転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

文字の大きさ
2 / 73
第1章 出会い

2話 個別授業

翌日、私は昨日会ったレオンと呼ばれる男に指定された場所へと向かった。

王都の南側、街の喧騒から少し離れた、おしゃれなカフェが立ち並ぶ通り。

その一角にある、小さな看板が目印のカフェ・ケメネスに着いたとき、私はかなり緊張していた。

扉を開けると、レオンさんはすでに席についていた。

「こんにちは。またお会いできて嬉しいです」

相変わらず整い、鍛えられた姿で、丁寧な口調も昨日と変わらない。

白のシャツにグレーのベストという落ち着いた服装なのに、不思議と目を引く美しさがある。

「どうぞおかけください」

「あ、ありがとうございます」

彼は椅子を引いてくれたが、日本育ちの私は、男性からのこのような扱いにはまだ慣れていない。

自分でも少し顔が赤くなるのがわかった。

彼の立ち振る舞いは完璧で、女性慣れしているようにも見えた。




「ご注文はお決まりでしょうか?」

店員が柔らかな笑みを浮かべ、声をかけてきた。

「私はフルール・ミルダでお願いします」

フルール・ミルダ。アストリア北部の霧深い高地で育つミルダベリーを使った果汁ドリンクだ。ほんのりした酸味と、どこか懐かしい上品な香りが、いつも私の心をほぐしてくれる。

この飲み物には、店によって二つの提供スタイルがある。

一つはベリーの果肉をあえて残したタイプで「ルージュ」と呼ばれている。もう一つは完全に液体化された「セレ」だ。

私は、くじ引きのような感覚で、どちらかをわざわざ聞かずに注文するのが好きだ。個人的にはルージュがお気に入りで、ルージュで出てくると「今日はあたりだな」と心の中で思ってしまう。

「レオンさんはどうされますか?」

「では、私も。フルール・ミルダをお願いします」

席につき、レオンさんが簡単に注文を済ませると、彼はすぐに本題へと入った。




「早速ですが、日本語を教えていただけますか?」

「は、はい。まずは、あいさつのような簡単なものからでいいですか?」

そこから、私の日本語講座が始まった。

「こんにちは」「ありがとう」「これは何ですか?」
そんな簡単な単語や表現を、私は紙に書いて発音し、彼に真似してもらう。

驚いたのは、彼の覚えの早さだった。言葉のリズムや音の高低、母音の位置まで、細かく聞き取り、すぐに再現してくる。

「『きれい』の後ろに名詞がくると『きれいな花』になるんですね?」

「そうです。形容詞には種類があって、『きれい』はナ形容詞と呼ばれるものです。なので、名詞の前には『な』が入ります」

「では、『ミナはきれいな人です』これは正しい表現でしょうか?」

「お上手ですね」

いつの間にかそんなふうに楽しく冗談をいうくらいには、自然に話ができるようになった。

(そうだ、昨日のノートのこと聞かなきゃ)

「そういえば、私のノートってどこで見つけてくださったのですか?」

「ノート⋯⋯?あぁ、昨日ミナさんに返したものですね。あれは、魔導塔で発見しました」

「魔導塔?!」

魔導塔——王都でも、ごく限られた魔導士や研究者しか出入りできない場所。

(そんな場所に関われる人って一体何者なんだろう)

気になって、私は思い切って聞いてみた。

「失礼でなければ、具体的にどんなお仕事をされているかお聞きしてもいいですか?先日、言語学の先生とはお伺いしましたが⋯⋯」

彼は少しだけ瞬きをしてから、変わらぬ笑みで答えた。

「講義以外ということですか?他は⋯⋯事務作業がほとんどですかね。大したことは何も」

「そ、そうなんですね」

(嘘をついているようには見えない。でも、大学の講師が魔導塔の資料に関われるとも思えない)

心の奥に、再び小さな違和感が灯る。

(たぶん、私がこの国のことあまり知らないだけで、何か魔導塔に関われる機会があるのかも⋯⋯)

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女── その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。 病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。 白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。 自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、 父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。 ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。 皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、 側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。 その直後、父が危篤に。 泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。 「どうして平民の私に魔力が……?」 やがて明かされる真実── ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。 王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。 不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、 幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。 「今度こそ、君を見失わない」 歌姫王女として成長していくミリアと、 彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。