転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

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第2章 魔法学校編

11話 受験勉強

次の日から、本格的な勉強が始まった。
机の上には分厚い参考書とノートが山のように積まれ、見ているだけで気が遠くなりそうだ。

「ここは暗記ではなく、理屈を理解することが大切です。これを理解しない限り、魔力操作の練習には進めません」

レオンさんは落ち着いた声で、一つひとつを丁寧に解説してくれる。
私は必死にノートを取り、時々質問を挟みながら食らいついた。
最初は文字を追うだけで頭が痛くなったけれど、繰り返すうちに少しずつ仕組みが見えてくる。

私があまりにも初歩的な質問をしても、彼は嫌な顔ひとつせず、丁寧に答えてくれた。

「ミナはすごいです。天才ですね」

ほんの小さな問題が解けただけでも、まるで歴史に残る難題を解いたような反応をしてくれる。
私は褒められて伸びるタイプだから、俄然やる気が出た。




そんな日々が続いたある昼休み、カリナとお茶をしていた。

勉強の話をするのは少し照れくさかったけれど、思い切って口にした。

「カリナ、実は私⋯⋯王立大学を受験することにしたんだ」

カリナは目を丸くして、ストローを止める。

「えっ!?なにそれ、すごいじゃん!でもどういうこと?推薦してくれる人を見つけたってこと?」

「うん。今、家に住まわせてもらってる人に」

「え?!その人何者!?ミナ一人暮らしじゃなかったっけ?」

「実は、次の家が見つかるまで住まわせてもらっている人がいるの。その方が王立大学の卒業生らしくて、それで推薦してくれることになった」

「強運すぎない?でも、そういう縁も運のうちだし、ありがたくお世話になればいいと思う⋯⋯けど!なんか順調すぎて怖くもあるのが正直なところ」

「そうだよね。私も同じ気持ち。まあ、まだ受かるかも分かんないんだけど、とにかく頑張ってみようと思って。昨日も勉強してたけど、筆記は結構難しそうだった」

「ごめん!そんな後ろ向きな気持ちにさせたくてそう言ったんじゃないの!ミナなら絶対大丈夫!絶対に大学卒業して、いいところに就職して、それでなんか奢ってよね!」

「なにそれ」

カリナは楽しそうに笑った。








数日後の夜。

「では今日からは、魔力操作の練習を始めましょう」

レオンさんの声に、自然と背筋が伸びる。   

「まず、魔法は何よりも理解が土台にあります。それについてはここ数日で学びましたね。入学試験に実技はありませんが、魔力操作は魔法を扱う上での基礎の基礎です。練習が早すぎることなんてありません」

「はい!」

「魔法は六つの属性に分かれています。火、水、風、土、光、闇。これが基本です。これはもうご存じですね?」

「もちろんです」

「属性の適性は生まれつき決まっている部分が多いですが、それがすべてではありません。魔力の流れを理解すれば、複数の属性を扱うことも可能です」

「はい!」

「魔法の習得は段階的に進みます。まず、初級魔法とは、単一の属性を安定して発現させる段階を指します。
中級魔法とは、発現させた属性の強度や形状、持続時間などを意図的に制御できる段階を指します。
たとえば火を出すだけなら初級魔法に分類されますが、温度を調整したり、一定の形を保たせたりするのは中級魔法にあたります」

「では、上級魔法と呼ばれるものはどんなものなんでしょうか?」

「上級魔法は、複数の属性を同時に組み合わせ、自分自身で魔術式を構築する魔法を指します。今はまだ難しいでしょう」

「頑張って練習を続ければ、私でも扱えるようになりますか?」

「もちろん理論と修練を積めば習得できます。それにミナは、平均よりも魔力量が多いですから、可能性は大いにあります」

彼の言う通り、魔力測定では平均よりやや上の値だった。異世界転移したのだから、チート級の魔力保有量を期待していたが、まあ平均以上なのでよしとする。

「レオンさんは、上級魔法を使えるんですか?」

「はい」

「使えるようになるまで、どのくらいかかりましたか?」

「私はあまり練習をしたことがないので、参考にならないと思います。申し訳ございません」

「練習したことが、ない⋯⋯?」

(やっぱり、世の中には天才がいるんだな⋯⋯)

