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第2章 魔法学校編
18話 嵐の幕開け
屋敷に荷物を取りに戻ってから、セシルと待ち合わせていたカフェへ向かった。
「ミナちゃん、こっち!」
「ごめんごめん。準備してたら思ったより時間がかかっちゃって」
「全然大丈夫だけど、その荷物どうしたの?」
「いろいろあって、今日は宿に泊まることになったの」
「言ってくれば、うちに泊まってくれてよかったのに」
「ありがとう。でも今日は大丈夫。また今度お願い」
「もちろん──あ、そろそろ行かないと本当に遅刻しちゃうかも」
セシルに腕を引かれ、私はカフェを後にした。石畳を小走りで抜け、校門をくぐるころには息が少し上がっている。
演習場へ近づくにつれて、人の声が大きくなる。視線の先には、いつもより多い人だかり。
気づけば、大学の広い演習場の端に立っていた。
中央には、見慣れない制服の人たち。
黒い軍服に銀の徽章。胸元には剣と翼の紋章。第三騎士団の象徴だ。
(第三騎士団だ⋯⋯たしか国王直属の精鋭部隊だったはず。レオンさんの護衛として選ばれたのかな⋯⋯って、なに冷静に分析してるんだろう)
先生が壇上に上がり、軽く咳払いをした。
「では皆さん、お静かに。お招きした方が到着されました」
その一言で、場内の空気が一気に張りつめる。
(早く帰りたい⋯⋯)
私は咄嗟に下を向いた。
「こんにちは。アストリア王国、第二王子アレクシオ・ヴァルティエルです。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして、お招きありがとうございます」
(あれ⋯⋯この声は⋯⋯)
どこかで聞いたことのある声に視線を向けると、照明を受けて銀髪を輝かせる穏やかな青年が立っていた。
(この人、この前、レストランでいきなり乱入してきた人だ⋯⋯!)
次の瞬間、彼の視線が私をとらえた。一拍の静寂のあと、ぱっと表情が明るくなる。
「あ!ミナ様だ!ミナ様~!」
――会場が凍った。
「殿下。お立場をお忘れなきよう」
隣にいた騎士団長が、笑顔のまま低く注意する。
「あ、ごめんごめん。義姉様に会えたのが嬉しくて」
爆発するようなどよめきが走る。
「今、ミナ様って言った?」
「彼女、第二王子とどういう関係なの?」
(どうしよう⋯⋯悪い意味でかなり注目を浴びてる⋯⋯)
「セシル、ディラン。ちょっと」
私はセシルと隣のディランの腕を引っ張って、その場を離れた。
遠くでまだざわめきが聞こえる。
「ミナちゃん、一体どういうこと?」
「えっと、それは⋯⋯」
セシルが眉を寄せる。
「ミナちゃんが大丈夫なら、説明してもらえるかな?」
「それが私もよく分からないの⋯⋯」
「どういうこと?」
「あの、先に私から質問させてほしい。後でセシルのも答えるから」
「わかった」
上がった息を落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸してから口を開く。
「この国の総団長って、レオン・ヴァルティエルで合ってる?」
「様はつけた方がいいよ。でも、合ってる」
「で、さっきの男の人はアレクシオ・ヴァルティエル?」
「アレクシオ『様』ね。そう、この国の第二王子」
「それで、二人は同じ名字だけどなんでなの?」
「それはご兄弟だからだよ」
「⋯⋯兄弟?」
セシルは軽く息をついて、説明を続けた。
「レオン様はもともと第一王子だったの。でも、なぜか一年前に王位継承権を放棄して、母方の公爵家を継がれた。だから今は公爵家の当主。それで、現在は弟のアレク様が第一継承者なの」
「まって⋯⋯レオンさんって王子だったの?」
