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美味しい絵日記
【ぜんざい】
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ぜんざいという名前の由来には諸説あり、仏教から来ているものというのがその内の一つだ。かの有名な一休さんが「善哉」と絶賛したとされている。
そしてもう一つは、出雲に関係している。昨年、俺達も参加した神在祭で振る舞われていた神在餅が訛って「ぜんざい」になったとのこと。どちらにしても信心深いものが由来になっている。
わけなんだけど。
「んままー!」
「おみ、口の周りに餡子がついてる」
「んむ、むむ」
そんな由緒あるぜんざいを口いっぱいに頬張り、幸せそうにしているおみを見ていると、そんな由来も吹き飛んでしまいそうだ。いや、おみだって龍神様だし、人間である俺よりも長く生きているんだけど。
どうにも威厳の欠けらも無い。
「あまくて、もちもちで、おいしー」
「自分で作ろうと思ったら面倒なんだよなぁ」
「ぶんめーのりき、すごい」
坂口さんから出雲のお土産でもらったレトルトのぜんざいは、熱湯で湯煎したらすぐに食べられる。日持ちするし、味も美味しくてまさしく文明の利器だ。
出雲で食べたぜんざいと味が変わらないくらい美味しい。
「これ食べると出雲のことを思い出すな」
「りょーた、ぜんざいたべたの?」
「食べただろ。旅館の夕ご飯で」
「んむー……?」
そうだっけ? とおみは首を傾げている。姿が変わると記憶も曖昧になるとは言っていたけれど、まさか食べたものを忘れるなんて。食いしん坊のおみとは思えない。
だとしたらあの宍道湖七珍がふんだんに使われた晩ご飯も覚えていないのか。可哀想に。
「というか、どの程度覚えてるんだ?」
「んー、うみみて、あと、おふろでぱちゃぱちゃして」
「やっぱり泳いでたのか……」
「みゃっ! いまのなし!」
あれ程泳ぐなと言い聞かせ、子供じゃないんだから、と言っていたのに。やはり俺の勘は正しかった。別に今更だし、怒ったりもしないけど。
記憶が薄れるというのも大変だな。
「あとあと、まがたまつくった!」
「あれからずっと大切にしてるもんな」
「そだよ! きらきら!」
あの時一緒に作った手作りの勾玉は、根付として毎日帯のところにつけている。首からかけようと思ったけど、すでに家宝である首飾りがある。二つもつけると絡まると思ったから根付にした。
おみは枕元の宝物箱にしまってるらしく、寝る前に毎日見ては楽しそうに笑っている。俺みたいに持ち歩きたいらしいけど、あれだけ走り回って転んでいたらすぐに無くしてしまいそうだったから、部屋で保管することにしたのだ。
その代わりと言ってはなんだけど、しらたきの首にはいつもオレンジ色の勾玉が光っている。毎日見ているからなのか、おみは小さくなっても勾玉の記憶はしっかり残っているらしい。
「ねね、またいじゅもいく?」
「行くよ」
「いじゅもでぜんざいたべたい!」
「そうだな。お焼きとお蕎麦も食べよう」
「わはー!」
次、おみが出雲に行く時はまた姿が変わる。そうしたら、ますます記憶はうっすらとしか残らないだろう。
それでも、忘れてしまったとしても、何回だって思い出せばいいんだ。手づくの勾玉を見る度に記憶が蘇るみたいに、甘い甘いぜんざいを食べる度に二人で出雲に行ったことを思い出せばいい。
人間はそうやって幸せを覚えていくのだから。
「おもち、もちもち」
「俺のもあげる」
「やったー! りょーただいすき!」
お持ちみたいにぷくぷくした頬を、指先で優しく突っついた。
たくさんたくさん、召し上がれ。
そしてもう一つは、出雲に関係している。昨年、俺達も参加した神在祭で振る舞われていた神在餅が訛って「ぜんざい」になったとのこと。どちらにしても信心深いものが由来になっている。
わけなんだけど。
「んままー!」
「おみ、口の周りに餡子がついてる」
「んむ、むむ」
そんな由緒あるぜんざいを口いっぱいに頬張り、幸せそうにしているおみを見ていると、そんな由来も吹き飛んでしまいそうだ。いや、おみだって龍神様だし、人間である俺よりも長く生きているんだけど。
どうにも威厳の欠けらも無い。
「あまくて、もちもちで、おいしー」
「自分で作ろうと思ったら面倒なんだよなぁ」
「ぶんめーのりき、すごい」
坂口さんから出雲のお土産でもらったレトルトのぜんざいは、熱湯で湯煎したらすぐに食べられる。日持ちするし、味も美味しくてまさしく文明の利器だ。
出雲で食べたぜんざいと味が変わらないくらい美味しい。
「これ食べると出雲のことを思い出すな」
「りょーた、ぜんざいたべたの?」
「食べただろ。旅館の夕ご飯で」
「んむー……?」
そうだっけ? とおみは首を傾げている。姿が変わると記憶も曖昧になるとは言っていたけれど、まさか食べたものを忘れるなんて。食いしん坊のおみとは思えない。
だとしたらあの宍道湖七珍がふんだんに使われた晩ご飯も覚えていないのか。可哀想に。
「というか、どの程度覚えてるんだ?」
「んー、うみみて、あと、おふろでぱちゃぱちゃして」
「やっぱり泳いでたのか……」
「みゃっ! いまのなし!」
あれ程泳ぐなと言い聞かせ、子供じゃないんだから、と言っていたのに。やはり俺の勘は正しかった。別に今更だし、怒ったりもしないけど。
記憶が薄れるというのも大変だな。
「あとあと、まがたまつくった!」
「あれからずっと大切にしてるもんな」
「そだよ! きらきら!」
あの時一緒に作った手作りの勾玉は、根付として毎日帯のところにつけている。首からかけようと思ったけど、すでに家宝である首飾りがある。二つもつけると絡まると思ったから根付にした。
おみは枕元の宝物箱にしまってるらしく、寝る前に毎日見ては楽しそうに笑っている。俺みたいに持ち歩きたいらしいけど、あれだけ走り回って転んでいたらすぐに無くしてしまいそうだったから、部屋で保管することにしたのだ。
その代わりと言ってはなんだけど、しらたきの首にはいつもオレンジ色の勾玉が光っている。毎日見ているからなのか、おみは小さくなっても勾玉の記憶はしっかり残っているらしい。
「ねね、またいじゅもいく?」
「行くよ」
「いじゅもでぜんざいたべたい!」
「そうだな。お焼きとお蕎麦も食べよう」
「わはー!」
次、おみが出雲に行く時はまた姿が変わる。そうしたら、ますます記憶はうっすらとしか残らないだろう。
それでも、忘れてしまったとしても、何回だって思い出せばいいんだ。手づくの勾玉を見る度に記憶が蘇るみたいに、甘い甘いぜんざいを食べる度に二人で出雲に行ったことを思い出せばいい。
人間はそうやって幸せを覚えていくのだから。
「おもち、もちもち」
「俺のもあげる」
「やったー! りょーただいすき!」
お持ちみたいにぷくぷくした頬を、指先で優しく突っついた。
たくさんたくさん、召し上がれ。
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