我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

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52 不運

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 『丁寧な生活』と聞くと思い出す、真逆な人の話。


 20代前半の頃に勤めていた職場に、カネコさんというおばちゃんが居た。
 懇親会で「あたしコレ嫌いだからあげる」と言い、仕出し膳のおかずを直箸で私の皿にぶっこんで来たのが出会いだった。

 細かい事を気にしないが、面倒くさがりでデリカシーが微妙に足りない、そんな人だ。


 実は苦労人らしい。
 実家は良い家柄で、大学までお嬢様学校。30近くまで好き勝手していたが、会社経営者だった父親の急逝後、坂を転げ落ちる様な人生になったとか。


「父親の死後に傾いた会社を任せられても、箱入り娘なもので何も出来ないから、とりあえず夫と結婚したのね。でも夫が『畑が違うから俺は立て直せない』ってごねて、会社畳む為に債務整理よ。
人に頼んだら、お金ごっそりだまし取られちゃった。実は悪い奴だったのね。心労で母も死んじゃって…。
実家も家財も全て売って、何も残らなかったわ」

 職場の慰安旅行で同室になった時、カネコさんの生い立ち話を聞いた。

「夫は新婚の頃から酒癖が悪くって。物は壊すし、怒鳴るし。1人息子はお陰で繊細過ぎる子に育って、学校休み気味で今も引きこもって、職に就けてない。
4年前に夫がガンで死んだけど、当時借りてた治療費を若くもない身体に鞭打って働いて、今も返済中よ。
生活費を切り詰めて宝くじ買うけど、余裕なくて1度に3枚しか買えないから、まあ当たらん!
本当、ツイてない人生よ。親子2人何とか食べているけど、お先真っ暗よ~」


 流れで、夕食兼宴会の時も隣同士の席だった。ビンゴゲームのカードを渡されたカネコさんは、溜息をついた。

「当たる訳ないし、やりたくないなぁ。昔から『お菓子の当たりくじ』すら当たった事無いのよ。運悪いから」

「大げさねえ、カネコさんたら!」

 私を挟んで隣のおばちゃんが言うと、カネコさんは真面目な顔をした。

「本当よ。子供の頃にガムを買って、食べる前に友達と交換したら、その子が当たったってくらい当たった事無いの」

 半信半疑だったが、結果。

 開始すぐ、カネコさんの携帯に着信。カネコさんは通話の為、カードを私と隣のおばさんに預け席を立った。
 息子さんの急病で、カネコさんが急遽帰宅する事になった直後、彼女のカードがビンゴになった。

「…本当にツイてない人なのね」

 私とおばちゃんは逆に感心した。


 それからも、カネコさんのツイてない場面を目にする事があった。呪われているかの如く、タイミングが悪いのだ。


 その後、カネコさんが検査入院した。だが、1週間経っても2週間経っても出勤しない。
 同じ部署のおばさんから、こっそり打ち明けられた。

「カネコさん、心臓の手術を受けたらしい」

「え? 検査じゃなかったんですか?」

「検査入院だったんだけど、急遽手術になって。それで、意識がなかなか戻らなくて、最近やっと戻ったんだって。…もうこのまま辞めると思う」

「そうなんですね…」

「…カネコさんね、藪医者にかかってたの。『よそ行った方いい』って皆が言ったのに、『探すの面倒だから』ってずっと通ってて。酷くなるまで見逃されたのよ」

「『ツイてない』が、またそこで発揮されたんですかね…」

 だがおばさんは、私の言葉にこう言った。

「みんな…、カネコさんも『ツイてない』って言ってたけど、私はそう思わないよ?」

 おばさんは続けた。

「箱入り娘でも、父親の会社の債務整理を人任せじゃなく、ちゃんとした人を調べて頼めば、実家手放さずに済んだかもしれないし。
旦那さんを『酒乱でハズレだ』言ってたけど、傾いた会社の立て直しさせる為っていう理由で選んだのは、紛れもなくカネコさんだよね」


 例えば…、結婚前に夫の酒乱も立て直し能力が無いのも、きちんと見極めていたら?
 癌治療での借金も、ガン保険加入や健康保険の各種申請で最小限に出来たかも?
 生活費を切り詰めて買う宝くじも、買わずに違う事に使えば、より良い生活が送れたかも?


 彼女がツイてなかったのは、目先の考えで適当に選んだせいなのか。

 おばさんはため息をついた。

「…『ちゃんと考える』。面倒でも、やらなきゃいけない事なのにね」


 翌週、カネコさんは退職した。彼女がどうなったか、今の私に知る術は無い。

 そして、彼女ほど運の悪い人にも、今までに会った事も無い。


 自分の人生を都度考え、きちんと行動する。至極当然の事ながら、『丁寧』に通ずるものがあるかもしれない。

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