「そうだよ。ヴァルティエル家は数世代前に枝分かれした本家と分家からできてるの。姓は同じでも、王家が本家、公爵家が分家。だから、今の現国王は分家出身の王妃と結婚なさったってこと」
(なんだそれは⋯⋯)
「セシルとディランは知ってたの?第二王子が来るってこと」
「うん、もちろん」
「あぁ」
二人は当然のように頷く。
「なんで?先生はただヴァルティエル家の人が来るって言っただけだよね⋯⋯」
ディランが面倒くさそうに口を開く。
「基本的にアストリア人は、ヴァルティエル家=王族っていう認識だからだ。それに、現国王と王妃の子は二人しかいない。レオン様が公爵家を継いだ今、本家から誰かを推薦できる人なんてアレクシオ様しかいねぇからな」
「えぇ⋯⋯なにそれ」
セシルが腕を組んだ。
「じゃあ次は私の番。ミナちゃん、さっき王子からミナ様って呼ばれてたけど、どういう関係なの?」
「いや、実は本当に何の関係もないの」
「何も関係ないなら、なんで王子がミナちゃんのことを知ってるの?」
「えっと⋯⋯それは⋯⋯私がレオンさんの家に──」
「レオン様の家に?」
「居候してるから?」
「え?」
「は?」
「いや、その、説明すると長いんだけど──」
私は、これまでの経緯をセシルたちに話した。
「──という感じ、です。ご理解いただけましたでしょうか」
「いや、全然わかんない」
「だよね……私も分かってないんだけど、ごめん。ちょっと体調が悪くて。今日はもう帰らせて」
「ちょ、ちょっと、ミナちゃん──」
「おい、ミナ──」
そう言って、私は早々とその場を離れた。
王都の大通りに出たところで、私は深呼吸した。
喧騒の向こうに、見慣れた石畳が続いている。
「⋯⋯少し歩こう。頭を整理しなきゃ」
気づけば、足は自然と第五地区へ向かっていた。
かつて住んでいた古い下宿街。懐かしいパンの香りと、子どもたちの笑い声が風に混じる。
歩きながら、考える。
ファシリア様を推薦したのは、アレク様。レオンさんじゃない。つまり、ファシリア様の婚約者はアレク様で、私はただ勘違いをしていたということだ。
(やっぱり、私って馬鹿だな)
思わず小さく笑ってしまう。
(でも、ちゃんと状況を整理するきっかけにはなったし、結果的によかったのかもしれない。もしこの事件がなかったら、あのままきっとレオンさんに甘え続けていた)
私は、彼のことを好きだと気づいた。
でも、ヴァルティエルの家柄を考えると、私なんかが釣り合う相手じゃない。
あの屋敷を出るという決断をし、新しい家を契約したのは正解だ。
ただの勘違いだったとしても、レオンさんへの気持ちを自覚してしまった今、もうどんな顔をして会えばいいのか分からない。
そのため、今日は予定どおり、宿に泊まることにした。
時計を見ると、まだチェックインするまで時間があった。
(ゆっくり歩いて行こう)
しばらく馴染みの道を歩いていると──
「あら、ミナちゃんじゃないか!」
懐かしい声が聞こえた。顔を上げると、かつての大家さんが手を振っている。
「あっ、大家さん!お久しぶりです!」
「引越しの件はすまんかったなあ。元気にしとるかい?」
「はい。おかげさまで」
「それはよかった。あ、そうそう、ミナちゃんの部屋に忘れ物があったんじゃ。ちょっと一緒に家まで来てくれんか」
「忘れものですか⋯⋯?分かりました」
心当たりはなかったが、言われるままに家へ向かうと、大家さんは一冊のノートを取り出した。
「あったあった、これじゃ」
「これ、私のじゃないですね」
少し焼けたように色褪せている革張りのノート。
「そうなのかい?でも、確かにミナちゃんの部屋から出てきたんじゃ。あれ?もしかしたらワシのもんだったのかの?まぁ、中は真っ白だったし、よかったら持ってって」
「え?いいんですか?ありがとうございます」
