転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

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出会い

4話 過保護

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私たちは、ようやくフリーマーケットが開かれているメイン通りまでやってきた。

さまざまな場所で骨董品や古道具、少し古びた家具や食器が並べられている。

レオンさんは、いろんなものに目が奪われている私に歩調を合わせてくれる。

ふと足を止めた先に、陶器をメインに扱っている店を見つけた。

白地に青い花模様が描かれた、小ぶりな皿が目に留まる。

「⋯⋯これ、かわいい」

そう呟いて、手を伸ばしかけた——その時だった。

私と同じように商品を見ていた隣のおじいさんが、うっかり大皿を落としてしまった。

ガシャンッ、と派手な音を立てて砕ける陶器。

破片が辺りに飛び散る。

「あ!大丈夫ですか?」

「わしは大丈夫だが、お皿が——」

私はしゃがみ込み、おじいさんの靴の上に散った砕けた破片を取ろうと、そっと手を伸ばした。

「⋯⋯いたっ」

指先にチクッとした感覚。

小さな破片が皮膚をかすめ、ほんの少しだけ傷がついた。

(あ、ちょっとだけ血が出てる。でもこれくらいなら、すぐ治るか)

そう思った、その瞬間────

「ミナ」

静かに名前を呼ばれ顔を向けると、レオンさんが真横にいた。

「見せてください」

そう言って、私の手を取る。

(び、びっくりした。いまミナって呼んだ⋯⋯?)

「私は大丈夫ですよ。これくらい。それより、あのおじいさんが——」

「いいえ、いけません」

低く、静かに、しかし逃げ場を与えない声。

「私の話を聞いてください」

レオンさんに促され、私は近くの椅子へと座らされた。






「手、見せてください」

また、同じ言葉。

「ほんとに大丈夫ですよ。ほら、血もほとんど出てないし」

「ミナはいつも我慢する。それに、私を頼らない」

彼はつぶやくような小さな声で言った。

「⋯⋯え?」

まるで、私の昔から私を知っているような言い方だった。雰囲気も先ほどと全然違う。

「すぐ終わりますので、じっとしていてください」

そっと私の手を包み込み、レオンさんが目を伏せる。
指先から、あたたかな光が広がった。じんわりと、痛みも違和感も消えていく。

「⋯⋯すごい。レオンさん、回復魔法使えるんですね」

手を見ると、先ほどあった傷は、どこにあったのかわからなくなっていた。

「他に痛いところはありませんか?」

「ないです。ありがとうございます」

「もう今日は帰りましょう」

「え⋯⋯もう帰っちゃうんですか?私は大丈夫です。ほら、レオンさんも治してくれたことだし——」

「いけません。あなたの体に関わることだけは従えません」

「だったら、あのおじいさんが大丈夫かどうかだけでも——」

半ば無理やり手を引かれながら、私は先ほどの場所を振り返る。

(あ⋯⋯)

あのおじいさんが、まだ屋台の前に立っていた。だが、楽しそうに売り主と話をしているように見える。

その足元には——さっき粉々に砕けたはずの大皿が、元通りに並べられていた。

「あれ?あのお皿、割れたはずなのになんで?」

ぽつりと呟くと、レオンさんは心底興味がなさそうに、それを見ることもなく答えた。

「不思議ですね。誰かが直したのでは?」

その言い方は、あまりにもあっさりしていた。

「直したって、こんな一瞬でそんなことできるわけ⋯⋯」

——以前、物を完全に直すのはとても難しいと聞いたことがある。

回復魔法は、足りないものを新しく作るという概念だから、意外と使える人も多いらしい。
たとえば、かすり傷程度なら、皮膚を新しく作るだけなので簡単なのだ。

でも——復元魔法、つまり壊れたものを元通りに戻すのは、まったく別の話。なぜなら、壊れる前の状態まで時間を戻すことになるからだ。

王宮の上級魔道士レベルでないと、完璧にはできないと聞いたことがある。

(あの店主が、同じ柄のお皿をもう一枚持ってたのかな⋯⋯)

「ミナ、行きますよ。明日また一緒に来ましょう」

レオンさんは全く興味がなさそうに私の手を引いて歩いていった。

今日のレオンさんは、どこかいつもと違う気がした。
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