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68 妄言 ※目の不自由な人への虐め表現あり
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実はすごいかもしれない人の話。
友人:マホの勤めた職場に、繁忙期だけ入る非常勤のおばちゃんが居た。
トキエさんと言うその方は、社長の従姉で当時70代後半くらいだったか。齢の割に機敏に動く小柄な人で、休憩時間によくお菓子をくれたという。
ある時の休憩中の時。当時定年間近だったクリタさんが、こんな話をした。
「旦那の妹が本当に嫌い」
彼女の旦那さんには未婚の妹が居て、嫁いだ当初からずっと同居生活をしていた。
義妹さんは幼い頃の大病が原因で失明し、その為に結婚する事なく、実家生活だったのだが。
「とにかくソリが合わない。人のやる事成す事文句言って来るし、姑と舅も甘やかして育てたもんだから、やってもらって当たり前の態度だし。来年には定年迎えるから、嫌でも顔を合わせる時間が増えるでしょ? 今から憂鬱なの」
クリタさんは、つらつらと長年の苦労を話した。まだ小娘だったマホは、『嫁姑問題は聞くけど仲が悪い嫁と小姑もあるんだな』と感心しつつ聞いていた。
「この前もね、テレビでビーフシチューの美味しい作り方を見かけて、試しに作ってみたら、1口食べて『これは何?犬のエサの味がするよ』ですって! 失礼しちゃう」
するとトキエさんが不意に言った。
「…ねえ、あなた。あんまり苛めるのも、大概にした方がいいわよ」
皆は何の話?とハテナマークが浮かび、静まり返った。クリタさんは、首を竦めた。
「『苛める』? 逆ですよ、嫌味言われて…」
「…混ぜたでしょ?」
トキエさんは顔色も変えずそう言うと、席を立った。
トキエさんの気に障る言い方をクリタさんがしたかと思ったが、別のパートのおばちゃんがこそっとマホに教えてくれた。
「あの人、少し『視える』んだよ」
「え、そうなんですか?」
「少し前から、『クリタさん、義妹を苛めるの今の内にやめないと、身内が同じ目に遭うよ』って、こぼしてた」
トキエさんはクリタさんに『警告』をしたのだ。
時は流れ。クリタさんが定年退職をする2ヶ月前に、義妹さんは持病の悪化で起きた合併症で急逝した。
「片付いてせいせいした!」
笑顔で同僚に語ったクリタさんだったが、義妹さんの新盆前に、お孫さんが交通事故に遭い、目に大怪我を負った。
失明は免れたが、片方の目の視力はかなり弱くなってしまったという。
「うーん、やっぱり業が深いわね」
トキエさんは話を聞いた時に、そんな風に言っていた。
またある時。職場の先輩:イチガヤと恋バナをしていた。
「付き合って5年の今彼と結婚したいんだけど、まだ結婚したくないって渋られてさぁ。若いママに憧れてるから、早く結婚したいの」
「いいですよね、『若いお母さん』って」
するとトキエさんは、お菓子を手渡しつつ言った。
「イチガヤさん、無理して結婚する必要は無いよ」
「何でですか、『まだ若い』からですか? でも自分もう25ですよ」
トキエさんはイチガヤ先輩の問いには答えず、今度はマホに。
「あなたは、イイと思ったらすぐ決めなさい」
と言った。
イチガヤ先輩は数ヶ月後、こっそり妊活をして『授かり婚』へ持ち込み寿退職した。ところが、子供が生後3ヶ月の時に夫に不倫され、離婚した。
その後、精神状態がかなり不安定になり、子供を施設へ預けたらしいという真偽不明の噂を聞いた。
マホは旦那さんと出会った時感じるものがあり、『絶対この人と結婚したい』と強い意志でいて、結婚までスムーズに進んだ。
トキエさんは『じっくり霊視する』タイプではなく、話していて『スポット的に不意に視える』タイプの様だ。
時は流れマホは転職し、そこの職場との接点がほとんど無くなった。
何年か過ぎたある時、仲が良かったパートのおばちゃんと、買い物中にたまたま顔を合わせた。
「あら、久しぶり! 覚えてる? 私のこと」
「お久しぶりです! わあ、懐かしい。元気でした?」
しばらく、誰が辞めた誰が結婚したなどと近況を教えてられていると、おばちゃんはこんな話をしてきた。
「そう言えばトキエさん、覚えてる? 去年亡くなっちゃったのよ、老衰だって」
「あらー、そうだったんですね」
「亡くなる半年前まで会社に来てたんだけどさ、作業中に急に『洪水で濡れると大変』って、荷物を棚の上とかに乗せ始めるから、『ちょっと認知能力怪しいね』って皆で言っていたの。そんな矢先に認知症って診断されて。まあ、90近かったからね」
トキエさんは介護が必要になって、1ヶ月ぐらいで旅立ったという。
機敏に動き『いやいや、ボケる暇が無いわ』と軽口を叩いていた、晩年そのものの最期だった。
翌年、大震災と大津波が発生した。マホの元職場は浸水したものの、建物の流出までは至らなかったらしい。
「トキエさんは認知症じゃなくて、会社が浸かるって視えてたのかな。接点無かったから仕方ないけど、もっといろいろ話してみたかった」
