記憶喪失の主人公は無双ではなく苦悩する 〜ブラッディ・レインボー〜 

羽瀬川璃紗

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 朝8時のトップニュースで、その出来事は報じられた。

《では最初に心配なニュースです。旧緋星自治区・土地再生プロジェクトの一環で、現地派遣中の日本政府軍小隊ですが、連絡が途絶えた模様です》

 キャスターが原稿を読み上げると、映像は空撮で撮った資料映像に切り替わった。透は思わずテレビ画面に釘付けになる。

 『島』と聞いてたが、予想より大きく、画角に全て収まりきらない。
 衛星写真として、瓦礫に混じって民家らしき白壁に赤屋根の建物、横転して錆びた車、焼け焦げた山林などが順に静止画で流れた。

(これが、現在の緋星自治区…)

 キャスターは続けた。

《政府軍発表によりますと昨夜未明、派遣部隊の駐屯地を魔物2体が急襲し交戦中との一報が入り、約40分後に連絡が途絶えたとのことです。小隊は今日の正午に活動を終える予定でした》

「うわあ、マズイなぁ」

 碧は顔をしかめた。

《現在、九州に台風が接近していることから、陸路しか移動手段が無く…》

「そうだよ、何かあったら『再生プロジェクト』なくなっちゃうじゃん」

 イチゴ牛乳を飲む藍が言うと、碧は頭を搔いた。

「そっちもあるけど…、全滅したんじゃないだろうな?」

「いや、発電設備やられたんじゃない? メールも電話も、電気なけりゃ出来ないし。最終日にこれとか不運だね~」

 藍が残念そうに言うと、鷹羽がマイフォンを片手に詰め所へやって来た。

「おはよう諸君、残念な知らせだ」

「おはようございます。何ですか?」

「碧くんの大好きな鉄吾お兄様が、本州から戻れなくなりました」

 鷹羽の言葉に、碧は吹き出した。

「え、別に好きじゃないっすよ。マジかあ、フェリーダメだったか」


 2連休だった鉄吾は、フェリーで本州に行っていた。台風接近前に出航する予定だった戻りのフェリーが、設備トラブルで出航遅延、台風接近に伴いそのまま欠航となったらしい。

 仕事に真面目な鉄吾は、遠回りだが海峡大橋を使い戻ると連絡をしてきたが、かかる時間はフェリーの実に2倍(約6時間)。
 悪天候だし渋滞もあるので、今日の出勤は期待しない方がいいだろう。


 藍は言った。

「いいんじゃない? 3連休でも。どうせ雨漏り修理と『大蛙』の駆除くらいしか来ないでしょう。…それで社長、その紙は?」

「ああ、日本政府軍からの要請」

「「マジで⁈」」

 藍と碧が食いつく。鷹羽は、テーブルの上に紙を置くと軽く説明をした。

「旧緋星自治区に近い、東九州在住の元政府軍関係者・魔物駆除業者への協力要請だ。遭難している政府軍小隊の救出支援をしてくれって」

 透も要請の紙を見つつ、ふと思い出す。

(確か『政府軍』が日本国の軍隊で、『自衛軍』が緋星自治区の軍隊で今はないやつだった。社長は元自衛軍って聞いたけど、紺族だよね)

 鷹羽は紺族なのに、なぜ緋星自治区の軍隊に居たのか。

(でも、鉄さんも紺族で元自衛軍なんだよな。何でだ?)

 思案する透をよそに、藍と碧は少々興奮気味に口を開く。

「すごーい! 有事の時はマジで来るんだ」

「俺達、軍を助けに旧緋星行くんですか?」

 鷹羽はそんな2人をたしなめる。

「最後まで読んで。『成人で軍所属歴や魔物駆除歴3年以上の者』! 君達は行かせられません」

「そっかぁ」

 残念がる2人に、鷹羽は続けた。

「これ大事だから透も聞いて。もし、魔物駆除中にやられて死んだり、危険な作業で下手うって死んだら、ここは即営業停止です。
場合によっては営業資格剝奪されて、廃業になります。従業員の命守れないとか、退治屋としてダメなの。だから君達、絶対死ぬなよ! 大事なのは命!」

 鷹羽は身振り手振りを交えて力説した。窓の外は雨風が酷くなっていた。



 鷹羽を始め、ベテラン従業員が駆り出された社内。補充人員として、非番だった者も全員出勤する事となった。丹が呟く。

「あーあ、折角の休みだったのに」

 事務室の電話が鳴り、藍が内容を伝える。

「菊咲が丘3丁目からです。老人ホームに雷系魔物出現」

 嶋が言う。

「外逃がせよ。水系虹力術使わんでも、弱体化出来るよ」

「出来ないから電話来てるんですよ。使える人、急行で」

「えー? おい、じゃあ丹も来い」

「俺すか?」

 嶋は乗り気じゃない丹を連れ、チャリオットを出発した。透は言った。

「こんなに天気悪くても、魔物出るんだね」

「まあね。雨強いと『水系』が元気になるから」

 藍が答えると、月斗も補足した。

「季節もあるよね。例年、あったかい季節は活発化して、冬は冬眠。逆に『冷気系』は冬になると出て来るし、地方ごとでも出現率違うよ。
東北・北海道は冷気系多くて火炎系少なく、沖縄は基本冷気系出ない」

 透は感心した。

「へえ…」

 納得いかない表情の碧が、腕組みして言った。

「それにしても…。再生プロジェクト、何年も前からやってたのに、何で今回襲われたんだろ?」

「そりゃあ、今年、『ならず年』だもん」

 藍が答えると、碧が尋ねる。

「何って?」

「うちの母親がね、12年に1度魔物の力が強まる当たり年があって、それが今年だって言ってた。ただの言い伝えだけどね。まあつまり、12年前もそうだった訳だよ」

 藍の言い方に透は少々引っ掛かるも、月斗は大きく頷いた。

「そういや先週、東南アジアのどっかで『血吸い』に人が襲われて死んだってニュースになってたな。血吸いなんかで普通死なないと思ったけど、そういうことか」

 その時、事務室の電話がまた鳴った。

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