ノートを受け取り、軽くお辞儀をして外に出た。
陽の落ちかけた空の下、手にしたノートを見つめる。
(ノートか。学生だからありがたいや)
少し歩くと、見覚えのあるカフェが目に入った。
昔、レオンさんに日本語を教えていた頃によく通っていたカフェだ。
ここは別の支店だが、店構えも雰囲気も変わらない。
まだチェックインまで少し時間があるため、カフェで時間を潰すことにした。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「フルール・ミルダをお願いします」
「かしこまりました」
数分後、店員がフルール・ミルダを運んできた。
「あれ⋯⋯これルージュだ⋯⋯」
(二区にあるところはセレだったのに)
「当カフェは、ルージュが基本提供スタイルでございます。ご希望があればセレに変更も可能ですが、追加料金をいただきます」
「そ、そうなんですね⋯⋯わかりました。ありがとうございます」
(この店舗だけ基本の提供スタイルがルージュなのかな。まあ美味しいのは変わらないし、いいか)
そんな違和感を抱えたまま、フルール・ミルダをひと口。
そしてバッグから、さっきのノートを取り出した。
(今日は本当にいろいろありすぎた⋯⋯それに本当にこのノートもらってよかったのかな⋯⋯)
適当に数枚ページをめくり、中身を確認する。
最初の数ページは確かに真っ白。
けれど、中央あたりをめくった瞬間──右下の余白に、黒いインクで文字が浮かんでいた。
『ユリ・クサナギを調べろ』
(⋯⋯ え?これは──)
目を瞬かせる。この世界の文字じゃない。
──日本語だ。
ページをめくっても、それ以外には何も書かれていない。まるで、その一文だけが、誰かの意志のように残されていた。
「ユリ・クサナギ⋯⋯ ?」
声に出した瞬間、背筋を冷たい風が通り抜けた。
この名前、聞いたことがある。たしか、歴史の授業で──
ベリーの香りが、急に遠く感じる。
(これ誰が書いたの?それに、ユリ・クサナギを調べろってどういう意味⋯⋯?)
胸の奥がざわつく。
ノートを閉じると、外の街の鐘が、まるで何かの始まりを告げるように鳴り響いた。
「ミナちゃん、こっち!」
「ごめんごめん。準備してたら思ったより時間がかかっちゃって」
「全然大丈夫だけど、その荷物どうしたの?」
「いろいろあって、今日は宿に泊まることになったの」
「言ってくれば、うちに泊まってくれてよかったのに」
「ありがとう。でも今日は大丈夫。また今度お願い」
「もちろん──あ、そろそろ行かないと本当に遅刻しちゃうかも」
セシルに腕を引かれ、私はカフェを後にした。石畳を小走りで抜け、校門をくぐるころには息が少し上がっている。
演習場へ近づくにつれて、人の声が大きくなる。視線の先には、いつもより多い人だかり。
気づけば、大学の広い演習場の端に立っていた。
中央には、見慣れない制服の人たち。
黒い軍服に銀の徽章。胸元には剣と翼の紋章。第三騎士団の象徴だ。
(第三騎士団だ⋯⋯たしか国王直属の精鋭部隊だったはず。レオンさんの護衛として選ばれたのかな⋯⋯って、なに冷静に分析してるんだろう)
先生が壇上に上がり、軽く咳払いをした。
「では皆さん、お静かに。お招きした方が到着されました」
その一言で、場内の空気が一気に張りつめる。
(早く帰りたい⋯⋯)
私は咄嗟に下を向いた。
「こんにちは。アストリア王国、第二王子アレクシオ・ヴァルティエルです。新入生の皆さん、入学おめでとうございます。そして、お招きありがとうございます」
(あれ⋯⋯この声は⋯⋯)
どこかで聞いたことのある声に視線を向けると、照明を受けて銀髪を輝かせる穏やかな青年が立っていた。
(この人、この前、レストランでいきなり乱入してきた人だ⋯⋯!)