マホは、アーモンドの乗ったチーズおかきの袋菓子を見つつ、懐かしんで話をしてくれた。
友人:マホの勤めた職場に、繁忙期だけ入る非常勤のおばちゃんが居た。
トキエさんと言うその方は、社長の従姉で当時70代後半くらいだったか。齢の割に機敏に動く小柄な人で、休憩時間によくお菓子をくれたという。
ある時の休憩中の時。当時定年間近だったクリタさんが、こんな話をした。
「旦那の妹が本当に嫌い」
彼女の旦那さんには未婚の妹が居て、嫁いだ当初からずっと同居生活をしていた。
義妹さんは幼い頃の大病が原因で失明し、その為に結婚する事なく、実家生活だったのだが。
「とにかくソリが合わない。人のやる事成す事文句言って来るし、姑と舅も甘やかして育てたもんだから、やってもらって当たり前の態度だし。来年には定年迎えるから、嫌でも顔を合わせる時間が増えるでしょ? 今から憂鬱なの」
クリタさんは、つらつらと長年の苦労を話した。まだ小娘だったマホは、『嫁姑問題は聞くけど仲が悪い嫁と小姑もあるんだな』と感心しつつ聞いていた。
「この前もね、テレビでビーフシチューの美味しい作り方を見かけて、試しに作ってみたら、1口食べて『これは何?犬のエサの味がするよ』ですって! 失礼しちゃう」
するとトキエさんが不意に言った。
「…ねえ、あなた。あんまり苛めるのも、大概にした方がいいわよ」
皆は何の話?とハテナマークが浮かび、静まり返った。クリタさんは、首を竦めた。
「『苛める』? 逆ですよ、嫌味言われて…」
「…混ぜたでしょ?」
トキエさんは顔色も変えずそう言うと、席を立った。
トキエさんの気に障る言い方をクリタさんがしたかと思ったが、別のパートのおばちゃんがこそっとマホに教えてくれた。
「あの人、少し『視える』んだよ」
「え、そうなんですか?」
「少し前から、『クリタさん、義妹を苛めるの今の内にやめないと、身内が同じ目に遭うよ』って、こぼしてた」
トキエさんはクリタさんに『警告』をしたのだ。
時は流れ。クリタさんが定年退職をする2ヶ月前に、義妹さんは持病の悪化で起きた合併症で急逝した。
「片付いてせいせいした!」
笑顔で同僚に語ったクリタさんだったが、義妹さんの新盆前に、お孫さんが交通事故に遭い、目に大怪我を負った。
失明は免れたが、片方の目の視力はかなり弱くなってしまったという。
「うーん、やっぱり業が深いわね」
トキエさんは話を聞いた時に、そんな風に言っていた。
またある時。職場の先輩:イチガヤと恋バナをしていた。
「付き合って5年の今彼と結婚したいんだけど、まだ結婚したくないって渋られてさぁ。若いママに憧れてるから、早く結婚したいの」
「いいですよね、『若いお母さん』って」
するとトキエさんは、お菓子を手渡しつつ言った。
「イチガヤさん、無理して結婚する必要は無いよ」
「何でですか、『まだ若い』からですか? でも自分もう25ですよ」
トキエさんはイチガヤ先輩の問いには答えず、今度はマホに。
「あなたは、イイと思ったらすぐ決めなさい」
と言った。
イチガヤ先輩は数ヶ月後、こっそり妊活をして『授かり婚』へ持ち込み寿退職した。ところが、子供が生後3ヶ月の時に夫に不倫され、離婚した。
その後、精神状態がかなり不安定になり、子供を施設へ預けたらしいという真偽不明の噂を聞いた。
マホは旦那さんと出会った時感じるものがあり、『絶対この人と結婚したい』と強い意志でいて、結婚までスムーズに進んだ。
トキエさんは『じっくり霊視する』タイプではなく、話していて『スポット的に不意に視える』タイプの様だ。
時は流れマホは転職し、そこの職場との接点がほとんど無くなった。
何年か過ぎたある時、仲が良かったパートのおばちゃんと、買い物中にたまたま顔を合わせた。
「あら、久しぶり! 覚えてる? 私のこと」
「お久しぶりです! わあ、懐かしい。元気でした?」
しばらく、誰が辞めた誰が結婚したなどと近況を教えてられていると、おばちゃんはこんな話をしてきた。
「そう言えばトキエさん、覚えてる? 去年亡くなっちゃったのよ、老衰だって」
「あらー、そうだったんですね」
「亡くなる半年前まで会社に来てたんだけどさ、作業中に急に『洪水で濡れると大変』って、荷物を棚の上とかに乗せ始めるから、『ちょっと認知能力怪しいね』って皆で言っていたの。そんな矢先に認知症って診断されて。まあ、90近かったからね」
トキエさんは介護が必要になって、1ヶ月ぐらいで旅立ったという。
機敏に動き『いやいや、ボケる暇が無いわ』と軽口を叩いていた、晩年そのものの最期だった。
翌年、大震災と大津波が発生した。マホの元職場は浸水したものの、建物の流出までは至らなかったらしい。
「トキエさんは認知症じゃなくて、会社が浸かるって視えてたのかな。接点無かったから仕方ないけど、もっといろいろ話してみたかった」
マホは、アーモンドの乗ったチーズおかきの袋菓子を見つつ、懐かしんで話をしてくれた。
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