鳴瀬ゆず子の社外秘備忘録 〜掃除のおばさんは見た~

羽瀬川璃紗

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Z ※犯罪描写あり

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 『最近の若者なんて、』と言う言葉は、紀元前から言われていたという。
 つまり、『最近の若者は~』などとのたまう年配者も、若い頃は更に当時の年配の人から、同じ事を言われていたのだ。



(確か私の同年代は『しらけ世代』とか、言われていたわね)

 『○○世代』という言い方に疑問はあるものの、生まれた年代で趣味嗜好や考え方に共通点があるのは事実だ。

(みんな違う親から生まれて、育った場所も違うのに、何か似ているものなのよね)

 時に敵対する要因にもなるが、ゆず子は異なった考え方を学べるいい機会と思っている。

「あれ? 赤石店長って『ゆとり世代』ですか?」

 唐揚げ屋従業員:間渕がカップ麵をすする赤石に問うと、首を大きく振った。

「いや。『ゆとり』は俺よりもうちょっと下。5,6個下ぐらいかな」

「そっか、『ゆとり世代』ってもうそういう齢なんですね」

 間渕の発言に、赤石は苦虫を嚙み潰したような顔をした。

「何だよ、人をジジイ扱いして」

「いえいえ。そういう意味じゃないっす」

 2人のやりとりに思わず笑ったゆず子が、口を挟む。

「そういう間渕さんは『Z世代』ってやつだっけ?」

「そうっすね、『Z』らしいです」

 間渕が頭を掻いて答えると、赤石は言った。

「まあ、『ゆとり』って出始めは結構大きく話題になったけど、俺の周りでは言うほどヤバイ奴は居なかったな」

「『円周率を3.14ではなく3』で習った世代ってイメージよね。ちゃんと挨拶する子も居れば、礼儀がしっかりしてる子もいっぱい居るし」

 ゆず子も言った。

「むしろ、『ゆとり』以外の世代でも普通にヤバイ奴居るよね。いい大人なのにおかしな事、やらかすやつ」

 赤石の言葉にゆず子も大きく頷いた。

「そうそう」



 別の日。ゆず子がトイレ掃除をしていると、用を済ませた間渕が個室から出てきた。

「お疲れ様です」

「お疲れ様です~」

 手を洗った間渕は、何かを思い出し、こんな事を言ってきた。

「鳴瀬さんて、ウチのお店の塚田って分かりますか?」

「塚田さん? …うーん、どんな子なの?」

「専門学校1年の男子です。基本土日だけで」

「あー、平日居ないんじゃ、ちょっと分からないわね。その子がどうしたの?」

「そいつがね、結構ヤバい奴なんです。働き始めて間もなくに、初任給の給与明細をSNSにアップしたんですよ」

 ゆず子は目を瞬かせた。

「給与明細? 何でまた?」

「本人が言うには、『友達から載せて』って言われたから載せたって言うんですけどね。本社の人がたまたま見つけて、厳重注意受けたんです」

「そりゃあ、怒られるわね」

 ゆず子が苦笑すると、間渕はこう言った。

「何か他にも、製造マニュアル無視で作った物をお客さんに売っちゃったとか、釣銭を何故かエプロンのポケットに入れてたとか、ヤバいんです。赤石店長が『ああいうのが【Z世代】なの?』って言ってて」

「Z世代ねえ…。でも、その子はちょっと違うかな?」

 ゆず子が苦笑すると、間渕も口を尖らせた。

「そうなんですよ。とばっちりですよ、同じZ世代からしたら」



 それから半月後。出勤したゆず子は館内設備担当者から連絡を受けた。

「先日、閉店後に飲食の店舗さんで、共有スペースのカーペット床を廃棄物で汚染する事案が発生しました。汚染箇所は専門業者さんに対応してもらいましたが、業務中に発生したり発見の場合は、事務局まで報告願います」

 フードコート内で客が飲食物を床に溢した、なら通常業務の範囲だが、店舗から出たゴミでの汚染の場合、種類によっては通行止め案件なのだ。

(魚のアラとかだと、業者用の消臭薬剤が必要になるのよね。何を溢したんだろ?)

