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第16話 新しい世界
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春本番、桜が満開になったある朝。
咲良は新しい制服に袖を通し、白杖とリュックを手に「行ってきます」と母に声をかけた。
玄関先で深呼吸すると、冬の冷たい空気の記憶はもうなく、あたたかい日差しと春風の匂いが胸いっぱいに広がった。
今日から中学生。
新しい学校、新しいクラス、新しい出会い。
「こわい」と「楽しみ」が入り混じる心で、咲良はゆっくりと歩き始めた。
*
校門の前には、健太が待っていた。
「おはよう、咲良ちゃん!」
相変わらず元気いっぱいの声。
「今日は案内役やるって決めてたからな!」と、健太は得意気に咲良の手を握る。
後ろからは奏人もやってくる。
制服に袖を通した奏人は、手話で「おはよう」と伝え、咲良の手にそっと触れた。
それだけで心が落ち着いていく。
三人で昇降口へ向かう途中、周りの生徒たちのにぎやかな声や足音が響く。
見えない世界で、こうした音や気配は咲良の大切な“目”となっていた。
「新しいクラス、どんな子がいるかな?」
咲良が聞くと、健太が「オレ、もう友達二人できた!」と胸を張った。
奏人は小さく笑い、手話で「大丈夫、みんなやさしい」と伝える。
*
教室では、担任の先生が自己紹介を始めていた。
「みなさん、今日からこのクラスで新しい一年を過ごします。困ったことがあったら、助け合いましょうね」
咲良の自己紹介の番になると、少し緊張しながらも言葉を選ぶ。
「水沢咲良です。目は見えませんが、音楽が大好きです。みなさん、どうぞよろしくお願いします」
しばし沈黙のあと、教室中に「よろしく!」と明るい声が響く。
誰かが「ピアノ弾けるの?」と声をかけてくれて、咲良は「うん」と答えた。
新しい席、初めての教科書、ノートも点字のものに替わった。
先生や友達が「何かあったらすぐ言ってね」と声をかけてくれるたび、咲良は自分がこの場所でちゃんと生きていけると感じられた。
*
放課後、健太が誘ってくれて校庭を歩く。
風が木々を揺らし、遠くでボールが跳ねる音。
「新しい友達と野球やろうぜ!」と健太が誘う。
「見えなくても、声でわかるから、ボール拾いならできるかも」
そう答える咲良に、健太は「そのうち“音だけ野球”とかやってみよう!」と大声で笑った。
奏人も一緒にグラウンドに来て、健太やクラスメイトが「手話も教えて!」と集まってくる。
奏人はゆっくりと丁寧に手話を教え、咲良や健太もそれを覚えようと必死だった。
初めての放課後、三人は新しい仲間と輪になって、春の夕陽の中で何度も笑い合った。
*
数日が経ち、咲良は中学校の音楽室にも足を運びはじめた。
音楽の先生は「咲良さん、好きなときにピアノ弾いていいからね」と優しく声をかけてくれた。
放課後の音楽室で、咲良はひとり鍵盤に向かう。
目は見えなくても、音の一つ一つが鮮明に広がる。
扉の向こうから誰かの「聴かせて」と小さな声が聞こえてくると、咲良は静かに微笑んで、得意の曲をそっと奏でた。
ピアノの音に惹かれて、他のクラスの生徒や先生が集まってきた。
みんなの息遣いと静かな歓声。
新しい世界で、自分の居場所を見つけた気がした。
「すごい」「私もピアノ習ってみたい」「今度、一緒に連弾してくれる?」
いろんな声が咲良の心を満たしていく。
*
帰り道、咲良は奏人と健太と肩を並べて歩く。
「どう?新しい学校」
健太が聞く。
「緊張するけど、楽しい。——なんだか、世界が広がった気がするよ」
咲良はそう言って、春風を胸いっぱいに吸い込む。
奏人は手話で「ぼくもがんばる」と伝えた。
「ねえ、また三人で新しいこと、いっぱいやろうよ」
健太が言うと、咲良は大きくうなずいた。
*
夜、自宅で。
母親と並んで夕食をとる。
「新しい学校、楽しかった?」
「うん。今日はいっぱい笑った」
「見えなくても、咲良の世界はちゃんと広がっていくね」
母はやさしく咲良の手を握る。
「うん。私、きっとどこにいても大丈夫。
——音があって、友達がいて、家族がいれば、それが“私の世界”だから」
咲良はそう言って、静かにピアノの鍵盤をなぞった。
*
週末、公園の東屋で。
桜の花びらが舞うなか、咲良、奏人、健太が並んでベンチに座る。
「ねえ、これからどんな世界が待ってるんだろう」
咲良がぽつりと呟く。
奏人はそっと「だいじょうぶ」と低い声で答える。
健太は「どんなことでも、みんなでやればきっと楽しいさ!」と大きく笑った。
見えない未来。
でも、咲良はもう怖くなかった。
「——歩いていこう。新しい世界を、みんなで一緒に」