次の瞬間、彼の視線が私をとらえた。一拍の静寂のあと、ぱっと表情が明るくなる。
「あ!ミナ様だ!ミナ様~!」
――会場が凍った。
「殿下。お立場をお忘れなきよう」
隣にいた騎士団長が、笑顔のまま低く注意する。
「あ、ごめんごめん。義姉様に会えたのが嬉しくて」
爆発するようなどよめきが走る。
「今、ミナ様って言った?」
「彼女、第二王子とどういう関係なの?」
(どうしよう⋯⋯悪い意味でかなり注目を浴びてる⋯⋯)
「セシル、ディラン。ちょっと」
私はセシルと隣のディランの腕を引っ張って、その場を離れた。
遠くでまだざわめきが聞こえる。
「ミナちゃん、一体どういうこと?」
「えっと、それは⋯⋯」
セシルが眉を寄せる。
「ミナちゃんが大丈夫なら、説明してもらえるかな?」
「それが私もよく分からないの⋯⋯」
「どういうこと?」
「あの、先に私から質問させてほしい。後でセシルのも答えるから」
「わかった」
上がった息を落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸してから口を開く。
「この国の総団長って、レオン・ヴァルティエルで合ってる?」
「様はつけた方がいいよ。でも、合ってる」
「で、さっきの男の人はアレクシオ・ヴァルティエル?」
「アレクシオ『様』ね。そう、この国の第二王子」
「それで、二人は同じ名字だけどなんでなの?」
「それはご兄弟だからだよ」
「⋯⋯兄弟?」
セシルは軽く息をついて、説明を続けた。
「レオン様はもともと第一王子だったの。でも、なぜか一年前に王位継承権を放棄して、母方の公爵家を継がれた。だから今は公爵家の当主。それで、現在は弟のアレク様が第一継承者なの」
「まって⋯⋯レオンさんって王子だったの?」
「そうだよ。ヴァルティエル家は数世代前に枝分かれした本家と分家からできてるの。姓は同じでも、王家が本家、公爵家が分家。だから、今の現国王は分家出身の王妃と結婚なさったってこと」
(なんだそれは⋯⋯)
「セシルとディランは知ってたの?第二王子が来るってこと」
「うん、もちろん」
「あぁ」
二人は当然のように頷く。
「なんで?先生はただヴァルティエル家の人が来るって言っただけだよね⋯⋯」
ディランが面倒くさそうに口を開く。
「基本的にアストリア人は、ヴァルティエル家=王族っていう認識だからだ。それに、現国王と王妃の子は二人しかいない。レオン様が公爵家を継いだ今、本家から誰かを推薦できる人なんてアレクシオ様しかいねぇからな」
「えぇ⋯⋯なにそれ」
セシルが腕を組んだ。
「じゃあ次は私の番。ミナちゃん、さっき王子からミナ様って呼ばれてたけど、どういう関係なの?」
「いや、実は本当に何の関係もないの」
「何も関係ないなら、なんで王子がミナちゃんのことを知ってるの?」
「えっと⋯⋯それは⋯⋯私がレオンさんの家に──」
「レオン様の家に?」
「居候してるから?」
「え?」
「は?」
「いや、その、説明すると長いんだけど──」
私は、これまでの経緯をセシルたちに話した。
「──という感じ、です。ご理解いただけましたでしょうか」
「いや、全然わかんない」
「だよね……私も分かってないんだけど、ごめん。ちょっと体調が悪くて。今日はもう帰らせて」
「ちょ、ちょっと、ミナちゃん──」
「おい、ミナ──」
そう言って、私は早々とその場を離れた。
王都の大通りに出たところで、私は深呼吸した。
喧騒の向こうに、見慣れた石畳が続いている。
「⋯⋯少し歩こう。頭を整理しなきゃ」
気づけば、足は自然と第五地区へ向かっていた。
かつて住んでいた古い下宿街。懐かしいパンの香りと、子どもたちの笑い声が風に混じる。
歩きながら、考える。
ファシリア様を推薦したのは、アレク様。レオンさんじゃない。つまり、ファシリア様の婚約者はアレク様で、私はただ勘違いをしていたということだ。
