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梅雨【6月長編】
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しおりを挟む「しらたき、ぬれちゃった?」
先程の大雨で、ぼくとちびちゃんはちょっとだけ濡れてしまいました。それを心配したのか、ご主人様は何度もぼくたちを撫でてくれます。
優しいですね、ご主人様!
ぼくたちはもうすっかり元気ですよ!
「帰ったら、しらたきは洗おうな」
「みぇっ……」
えぇぇ、いやです! 洗うのだけは勘弁してください! 洗濯機でぐるぐるに回ると、目が回って大変なのです!
うえええん……今度はぼくが泣きそうです。
「おみ。お前の両親について、な」
「むん」
「ちゃんといるよ。お前のすぐそばに」
「ん、なんかね、おみ、わかったきがする」
「そうか」
そうでした。ご主人様の、ぱぱとままのお話です。おじいちゃまも、のんびりと木の枝に座ってお二人のお話を聞いています。
気持ちの良い風が拭いていました。
「おみは、人の願いから生まれた。そしてその人を活かしているのは」
「ごはん!」
「そう。そうだな。母なる大地で育った作物。それを育てるのは、父なる天から降り注ぐ雨。つまりお前の両親は」
ふ、と。
ご主人様は空を見上げました。
海の色と同じ、大きなおめ目が。確かに、天空の向こうにいる何かを見ていました。
「おそらが、ぱぱ」
ご主人様が泣くと雨が降るのは、ぱぱが慰めてくれるからなのでしょうか。だからご主人様の涙は雨になるかもしれません。
そして、ご主人はころりと地面に寝転がりました。
まるで抱きつくように。大きく手を広げて。
「じめんが、まま」
「おみが野菜を育てるとよく成長するのも、たくさん食べることで霊力になるのも……つまりは、母なる大地からの栄養だったわけだ」
りょーたさんは、なんだか難しいことを話していますが、つまりご主人様がたくさん食べるのは良い事なのですね!
それはぼくもよくわかります!
「他にも、この場所が空に一番近いからとか、
白龍くんの願いとか色々あるんだけどね。まあ、今のおみと涼太にはこれで十分だろう」
あ、おじいちゃま。うんうん。ぼくもそう思いますよ。だって今のお二人はとても穏やかで、楽しそうです。
でもでも、ご主人様はパパとママを見つけられたわけですよね。それじゃあ、りょうたさんとはもうお別れなのですか?
「そんなわけないよ。ほら、見てご覧」
「ぱぱと、ままと、りょーた! あとしらたき、ちびちゃ……もっとたくさん!」
「ん? 何が?」
「おみのかぞく! おみ、ひとりじゃないねー!」
「当たり前だろ。ほら、帰ろう」
「かえるー」
よかった!
ぼくも家族なのですね!
これからもずっとご主人様の隣にいますよ!
「よろしく頼むよ。小さな白龍くん。私の可愛い孫と、泣き虫な龍神様をね」
おまかせください!
このしらたき、いつでもご主人様のことをお守りして……。
「おみ、そこ足元に気をつけて……あー……」
「みっ!?」
あらら。さっそく転んでしまいました。しかもお顔をぶつけてしまったようです。なんて可哀想なご主人様!
でも、もう立派な龍神様なのですから!
少しくらい痛くても、驚いても、大丈夫でふよね!
「み、みぇ……みえぇぇええ! りょーたぁ……!」
「はいはい。よしよし」
「みえぇぇぇえいたいよぉぉぉぉ……!」
うーん。まだまだご主人様の泣き虫は治りそうにありません。でも、それでこそぼくのご主人様!
これからも家族みんなで楽しく過ごしていきましょうね!
応援ありがとうございます!
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