桜と雨と、新しい音に包まれて。
咲良はまた、新たな一歩を踏み出した。
咲良は新しい制服に袖を通し、白杖とリュックを手に「行ってきます」と母に声をかけた。
玄関先で深呼吸すると、冬の冷たい空気の記憶はもうなく、あたたかい日差しと春風の匂いが胸いっぱいに広がった。
今日から中学生。
新しい学校、新しいクラス、新しい出会い。
「こわい」と「楽しみ」が入り混じる心で、咲良はゆっくりと歩き始めた。
*
校門の前には、健太が待っていた。
「おはよう、咲良ちゃん!」
相変わらず元気いっぱいの声。
「今日は案内役やるって決めてたからな!」と、健太は得意気に咲良の手を握る。
後ろからは奏人もやってくる。
制服に袖を通した奏人は、手話で「おはよう」と伝え、咲良の手にそっと触れた。
それだけで心が落ち着いていく。
三人で昇降口へ向かう途中、周りの生徒たちのにぎやかな声や足音が響く。
見えない世界で、こうした音や気配は咲良の大切な“目”となっていた。
「新しいクラス、どんな子がいるかな?」
咲良が聞くと、健太が「オレ、もう友達二人できた!」と胸を張った。
奏人は小さく笑い、手話で「大丈夫、みんなやさしい」と伝える。
*
教室では、担任の先生が自己紹介を始めていた。
「みなさん、今日からこのクラスで新しい一年を過ごします。困ったことがあったら、助け合いましょうね」
咲良の自己紹介の番になると、少し緊張しながらも言葉を選ぶ。
「水沢咲良です。目は見えませんが、音楽が大好きです。みなさん、どうぞよろしくお願いします」
しばし沈黙のあと、教室中に「よろしく!」と明るい声が響く。
誰かが「ピアノ弾けるの?」と声をかけてくれて、咲良は「うん」と答えた。
新しい席、初めての教科書、ノートも点字のものに替わった。
先生や友達が「何かあったらすぐ言ってね」と声をかけてくれるたび、咲良は自分がこの場所でちゃんと生きていけると感じられた。
*
放課後、健太が誘ってくれて校庭を歩く。
風が木々を揺らし、遠くでボールが跳ねる音。
「新しい友達と野球やろうぜ!」と健太が誘う。
「見えなくても、声でわかるから、ボール拾いならできるかも」
そう答える咲良に、健太は「そのうち“音だけ野球”とかやってみよう!」と大声で笑った。
奏人も一緒にグラウンドに来て、健太やクラスメイトが「手話も教えて!」と集まってくる。
奏人はゆっくりと丁寧に手話を教え、咲良や健太もそれを覚えようと必死だった。
初めての放課後、三人は新しい仲間と輪になって、春の夕陽の中で何度も笑い合った。
*
数日が経ち、咲良は中学校の音楽室にも足を運びはじめた。
音楽の先生は「咲良さん、好きなときにピアノ弾いていいからね」と優しく声をかけてくれた。
放課後の音楽室で、咲良はひとり鍵盤に向かう。
目は見えなくても、音の一つ一つが鮮明に広がる。
扉の向こうから誰かの「聴かせて」と小さな声が聞こえてくると、咲良は静かに微笑んで、得意の曲をそっと奏でた。
ピアノの音に惹かれて、他のクラスの生徒や先生が集まってきた。
みんなの息遣いと静かな歓声。
新しい世界で、自分の居場所を見つけた気がした。
「すごい」「私もピアノ習ってみたい」「今度、一緒に連弾してくれる?」
いろんな声が咲良の心を満たしていく。
*
帰り道、咲良は奏人と健太と肩を並べて歩く。
「どう?新しい学校」
健太が聞く。
「緊張するけど、楽しい。——なんだか、世界が広がった気がするよ」
咲良はそう言って、春風を胸いっぱいに吸い込む。
奏人は手話で「ぼくもがんばる」と伝えた。
「ねえ、また三人で新しいこと、いっぱいやろうよ」
健太が言うと、咲良は大きくうなずいた。
*
夜、自宅で。
母親と並んで夕食をとる。
「新しい学校、楽しかった?」
「うん。今日はいっぱい笑った」
「見えなくても、咲良の世界はちゃんと広がっていくね」
母はやさしく咲良の手を握る。
「うん。私、きっとどこにいても大丈夫。
——音があって、友達がいて、家族がいれば、それが“私の世界”だから」
咲良はそう言って、静かにピアノの鍵盤をなぞった。
*
週末、公園の東屋で。
桜の花びらが舞うなか、咲良、奏人、健太が並んでベンチに座る。
「ねえ、これからどんな世界が待ってるんだろう」
咲良がぽつりと呟く。
奏人はそっと「だいじょうぶ」と低い声で答える。
健太は「どんなことでも、みんなでやればきっと楽しいさ!」と大きく笑った。
見えない未来。
でも、咲良はもう怖くなかった。
「——歩いていこう。新しい世界を、みんなで一緒に」
桜と雨と、新しい音に包まれて。
咲良はまた、新たな一歩を踏み出した。
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