(やっぱり、私って馬鹿だな)
思わず小さく笑ってしまう。
(でも、ちゃんと状況を整理するきっかけにはなったし、結果的によかったのかもしれない。もしこの事件がなかったら、あのままきっとレオンさんに甘え続けていた)
私は、彼のことを好きだと気づいた。
でも、ヴァルティエルの家柄を考えると、私なんかが釣り合う相手じゃない。
あの屋敷を出るという決断をし、新しい家を契約したのは正解だ。
ただの勘違いだったとしても、レオンさんへの気持ちを自覚してしまった今、もうどんな顔をして会えばいいのか分からない。
そのため、今日は予定どおり、宿に泊まることにした。
時計を見ると、まだチェックインするまで時間があった。
(ゆっくり歩いて行こう)
しばらく馴染みの道を歩いていると──
「あら、ミナちゃんじゃないか!」
懐かしい声が聞こえた。顔を上げると、かつての大家さんが手を振っている。
「あっ、大家さん!お久しぶりです!」
「引越しの件はすまんかったなあ。元気にしとるかい?」
「はい。おかげさまで」
「それはよかった。あ、そうそう、ミナちゃんの部屋に忘れ物があったんじゃ。ちょっと一緒に家まで来てくれんか」
「忘れものですか⋯⋯?分かりました」
心当たりはなかったが、言われるままに家へ向かうと、大家さんは一冊のノートを取り出した。
「あったあった、これじゃ」
「これ、私のじゃないですね」
少し焼けたように色褪せている革張りのノート。
「そうなのかい?でも、確かにミナちゃんの部屋から出てきたんじゃ。あれ?もしかしたらワシのもんだったのかの?まぁ、中は真っ白だったし、よかったら持ってって」
「え?いいんですか?ありがとうございます」
ノートを受け取り、軽くお辞儀をして外に出た。
陽の落ちかけた空の下、手にしたノートを見つめる。
(ノートか。学生だからありがたいや)
少し歩くと、見覚えのあるカフェが目に入った。
昔、レオンさんに日本語を教えていた頃によく通っていたカフェだ。
ここは別の支店だが、店構えも雰囲気も変わらない。
まだチェックインまで少し時間があるため、カフェで時間を潰すことにした。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「フルール・ミルダをお願いします」
「かしこまりました」
数分後、店員がフルール・ミルダを運んできた。
「あれ⋯⋯これルージュだ⋯⋯」
(二区にあるところはセレだったのに)
「当カフェは、ルージュが基本提供スタイルでございます。ご希望があればセレに変更も可能ですが、追加料金をいただきます」
「そ、そうなんですね⋯⋯わかりました。ありがとうございます」
(この店舗だけ基本の提供スタイルがルージュなのかな。まあ美味しいのは変わらないし、いいか)
そんな違和感を抱えたまま、フルール・ミルダをひと口。
そしてバッグから、さっきのノートを取り出した。
(今日は本当にいろいろありすぎた⋯⋯それに本当にこのノートもらってよかったのかな⋯⋯)
適当に数枚ページをめくり、中身を確認する。
最初の数ページは確かに真っ白。
けれど、中央あたりをめくった瞬間──右下の余白に、黒いインクで文字が浮かんでいた。
『ユリ・クサナギを調べろ』
(⋯⋯ え?これは──)
目を瞬かせる。この世界の文字じゃない。
──日本語だ。
ページをめくっても、それ以外には何も書かれていない。まるで、その一文だけが、誰かの意志のように残されていた。
「ユリ・クサナギ⋯⋯ ?」
声に出した瞬間、背筋を冷たい風が通り抜けた。
この名前、聞いたことがある。たしか、歴史の授業で──
ベリーの香りが、急に遠く感じる。
(これ誰が書いたの?それに、ユリ・クサナギを調べろってどういう意味⋯⋯?)
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