「では、まずは魔力操作からです。魔法とは、魔力を属性へと変換し、現象として発現させる技術です。魔力を正確に操作できなければ、変換も安定しません。属性に関わらず、すべての魔法は魔力操作なくしては成り立ちませんから」

「はい!頑張ります!」





しかし、現実は甘くなかった。
数日経っても進歩はほとんどなく、焦りばかりが募っていった。

レオンさんは叱らず、優しく何度も教えてくれたが、それがかえって苦しかった。

「魔力を感じるだけでは不十分です。魔力を自分の身体の一部だと思い、操作してください」

「⋯⋯はい」

意識を集中させようとしても、魔力はすぐに霧のように散っていく。どうしても掴めない。

(何がダメなんだろう⋯⋯)




夜になっても机に向かって、魔法書を開いては同じ行を何度も読み返した。

だが、何も進歩しない。

「やっぱり、大人になってから習得するのって無理があるのかな」

ため息をつき、机に額を預ける。

(やばい、最近ずっと勉強しっぱなしだったから眠気が⋯⋯)

やがて、私は静かな眠りに落ちていった。





──見慣れた書斎。

机の向こうで、男の人が分厚いノートをめくっていた。

「魔力を操作するって、頭では分かってるのに、どうしたらいいか分かんない」

「では、魔力は正確な値で扱うものだと考えてみてください」

「値⋯⋯?」

「このくらいでは駄目です。意識の中で、明確に比率を決めるのです。まず、自分の最大魔力量を理解する。そして、そのうちの何割を使うかを決める。
七対三、六対四など、その意識を繰り返せば、できるようになります」

「それは分かってるんだけど、いまいちできなくて」

「肩の力を抜いてください」

男が手を伸ばし、私の手をそっと取る。

「そのまま、もう一度」

深く息を吸い、意識を集中させる。

「七割を右手に、三割を残す⋯⋯」

不思議と、今度は胸の奥に何かが通る感覚があった。

「そうです。あとは無意識にできるまで、繰り返すだけです」

机に置かれた男の人の手が、ほんのりと温かかった。









目を覚ますと、まだ夜明け前だった。

「⋯⋯あれ、夢⋯⋯だよね。あの男の人、だれ⋯⋯?なんであんなに親しげだったんだろう」

声が静かな空気に溶ける。夢なのに、やけに現実感があった。それに、さっきの感覚がまだ指先に残っている。

「今なら⋯⋯できる気がする」

私は花瓶にそっと意識を向けた。

次の瞬間、花瓶がわずかに揺れ、机の端へと滑った。

「え⋯⋯?いま、動いた?」

布団の端を握る手が、かすかに震えた。









翌朝。

「では、昨日と同じく魔力操作の練習を始めましょう」

レオンさんの声が響く。

「⋯⋯はい!」

胸の奥に、昨日までとは違う確かな感覚があった。

全体の魔力のうち、七割を右手に、三割を残す。夢の中で教わった比率をそのまま意識する。

「その調子です。意識を一点に集中してください」

深く息を吸い、魔力を操作する。

「で、できた⋯⋯!」

驚くほど自然に、流れが指先へと集まった。

今までは散っていた魔力が、はっきりと掌に収まる。

「そのまま保ってください」

レオンさんの声に従い、何秒も集中を続けた。
胸の奥に、緊張と自信が入り混じる。

「解除していいですよ」

「は、はい!」

魔力を解放すると同時に、体の力が抜けた。

レオンさんは静かに微笑む。

「見事です。何か、掴めたようですね?」

「ようやくですが⋯⋯。これも、レオンさんのおかげです。ありがとうございます」

夢のことは言えなかったが、レオンさんは追及せずに頷いた。

「素晴らしい進歩です。この状態なら、初級魔法の練習を始めても問題ないでしょう」

「本当ですか!?」

(ようやく魔法らしい魔法が使えるようになるかもしれない!)

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