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気になり過ぎる
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この齢になると、自分の最期はどうなるのか、最期に向けてどうすべきか、ふと考える事がある。
(昭和真っ只中世代だから、子供や孫に看取られる最期が1番幸せ、みたいなイメージがあるわね)
家族に迷惑をかけたく無いから、病院や施設での看取りを望む人。最期まで介護や病気と無縁で、ピンピンコロリを望む人。食事を摂れなくなったら延命せず終わりたい人。
理想の最期は、様々だ。
(寿命も伸びて医学の発達もあるから、『こういう死に方が良い』みたいに選べる様になった気もするわね)
生きたくても生きれない時代、『もしも』の話は縁起が悪いとタブー視された。
今は、逆に『もしも』について考えたり備えない方が『エグいて』にシフトされつつある状況か。
(あれ?この使い方で合ってるんだっけ)
記入内容と関係ない事を考えるゆず子は、いつもの珈琲店で首を傾げた。
「ガンちゃん、お疲れ様だったね~」
気が散りまくるゆず子の耳に届いたのは、隣のボックス席で話す若い女性2人だ。
「ようやく正月休みだよ。ルーちゃんもわざわざ寄ってくれてありがとう!」
「いいのいいの。今こっちのエリア担当になったから、全然平気」
(旧友と再会してる社会人、って感じね。今の時期に正月休みって事は、サービス業かしら)
ルーちゃんは口を開く。
「去年ヤバかったね。インフル大流行で」
「うん。入所者が1人感染したらスタッフ8人に拡大だもんね。正月休み無いまま働いてたよ」
「うちの店は今年の11月が1番ヤバかったな。どこの店舗も休んでる人居て、本社の部長が店舗に応援入ったぐらいだから」
ガンちゃんはそれを聞き、肩を竦めた。
「店舗に? エグいて!」
「でもさすが店舗上がりって言うのもあって、手際とかめっちゃいいのね。本人も『何年ぶりだろ、やっぱ店舗はいいねえ』とかテンション上がってるし」
「あはは! 一緒に働く方は気を遣うどころじゃないよね」
ガンちゃんとルーちゃんは笑い合った。するとガンちゃんは、急に低めのテンションで話し始めた。
「同期がさあ、とうとう2人だけになりました」
「え! 6人入ったのに?」
「そう。腰を壊した人も居るし、命を預かる重圧もあるし。入所者さんに感情移入し過ぎてメンタルやられた子も居て」
「介護業界って大変だもんね。頭上がらないよ」
(ルーちゃんはお店屋さん、ガンちゃんは介護業ね)
ゆず子は書類と関係無い事を反芻しつつ、珈琲に口を付けた。ルーちゃんは続けた。
「ガンちゃんのとこって、意外に人間関係のバチバチ無いよね? 辞めた同期、『体調不良』だけ?」
「そうだよ。うち、意外にスタッフ同士は悪くない。やっぱ、実際に見てみないと分かんない事ってあるよ~」
「あー、そういうのあるよね」
ルーちゃんが納得の口調で答えると、ガンちゃんは続けた。
「実はさ、もう他所に移ったんだけど、中学の時のおばちゃん先生が入所して来た事があったの」
「えー、すごい偶然! もうそんな齢なの?」
「72歳。あたしが中学の時に一度定年迎えたんだけど、再雇用って事で続けた人なんだ。ただ後で聞いた話では、あたしが卒業した次の年に倒れて、学校辞めたみたい」
「へえ、どんな先生だったの?」
「一言で言えば『説教ババア』だね。再雇用で続行って話聞いた時は、生徒みんな『マジかよ↓』みたいな」
「ああー、『愛されるおばちゃん先生』の真逆かぁ」
(確かに、そういう人居るわね。私も気をつけないと)
同じおばちゃんなら、嫌われるおばちゃんより好かれるおばちゃんがいい。ガンちゃんは続けた。
「説教でよく言ってたのは、『私の事が嫌いな人は、大体性格が歪んでるから嫌われても怖くない』と『優しい自分の家族の自慢』と『歴代の教え子は優しい子ばかりなのに、あなた達はどうしてこうなんだ』的な事かな」
「え、『優しい家族』はどうして先生を施設に入れたの?」
