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出会い
2話 個別授業
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翌日、私は昨日会ったレオンと呼ばれる男に指定された場所へと向かった。
王都の南側、街の喧騒から少し離れた、おしゃれなカフェが立ち並ぶ通り。
その一角にある、小さな看板が目印のカフェ・ケメネスに着いたとき、私はかなり緊張していた。
扉を開けると、レオンさんはすでに席についていた。
「こんにちは。またお会いできて嬉しいです」
相変わらず整い、鍛えられた姿で、丁寧な口調も昨日と変わらない。
白のシャツにグレーのベストという落ち着いた服装なのに、不思議と目を引く美しさがある。
「どうぞおかけください」
「あ、ありがとうございます」
彼は椅子を引いてくれたが、日本育ちの私は、男性からのこのような扱いにはまだ慣れていない。
自分でも少し顔が赤くなるのがわかった。
彼の立ち振る舞いは完璧で、女性慣れしているようにも見える。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員が柔らかな笑みを浮かべ、声をかけてきた。
「私はフルール・ミルダでお願いします」
フルール・ミルダ。アストリア北部の霧深い高地で育つミルダベリーを使った果汁ドリンクだ。ほんのりした酸味と、どこか懐かしい上品な香りが、いつも私の心をほぐしてくれる。
この飲み物には、店によって二つの提供スタイルがある。
一つはベリーの果肉をあえて残したタイプで「ルージュ」と呼ばれている。もう一つは完全に液体化された「セレ」だ。
私は、くじ引きのような感覚で、どちらかをわざわざ聞かずに注文するのが好きだ。個人的にはルージュがお気に入りで、ルージュで出てくると「今日はあたりだな」と心の中で思ってしまう。
「レオンさんはどうされますか?」
「では、私も。フルール・ミルダをお願いします」
席につき、レオンさんが簡単に注文を済ませると、彼はすぐに本題へと入った。
「早速ですが、日本語を教えていただけますか?」
「は、はい。まずは、あいさつのような簡単なものからでいいですか?」
そこから、私の日本語講座が始まった。
「こんにちは」「ありがとう」「これは何ですか?」
そんな簡単な単語や表現を、私は紙に書いて発音し、彼に真似してもらう。
驚いたのは、彼の覚えの早さだった。言葉のリズムや音の高低、母音の位置まで、細かく聞き取り、すぐに再現してくる。
「『きれい』の後ろに名詞がくると『きれいな花』になるんですね?」
「そうです。形容詞には種類があって、『きれい』はナ形容詞と呼ばれるものです。なので、名詞の前には『な』が入ります」
「では、『ミナはきれいな人です』これは正しい表現でしょうか?」
「お上手ですね」
いつのまにかそんなふうに楽しく冗談をいうくらいには、自然に話ができるようになった。
(そうだ、昨日のノートのこと聞かなきゃ)
「そういえば、私のノートってどこで見つけていただいたんですか?」
「ノート⋯⋯?あぁ、昨日ミナさんに返したものですね。あれは、魔導塔で発見しました」
「魔導塔?!」
魔導塔——王都でも、ごく限られた魔導士や研究者しか出入りできない場所。
(そんな場所に関われる人って一体何者なんだろう)
気になって、私は思い切って聞いてみた。
「失礼でなければ、具体的にどんなお仕事をされているかお聞きしてもいいですか?先日、言語学の先生とはお伺いしましたが⋯⋯」
彼は少しだけ瞬きをしてから、変わらぬ穏やかな笑みで答えた。
「講義の他は事務作業がほとんどですかね。大したことは何も」
「そ、そうなんですね」
やはり、大学の講師だとしても魔導塔の資料に関われるとは到底思えない。
心の奥に、再び小さな違和感が灯る。
けれど、彼の目には嘘の気配も、焦りもなかった。
(たぶん、私がこの国のことあまり知らないだけで、何か魔導塔に関われる機会があるのかもしれないのかな)
王都の南側、街の喧騒から少し離れた、おしゃれなカフェが立ち並ぶ通り。
その一角にある、小さな看板が目印のカフェ・ケメネスに着いたとき、私はかなり緊張していた。
扉を開けると、レオンさんはすでに席についていた。
「こんにちは。またお会いできて嬉しいです」
相変わらず整い、鍛えられた姿で、丁寧な口調も昨日と変わらない。
白のシャツにグレーのベストという落ち着いた服装なのに、不思議と目を引く美しさがある。
「どうぞおかけください」
「あ、ありがとうございます」
彼は椅子を引いてくれたが、日本育ちの私は、男性からのこのような扱いにはまだ慣れていない。
自分でも少し顔が赤くなるのがわかった。
彼の立ち振る舞いは完璧で、女性慣れしているようにも見える。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
店員が柔らかな笑みを浮かべ、声をかけてきた。
「私はフルール・ミルダでお願いします」
フルール・ミルダ。アストリア北部の霧深い高地で育つミルダベリーを使った果汁ドリンクだ。ほんのりした酸味と、どこか懐かしい上品な香りが、いつも私の心をほぐしてくれる。
この飲み物には、店によって二つの提供スタイルがある。
一つはベリーの果肉をあえて残したタイプで「ルージュ」と呼ばれている。もう一つは完全に液体化された「セレ」だ。
私は、くじ引きのような感覚で、どちらかをわざわざ聞かずに注文するのが好きだ。個人的にはルージュがお気に入りで、ルージュで出てくると「今日はあたりだな」と心の中で思ってしまう。
「レオンさんはどうされますか?」
「では、私も。フルール・ミルダをお願いします」
席につき、レオンさんが簡単に注文を済ませると、彼はすぐに本題へと入った。
「早速ですが、日本語を教えていただけますか?」
「は、はい。まずは、あいさつのような簡単なものからでいいですか?」
そこから、私の日本語講座が始まった。
「こんにちは」「ありがとう」「これは何ですか?」
そんな簡単な単語や表現を、私は紙に書いて発音し、彼に真似してもらう。
驚いたのは、彼の覚えの早さだった。言葉のリズムや音の高低、母音の位置まで、細かく聞き取り、すぐに再現してくる。
「『きれい』の後ろに名詞がくると『きれいな花』になるんですね?」
「そうです。形容詞には種類があって、『きれい』はナ形容詞と呼ばれるものです。なので、名詞の前には『な』が入ります」
「では、『ミナはきれいな人です』これは正しい表現でしょうか?」
「お上手ですね」
いつのまにかそんなふうに楽しく冗談をいうくらいには、自然に話ができるようになった。
(そうだ、昨日のノートのこと聞かなきゃ)
「そういえば、私のノートってどこで見つけていただいたんですか?」
「ノート⋯⋯?あぁ、昨日ミナさんに返したものですね。あれは、魔導塔で発見しました」
「魔導塔?!」
魔導塔——王都でも、ごく限られた魔導士や研究者しか出入りできない場所。
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気になって、私は思い切って聞いてみた。
「失礼でなければ、具体的にどんなお仕事をされているかお聞きしてもいいですか?先日、言語学の先生とはお伺いしましたが⋯⋯」
彼は少しだけ瞬きをしてから、変わらぬ穏やかな笑みで答えた。
「講義の他は事務作業がほとんどですかね。大したことは何も」
「そ、そうなんですね」
やはり、大学の講師だとしても魔導塔の資料に関われるとは到底思えない。
心の奥に、再び小さな違和感が灯る。
けれど、彼の目には嘘の気配も、焦りもなかった。
(たぶん、私がこの国のことあまり知らないだけで、何か魔導塔に関われる機会があるのかもしれないのかな)
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