転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ

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第3章 真相

28話 嘘を武器に

廊下は下りの階段へと続いていた。

階段を飛ばさない程度に早足で駆け下りる。

下りきった先にも、また兵士がいた。

今度は二人。

(この人たち⋯⋯強い。強行突破は無理だ⋯⋯)

魔力でわかる。先ほどの衛兵とは違う。彼らは平均以上の魔力を持っている。

「何者だ」

「身分証を──」

私は深呼吸し、わざと声を張った。

「私はミナ・タカハシです。レオン・ヴァルティエルの客人です」

兵士の表情が変わった。

チラリ、と互いに視線を交わす。

その一瞬の迷いに、私は畳み掛ける。

「急ぎの用件で、王宮地下へ行かなければなりません」

最大限、落ち着いているように振る舞う。

兵士の一人が眉をひそめた。

「しかし、そうであれば、通常は我々に事前の連絡が──」

「私が間違っていると言いたいのですか?私は公爵家の客人ですよ。早く案内してください。急いでいるんです」

自分で言いながら、胃が痛くなるような脅し文句だった。

でも、効果はあった。

兵士たちの顔から、一気に血の気が引く。

「⋯⋯ヴァルティエル公爵家からのご紹介、ということでしょうか」

「ええ。私は閣下の屋敷に住んでいます。あなた方の上司なら、私の顔くらい見たことがあるはずです。それで、この先は?」

兵士は一瞬だけ口をつぐみ、言葉を選ぶように視線を逸らした。

「この先は、立ち入り制限区域です」

「封印区画へ続く通路よね?」

「そ、それは⋯⋯許可証の提示がなければ、お答えできません」

(この反応、かなり怪しい⋯⋯)

「しつこいわね。質問に答えなさい」

私は圧を込める。

「は、はい⋯⋯封印区画へ繋がる通路です」

(やっぱり、ここで合ってた)

「いいから、通して」

きっぱりと言い切ると、兵士はぐ、と唇を噛んだ。

「し、しかし、規則では──」

「規則か、公爵家の客人か。あなたはどちらを優先したいですか」

一瞬の沈黙ののち、兵士たちは互いに目を合わせると、片方が小さく頷いた。

「⋯⋯通路の先の扉までなら、同行します。その先は、隊長判断になります」

「それで構いません」

(隊長クラスまで行ければ、こっちのものだ)

私は内心の震えをごまかしながら、兵士たちの後を歩いた。

地下の空気は、ひんやりとしていて重い。

壁には光量を抑えた魔石灯が一定間隔で並んでいる。一本の長い通路の先に、他とは明らかに違う扉が見えた。

重厚な扉の前に立つ二人は、さっきまでの兵とは違う。鎧も徽章も、明らかに騎士団のものだった。

(ここが⋯⋯)

兵士の一人が一歩前に出て、敬礼した。

「隊長。公爵家の関係者らしき者が、封印区画への通行を求めています」

隊長と呼ばれた男が、こちらに視線を向ける。

鋭い青灰色の瞳が、一瞬だけ見開かれた。

「⋯⋯ミナ様?」

(やっぱり⋯⋯知ってるんだ、私のこと)

私は一歩、前に出た。彼の記憶はもちろんない。

「お久しぶりです」

(私、こんなにスラスラ嘘がつける人間だったかな⋯⋯)

隊長は一拍置いてから、姿勢を正した。

「ご無沙汰しております。体調はよろしいのですか?」

「ええ。万全ではありませんが」

言葉にすると、隊長の表情がさらに強張る。

「でしたらなおさら、ここにお越しになった理由を伺ってもよろしいですか。封印庫は、許可なく開けることは──」

「早く開けて」

言葉を遮る。

「⋯⋯ミナ様?」

「私が入りたいと言ってるの。レオンの許可も降りてます」

言い切ると、通路の空気がぴんと張り詰めた。

(上から目線な言い方でごめんなさい。本当は誰も許可してないです)

けれど、隊長クラスなら、レオンが私の言うことならなんでも聞くことを知っているはずだ。

それを、利用する。

「だが、それを証明する文書がなければ、原則──」

「ここを開けなさい」

「では、今から総団長の方にこちらから確認を──」

「次はないわよ。ここを開けなさい」

自分でも驚くほど、冷たい声が出た。

「し、しかし──」

「あなた、名前は?」

「⋯⋯第三騎士団隊長、ガレス・グレンです」

「なら、心配しないで。もし問題になったら、私が責任を取ります。だから今は扉を開けてください」

通路の奥で、もう一人の騎士が落ち着かない様子でこちらを見ている。

ガレスは長く、深い息を吐いた。

「⋯⋯かしこまりました」

嬉しい気持ちを堪え、冷静な態度をとる。

「ありがとう」

数秒の沈黙の後、ガレスは決意したように扉へ向き直った。

「副隊長。封印庫第一扉の開放手順に入る」

「し、しかし隊長⋯⋯!」

「総団長の名を出された以上、ここで拒否すれば、我々の責任は免れない」

低い声でそう言い聞かせるように返す。

「なにかあれば、私がすべて責任を取る。ミナ様のご意思とあれば、総団長もご理解くださるはずだ」

(それは分からないけど⋯⋯)

心の中でだけ、苦笑した。

副隊長がしぶしぶ頷く。

ガレスは扉の横に埋め込まれた魔法陣に手をかざした。
淡い光が走り、いくつもの錠前が内側で外れていく重い音がした。

「封印庫までの通路は、ここから先です」

扉が、ゆっくりと開く。

地下深くへと続く階段。その先から、冷たい魔力の気配が立ち上ってくる。

ガレスが、真剣な眼差しでこちらを見た。

「中で何があっても、我々には介入できません。本来なら、許可証なしであなたを通すこと自体が規則違反ですので」

「分かりました。ありがとう」

(いよいよだ⋯⋯)

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