「そこだよ。何かね、入所で提出して貰った書類見たら、倒れる前から2人居る娘さんと疎遠だし、日常的な暴言多くて旦那さんが限界だったみたい」
「うひゃあ、裏側はこうだってやつだ!」
ルーちゃんは呆れたような楽しそうな声を上げた。ガンちゃんは続けた。
「半年入所してたんだけど、同室の人や介護者に対する暴言や物を投げつけたりが多くてね。病院や旦那さんやケアマネさんと協議して、精神科のある施設に移ったよ。
元からそういう気があったかもしれないけど、ヒステリーの域を超えてたね」
「ほんっと、マジでお疲れさん…」
「うん、もう慣れっこよ。面会者の数や頻度で、入所者さんのこれまでが垣間見えるね。看護師の知り合いも、『現役時代の肩書が立派だった人ほど、身内が面会に来ない』って言ってる」
「なるほど、家庭顧みずに仕事打ち込んだ結果、ってやつね。生活のためとは言え、何だかな…」
(窮地に手を差し伸べてくれる人が居るかどうかに、その人のこれまでの人間性が出るものよね。私、大丈夫かしら)
友達と思ってたのは自分だけだったり、良かれと思ってやってた事がただの独りよがりだったと知ったり。
ガンちゃんは言った。
「孫とか曾孫が面会に来る度に、せっせと小遣い渡す人居るね。大体は『あの世に持って行けないから』『これから色々掛かる人に持たすのが1番だから』だけど、『あげないとまた来てくれない』って人も居るよ」
「世知辛いねえ。まあ、あたしも覚えあるけど」
ルーちゃんは含み笑いした。
「そう言えば、ある入所者さんが施設の前を通ったお母さんと2歳くらいの子供を見て、『母ちゃんと息子に悪いことしたなあ。仕事ばかりで、息子があれぐらいの頃の記憶、全然無いんだ。1番可愛い頃だったのになあ』って言った事あってね」
「ああー、顧みたんだ。今になって、戻れないあの頃を」
ルーちゃんの言葉に力が入る。ガンちゃんは言った。
「そんで、3歳と1歳のお子さんが居る男の先輩介護士に『仕事大変かもしれないけど、ちゃんと構って世話してやれよ。今しか無いんだから』って力説しててね。
『そっか、色々な結果誰も来てなくて寂しいんだな』って思ったら、お孫さん割とマメに来てくれてる事が判明したのです」
「え、お孫さんを忘れてるって事⁉︎」
ルーちゃんはギョッとした声を上げる。ガンちゃんは首を振った。
「いいや。その入所者さんが定年した頃に、そのお孫さんが生まれて『あの頃ちゃんと出来なかった子育てをやるチャンスだ』みたいに思って、お孫さんの世話を積極的にやったんだって。
孫はおじいちゃん大好きに育ったけど、息子で味わった後悔は消えないから、啓蒙活動してるんだね」
「いい事や。実体験と実績があるから説教出来るのよ」
ルーちゃんは感心して、飲み物に口を付けた。ガンちゃんは言った。
「孫との関係が良くなくて『嫁が孫に悪口を吹き込んだから、自分を敬ってくれなくなった』みたいに言う人も居るのね。
孫も大人になったら、親が真実なのか自分の見知った事が真実なのか、大多数は判別つくもん。人のせいにしてる人は、大体自分の立ち振る舞いが悪い」
「分かる分かる。うちの後輩にもそういう子居る」
ルーちゃんが首がもげるほど頷くと、ガンちゃんはハッとしたように話を始めた。
「そう言えば前にすごい人居てね。もう亡くなった入所者のおじいちゃんなんだけど、毎回の様におばあちゃんが面会に来るから、『仲が良い夫婦なんだな、理想だなあ』って思ってたんだよね。
面会中はどっちもニコニコして楽しそうで。手を繋いで敷地を散歩したり、帰りも姿が見えなくなるまで手を振ったり」
「あら、いいねえ。熟年でラブラブだなんて」
「ある日、おじいさんが誤嚥性肺炎起こして入院する事になって、奥さんが呼ばれたんだけど、奥さんはいつも来てるおばあちゃんじゃなかったのです」
ガンちゃんの語りにルーちゃんが吹き出すと同時に、ゆず子もつられそうになったが、何とか堪えた。
持ち直したルーちゃんが尋ねた。
「何それ、愛人って事?」
「…奥さんの、妹」
ガンちゃんの言葉に、ルーちゃんはドン引きの様相だ。
「やだ、生々しい」
