我ガ奇ナル日常譚 〜夢とリアルと日々ホラー〜

羽瀬川璃紗

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89 失せ物

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 昨今は『ときめく片付け』『断捨離』『ミニマリスト』など、物を持たない暮らしが最善とされている。飽和の時代だからこそ、真逆がクローズアップされているのか。

 確かに、『明らかに物を持ちすぎてる』なら減らすのが望ましいだろうが、物を敢えて減らすべきじゃない人間も、存在するかもしれない。


 知人から聞いた話。

 元職場の先輩:ハツネさんは夫:タケオさんと、趣味のゴルフをきっかけに知り合った。熱血漢で面倒見が良いタケオさんからの、熱烈なラブコールの末に交際を開始した。

 ハツネさんが、付き合い始めてすぐに気づいたのは、タケオさんが物をよく失くすこと。
 パワーストーンブレスレット、ハンカチ、帽子、グローブ、サングラスなどなど。頻度は様々だが、最低でも月に1~2回は紛失していたという。

 酷い時は朝に買った物品を、未開封のまま紛失した事もあった。ここまで来るとそそっかしいとか、部屋が汚いとか注意力散漫を疑うが、財布や車の鍵(付けてるキーホルダーは失くすが)、通帳は失くした事は無い。

 あくまで何故か『消耗品に近い物』だけ、をよく紛失するのだという。


「何かねえ、失くし方も変なの。席を取っておくために帽子を置いておくと、メーカー品の私のは無事なのに、ノーブランドの旦那さんの帽子だけ誰かに持ってかれたり。旅先の部屋の中で失くしたり。ゴルフ場で荷物を預けると、向こうの手違いで失くされたり。あまりに頻発するから、クローク使用禁止になった所もある」

「あー…。弁済狙いって疑われてですか?」

「そう。でも、人から借りたり預かった物とか、大事な物はならないんだよね。不思議なことに」


 実家暮らしだったタケオさんの自宅には、よく失くす物品の買い置きが沢山あった。失くしても、困らないようにする為の措置だった。
 交際から1年足らずのある時、ハツネさんの妊娠が判明。順番は逆になったが、2人は結婚をした。

 新居として2LDKの住まいに引っ越す事になったが、タケオさんの私物全てを運び入れる事は不可能。
 折しも世の中は『断捨離』という言葉が出始めた頃だったので、『引っ越しを機に断捨離しよう!』と2人は思い立ち、第1子の誕生までに、持ち物を5分の1までに頑張って減らした。


「『失くすのは大事にしないからだ』って思って、完全にストックを持たない暮らしにしたの。失くさないように、目を光らせて。物を失くさなくなったよ。努力すりゃ出来るじゃん! って思ったよ」


 生まれた息子さんが1歳になる直前、タケオさんを病魔が襲った。タケオさんは完治に2年かかり、病から立ち直ると、また失せ物が頻発するようになった。


「ストック持たない事をやめた。『意味があって無くなるんだ』って思うようにした。だって、そもそも失くし方が変だもん。今はね、物が失くなったら『身代わりになってくれてありがとう!』って感謝してる」


 失せ物は偶然か必然か。ハツネさんの言う通り、意味があるものなのか。

 物を減らすのはとてもいい事だが、とても難しい事なのである。

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