我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

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61 虫退治

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 私には、とある記憶がある。


 3歳くらいの頃、母と母方祖母と、当時赤子だった妹と共に、知らない爺さんの家に訪問した記憶だ。

 爺さんはとても穏やかで気さくで、私にも茶菓子を振舞ってくれた。しばし母親達と雑談した後、奥の部屋に通された。
 仏間の様だが、仏壇(祭壇?)やその周辺にある仏具(盆提灯みたいなやつ)はうちのと比べるとゴージャスで、とてもピカピカしていた。

 爺さんは私達を座らせると、私と妹の掌に墨を付けた筆で何かを書いた。文字の様だが見た事ない記号の様で、今考えるとそれは梵字みたいな気がする。

 その後、爺さんは何やら文言を唱えて御祈禱の様な事を始めた。妹が怖がって泣いてしまったが、御祈禱は続行。
 途中で休憩し、また掌に同じ様な文字を書いて御祈禱、その後は帰宅した。

 母親らは、にこやかに会話していたのでその爺さんは親戚だと思った。なのでその内、またあの家に行くのかなと思ったが、爺さんの家に行ったのはそれっきりだった。


 小学校1年くらいにふと、その事を思い出した私は、母に尋ねた。

「妹が赤ちゃんの頃に、1回だけ知らないおじいさんの家に行ったけど、あの人は親戚なの?」

「1回だけ行ったおじいさんの家? どんな?」

「あの、掌に筆で文字書いて、拝んでた人」

 私が言うと、母はハッとして言った。

「ああ! あの人は『疳の虫かんのむし退治』の拝み屋さんで、親戚じゃないよ」

「え、そうなの?」

 当時、『宇○救命丸』のCMが流れてたりで、何となく『疳の虫』を知っていた私は、『虫退治』よりも『親戚じゃなかった』事に驚いたのを覚えている。


 ここで疳の虫とは。
 乳児の夜泣き・かんしゃくなどの現象を、『架空の悪い虫の仕業』として考えたもので、その虫が『疳の虫』(ざっくりですみません)。
 『架空の虫』ではあるが、民間の拝み屋さんで退治を行なっている人も居るらしい。


 『疳の虫退治』が次に話題に上がったのは、私が小学6年生のこと。

 友人と漫画本を持ち寄り、自宅で読み合いっこをしていた。
 友人が持って来た漫画本の中に、『地獄先生ぬ~べ~』があり、その中で5コマぐらいのエピソードとして『疳の虫退治』が載っていたのだ。

「あ! これ知ってる。『疳の虫退治』受けた事あるよ」

「え?! 嘘?」

「ほんとに? どんなんだった?」

 そこで私は母を呼び、皆で詳しく話を訊く事になった。


【どんな事をした?】

母「『疳の虫退治』にあたって、普段の生活状況を説明した。次女(妹)は赤ちゃんなので仕方ないけど、長女(私)は赤ちゃん時代から夜泣きや夜間の泣きぐずりが酷く、3歳になった現在もあると説明した。
塩水を混ぜて摺った墨で、掌に何かを書いて拝む。2回やったのは、1回目の疳の虫の『出』が悪かったから、仕切り直した」

【疳の虫は出たのか?どんな物体だったのか?】

母「細くて白っぽい糸状。『ぬ~べ~』に描いてある程ハッキリしてない。あえて言うなら、『タオルの繊維みたいなパヤパヤしたもの』が、指と爪の間辺りから少量出て、それを濡れ布巾で拭い取った」

【疳の虫退治の効果はあったのか?】

母「何か、変わらんかった。気休めだったかも?」

【「疳の虫退治」をしたのはどんな人か?】

母「隣の市に住む、兼業で拝み屋さんをしてる人だった。平成になる前の年に、高齢を理由に拝み屋を辞めたらしいので、いま何をしてるかは知らない。
ちなみに母方祖母の知人から紹介を受けた」


 と、いう感じで興味深い話を皆で聞いた。

 しばらくの間、友人間で私は『疳の虫退治を受けた(が、退治しきれぬ量の疳の虫を持っていた)女子小学生』として、一目置かれていた。


 現在も『疳の虫退治』はあるのだろうか?ネット全盛期の令和の時代に…。

 でも乳児や低年齢児の夜泣きは、親のメンタルや体力をゴリゴリに削るものだ。
 どんな形でも、例えただのプラセボだったとしても、『これをやったからここからマシになる!』という展望は心を軽くし、支えてくれる。


 『疳の虫退治』と聞くと、私は太古の昔から続く『赤ちゃんの夜泣き対策』の様に思えて、ノスタルジックさと微笑ましさを感じてしまうのである。

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