我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

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56 彼の名刺

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 3月11日に東日本大震災が発生し、約1ヶ月後の4月7日、最大震度6強を記録する最大規模の余震があった。

 震災で壊れた物を片付けているさなかの大きい余震で、また新たに壊れた物を片付ける羽目になり、グッタリしたのを覚えている。


 前振りはこの辺で、一緒に働いてた人から聞いた話。


 シノブさんはの息子2人と旦那さんと暮らす、サバサバした女性だ。
 次男が中学生の時、ユキヤと言うとても仲の良い親友が出来て、その母親とも家族ぐるみの付き合いをする程に仲良くなったという。

 ユキヤは、シングルマザーで苦労人の母を支える優しくしっかりした少年で、シノブさんと旦那さんもまるで『3人目の息子』の様に接していたという。

 ユキヤが大学に進学した時、彼の母親に重病が見つかった。治療の甲斐なく3年後に亡くなり、家族同様の付き合いだったシノブさん一家も、深い悲しみに暮れた。

 ユキヤは母の死にもめげず、小さいが県内の企業へ就職内定した。内定の際はシノブさん一家総出で、ユキヤをお祝いし喜んだらしい。


 内定から1年が経ったある時、未曾有の大災害が襲った。東日本大震災だ。
 シノブさん一家は東京で働いてた長男を含め全員無事だったが、ユキヤの安否は不明となった。

 ユキヤは当時勤務中で、沿岸部での営業回りをしていたと推測された。ユキヤは1週間経っても2週間経っても、安否不明のままだった。


 当時は、着の身着のままで避難したり、流されながらも命からがら生還したケースがあり、携帯電話の充電が出来なかったり、水没したとか紛失した場合もざらにあった。
 だが、携帯電話がダメでも本人が無事ならば、関係各所に何らかの連絡がある場合がほとんどだった。

 実際見聞きした話でも、3日かけて自力で帰宅したり、避難所や病院経由など人づてで安否が判明した事もあった。


 健康な成人男性が、2週間以上も安否不明と言う事で、シノブさん一家も他の友人や会社関係者も、色んな避難所や病院をあたったが、何の手掛かりも得られなかったという。


 そして、冒頭でも触れた最大規模の余震が襲った。
 津波の警報が出され、避難所から自宅に戻った人々も再避難するほどだったのを、私もよく覚えている。


 明くる日、シノブさんは余震で散らかった物品を片付けていた。
 見慣れない物を見つけて拾いあげると、それはユキヤが昨夏にくれた名刺だった。

『研修期間が終わって、ようやく名刺を持つ事になった』

 初めての名刺が嬉しかったユキヤが、シノブさんにくれた物だった。

(こんな所にしまったかな。確か私の財布に入れてたと思うんだけど…)

 ユキヤの名刺が、身に覚えのない所から出現したという。


 それから半日後、シノブさんの次男の所に、ある一報がもたらされた。
 震災犠牲者の遺体安置所で、物言わぬユキヤを発見したとの連絡だった。


 営業回りの途中で大津波に巻き込まれたユキヤは、最大余震の前日に沿岸部から程近い場所で見つかり、安置所に運ばれていたそうだ。



「我が子の様に可愛がっていた子の葬式ほど、最悪なものは無いよ。ショック過ぎて、記憶もおぼろげになったんだから。
名刺が出て来たのは、あの子が『もうすぐ会えるから、心の準備をしててね』って教えてくれたのかもしれないって思うんだ。
勝手な解釈かもしれないけど、優しい子だったから」

 シノブさんは寂しそうに笑うと、そう話してくれた。

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