「丁度ね、おじいさんが入所した頃、奥さんも体調悪くて入退院繰り返してたらしいのね。お子さんは遠方に住んでてすぐ来れないし、そこで比較的近場に住む奥さんの妹さんが『キーパーソン』となってたのね。
担当してた主任は知ってたけど、あたし含めた他のスタッフ達は普通に奥さんだと思っててさ」
「えー、出来てるとしか思えないじゃん。2人いつから出来てたの?」
「わっかんない。でも入所直前とかじゃ無いよね、ずっと前からだったんじゃないかな。それこそ現役時代から」
「奥さん気づかないもんなの? 普通に修羅場案件じゃん」
ガンちゃんは首を竦めた。
「さあね、よそんちの事だしね。おじいさん、入院してすぐに亡くなったらしくて、それっきり分からないんだ。葬式とかその後で、一悶着無けりゃいいけど」
(浮気相手が顔を知ってる知人だったケースはたまに聞くけど、血の繋がった親族だなんて地獄の様な状況ね)
戦前や戦時中に、出征や病で早くに伴侶を亡くした場合、伴侶側の未婚の兄弟と再婚させる風習がかつてあったはと聞くが、全然比べるものではない。
ルーちゃんは感心した様に言った。
「外野だから言えるけど、実に色々だね。施設の中のイメージ変わった」
「うん、面白いよ。でもこないだ、入所者さんが掴み合いになって車椅子のじいさんが『ボケてるクセに!』って認知症のじいさんに言って、認知症のじいさんが『うるせえ、立てねえクセに!』って罵り合った時は、流石に頭痛くなった」
「やめてくれって感じだね」
ルーちゃんが思わず頭を抱えると、更にガンちゃんは言った。
「他にもいっぱいあるよ。入所してるおじいさんおばあさん同士でガチ恋したり、おばあさん2人がおじいさんを取り合いして恋愛バトルなったり、集団脱走を企てたおじいさんが居たり」
「何それ気になり過ぎる! 今日1日で終わんないじゃん」
(施設への入所って、そのまま人生の穏やかな終わりのイメージありがちだけど、そうでもないのよね)
老人が集まるとはいえ、そこはそのまま社会生活の場だ。色んな経歴を持つ人が居て、調和や軋轢の化学反応が起こるのは当然である。
(施設での最期…。想像出来ないけど、私の想像とはきっと違うんだろうな)
ゆず子の書類記入は、余計な事を考えてるせいでまだまだ終わらないのである。
(昭和真っ只中世代だから、子供や孫に看取られる最期が1番幸せ、みたいなイメージがあるわね)
家族に迷惑をかけたく無いから、病院や施設での看取りを望む人。最期まで介護や病気と無縁で、ピンピンコロリを望む人。食事を摂れなくなったら延命せず終わりたい人。
理想の最期は、様々だ。
(寿命も伸びて医学の発達もあるから、『こういう死に方が良い』みたいに選べる様になった気もするわね)
生きたくても生きれない時代、『もしも』の話は縁起が悪いとタブー視された。
今は、逆に『もしも』について考えたり備えない方が『エグいて』にシフトされつつある状況か。
(あれ?この使い方で合ってるんだっけ)
記入内容と関係ない事を考えるゆず子は、いつもの珈琲店で首を傾げた。
「ガンちゃん、お疲れ様だったね~」
気が散りまくるゆず子の耳に届いたのは、隣のボックス席で話す若い女性2人だ。
「ようやく正月休みだよ。ルーちゃんもわざわざ寄ってくれてありがとう!」
「いいのいいの。今こっちのエリア担当になったから、全然平気」
(旧友と再会してる社会人、って感じね。今の時期に正月休みって事は、サービス業かしら)
ルーちゃんは口を開く。
「去年ヤバかったね。インフル大流行で」
「うん。入所者が1人感染したらスタッフ8人に拡大だもんね。正月休み無いまま働いてたよ」
「うちの店は今年の11月が1番ヤバかったな。どこの店舗も休んでる人居て、本社の部長が店舗に応援入ったぐらいだから」
ガンちゃんはそれを聞き、肩を竦めた。
「店舗に? エグいて!」
「でもさすが店舗上がりって言うのもあって、手際とかめっちゃいいのね。本人も『何年ぶりだろ、やっぱ店舗はいいねえ』とかテンション上がってるし」
「あはは! 一緒に働く方は気を遣うどころじゃないよね」
ガンちゃんとルーちゃんは笑い合った。するとガンちゃんは、急に低めのテンションで話し始めた。
