泣き虫龍神様

一花みえる

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穀雨 【4月長編】

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「お世話になるってどういうこと?」
「言葉のままっす!」
「えええ……」
 ある日突然、俺たちの前に現れた白い豆柴、海鈴が、ふんすと鼻を鳴らしてそう言った。言葉のままと言われても。全くどういうことか理解ができない。どうして俺たちのところに来る必要があるんだろう。宗像大社にいる方がよほど環境は整っていると思うんだけど。
 それに、おみのことを「師匠」と呼んでいた。
 確かにおみは龍神様だけど。千年近く生きている神様だけど。
 泣き虫で食いしん坊でビビりな五歳児と同じなんだぞ?
 一体何を学ぼうというのだろうか。
「かいちゃ、おみにあいにきたの?」
「そうっす! 前にちょっとだけお会いした時に、ビビッときたっす!」
「びび?」
「そうっす!」
 あんな僅かな時間で何を感じたんだろう。神様レベルになると何か違うんだろうか。
「ぼく、ししょーみたいにでっかくなりっす!」
「でっかくって……それは神在月の出雲に行かないとなれないよ」
「違うっす! しゅぎょーっす!」
「ええ……?」
 だめだ、人間の俺じゃさっぱり話が通じない。おみが大きくなるというのは、つまり霊力がしっかりと溜まる状況でしか見られない大人の姿(通称おみ様)のことかと思ったけれど。どうも違うらしい。まあ、そういうことならここに来る必要もないだろう。
 だとしたら、一体なんのことを言っているんだ。
「あ、もしかして、おみがしゅぎょーしてるときのこと?」
「そっす! それっす!」
「りょーた、あの、たき! あそこのこと!」
「あー、なるほど」
「おみがぶわああっておっきくなる時のこと、かいちゃ言ってる!」
 そこまで言われてようやく理解できた。海鈴が言っているのは、毎朝行っている修行のことのようだ。特殊な状況ではなく、多少整えられた場所であれば簡単にできる修行のことを言っていた。それなら話はわかりやすい。宗像大社という、神聖で清められた場所は逆に霊力を高めたり、姿形を変えることはあまりにも簡単だ。
 しかし、あたりに人間がほぼいないとはいえ、自然の力だけで霊力を高めないといけないのであればこの山は修行に打って付けだろう。とはいえ。何のアポもなしに、いきなり「ししょー!」と言われてもさっぱり理解はできない。
「ぼく、おいち様に言われたっす。早く背中に乗れるよう、大きくなってくれ、って」
「まー! おみも乗ってみたい!」
「いつでも乗ってくださいっす! そのために、ぼく、ここで修行させてもらうっす!」
「決定事項なんだ、それ」
「そっす!」
「そっかぁ……」
 急にますます賑やかになった我が家の真ん中で、俺の小さな脳みそが必死になって事態を理解しようとしていた。その結果、最終的に出てきた答えは「頑張ろうね」という、あまりにも心のこもっていない激励だった。
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