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第1章 出会い
7話 屋敷での新生活
暖かな陽が差し込み、目を覚ます。
「あれ、ここどこ⋯⋯?ああ、そっか。昨日この豪邸に引っ越ししたんだった」
こんな綺麗な部屋だと緊張して眠れないと思ったけど、どうやら熟睡したらしい。
(ちょっと自分の神経の図太さに感心するかも)
これからどうしようか考えていると、扉をノックする音がした。
「ミナ様、失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」
「は、はい。どうぞ」
(すごい。私が起きる時間がわかっていたみたいに、完璧なタイミングだ)
そっと扉が開き、昨日出迎えてくれた若いメイドが現れる。
「おはようございます。ミナ様、私はエラと申します。今後、身の回りのお世話を担当いたします。何かございましたら、いつでもお申し付けください」
「こちらこそ、よろしくお願いします。でも、あの、基本的には自分のことは自分でできるので大丈夫です。あと、呼び方も様じゃなくていいです。すごくありがたいんですけど、こういうのには慣れてないというかなんというか⋯⋯」
「いえ、ミナ様はご当主様の大切な方。私たちにできることは、どうかお手伝いさせてください」
「分かりました⋯⋯何かあった時はお願いします」
「ミナ様はお優しいのですね。ありがとうございます」
「いえ、そんな⋯⋯」
(なんだろう、なんかこういうの慣れないな⋯⋯)
「ミナ様、朝食の準備が整っておりますが、召し上がりますか?」
(自分で朝ごはん作らなくてもいいって、お高いホテルに泊まってるみたいだし⋯⋯)
「ありがとうございます。いただきます」
なんだかありがたい気持ちよりも、申し訳なさが胸にのしかかった。
案内された食堂は、昨日来た時よりもさらに広く感じられた。
「そういえば、レオンさんはどこに?」
そばにいたエラに尋ねる。
「ご当主様は、お仕事に行かれました。本日は好きにお過ごしください。とのことでございます」
「好きにですか⋯⋯わかりました」
ひとりで食べるには、ありえないほどの席数とスケール。けれど卓上には、滅多に口にできない豪華な朝食が並んでいた。
(ファンタジー映画みたい⋯⋯)
金色に焼かれたクロワッサン。蒸した森イチゴに蜂蜜を垂らしたヨーグルト。とろりとしたスクランブルエッグ。澄んだコンソメ。そして、私の大好きなフルール・ミルダ。
「すごい、おいしそう⋯⋯いただきます!」
まずクロワッサンを一口。
外側は薄い層が小さく砕け、さくりと歯に触れる。内側は湯気を含んだやわらかさで、噛むほどにバターがじゅわりと染み出す。口中が温度と香りで満ち、思わず頬がゆるんだ。
「これ⋯⋯すごくサクサクで、美味しいです」
「あ、ありがとうございます⋯⋯!!」
控えていたシェフが胸を撫で下ろし、ほっとした表情を見せる。
(なんかめっちゃ喜んでくれた。こんなに喜んでくれるなら、どんどん美味しいって伝えていこう)
(あ⋯⋯)
ふと、スクランブルエッグの皿の前で手が止まった。
(どうしよう⋯⋯)
卵料理は大好物だ。けれど、この国ではスクランブルエッグに香草を混ぜるのが習わしらしい。私はそのハーブが少し苦手なのだ。食べられないわけではないが、得意とも言えない。
(でも、せっかく作っていただいたんだし)
思い切って口に運ぶ。
(あれ?)
「⋯⋯?これおいしいです⋯⋯!でも、これハーブが入ってない⋯⋯?アストリアでは基本、香草が入ってますよね?」
「左様でございます。しかし、ご当主様からの指示がございましたので」
「そうだったんですね」
(レオンさんもハーブが苦手なのかな⋯⋯?)
食後は、自分の部屋に戻った。
(好きに過ごしていい、か。図書院は引っ越しがあったから今週末まで休みにしたし、特に予定もないんだよね。何しよう)
天蓋を見上げて転がっていると、ふと思いつく。
(そうだ、中庭でお花を見ながら紅茶でも飲もう)
昨日、中庭に桜のような花が咲いているのを見かけて、何の花か確かめてみたいと思っていたのだ。
(それならまず、お気に入りの茶葉も買い足しに行かなきゃ)
早速、身支度を整え、廊下へ。広すぎて迷いそうだ。角を曲がると衛兵が二人、直立の姿勢で立っていた。
「ミナ様、おはようございます。外出なさるのですか?」
「はい。少し買い物に。エラさんにも伝えていただけますか?探したのですが見当たらなくて」
衛兵たちは一瞬驚いた顔で目配せする。
「しょ、少々お待ちください。あちらの椅子でお掛けいただいて──」
「⋯⋯?はい、わかりました」
ほどなくエラが小走りで現れた。
「お買い物に行かれるのですね。お申し付けいただければ、私どもが参ります」
「いえ、自分で行けるので大丈夫です。それに、いろいろこの辺りも散策したくて」
エラは困ったように眉を寄せ、許可してよいのか迷う気配を隠さない。
「しかし⋯⋯女性お一人で外出は危険でございます」
「中心街から外れませんし、私は第五地区に住んでいたので多少は慣れてます。それに、夕方には戻りますし」
私はかなり治安が悪いとされる第五地区に、家賃の都合で住んでいたのだ。
そして、私の意思が固いと知ると、エラは渋々うなずいた。
「承知いたしました。必ず夕刻までにお戻りください。ご当主様も心配なさいますので」
「わかりました。では、行ってきます」
レオンさんの客人ってだけで、ここまで心配されるなんて思わなかった。
