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第17話 雨上がりの音色
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新学期が始まってしばらく経ち、咲良の中学校生活は少しずつリズムをつかみ始めていた。
最初は新しい教室、新しい顔ぶれ、そしてまったく見えない世界に戸惑いも多かったが、友人たちの明るい声や、先生のやさしい声かけが心の支えとなった。
春のある日、朝から空は曇り空。しとしとと静かに降る雨が、校舎の窓をやさしく濡らしている。
咲良は白杖とリュックを手に、ゆっくりと教室へ向かっていた。
いつものように昇降口で健太が待ち、咲良の手を握って「今日も一緒にいこう!」と元気に声をかける。
その後ろから、奏人も静かに手話で「おはよう」と挨拶した。
「雨の日って、音が違うよね」
咲良は小さく呟いた。
「そうなの? オレ、よくわかんないや」と健太は首をかしげるが、奏人は微笑み、
『ぼくも雨の音、すき』と手話で伝えた。
*
教室では、雨の日ならではの特別な空気が流れていた。
窓の外に広がるしずくの模様、傘のしずくが床に落ちる小さな音、廊下を歩く長靴のリズム。
咲良はそれを“目”ではなく“耳”で感じることができるようになっていた。
休み時間、クラスメイトの一人が咲良のもとへやってきた。
「ねぇ咲良ちゃん、理科の宿題、手伝ってくれる?」
「私、ピアノ聴いてみたいな」
自然に交わされる会話やお願いごとが、咲良の世界に新しい彩りを添えていく。
音楽室でピアノを弾いていると、新しいクラスの男子や女子が興味津々で集まってきた。
「すごい! 目が見えなくても、こんなにきれいに弾けるんだね」
「咲良ちゃんの手、ちょっと触ってもいい?」
みんなの手のぬくもりと声に包まれて、咲良は「世界が広がっていく」感覚を、心から嬉しく思った。
*
昼休み、廊下のベンチで健太と奏人、そして数人の友達と一緒にお弁当を食べる。
「この前の手話、ちょっとだけ覚えたぞ!」
「ピアノの音で、咲良ちゃんが今どんな気持ちか分かる気がした」
「今度、一緒に歌おうよ!」
何気ない会話。
でもそのひとつひとつが、咲良にとっては“自分だけの世界”が、みんなの世界と重なっていく瞬間だった。
健太がふと、「今日は雨だし、放課後みんなで公園行こうぜ!」と提案する。
「雨の公園?」と女子が不思議そうに言うと、健太は「だって雨上がりの公園、めちゃくちゃ気持ちいいんだぜ」と胸を張る。
咲良も「行きたい!」と手を挙げた。
奏人も、微笑みながらうなずいた。
*
放課後、雨が止みかけたころ。
みんなで傘をさしながら近くの公園に向かう。
咲良は健太に手を引かれ、奏人も隣を歩く。
新しい友人たちも、「こっちだよ」「ぬかるみに気をつけて」と声をかけてくれる。
公園の東屋に着くと、まだ地面は少し濡れていて、雨上がり特有の柔らかな匂いがした。
木々のしずくが、ぽたりぽたりと落ちる。遠くで小鳥がさえずり、誰かの笑い声が空に溶けていく。
咲良は深呼吸をして、「この匂い、好き」と呟く。
「じゃあ、せっかくだから、咲良ちゃんのピアノ、ここで聴きたい!」
誰かが言うと、健太が「ほら、カバンにミニキーボード入れてきたぞ!」と、得意げに取り出した。
奏人も手伝ってセッティングする。
みんなが東屋に集まり、小さなキーボードを囲んだ。
咲良は指先だけで鍵盤をたしかめ、静かに演奏を始めた。
雨上がりの公園に、優しい旋律がふんわりと広がる。
風が、しずくを運ぶ。
音が、春の空気にとける。
咲良は「見えない世界」でも、これほど多くの“音”や“手”や“心”でつながれるのだと、胸が熱くなった。
演奏が終わると、みんなが「すごい!」「ありがとう!」と一斉に拍手した。
奏人が「だいじょうぶ」と声をかけ、健太が「またやろうぜ!」と大きな声で言った。
咲良は「うん」と笑い、雨上がりの空を胸いっぱいに吸い込んだ。
*
家に帰ると、母親が「今日はどんな日だった?」と優しく問いかける。
「雨が止んで、みんなで公園でピアノを弾いたんだ。世界が、すごく広く感じたよ」
母は「よかったね」と抱きしめてくれた。
「見えなくても、私だけの幸せが、ちゃんとここにある」
咲良はそう思いながら、窓の外の雨音に耳を澄ませた。
