このたび、小さな龍神様のお世話係になりました

一花みえる

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梅雨【6月長編】

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    ふと、遠くに何か光るものが見えました。
    それは冬に振る雪のようで、でも春に落ちる木漏れ日のようで。なんだか不思議な色をしています。
    あそこが、もしかすると、てっぺんなのでしょうか。
「ついたー……へふ」
    たくさん歩いて疲れたご主人は、ぱたんと地面に寝っ転がってしまいました。お山のてっぺんには、大きな木が一本立っているだけ。あとは何もありません。
    その木には不思議なお花が咲いていて、遠くから見えたあの銀色はお花の色だったことが分かります。そういえばこのお花、以前どこかで見たことがあるような、ないような。
   うーん、いったいどこだったでしょう。
「ぱぱと、まま、いるの?」
    汗だくのまま、ご主人はぽつりと呟きました。ここは随分と空が近く感じます。木しかないからでしょう。
    ご主人の声も、そのままお空に届いてしまいそうです。
「ぱぱ……まま……おみだよ、みええ」
    あわわ、ご主人の声が涙で震えています。疲れたことも、一人でここまで来たことも、パパとママが見当たらないことも。
    その全部が寂しいのでしょう。
    悲しいのでしょう。
    ぼくはただのぬいぐるみなのに、なぜだか体の奥がぎゅーっと締め付けられました。
「ぱぱぁ……ままぁ……みえええ、あいたいよぉ、みえぇえ……っ!」
「んにゃん」
「みえぇぇえ……」
    ぼくとちびちゃんを抱きしめ、ころころし始めました。自分でもどうしようも出来ない感情を持て余しているのでしょう。
    どうしましょう。こんな時ぼくは何もできません。ただふわふわしていることしかできません。ご主人が悲しくて泣いているのに。
    ぼくは、どうしようもなく、非力なのです。
「まあまあ、そんなこと言わないで。君のおかげでここまで来られたんだから」
    えっ!?
    だ、誰ですか!?
    ここにはぼくたち以外、誰もいないはずなのに!
「それにしても、おみにこんな素敵な友達が出来ていたなんて。嬉しいなぁ」
    なんだか楽しそうな声がする方を、おそるおそる見てみます。
    そこには。
「いつもありがとう、素敵な白龍さん」
    見慣れない、男の人が立っていました。
    笑った顔がどことなくりょうたさんに似ているその人は、はっきりとぼくの方を向いて話しかけていました。
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