なんだか、私がここにいることで、ここで働く人たちの仕事を増やしている気がする。早くこの家を出るために、帰りに不動産屋さんに寄って、本格的に家探しを始めよう。
「あれ、ここどこ⋯⋯?ああ、そっか。昨日この豪邸に引っ越ししたんだった」
こんな綺麗な部屋だと緊張して眠れないと思ったけど、どうやら熟睡したらしい。
(ちょっと自分の神経の図太さに感心するかも)
これからどうしようか考えていると、扉をノックする音がした。
「ミナ様、失礼いたします。入ってもよろしいでしょうか?」
「は、はい。どうぞ」
(すごい。私が起きる時間がわかっていたみたいに、完璧なタイミングだ)
そっと扉が開き、昨日出迎えてくれた若いメイドが現れる。
「おはようございます。ミナ様、私はエラと申します。今後、身の回りのお世話を担当いたします。何かございましたら、いつでもお申し付けください」
「こちらこそ、よろしくお願いします。でも、あの、基本的には自分のことは自分でできるので大丈夫です。あと、呼び方も様じゃなくていいです。すごくありがたいんですけど、こういうのには慣れてないというかなんというか⋯⋯」
「いえ、ミナ様はご当主様の大切な方。私たちにできることは、どうかお手伝いさせてください」
「分かりました⋯⋯何かあった時はお願いします」
「ミナ様はお優しいのですね。ありがとうございます」
「いえ、そんな⋯⋯」
(なんだろう、なんかこういうの慣れないな⋯⋯)
「ミナ様、朝食の準備が整っておりますが、召し上がりますか?」
(自分で朝ごはん作らなくてもいいって、お高いホテルに泊まってるみたいだし⋯⋯)
「ありがとうございます。いただきます」
なんだかありがたい気持ちよりも、申し訳なさが胸にのしかかった。
案内された食堂は、昨日来た時よりもさらに広く感じられた。
「そういえば、レオンさんはどこに?」
そばにいたエラに尋ねる。
「ご当主様は、お仕事に行かれました。本日は好きにお過ごしください。とのことでございます」
「好きにですか⋯⋯わかりました」
ひとりで食べるには、ありえないほどの席数とスケール。けれど卓上には、滅多に口にできない豪華な朝食が並んでいた。
(ファンタジー映画みたい⋯⋯)
金色に焼かれたクロワッサン。蒸した森イチゴに蜂蜜を垂らしたヨーグルト。とろりとしたスクランブルエッグ。澄んだコンソメ。そして、私の大好きなフルール・ミルダ。
「すごい、おいしそう⋯⋯いただきます!」
まずクロワッサンを一口。
外側は薄い層が小さく砕け、さくりと歯に触れる。内側は湯気を含んだやわらかさで、噛むほどにバターがじゅわりと染み出す。口中が温度と香りで満ち、思わず頬がゆるんだ。
「これ⋯⋯すごくサクサクで、美味しいです」
「あ、ありがとうございます⋯⋯!!」
控えていたシェフが胸を撫で下ろし、ほっとした表情を見せる。
(なんかめっちゃ喜んでくれた。こんなに喜んでくれるなら、どんどん美味しいって伝えていこう)
(あ⋯⋯)
ふと、スクランブルエッグの皿の前で手が止まった。
(どうしよう⋯⋯)
卵料理は大好物だ。けれど、この国ではスクランブルエッグに香草を混ぜるのが習わしらしい。私はそのハーブが少し苦手なのだ。食べられないわけではないが、得意とも言えない。
(でも、せっかく作っていただいたんだし)
思い切って口に運ぶ。
(あれ?)
「⋯⋯?これおいしいです⋯⋯!でも、これハーブが入ってない⋯⋯?アストリアでは基本、香草が入ってますよね?」
「左様でございます。しかし、ご当主様からの指示がございましたので」
「そうだったんですね」
(レオンさんもハーブが苦手なのかな⋯⋯?)
食後は、自分の部屋に戻った。
(好きに過ごしていい、か。図書院は引っ越しがあったから今週末まで休みにしたし、特に予定もないんだよね。何しよう)
天蓋を見上げて転がっていると、ふと思いつく。
(そうだ、中庭でお花を見ながら紅茶でも飲もう)
昨日、中庭に桜のような花が咲いているのを見かけて、何の花か確かめてみたいと思っていたのだ。
(それならまず、お気に入りの茶葉も買い足しに行かなきゃ)
早速、身支度を整え、廊下へ。広すぎて迷いそうだ。角を曲がると衛兵が二人、直立の姿勢で立っていた。
「ミナ様、おはようございます。外出なさるのですか?」
「はい。少し買い物に。エラさんにも伝えていただけますか?探したのですが見当たらなくて」
衛兵たちは一瞬驚いた顔で目配せする。
「しょ、少々お待ちください。あちらの椅子でお掛けいただいて──」
「⋯⋯?はい、わかりました」
ほどなくエラが小走りで現れた。
「お買い物に行かれるのですね。お申し付けいただければ、私どもが参ります」
「いえ、自分で行けるので大丈夫です。それに、いろいろこの辺りも散策したくて」
エラは困ったように眉を寄せ、許可してよいのか迷う気配を隠さない。
「しかし⋯⋯女性お一人で外出は危険でございます」
「中心街から外れませんし、私は第五地区に住んでいたので多少は慣れてます。それに、夕方には戻りますし」
私はかなり治安が悪いとされる第五地区に、家賃の都合で住んでいたのだ。
そして、私の意思が固いと知ると、エラは渋々うなずいた。
「承知いたしました。必ず夕刻までにお戻りください。ご当主様も心配なさいますので」
「わかりました。では、行ってきます」
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