——雨上がりの音色は、新しい季節、新しい世界、そして“新しい自分”への希望のメロディだった。
最初は新しい教室、新しい顔ぶれ、そしてまったく見えない世界に戸惑いも多かったが、友人たちの明るい声や、先生のやさしい声かけが心の支えとなった。
春のある日、朝から空は曇り空。しとしとと静かに降る雨が、校舎の窓をやさしく濡らしている。
咲良は白杖とリュックを手に、ゆっくりと教室へ向かっていた。
いつものように昇降口で健太が待ち、咲良の手を握って「今日も一緒にいこう!」と元気に声をかける。
その後ろから、奏人も静かに手話で「おはよう」と挨拶した。
「雨の日って、音が違うよね」
咲良は小さく呟いた。
「そうなの? オレ、よくわかんないや」と健太は首をかしげるが、奏人は微笑み、
『ぼくも雨の音、すき』と手話で伝えた。
*
教室では、雨の日ならではの特別な空気が流れていた。
窓の外に広がるしずくの模様、傘のしずくが床に落ちる小さな音、廊下を歩く長靴のリズム。
咲良はそれを“目”ではなく“耳”で感じることができるようになっていた。
休み時間、クラスメイトの一人が咲良のもとへやってきた。
「ねぇ咲良ちゃん、理科の宿題、手伝ってくれる?」
「私、ピアノ聴いてみたいな」
自然に交わされる会話やお願いごとが、咲良の世界に新しい彩りを添えていく。
音楽室でピアノを弾いていると、新しいクラスの男子や女子が興味津々で集まってきた。
「すごい! 目が見えなくても、こんなにきれいに弾けるんだね」
「咲良ちゃんの手、ちょっと触ってもいい?」
みんなの手のぬくもりと声に包まれて、咲良は「世界が広がっていく」感覚を、心から嬉しく思った。
*
昼休み、廊下のベンチで健太と奏人、そして数人の友達と一緒にお弁当を食べる。
「この前の手話、ちょっとだけ覚えたぞ!」
「ピアノの音で、咲良ちゃんが今どんな気持ちか分かる気がした」
「今度、一緒に歌おうよ!」
何気ない会話。
でもそのひとつひとつが、咲良にとっては“自分だけの世界”が、みんなの世界と重なっていく瞬間だった。
健太がふと、「今日は雨だし、放課後みんなで公園行こうぜ!」と提案する。
「雨の公園?」と女子が不思議そうに言うと、健太は「だって雨上がりの公園、めちゃくちゃ気持ちいいんだぜ」と胸を張る。
咲良も「行きたい!」と手を挙げた。
奏人も、微笑みながらうなずいた。
*
放課後、雨が止みかけたころ。
みんなで傘をさしながら近くの公園に向かう。
咲良は健太に手を引かれ、奏人も隣を歩く。
新しい友人たちも、「こっちだよ」「ぬかるみに気をつけて」と声をかけてくれる。
公園の東屋に着くと、まだ地面は少し濡れていて、雨上がり特有の柔らかな匂いがした。
木々のしずくが、ぽたりぽたりと落ちる。遠くで小鳥がさえずり、誰かの笑い声が空に溶けていく。
咲良は深呼吸をして、「この匂い、好き」と呟く。
「じゃあ、せっかくだから、咲良ちゃんのピアノ、ここで聴きたい!」
誰かが言うと、健太が「ほら、カバンにミニキーボード入れてきたぞ!」と、得意げに取り出した。
奏人も手伝ってセッティングする。
みんなが東屋に集まり、小さなキーボードを囲んだ。
咲良は指先だけで鍵盤をたしかめ、静かに演奏を始めた。
雨上がりの公園に、優しい旋律がふんわりと広がる。
風が、しずくを運ぶ。
音が、春の空気にとける。
咲良は「見えない世界」でも、これほど多くの“音”や“手”や“心”でつながれるのだと、胸が熱くなった。
演奏が終わると、みんなが「すごい!」「ありがとう!」と一斉に拍手した。
奏人が「だいじょうぶ」と声をかけ、健太が「またやろうぜ!」と大きな声で言った。
咲良は「うん」と笑い、雨上がりの空を胸いっぱいに吸い込んだ。
*
家に帰ると、母親が「今日はどんな日だった?」と優しく問いかける。
「雨が止んで、みんなで公園でピアノを弾いたんだ。世界が、すごく広く感じたよ」
母は「よかったね」と抱きしめてくれた。
「見えなくても、私だけの幸せが、ちゃんとここにある」
咲良はそう思いながら、窓の外の雨音に耳を澄ませた。
——雨上がりの音色は、新しい季節、新しい世界、そして“新しい自分”への希望のメロディだった。
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