「同期がさあ、とうとう2人だけになりました」
「え! 6人入ったのに?」
「そう。腰を壊した人も居るし、命を預かる重圧もあるし。入所者さんに感情移入し過ぎてメンタルやられた子も居て」
「介護業界って大変だもんね。頭上がらないよ」
(ルーちゃんはお店屋さん、ガンちゃんは介護業ね)
ゆず子は書類と関係無い事を反芻しつつ、珈琲に口を付けた。ルーちゃんは続けた。
「ガンちゃんのとこって、意外に人間関係のバチバチ無いよね? 辞めた同期、『体調不良』だけ?」
「そうだよ。うち、意外にスタッフ同士は悪くない。やっぱ、実際に見てみないと分かんない事ってあるよ~」
「あー、そういうのあるよね」
ルーちゃんが納得の口調で答えると、ガンちゃんは続けた。
「実はさ、もう他所に移ったんだけど、中学の時のおばちゃん先生が入所して来た事があったの」
「えー、すごい偶然! もうそんな齢なの?」
「72歳。あたしが中学の時に一度定年迎えたんだけど、再雇用って事で続けた人なんだ。ただ後で聞いた話では、あたしが卒業した次の年に倒れて、学校辞めたみたい」
「へえ、どんな先生だったの?」
「一言で言えば『説教ババア』だね。再雇用で続行って話聞いた時は、生徒みんな『マジかよ↓』みたいな」
「ああー、『愛されるおばちゃん先生』の真逆かぁ」
(確かに、そういう人居るわね。私も気をつけないと)
同じおばちゃんなら、嫌われるおばちゃんより好かれるおばちゃんがいい。ガンちゃんは続けた。
「説教でよく言ってたのは、『私の事が嫌いな人は、大体性格が歪んでるから嫌われても怖くない』と『優しい自分の家族の自慢』と『歴代の教え子は優しい子ばかりなのに、あなた達はどうしてこうなんだ』的な事かな」
「え、『優しい家族』はどうして先生を施設に入れたの?」
「そこだよ。何かね、入所で提出して貰った書類見たら、倒れる前から2人居る娘さんと疎遠だし、日常的な暴言多くて旦那さんが限界だったみたい」
「うひゃあ、裏側はこうだってやつだ!」
ルーちゃんは呆れたような楽しそうな声を上げた。ガンちゃんは続けた。
「半年入所してたんだけど、同室の人や介護者に対する暴言や物を投げつけたりが多くてね。病院や旦那さんやケアマネさんと協議して、精神科のある施設に移ったよ。
元からそういう気があったかもしれないけど、ヒステリーの域を超えてたね」
「ほんっと、マジでお疲れさん…」
「うん、もう慣れっこよ。面会者の数や頻度で、入所者さんのこれまでが垣間見えるね。看護師の知り合いも、『現役時代の肩書が立派だった人ほど、身内が面会に来ない』って言ってる」
「なるほど、家庭顧みずに仕事打ち込んだ結果、ってやつね。生活のためとは言え、何だかな…」
(窮地に手を差し伸べてくれる人が居るかどうかに、その人のこれまでの人間性が出るものよね。私、大丈夫かしら)
友達と思ってたのは自分だけだったり、良かれと思ってやってた事がただの独りよがりだったと知ったり。
ガンちゃんは言った。
「孫とか曾孫が面会に来る度に、せっせと小遣い渡す人居るね。大体は『あの世に持って行けないから』『これから色々掛かる人に持たすのが1番だから』だけど、『あげないとまた来てくれない』って人も居るよ」
「世知辛いねえ。まあ、あたしも覚えあるけど」
ルーちゃんは含み笑いした。
「そう言えば、ある入所者さんが施設の前を通ったお母さんと2歳くらいの子供を見て、『母ちゃんと息子に悪いことしたなあ。仕事ばかりで、息子があれぐらいの頃の記憶、全然無いんだ。1番可愛い頃だったのになあ』って言った事あってね」
「ああー、顧みたんだ。今になって、戻れないあの頃を」
ルーちゃんの言葉に力が入る。ガンちゃんは言った。
「そんで、3歳と1歳のお子さんが居る男の先輩介護士に『仕事大変かもしれないけど、ちゃんと構って世話してやれよ。今しか無いんだから』って力説しててね。
『そっか、色々な結果誰も来てなくて寂しいんだな』って思ったら、お孫さん割とマメに来てくれてる事が判明したのです」
「え、お孫さんを忘れてるって事⁉︎」
ルーちゃんはギョッとした声を上げる。ガンちゃんは首を振った。
