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第1章 出会い
3話 デート
なんだかんだありながら、今日でレオンさんと会うのは、十回目。
「フルール・ミルダをお願いします」
席につくなり、私はいつもの飲み物を注文した。
このカフェでは、基本的にルージュで提供されると知って以来、いつもフルール・ミルダを頼んでいる。
「では、今日はこの国の文化について、日本語で説明してください。まずは書いてみましょうか」
「わかりました」
ここ数回のレッスンで、彼の日本語はもはや勉強中というレベルを軽く超えていた。
ノートの上を走るペン先は速く、迷いがない。たった数分で彼はページいっぱいの日本語を書いた。
「はやいですね。今から確認します」
私はノートを手に取り、添削を始めた。
(すごい──間違いが、ひとつもない)
すでに彼は基本的な文法や単語はもちろん、複雑な接続助詞などを含め、完全に理解している。
「どうですか?」
「か、完璧です。」
「よかった。ミナさんのおかげですね。あなたのおかげで日本語を勉強するのが楽しくて」
「いえ、普通はこんな短期間でここまで習得できる人なんていませんよ。レオンさんは本当に聡明でいらっしゃるんですね」
正直、すごいを通り越して、恐怖心を感じるくらいだ。
「ミナさん、一つわからないことがあるのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。でも今日はあまり時間がなくて、詳しく説明できないですけどいいですか?」
「何かご予定でも?」
「いえ、予定ってほどじゃないんですけど、実は今日、フリーマーケットのようなものが開かれてるらしく⋯⋯家具や雑貨がたくさん出るって聞いたので、ちょっと見てこようかなって」
実は数日前から、家で使っている机が少しガタついていて、新しいものを買いたいと思っていたのだ。
「それなら、私もご一緒してもよろしいですか?」
「え?レオンさんがいいなら、もちろん大丈夫ですが⋯⋯」
予想もしていなかった返答に、思わず承諾してしまった。そして、なぜか心の中で少し嬉しいと思っている自分がいる。
「ありがとうございます。ミナさんと一緒にデートしたかったんです。では、一緒に行きましょう」
「デートって、か、からかわないでください」
(でも、こんな綺麗な人と一緒に2人きりで出かけるのは緊張するな……)
恥ずかしさを隠すようにテーブルの上にあった残りのフルール・ミルダを飲み干し、レオンさんと会場へ向かった。
会場へ向かって歩き出して間もなく、私はある家具屋が目に入った。
丁寧に磨かれたドア、金の縁取りがされた看板、窓越しに見える艶やかな家具たち。見るからに高級そうだった。
──懐かしい。
ふと、日本にいた頃の自分を思い出す。インテリアデザイナーという、一見華やかそうな肩書きの裏側にあった、目の回るような忙しさとブラックな職場。
だけど、仕事自体は嫌いじゃなかった。やりがいがあったし、どこか誇りもあった。
だから、職業柄、こうして家具を見ると、自然と目を奪われてしまう。
中でも、あるひとつの白いドレッサーに目が留まった。
やわらかな光沢を帯びた引き出し。丸みを帯びた鏡と、緩やかにカーブした脚のライン。
まるで、おとぎ話のお姫様の部屋に置かれていそうな、夢のような一品だった。
——結局こういうのがいちばん好きだ。
日本にいた頃から、バロック調の家具に憧れていた。どこかの宮殿のような、きらびやかで非日常な空間。
「なにか気になるものでも?」
「いえ、可愛い家具屋さんだなと思って」
本当は一目惚れした家具があると言いたかったが、値札を見なくてもわかる。私にはとても買えるものじゃない。
それに、こういう家具は豪華な家があってこそ輝く。私のような普通の部屋には、きっと浮いてしまう。
「すみません。行きましょう」
レオンさんの顔を見ると、なぜかとても嬉しそうだ。普段あまり感情を表に出さない人なので、少し珍しく感じる。
「どうかしましたか?レオンさんも何か気になるものでも?」
「はい。そうですね。でもそれはまたの機会に」
「⋯⋯?そうなんですか?」
