泣き虫龍神様

一花みえる

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山茶花時雨 【12月短編】

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    冬用の布団を出してから、新しい悩みが増えてしまった。外は本当に寒くて、分厚い靴下を履かないと板張りの廊下を歩くこともできない。決死の思いで布団から這い出し、暖房をつけ、凍えながら朝食を作るのだが。
    問題は、そのあとだった。
「おみー、朝ごはんだぞ」
「んにゅ……さむい……」
 「お味噌汁が冷めるから。ほら、起きた起きた」
「うみぃー……」
    ボサボサの髪が布団の端から覗いている。ごろりと寝返りを打った後、うにゃうにゃと寝言が聞こえてきた。
    やれやれ。またか。
「おみ、部屋あったかいから」
「やだ……おふとんがいい……」
「うーん……」
    ふわふわでもふもふの冬用布団は、おみのお気に入りになったらしい。おかげで「ねむくないー!」と寝愚図ることはなくなった。
    しかし、朝にぐずぐずすることが増えてしまった。布団にくるまったまま床に転がっていることもある。その姿はまるで、そう、なんというか。
「芋虫みたいだな」
「おみ、いもむしじゃないもん……りゅうだもん……」
    驚くほど威厳のない龍神だ。もぞもぞ布団の中で丸まったあと、ようやく起き上がってきた。
    しかし掛け布団を被ったまま。遠くから見ると新しい生き物みたいだ。
「おみ、それで行くのか」
「あったかーい」
「……転ぶぞ」
「みっ!?」
    案の定、布団の端っこを踏んずけてそのまま転んでしまった。幸いにも布団が柔らかくて衝撃は少なかったようだが、びっくりしたのか大きな目がパチクリと瞬いていた。
    ぱち、ぱち。
    きっかり二回瞬きをしたあと、ぽろぽろと涙がこぼれてきた。
    あーあ。やっぱり。
「みえええええりょーたああああ!」
「よしよし」
    おみがべそべそ泣きながら抱きついてくる。掛け布団をぽいっと放り捨てて、真っ直ぐに俺の方へと向かってくる姿はどこか可愛らしく、何故か優越感が湧いてきた。
   掛け布団には負けなくない。それくらいの意地が俺にだってあるのだ。
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