転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

文字の大きさ
2 / 21
出会い

2話 個別授業

しおりを挟む
翌日、私は昨日会ったレオンと呼ばれる男に指定された場所へと向かった。

王都の南側、街の喧騒から少し離れた、おしゃれなカフェが立ち並ぶ通り。

その一角にある、小さな看板が目印のカフェ・ケメネスに着いたとき、私はかなり緊張していた。

扉を開けると、レオンさんはすでに席についていた。

「こんにちは。またお会いできて嬉しいです」

相変わらず整い、鍛えられた姿で、丁寧な口調も昨日と変わらない。

白のシャツにグレーのベストという落ち着いた服装なのに、不思議と目を引く美しさがある。

「どうぞおかけください」

「あ、ありがとうございます」

彼は椅子を引いてくれたが、日本育ちの私は、男性からのこのような扱いにはまだ慣れていない。

自分でも少し顔が赤くなるのがわかった。

彼の立ち振る舞いは完璧で、女性慣れしているようにも見える。





「ご注文はお決まりでしょうか?」

店員が柔らかな笑みを浮かべ、声をかけてきた。

「私はフルール・ミルダでお願いします」

フルール・ミルダ。アストリア北部の霧深い高地で育つミルダベリーを使った果汁ドリンクだ。ほんのりした酸味と、どこか懐かしい上品な香りが、いつも私の心をほぐしてくれる。

この飲み物には、店によって二つの提供スタイルがある。

一つはベリーの果肉をあえて残したタイプで「ルージュ」と呼ばれている。もう一つは完全に液体化された「セレ」だ。

私は、くじ引きのような感覚で、どちらかをわざわざ聞かずに注文するのが好きだ。個人的にはルージュがお気に入りで、ルージュで出てくると「今日はあたりだな」と心の中で思ってしまう。

「レオンさんはどうされますか?」

「では、私も。フルール・ミルダをお願いします」

席につき、レオンさんが簡単に注文を済ませると、彼はすぐに本題へと入った。




「早速ですが、日本語を教えていただけますか?」

「は、はい。まずは、あいさつのような簡単なものからでいいですか?」

そこから、私の日本語講座が始まった。

「こんにちは」「ありがとう」「これは何ですか?」
そんな簡単な単語や表現を、私は紙に書いて発音し、彼に真似してもらう。

驚いたのは、彼の覚えの早さだった。言葉のリズムや音の高低、母音の位置まで、細かく聞き取り、すぐに再現してくる。

「『きれい』の後ろに名詞がくると『きれいな花』になるんですね?」

「そうです。形容詞には種類があって、『きれい』はナ形容詞と呼ばれるものです。なので、名詞の前には『な』が入ります」

「では、『ミナはきれいな人です』これは正しい表現でしょうか?」

「お上手ですね」

いつのまにかそんなふうに楽しく冗談をいうくらいには、自然に話ができるようになった。

(そうだ、昨日のノートのこと聞かなきゃ)

「そういえば、私のノートってどこで見つけていただいたんですか?」

「ノート⋯⋯?あぁ、昨日ミナさんに返したものですね。あれは、魔導塔で発見しました」

「魔導塔?!」

魔導塔——王都でも、ごく限られた魔導士や研究者しか出入りできない場所。

(そんな場所に関われる人って一体何者なんだろう)

気になって、私は思い切って聞いてみた。

「失礼でなければ、具体的にどんなお仕事をされているかお聞きしてもいいですか?先日、言語学の先生とはお伺いしましたが⋯⋯」

彼は少しだけ瞬きをしてから、変わらぬ穏やかな笑みで答えた。

「講義の他は事務作業がほとんどですかね。大したことは何も」

「そ、そうなんですね」

やはり、大学の講師だとしても魔導塔の資料に関われるとは到底思えない。

心の奥に、再び小さな違和感が灯る。
けれど、彼の目には嘘の気配も、焦りもなかった。

(たぶん、私がこの国のことあまり知らないだけで、何か魔導塔に関われる機会があるのかもしれないのかな)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いて欲しい!

カントリー
恋愛
「懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。」 でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。 大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きな小太した女子高校生。 今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。 ダーク 「…美味そうだな…」ジュル… 都子「あっ…ありがとうございます!」 (えっ…作った料理の事だよね…) 元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが… これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。 小説の「異世界でお菓子屋さんを始めました!」から20年前の物語となります。

今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。

柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。 詰んでる。 そう悟った主人公10歳。 主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど… 何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど… なろうにも掲載しております。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...