レオンは、家具屋に視線を残したまま、静かに言った。
「フルール・ミルダをお願いします」
席につくなり、私はいつもの飲み物を注文した。
このカフェでは、基本的にルージュで提供されると知って以来、いつもフルール・ミルダを頼んでいる。
「では、今日はこの国の文化について、日本語で説明してください。まずは書いてみましょうか」
「わかりました」
ここ数回のレッスンで、彼の日本語はもはや勉強中というレベルを軽く超えていた。
ノートの上を走るペン先は速く、迷いがない。たった数分で彼はページいっぱいの日本語を書いた。
「はやいですね。今から確認します」
私はノートを手に取り、添削を始めた。
(すごい──間違いが、ひとつもない)
すでに彼は基本的な文法や単語はもちろん、複雑な接続助詞などを含め、完全に理解している。
「どうですか?」
「か、完璧です。」
「よかった。ミナさんのおかげですね。あなたのおかげで日本語を勉強するのが楽しくて」
「いえ、普通はこんな短期間でここまで習得できる人なんていませんよ。レオンさんは本当に聡明でいらっしゃるんですね」
正直、すごいを通り越して、恐怖心を感じるくらいだ。
「ミナさん、一つわからないことがあるのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「もちろんです。でも今日はあまり時間がなくて、詳しく説明できないですけどいいですか?」
「何かご予定でも?」
「いえ、予定ってほどじゃないんですけど、実は今日、フリーマーケットのようなものが開かれてるらしく⋯⋯家具や雑貨がたくさん出るって聞いたので、ちょっと見てこようかなって」
実は数日前から、家で使っている机が少しガタついていて、新しいものを買いたいと思っていたのだ。
「それなら、私もご一緒してもよろしいですか?」
「え?レオンさんがいいなら、もちろん大丈夫ですが⋯⋯」
予想もしていなかった返答に、思わず承諾してしまった。そして、なぜか心の中で少し嬉しいと思っている自分がいる。
「ありがとうございます。ミナさんと一緒にデートしたかったんです。では、一緒に行きましょう」
「デートって、か、からかわないでください」
(でも、こんな綺麗な人と一緒に2人きりで出かけるのは緊張するな……)
恥ずかしさを隠すようにテーブルの上にあった残りのフルール・ミルダを飲み干し、レオンさんと会場へ向かった。
会場へ向かって歩き出して間もなく、私はある家具屋が目に入った。
丁寧に磨かれたドア、金の縁取りがされた看板、窓越しに見える艶やかな家具たち。見るからに高級そうだった。
──懐かしい。
ふと、日本にいた頃の自分を思い出す。インテリアデザイナーという、一見華やかそうな肩書きの裏側にあった、目の回るような忙しさとブラックな職場。
だけど、仕事自体は嫌いじゃなかった。やりがいがあったし、どこか誇りもあった。
だから、職業柄、こうして家具を見ると、自然と目を奪われてしまう。
中でも、あるひとつの白いドレッサーに目が留まった。
やわらかな光沢を帯びた引き出し。丸みを帯びた鏡と、緩やかにカーブした脚のライン。
まるで、おとぎ話のお姫様の部屋に置かれていそうな、夢のような一品だった。
——結局こういうのがいちばん好きだ。
日本にいた頃から、バロック調の家具に憧れていた。どこかの宮殿のような、きらびやかで非日常な空間。
「なにか気になるものでも?」
「いえ、可愛い家具屋さんだなと思って」
本当は一目惚れした家具があると言いたかったが、値札を見なくてもわかる。私にはとても買えるものじゃない。
それに、こういう家具は豪華な家があってこそ輝く。私のような普通の部屋には、きっと浮いてしまう。
「すみません。行きましょう」
レオンさんの顔を見ると、なぜかとても嬉しそうだ。普段あまり感情を表に出さない人なので、少し珍しく感じる。
「どうかしましたか?レオンさんも何か気になるものでも?」
「はい。そうですね。でもそれはまたの機会に」
「⋯⋯?そうなんですか?」
レオンは、家具屋に視線を残したまま、静かに言った。
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