転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

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第4章 名前のない関係

37話 お願い

騎士団が残党を制圧していく音がする。足音、金属の擦れる音。

けれどレオンは、そんなものに一切興味がないかのように、私だけを見ていた。

「帰りましょう。ここは不快です」

「……レオンさん、待ってください」

レオンの眉がほんのわずかに動く。

「どうかしましたか」

「セシルとディラン……私の友達が、まだ捕まってるかもしれないんです。私が閉じ込められてた場所にはいなかったんですけど……」

レオンは心底どうでも良さそうな顔をしたまま、返事をしなかった。

(本当は自分で助けに行きたい。けど今の私じゃ、不可能だ。弱すぎる)

だから、私は悔しさを飲み込んで、目の前の人に縋るしかなかった。

「ミナ」

静かな声が落ちてくる。

「彼らを助けてほしいですか」

「……はい。お願いします。私では無理なんです……」

一歩、レオンに近づいて、見上げた。レオンは私を見下ろし、沈黙する。

「……ミナ」

「はい」

「彼らを助けたら、私のことを好きになりますか」

「え?」

頭の中が真っ白になった。

「……す、好きにですか……?」

レオンは表情を変えない。冗談を言っている顔じゃない。本気で言ってる。

私は必死に言葉を選んだ。

「その……好きになるかどうかは、分からないです」

レオンの目が細くなる。

「ただ」

私は続けた。

「助けてくれたら、感謝します……心の底から、ありがとうと伝えます。今の私にはそれしかできません」

「……感謝」

レオンは、その言葉を噛むように繰り返した。

(気に入らなかったかな。今の答え……)

でも次の瞬間、レオンは私の頬に触れた。

「分かりました」

「……助けて、くれるんですか?」

正直、意外だった。たとえ私が頼んだとしても、私以外のためには動かないと思っていたから。

(夢で見たあの頃のレオンさんとは全然違う)

「じゃあ、私も一緒に――」

「いえ、必要はありません。それに、あなたに何ができますか?」

反論できない。今の私は足手まといだ。

「分かりました……」

レオンが立ち上がり、周囲に視線を投げるだけで、騎士たちの空気が変わる。

「第一騎士団。周辺の残党を確保しろ」

「はっ!」

「連中が連れていった者がいる可能性がある。港裏の倉庫、地下、抜け道。すべて当たれ」

(すごい。慣れてるのが分かる……)

「レオンさん、騎士団の皆さん、よろしくお願いします……」

呼ぶと、レオンは振り返った。
まだ冷えた色を残したその瞳が、私を捉えた瞬間だけ、わずかに和らぐ。

「あなたが望むなら」

レオンは倉庫の方に歩き出した。

横にいた第一騎士団のアルベルト副団長が、ぽつりと私に言った。

「すごいですね」

「え?」

「総団長を動かせるのは、ミナ様だけですよ」

「動かすって、私はお願いしただけです……」

「お願いできる時点で、特別です。総団長に頼むなんて、普通は口にすらできませんから」

「そうなんですかね……」

(なんだろう……すごく気まずい)

アルベルトは肩をすくめる。

「団長も言ってましたよ。総団長は、ミナ様に関わること以外、基本動かないから困るって」

「はは……」

「総団長がこういう現場に出向くこと自体、滅多にありませんから。今日も、我々のみでヴァイス商会について調べていたんですが、ミナ様が巻き込まれたと聞いて、総団長はここまで出向かれたんです。大切にされていますね」

そのとき、遠くで乾いた音がした。騎士たちの動きが一斉に加速する。

そして、間もなく――

「見つけました!」

声が上がった。

倉庫の影から引き出される二人の姿。セシルが咳き込みながら、ディランに支えられている。
二人の服は乱れ、頬には汚れがついていた。

「セシル!」

「ミナちゃん!!無事?!大丈夫?!」

「うん……うん!二人こそ……!」

ディランが歯を食いしばって言う。

「……助かった──」

セシルとディランが、目を見開く。

「……え?」

そして二人とも、固まった。

「……レオン、様?」

セシルの声が裏返る。

「え、え、なんでレオン様がここに……?」

ディランが私とレオンを交互に見る。理解が追いつかない顔だ。

「実はレオンさんが、私たちを助けてくれたの」

「そ、そうなのか……?」

「うん」

セシルの目に涙が溜まる。ディランの拳が小さく震える。

「ミナ……俺たち、お前を助けられなくてごめん」

「大丈夫。私、無傷だよ。むしろディランたちのほうが怪我してる」

私は首を振った。

ディランがレオンへ向き直り、深く頭を下げた。

「レオン様、私たちを助けてくださり、ありがとうございます!」

セシルも続いて頭を下げる。

レオンは淡々と頷いただけだった。
視線は二人ではなく、私に落ちている。

「ミナ、帰りましょう。用はすべて済んだでしょう」

「はい。本当にありがとうございます」

「帰ったら、たくさん話しましょうね」

「……はい」

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