 該当箇所には、うっすらと茶色いシミが点々と残っていた。

(油かな?廃油っぽい)

 何となく下を見ながら掃除をしていると、反対側である向こうから、同じように下を見ながら進んでくる人間が居た。赤石だった。

「あ、お疲れ様です」

「お疲れ様です。…やっぱこれ、目立つよね」

 赤石は渋い顔をしていた。ゆず子は言った。

「これ、どこの店舗だったんですかね」

「…すんません、ウチです」

 赤石は、げっそりした様子で答えた。

「あ、あら。そうだったんですね」

「ウチのバイトでアホな奴がいて、閉店後の片づけ中にやらかしたんですよ。はあーあ」

 赤石は盛大な溜息をついた。

「大変ですね、クリーニング代とか取られますよね」

「何でこうなったと思います? うっかり廃油缶の固定を忘れた、じゃないんですよ」

「違うんですか?」

「ゴミ運搬中に、ここで『ダンス動画』の自撮りをしたんですって」

「はあ?」

 思わずゆず子は、声が大きくなった。赤石はこめかみをさすった。

「急に思い立って、自撮りして踊ってみたら、缶を倒しちゃったんだって。流した音楽に気付いた警備さんが来て、騒ぎになった。もう、ありえないし。昨日付けで解雇したよ」

(もしかして、例の彼かしら)

 ゆず子は思ったが赤石の憔悴ぶりを見てると、とてもじゃないが質問はできなかった。



 次の出勤日。フードコート側の唐揚げ屋の傍を掃除していると、会話が聞こえてきた。

「あれ? 塚田⁈」

 さり気なく振り返ると、唐揚げ屋の返却口の所に、若い男が立っていた。

「お疲れ様です~。制服の返却に来ました」

 小柄で黒髪の10代と思しき少年は、笑いつつ紙袋を唐揚げ屋の従業員に差し出す。受け取った女性従業員は険しい顔をした。

「ほんっと馬鹿だね、あんたは。赤石さん休憩行っちゃったよ? 行って謝って来なよ!」

「いやいや、いま行ったら殺されますよ。居ないの分かったから、返しに来たんすよ」

 塚田は始終ニヤニヤしている。恐らく、赤石が休憩に行くのをフードコート内の何処からか見ていて、タイミングを見計らったのだろう。

「学校も単位ヤバいんでしょ? これを機にちゃんと勉強しろよ~」

「いや、学校は辞めるんすよ。で、新しいバイトも、もう決まってるんで」

 女性従業員は顔をしかめた。ゆず子も同じ表情になりそうだった。

「親不孝だね、あんたは。せめて真面目に働けって」

「ああもう、真面目にやるつもりっすよ。簡単なバイトなので余裕っす。今日もね、これから新幹線で福島行かなくちゃならないんすよ」

「新幹線で福島?」

「はい、駅で人からお金を渡されるんで、それ持ってバ先に行くって言う」

「『はあ?』」

 女性従業員と、ゆず子の動きが固まる。塚田は従業員通路の出入り口を見て、ハッとする。

「やべ。店長来た。じゃ、俺はこれで~」

 塚田は逃げる様に帰った。



(バイトって、何なんだろう?人から渡されたお金を、持って行く?)

 次の出勤日。思い出したゆず子は首を傾げつつ移動する。従業員トイレの前で、間渕と会った。

「あ、お疲れ様です」

「お疲れ様です。…塚田くんて人、こないだ初めて見かけたよ。すごいわね、色々やらかしたのね」

 ゆず子が言うと、間渕は辺りを見渡して耳打ちするように話した。

「あいつ、こないだ大怪我して、ウチの店に遊びに来たんですよ」

「大怪我?」

「そう。顔とか腫れてて、絆創膏で手当てしてるし、腕も折れたとかでギプスしていて。仲良かった子に借りてた何か返すために、そんなでも来たらしくて」

「何で怪我したの?」

「何かね、闇バイトに手を出したみたいなんだよね、多分。で、バカだから『闇バイト中』に『闇バイトなう』的な画像とSNS投稿をして。バレて殴られたみたいですよ、結局警察に書き込みのせいで見つかって、闇バイトの他の仲間と一緒に捕まったんだって。わざわざ自慢げに話してた」


 『バカ』は、悪事の場面からも必要とされないのかもしれない。とはいえ、1つの犯罪集団を検挙に至らせたのは、彼の最大の功績なのか。

 彼が賢くなるよりも、心を入れ替えちゃんと大人になるのを、ゆず子は人知れず願うのだった。

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