記憶喪失の主人公は無双ではなく苦悩する 〜ブラッディ・レインボー〜 

羽瀬川璃紗

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「あー、そろそろ限界だわ」

 透の使っていた硬化警棒を見た月斗は、先端と取っ手の連結部分のひび割れをつついた。丹も腕組みして言った。

「誰かの中古品だったしな。それでも、かなりもった方だよ」

 チャリオットに入ってからずっと使っていた武器だったので、透としては愛着もある。

「修理すれば直る?」

「リペアもいいけど、自分専用の買えば? これ、使い勝手微妙だし」

「いいねえ、買っちゃえ買っちゃえ。付き合うぜ!」

 月斗の意見に丹も賛同し、3人は業務終了後にウエポンショップへと向かった。


 初めて行く透はドキドキしたが、店内の雰囲気は明るく、いつぞや行った『ホームセンター』に、ショーケースが設置されてる感じだった。
 3人はテンション高めに武器を見繕う。丹が、あるショーケースの前で声を上げる。

「すげー、この日本刀。鞘が漆塗りで何と30万」

「予算オーバー、むしろ骨董品じゃん! 使えないし」

 透が意外に思ったのは、種類別に新品と中古品が混ぜこぜで陳列してあること。あと、名前も用途も不明なカスタム用品が多いのなんの。
 銃コーナーの案内を見て足を止めた透に、月斗は尋ねた。

「透、どんなのいい? 銃はハタチ越えないと買えないし使えないから、除外だけど」

「え、そうなんだ?」

「うん。物によっちゃ専門資格持ってないと駄目なやつもあるよ。あと、武器は基本的に18歳越えないと1人で買えないし、身分証も必ず提示」

「へえ、購入の基本ルールは知ってたけど、資格の事は知らなかった」

 自主勉強の成果。丹はからかう様に言った。

「あれ、透くんて1人で買ってもOKだったっけ?」

「買えます。18です」

 透は笑って答えた。月斗は腕組みした。

「何がいいかなぁ。長物でも短物でも行けそうなんだよな、動き見てると。打撃であの威力だったら、斬撃でも余裕だと思うわ」

 月斗は剣コーナーへ透を連れ出す。値段も形状も様々な中の、ある1本が透の目に留まった。

 日本刀とナタを足して2で割った様なフォルムのそれは、刃渡り80センチくらい。刃には日本刀の様な刃文があり、持ち手部分は刃に対して少し傾斜がかかっていて、握りやすいように窪みも。
 鷹羽が使う1メートル程の長剣より細く小ぶりだが、妙に気になった。

 透がぼうっと眺めてると、店員がやって来た。

「こちら中古品ですが、刃の打ち直しなど済んでおります。手に取ってご覧になりますか?」

「はい、見せて下さい」

 透が言ってショーケースを開けてもらうと、月斗と丹も寄ってきた。

「何? それにするの?」

「軽剣ぽいけど、見た事ない剣身してるな」

 店員から渡され持ってみた透は、謎のしっくりくる感じを覚えた。店員は説明する。

「ほとんど未使用の美品で、旧緋星自治区製造の品です。軽いので、取り回しが非常に楽です。メーカー不詳と製造が古めなので、価格は5万円で奉仕させて頂きます」

 持ち手の底には、『MADE ㏌ SCARET』の刻印。店員の言葉に、丹は驚いた。

「マジで? 俺のも中古だけど8万はしたよ。緋星無くなった12年前製造としても、こんな状態良くてこの値段はびっくりだ」

「お買い得~。いいんじゃない? これ片手でも使えそう」

 武器に関して先輩である2名も絶賛、値段も予算内、重量やサイズ的にも適している、透の答えは決まった。

「これをお願いします」


 店員の話に手入れやメンテナンス先を教わり、透はホクホク顔で帰宅した。

 自室で剣を鞘から出し眺める。自分の稼ぎでの、まとまった金額の買い物。まるで運命の出会いの様な、不思議な感覚。
 失われた記憶だけがクローズアップされがちな自分にとって、何物にも代えがたい物を得た気分だった。

 外は、いつしか雨が降り出していた。月斗が声をかけてくる。

「おーい、カレー出来たよ」

 掃除の苦手な月斗だが、カレーと炒飯に限ってメチャメチャ美味しい物を作る。月斗は食べつつ言った。

「即決だったね、あれ」

「うん、惹かれるものを感じたというか。何か見た事ある様な? 何て言ったらいいか分かんないけど」

「デジャブってやつ? もしかしたら島内で暮らしてた頃に、見かけたのかもね」

「島?」

 透が聞き返すと、ハッとした月斗は説明を始めた。

「こないだ、赤熊駆除した時に閉鎖中の橋の傍を通ったの、覚えてる? あの橋『炎神橋』って言うんだけど、その奥に見える島が緋星自治区」

「へえ、あれが。やっぱり近いんだね」

「うん。碧や丹、藍もあそこで生まれ育ったよ。ま、俺はよく覚えてねーけど」

 月斗は内戦のせいで、両親や思い出の記憶を失ったと言っていた。だが、月斗は思い悩む事は無い様子である。

「他の人の話聞くとさ、九州より面積小さいけど、映画館もテーマパークも観光スポットもそれなりにあったし、独自の文化も充実してたらしいよ。
今は住めないし、『入島禁止』になってるけど」

「へえ…」

 透が聞き入っていると、月斗は烏龍茶を一口飲んで話を続けた。

「国もさ、年に2回ぐらい魔物駆除で派兵して、人が住める土地にするために色々やってるんだよね。入れるようになったら、是非やりたい事あるんだ」

「何?」

「俺の生まれ育った家を探す。ま、跡形も無えかもしんないけど」

 月斗は明るく笑い飛ばした。



 夕刻から降り出した雨は、勢いを増すばかり。台風接近に伴う雨雲だという。
 第7兵団所属:槇村2等陸曹は、ほとんど何も視認出来ない前方を見つつ思った。自然の闇ほど、不気味で恐ろしいものは無い。人工的な明かりと言えば、この詰め所だけである。

 槇村が現在夜番をしている建物は、旧緋星自治区の入国管理局の入っていたもので、炎神橋から徒歩5分の所にある。本拠地として使うため、整備した拠点第1号である。


 日本政府による『土地再生・復旧プロジェクト』により、4年前から旧緋星島の魔物駆除とライフライン整備がスタートした。
 完全な復旧には程遠く、日本国の管理下に置けたのは旧入国管理局から僅か半径1.5キロ圏内ほどだった。

 無人となり、魔物や野生動物の天下となった亡国は、悪い意味で力と牙が研ぎ澄まされてるのか、出合う生物はとても凶暴で強い。駆除も難航していた。
 そして土地柄、アンデッド系(人や生物の残存思念による)魔物も多い。全域を管理下に置くのは、来世紀になるのではないか。


 しかし。台風の接近はまだまだの筈だが、軋みが酷過ぎやしないだろうか?築30年が経つとは言え、こんなに軋むだろうか。
 槇村が夜番の相方に目配せすると、相棒は頷き銃を構え直した。

 何かが、扉の向こうに居る。

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