳しいんだよ」
「言われてみればそうですね。五穀豊穣のイメージがどうしても強くて忘れてました」
「ま、それでもいいさ。なんにしても間違っちゃいねぇんだから」
そんなものか。神様というのは心が広い。
「坂口、御父上とは会ったのか」
「あー、これからだ。話が長そうだから酒でも持っていこうと思ってなァ」
「御父上って、まさか」
「そのまさか。だから室生の坊は早く戻りな。霊力にぶち当てられて倒れちまうぞ」
確かにそうだ。今はまだおみとこの眼鏡に守られているけれど、国造りの神と対面なんかしたら数日寝込むこと確実だ。
「さかぐちー、帰ったらまた遊んでくれ」
「おう。あと少しで山に帰るから、そしたら遊ぼうな」
内心ヒヤヒヤしている俺をよそ目に、なんともほのぼのした会話を続けている。これだから神様は。肝が据わっているというか、なんというか。
兎にも角にも、ここは早めに退散した方がよさそうだ。夜の散歩もこの辺でお終いだな。
「おやすみ、坂口」
「おやすみ。気をつけて帰れよ」
ヒラヒラ手を振る坂口さんに頭を下げ、おみと二人で宿へと向かった。
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