泣き虫龍神様

一花みえる

文字の大きさ
上 下
86 / 290
叢時雨【11月長編】

12

しおりを挟む

「さかぐちー!」
「おおっと、おみ坊、でかくなったなァ」
    織田さんに教えてもらった社に向かうと、ちょうど坂口さんが一人で歩いているところだった。どうやら七福神の会合も終わったらしい。こんなに遅くまで大変なことだ。
    それに坂口さんはこの出雲と深い関係もある。親戚周り(と言って正しいのかは分からないが)も多いだろう。こちらも普段は滅多に見られない白の正装に身を包んでいた。
    トレードマークのカンカン帽も被っていない。遠目からだと気づかなかったかも。
「よーう、室生の坊。ちょうど良かったな。あと少し早けりゃ他の奴らと鉢合わせしてたぜ」
「それはよかった……眼鏡をしててもさすがに七福神は霊力が強すぎますから」
「間違いねぇ」
    相変わらず、カラカラと気持ちよく笑う。世間で想像される「彼」を容易に想像できた。体型は本来の姿の方がスリムだと思うが。
「そうだ、あの店行ったか」
「最初の日に行った。美味かったぞ」
「だろ?    魚に関しては間違いねぇからな」
「あの店って、もしかして坂口さんがおみに教えたんですか?」
    初日の夜、おみに連れられて小さな居酒屋に行った。そこは確かに海鮮料理が豊富で、どれも味がよかったけれど。
    まさか坂口さんのオススメだったとは。というか、五歳姿のおみに何を教えているんだこの人は。
「ほら、俺一応漁業も扱ってるから。詳しいんだよ」
「言われてみればそうですね。五穀豊穣のイメージがどうしても強くて忘れてました」
「ま、それでもいいさ。なんにしても間違っちゃいねぇんだから」
    そんなものか。神様というのは心が広い。
「坂口、御父上とは会ったのか」
「あー、これからだ。話が長そうだから酒でも持っていこうと思ってなァ」
「御父上って、まさか」
「そのまさか。だから室生の坊は早く戻りな。霊力にぶち当てられて倒れちまうぞ」
     確かにそうだ。今はまだおみとこの眼鏡に守られているけれど、国造りの神と対面なんかしたら数日寝込むこと確実だ。
「さかぐちー、帰ったらまた遊んでくれ」
「おう。あと少しで山に帰るから、そしたら遊ぼうな」
    内心ヒヤヒヤしている俺をよそ目に、なんともほのぼのした会話を続けている。これだから神様は。肝が据わっているというか、なんというか。
    兎にも角にも、ここは早めに退散した方がよさそうだ。夜の散歩もこの辺でお終いだな。
「おやすみ、坂口」
「おやすみ。気をつけて帰れよ」
    ヒラヒラ手を振る坂口さんに頭を下げ、おみと二人で宿へと向かった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:0

龍の寵愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,207pt お気に入り:2

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:1,363pt お気に入り:2

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,337pt お気に入り:116

【架空戦記】蒲生の忠

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:21

ぶち殺してやる!

現代文学 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:0

傲慢悪役令嬢は、優等生になりましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,327pt お気に入り:4,401

顔面偏差値底辺の俺×元女子校

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:2

処理中です...