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第3章 真相
26話 最初の探り
翌朝、レオンといつも通り朝食を共にし、今日は講義に加えてアルバイトもあるため、戻りは少し遅くなると告げた。
「分かりました。お気をつけて。私も本日は隣国へ向かわなければならないため、戻りは明日になります」
(それはすでに知ってる)
その情報は、事前に公務予定として告知されていた。
だからこそ、今日実行すると決めたのだ。
「レオンさんもお気をつけて」
講義にいつも通り出席した後、図書院へ移動し、私は王宮内の文書管理局へ届けるための書類を預かった。
封筒には、王立図書院の印章と、公文書搬入許可証がきちんと貼られている。
(これなら──王宮内までは、合法的に行ける)
王宮の白い城壁が、午前の日差しを反射して眩しい。
大通りには行き交う人々、露店、荷馬車。その向こうで、金色の紋章がはためいている。
深呼吸をひとつ。
「よし」
正門の前に立つと、近衛の兵が槍を交差させて進路を塞いだ。
「ご用件を」
「王立図書院から参りました。ミナ・タカハシです。文書の搬入許可をいただいています」
名乗った瞬間、兵士の眉がぴくりと動いたのが分かった。
「身分証と書類を」
用意していた身分証と、図書院から預かった搬入許可証を差し出す。
兵士はそれを確認し、後ろの同僚と小声で何か話し合った。
「王立図書院からの文書搬入、たしかに承りました。立ち入りを許可します」
槍が上がる。
王宮の中に足を踏み入れながら、ポケットの中のノートを、無意識に握りしめていた。
(ここから先は、全部賭けだ)
王宮内部は、図書院の仕事でこれまでにも何度か来たことがある。だから構造も、なんとなくわかる。
高い天井、磨き込まれた床。壁にかかる歴代王の肖像画と、王家の紋章。
(とりあえず、今の名目は、公文書館への書類の搬入)
案内役として、若い書記官が一人ついた。
「こちらへどうぞ。公文書館は東棟二階でございます」
「ありがとうございます」
「私は廊下でお待ちしておりますね」
私は書記官に一礼し、公文書館の中へ入った。
(封印庫は王宮地下――地下書庫のどこかにあるはずだ。公文書館から地下資料の管理担当に繋げれば、なにか分かるかもしれない)
階段を上り、公文書館に着くと、受付の司書が立ち上がった。
「書類のお届けですね。ありがとうございます⋯⋯あら?」
私の顔を見た瞬間、司書の目が僅かに見開かれる。
「タカハシ様、でいらっしゃいますか?」
「はい。お久しぶりです。今回も図書院からの依頼でして。こちらが書類になります」
彼女とは書類を届けた際に、何度か顔を合わせたことがある。
一通り、搬入の書類にサインし終わったところで、私はさりげないふりをして切り出した。
「ところで、こちらは⋯⋯地下資料の管理も担当されているんですか?」
司書の手が、ペンを持ったまま止まる。
「どうして、そのようなことを?」
「地下書庫に預けられている資料の所在を確認したいんです。搬入時の規定が変わったと聞いて、念のため確認をしたくて」
司書の目は明らかに警戒を帯びる。
「地下書庫の詳細は、王宮でもごく一部の方しかご存じありません。私たちのようなただの職員が関われるのは、上に上がってきた資料だけです」
(予想はしていた回答だ。でも、ここで引き下がったら、何の進展もない)
「そうですよね。ただ、図書院側で急ぎの照合が出ていて⋯⋯地下へ回る資料があるかどうかだけでも、担当が違うならその窓口を教えていただけませんか?」
(自分で言っておきながら、かなり怪しく聞こえるな⋯⋯)
司書の表情がさらに固くなる。
「失礼ですが、そのような依頼は正式な文書で頂かなければ受けられません。それに、王宮地下書庫に関する情報は、本来外部の方が触れてよいものではありませんが」
司書の言葉は、そこでぴしゃりと閉ざされた。
(⋯⋯ここまでかな。これ以上聞くと、通報されてしまうかもしれないし)
私は小さく頭を下げた。
「そうですよね。失礼しました。出直します」
司書は一瞬だけ迷ったように視線を泳がせ、それから事務的な声で付け足した。
「ただ、規定の確認でしたら、本来は地下管理区画の受付に回していただくことになります」
「地下管理区画?」
「ええ。この階の案内板に表示があります。地下管理区画へ入るには、別途許可証が必要です。許可証を取得後、そちらの案内に従ってください。提示が必要な区域ですので、関係者以外は近づかないで下さい」
「そうなんですね。ありがとうございます」
(これは有力な情報だ)
「書類の受け取りは以上でよろしいですか?」
