転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

文字の大きさ
38 / 73
第4章 名前のない関係

38話 事件の顛末

屋敷に戻ると、使用人たちが慌ただしく動き出した。

けれどレオンは誰にも指示を出さず、私の手を取って一直線に階段を上がる。

廊下の突き当たり。

「あ、あのそっちは」

私の部屋——ではない。レオンの私室の扉の前で立ち止まる。

「え……私も入るんですか?」

返事はなく、扉が静かに閉まる音だけがした。鍵が掛かる気配。金属が噛み合う、かすかな音。

(……ん?)

そして、振り返るより先に、背後からレオンの手が伸びてきて、私のコートを脱がせた。

「れ、レオンさん……?」

肩からふわりと重みが抜ける。

(な、なに……?)

レオンは私の前に立ったまま、何も言わずに手を伸ばしてくる。襟元。ボタン。指先が迷いなく、順番に外していく。

「えっ、え、待って……!」

「拒否するなら、拘束魔法を使います」

レオンは淡々と私のシャツを肩から下ろした。
布が滑り落ちる音がやけに大きい。

私は咄嗟に腕で胸元を隠す。

「そ、そんな!拒否するに決まってます!」

「恥ずかしがる必要はありません」

そう言いながら、レオンはまず私の手首を取る。

あの痣があった場所。もう治っているが、そこに視線が刺さる。

(傷を……確認してる……?)

指先が手首をなぞった。撫でるというより、確かめるみたいに。

「痛みは?」

「……ないです」

次に、レオンの手が私の腹へ移った。港で殴られた場所だ。ここも痣になっている。

「これは?」

「こ、これはちょっと殴られちゃいまして……でも見た目ほど痛くなくて、意外と大丈夫というか、なんというか……」

「チッ」

(い、いま、舌打ちした……?)

レオンさんが苛立っているのが分かる。

彼は手を私の腹に当て、回復魔法を流し込む。
じわっと温かさが広がって、打撲の痛みが薄れていく。

「……すごい……痛みが──」

その後、私の体を一通り確認すると、レオンは口を開いた。

「ミナ」

私がびくっと反応すると、レオンは動きを止めた。

一拍置いて、低い声で言う。

「私は、あなたが傷つくのが耐えられない」

「すみません、今回は私が本当に──」

レオンは自分の上着を私にかけ、その上から抱きしめた。そして怪我をしていた場所を、一つひとつ撫でていく。

「あなたの手足が動かないようにして、この部屋に閉じ込める。そうすればミナは怪我をすることもなく、私と幸せに永遠に暮らせる。もちろん、私がすべてお世話します。どうですか?こんな世界は?」

「あ、あの……」

(どうしよう、目が本気だ)

「でも、それをしないのは——なぜだかわかりますか」

「え……?」

「あなたが、それを望んでいないのが分かっているからです」

レオンは私の頬に触れ、目元の赤みを親指でそっと撫でた。

「でも、次にこんなことがあれば、私は自分がどうするか分からない」

そう呟いたあと、レオンの腕が私を引き寄せる。

抱きしめられた。
ぎゅっと。強く、逃げられないくらい。

「心配しました」

(どうしよう、自分の心臓の音が耳まで響いてくる)

「……すみません」

「ミナ。二度と勝手な行動はしないでください。あなたが傷つくと、私は正気を保てなくなる」

名前を呼ばれて、私は小さく頷いた。

「……はい。この度はご迷惑をおかけしました⋯⋯」

レオンはようやく息を吐くように、私の頭を撫でた。
子どもをあやすみたいに、優しく。

(レオンさん、本当に私を心配しているように見える。やっぱり、私のことを好きで──)

「それと、今までは黙って見逃していましたが、これから深夜の無断外出は禁止します」

レオンは少しだけ距離を取って、私の顔を覗き込んだ。

「やっぱり気づいてました……?」

私はとぼけて言ってみたけれど、彼の表情は真剣そのものだった。

「す、すみません⋯⋯これからは必ず、事前にお伝えしてから行動します⋯⋯」

レオンはそれ以上何も言わず、もう一度、私を抱きしめ、小さく呟いた。

「私を、ずっと優しいままの私でいさせてください」





そして後になって、セシルとディラン、そして騎士団から、事件の顛末を聞かされた。

ヴァイス商会は大規模な不正取引と背任行為が露見し、一斉摘発されたらしい。名簿に名を連ねていた貴族たちはまとめて爵位を剥奪され、所領は没収。
ヴァイス商会の会長と幹部も拘束され、表舞台から姿を消した。

一部は国外追放――表向きは「自ら望んだ隠居」と発表されたが、実際には社交界から跡形もなく消えたという。

カイは現在取り調べを受けていて、生きているとのことだ。

だが、レオンに消された人間たちの行方だけは、最後まで伏せられた。こちらから尋ねても、返ってくるのは曖昧な返答だけで、生きている可能性は低い、と悟るしかなかった。

そしてセシルの父親も、本来なら巻き添えを食って終わっていたはずだった。

けれど現実は逆だった。事件直後に凍結されていた契約は次々と再開され、なかには以前より好条件へ書き換えられた取引さえある。

新しい得意先まで増え、セシルの家は、以前にも増して繁盛しているという。

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

居酒屋の看板娘でしたが、歌の治癒魔法が覚醒して王女に戻されました〜幼い頃に出会った側近様と紡ぐ恋〜

丸顔ちゃん。
恋愛
生まれてすぐに誘拐され、死んだとされた王女── その赤子は、実は平民街にひっそりと置き去りにされていた。 病弱な父に拾われ、居酒屋の看板娘として育ったミリア。 白い小花を髪に挿し、歌うことが大好きな少女。 自分の歌に“治癒の力”が宿っていることなど知らずに、 父と平民仲間に囲まれ、穏やかな日々を送っていた。 ある日、市場にお忍びで来ていた皇太子とその側近が、ミリアの歌声を耳にする。 皇太子は“王族にしかない魔力の波動”を感じ、 側近は幼い頃の祭りで出会った白い小花の少女を思い出し、胸がざわつく。 その直後、父が危篤に。 泣きながら歌ったミリアの声は奇跡を起こし、治癒魔法が覚醒する。 「どうして平民の私に魔力が……?」 やがて明かされる真実── ミリアこそ、行方不明になっていた王女その人だった。 王宮に迎えられ、王女としての生活が始まる。 不安と戸惑いの中、そばにいてくれるのは、 幼い頃に一目惚れし、今も変わらず彼女を見つめる皇太子の側近。 「今度こそ、君を見失わない」 歌姫王女として成長していくミリアと、 彼女を支え続ける側近の、優しくて温かい恋の物語。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました【完結】

iru
恋愛
第19回 恋愛小説大賞エントリーしています。ぜひ1票お願いします。 小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。