「いいや。その入所者さんが定年した頃に、そのお孫さんが生まれて『あの頃ちゃんと出来なかった子育てをやるチャンスだ』みたいに思って、お孫さんの世話を積極的にやったんだって。
孫はおじいちゃん大好きに育ったけど、息子で味わった後悔は消えないから、啓蒙活動してるんだね」
「いい事や。実体験と実績があるから説教出来るのよ」
ルーちゃんは感心して、飲み物に口を付けた。ガンちゃんは言った。
「孫との関係が良くなくて『嫁が孫に悪口を吹き込んだから、自分を敬ってくれなくなった』みたいに言う人も居るのね。
孫も大人になったら、親が真実なのか自分の見知った事が真実なのか、大多数は判別つくもん。人のせいにしてる人は、大体自分の立ち振る舞いが悪い」
「分かる分かる。うちの後輩にもそういう子居る」
ルーちゃんが首がもげるほど頷くと、ガンちゃんはハッとしたように話を始めた。
「そう言えば前にすごい人居てね。もう亡くなった入所者のおじいちゃんなんだけど、毎回の様におばあちゃんが面会に来るから、『仲が良い夫婦なんだな、理想だなあ』って思ってたんだよね。
面会中はどっちもニコニコして楽しそうで。手を繋いで敷地を散歩したり、帰りも姿が見えなくなるまで手を振ったり」
「あら、いいねえ。熟年でラブラブだなんて」
「ある日、おじいさんが誤嚥性肺炎起こして入院する事になって、奥さんが呼ばれたんだけど、奥さんはいつも来てるおばあちゃんじゃなかったのです」
ガンちゃんの語りにルーちゃんが吹き出すと同時に、ゆず子もつられそうになったが、何とか堪えた。
持ち直したルーちゃんが尋ねた。
「何それ、愛人って事?」
「…奥さんの、妹」
ガンちゃんの言葉に、ルーちゃんはドン引きの様相だ。
「やだ、生々しい」
「丁度ね、おじいさんが入所した頃、奥さんも体調悪くて入退院繰り返してたらしいのね。お子さんは遠方に住んでてすぐ来れないし、そこで比較的近場に住む奥さんの妹さんが『キーパーソン』となってたのね。
担当してた主任は知ってたけど、あたし含めた他のスタッフ達は普通に奥さんだと思っててさ」
「えー、出来てるとしか思えないじゃん。2人いつから出来てたの?」
「わっかんない。でも入所直前とかじゃ無いよね、ずっと前からだったんじゃないかな。それこそ現役時代から」
「奥さん気づかないもんなの? 普通に修羅場案件じゃん」
ガンちゃんは首を竦めた。
「さあね、よそんちの事だしね。おじいさん、入院してすぐに亡くなったらしくて、それっきり分からないんだ。葬式とかその後で、一悶着無けりゃいいけど」
(浮気相手が顔を知ってる知人だったケースはたまに聞くけど、血の繋がった親族だなんて地獄の様な状況ね)
戦前や戦時中に、出征や病で早くに伴侶を亡くした場合、伴侶側の未婚の兄弟と再婚させる風習がかつてあったはと聞くが、全然比べるものではない。
ルーちゃんは感心した様に言った。
「外野だから言えるけど、実に色々だね。施設の中のイメージ変わった」
「うん、面白いよ。でもこないだ、入所者さんが掴み合いになって車椅子のじいさんが『ボケてるクセに!』って認知症のじいさんに言って、認知症のじいさんが『うるせえ、立てねえクセに!』って罵り合った時は、流石に頭痛くなった」
「やめてくれって感じだね」
ルーちゃんが思わず頭を抱えると、更にガンちゃんは言った。
「他にもいっぱいあるよ。入所してるおじいさんおばあさん同士でガチ恋したり、おばあさん2人がおじいさんを取り合いして恋愛バトルなったり、集団脱走を企てたおじいさんが居たり」
「何それ気になり過ぎる! 今日1日で終わんないじゃん」
(施設への入所って、そのまま人生の穏やかな終わりのイメージありがちだけど、そうでもないのよね)
老人が集まるとはいえ、そこはそのまま社会生活の場だ。色んな経歴を持つ人が居て、調和や軋轢の化学反応が起こるのは当然である。
(施設での最期…。想像出来ないけど、私の想像とはきっと違うんだろうな)
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