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千歳をかねてたのしきをつめ【お正月】
【凧揚げ】
しおりを挟む外で遊ぶというので、せめて羽織だけは脱げと言い聞かせたのは正解だったようだ。コマを回し、けん玉に絡まり、笑って転んで大騒ぎだった。羽子板もしたいと駄々をこねていたが、墨を用意していなかったので、これは来年に持ち越し。
寒いはずなのにおみは汗だくになりながら全力で遊んでいる。楽しそうだなぁ。
「次、たこあげるの」
「飛ばされないようにな」
「おみ、飛べるからへーき」
そうなのか。おみがそう言うなら大丈夫なんだろう。坂口さんにもらった凧を手に、イネとマイと共に駆け出して行った。
この山は高い木々に囲まれているが坂口さんの畑があるためこの辺は凧揚げにうってつけだ。それに、今日はほどよい風も吹いている。子供たちだけでも遊べるだろう。
「りょーたー! 見ててねー!」
「見てるよー」
「ぬあー!」
イネが凧を掲げ、おみが全力で走っている。マイはおみが転ばないように足元を見ていた。短い足を必死に動かして走っているが、どうにも凧がうまくあがらない。
ひょろひょろ飛んで、ぽてんと地面に落ちている。三人とも不思議そうな顔で首を傾げ、もう一回チャレンジするため走り回っていた。
「おみちゃん、高めに持つから、ちょっと待ってて!」
「マイ、しゃがめばいい?」
「イネ、転ばないでね!」
なるほど、凧を高い位置にすれば飛びやすくなると考えたのだろう。イネに肩車されたマイが凧を持ち、再度おみが全力で走っていこうとする。
やれやれ。口を出すつもりはなかったんだけど。これだと日が沈んでしまうな。
「イネ、マイ。おみと一緒に走らないと凧はあがらないぞ」
「そうなの?」
「イネ、走れる?」
「うーん、むりかも」
さすがに肩車したまま走るのは危険すぎる。織田さんと坂口さんはニコニコしながら見ているからそこまで心配していないんだろうけれど、俺はつい口を出したくなってしまう。
普段おみと一緒に居るからかな。静かに見守ることが難しい。
「おみ、俺も一緒に走るからしっかり前を向け」
「うぃ!」
「イネとマイはよく見てろよ」
「はーい!」
「はーい!」
ほどよい長さまでタコ糸を伸ばして、風下に立つ。おみが走り出したタイミングで俺も走り始める。
凧は頭上に高く上げ、水平に。風に乗ったと感じたら上に押し上げるようにして。
「おみ、いくぞー!」
「みあああ」
ふわり。
凧が勢いよく空に舞い上がった。
真っ青な空に兎が描かれた白い凧が踊っている。イネとマイの歓声が遠くから聞こえてきた。
「あとは三人で出来るな?」
「できる! りょーたありがと」
「いえいえ」
こんな風にお正月らしいことをしたのは、きっと久しぶりなんだろう。じいさんと一緒に居た時はごくささやかな元旦だったと聞いている。今のように外を歩き回ることも出来なかっただろうし、なにより凧揚げなんか危なさすぎて出来るはずがない。
じいさん、見てよ。
こんなにも平和になったんだ。おみが笑って、外を走り回って、たまにみぇみぇ泣くけど、お腹いっぱい食べられている。
俺はちゃんと約束を守れてるかな。
「りょーたー! とんだよー!」
「おー、すごいな」
屈託のない笑い声が、快晴の下に響き渡っていた。
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