「はい。ありがとうございました」
私は形式通りに礼をして、公文書館を後にした。
「分かりました。お気をつけて。私も本日は隣国へ向かわなければならないため、戻りは明日になります」
(それはすでに知ってる)
その情報は、事前に公務予定として告知されていた。
だからこそ、今日実行すると決めたのだ。
「レオンさんもお気をつけて」
講義にいつも通り出席した後、図書院へ移動し、私は王宮内の文書管理局へ届けるための書類を預かった。
封筒には、王立図書院の印章と、公文書搬入許可証がきちんと貼られている。
(これなら──王宮内までは、合法的に行ける)
王宮の白い城壁が、午前の日差しを反射して眩しい。
大通りには行き交う人々、露店、荷馬車。その向こうで、金色の紋章がはためいている。
深呼吸をひとつ。
「よし」
正門の前に立つと、近衛の兵が槍を交差させて進路を塞いだ。
「ご用件を」
「王立図書院から参りました。ミナ・タカハシです。文書の搬入許可をいただいています」
名乗った瞬間、兵士の眉がぴくりと動いたのが分かった。
「身分証と書類を」
用意していた身分証と、図書院から預かった搬入許可証を差し出す。
兵士はそれを確認し、後ろの同僚と小声で何か話し合った。
「王立図書院からの文書搬入、たしかに承りました。立ち入りを許可します」
槍が上がる。
王宮の中に足を踏み入れながら、ポケットの中のノートを、無意識に握りしめていた。
(ここから先は、全部賭けだ)
王宮内部は、図書院の仕事でこれまでにも何度か来たことがある。だから構造も、なんとなくわかる。
高い天井、磨き込まれた床。壁にかかる歴代王の肖像画と、王家の紋章。
(とりあえず、今の名目は、公文書館への書類の搬入)
案内役として、若い書記官が一人ついた。
「こちらへどうぞ。公文書館は東棟二階でございます」
「ありがとうございます」
「私は廊下でお待ちしておりますね」
私は書記官に一礼し、公文書館の中へ入った。
(封印庫は王宮地下――地下書庫のどこかにあるはずだ。公文書館から地下資料の管理担当に繋げれば、なにか分かるかもしれない)
階段を上り、公文書館に着くと、受付の司書が立ち上がった。
「書類のお届けですね。ありがとうございます⋯⋯あら?」
私の顔を見た瞬間、司書の目が僅かに見開かれる。
「タカハシ様、でいらっしゃいますか?」
「はい。お久しぶりです。今回も図書院からの依頼でして。こちらが書類になります」
彼女とは書類を届けた際に、何度か顔を合わせたことがある。
一通り、搬入の書類にサインし終わったところで、私はさりげないふりをして切り出した。
「ところで、こちらは⋯⋯地下資料の管理も担当されているんですか?」
司書の手が、ペンを持ったまま止まる。
「どうして、そのようなことを?」
「地下書庫に預けられている資料の所在を確認したいんです。搬入時の規定が変わったと聞いて、念のため確認をしたくて」
司書の目は明らかに警戒を帯びる。
「地下書庫の詳細は、王宮でもごく一部の方しかご存じありません。私たちのようなただの職員が関われるのは、上に上がってきた資料だけです」
(予想はしていた回答だ。でも、ここで引き下がったら、何の進展もない)
「そうですよね。ただ、図書院側で急ぎの照合が出ていて⋯⋯地下へ回る資料があるかどうかだけでも、担当が違うならその窓口を教えていただけませんか?」
(自分で言っておきながら、かなり怪しく聞こえるな⋯⋯)
司書の表情がさらに固くなる。
「失礼ですが、そのような依頼は正式な文書で頂かなければ受けられません。それに、王宮地下書庫に関する情報は、本来外部の方が触れてよいものではありませんが」
司書の言葉は、そこでぴしゃりと閉ざされた。
(⋯⋯ここまでかな。これ以上聞くと、通報されてしまうかもしれないし)
私は小さく頭を下げた。
「そうですよね。失礼しました。出直します」
司書は一瞬だけ迷ったように視線を泳がせ、それから事務的な声で付け足した。
「ただ、規定の確認でしたら、本来は地下管理区画の受付に回していただくことになります」
「地下管理区画?」
「ええ。この階の案内板に表示があります。地下管理区画へ入るには、別途許可証が必要です。許可証を取得後、そちらの案内に従ってください。提示が必要な区域ですので、関係者以外は近づかないで下さい」
「そうなんですね。ありがとうございます」
(これは有力な情報だ)
「書類の受け取りは以上でよろしいですか?」
「はい。ありがとうございました」
私は形式通りに礼をして、公文書館を後にした。
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