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暗転と昇華
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私はあるロックバンドのマネージャーをしていた。
ライブツアー中、ミスで私の分の航空チケットが取れず、私は単身で新幹線を使い次のライブ先へと移動した。
数年前に完成したばかりの某ホールはとても綺麗で、まだほのかに新車の座席みたいな香りがしていた。
設営と音響リハーサル中にようやく到着した私は、観客席に居る舞台監督の所へ向かった。
「この度は、到着が大変遅れまして、申し訳ありません…!」
急いでて息も切れ切れの私を見て、舞台監督は笑った。
「いやあ、災難でしたな。でも、新幹線だと景色良かったでしょ?」
「ははっ、確かに綺麗でした」
ボーカルがマイクテストと発声練習を始めると、舞台監督は目を細めた。
「懐かしいね、初ライブのラストで泣いて歌えなくなっちゃったの」
「ああ、ありましたね」
「どうなる事かと思ったけど、あいつは随分成長したな」
ミュージシャンとして彼らが駆け出しだった頃、そのライブ会場はとても小さく狭いものだった。観客も20人弱だったのが、今ではその何百倍もの人数が集まるようになった。
『あー、やっと来たよ!』
ボーカルは私の姿を見つけたのか、マイク越しに声を上げた。私は腕を振って応えた。舞台監督は笑った。
「これから先、何千人何万人とライブに来てくれることを願ってたけどさ。もう見れないね」
聞き間違いか?
私は思わず舞台監督を見ると、彼はステージを見つめたまま、席を立ちそのままステージへと歩いていく。
周りを見渡すと、数人のスタッフも吸い寄せられるようにステージへと歩いてゆく。
私も移動しようとすると、ボーカルの隣にいたギタリストが声を上げた。
『だめ。都子さんはダメ』
「はあ? 何でよ」
ステージ上にはバンドメンバー、舞台監督、もう1人のマネージャーらが揃っている。ドラムが言った。
『忘れないでよ、俺達みたいな音楽バカが居たことをさ』
「何、どういうこと?」
戸惑う私の視界は暗転。気づくと私は、宿泊していたホテルのベッドの上。傍らで点けっぱなしとなっているテレビは、航空事故を報じていた。
『爆発炎上した001便には、2日後に〇〇でライブを予定していたロックバンドのメンバーと、関係者が乗っていたようです』
コンサートツアー中、体調不良で受診した際にインフルエンザと診断された私は、ホテル療養を余儀なくされ難を逃れた。
テレビは彼らのMVやライブDVDの映像を流し、彼らの死を報じた。私は、映像を見ながら泣いた。
(バカじゃん。今更こんなに宣伝されたって、死んだら意味ないじゃないの)
忘れようにも、忘れる訳がない。死んでからCDが売れたり、ヒットチャートに上ったり、グッズにプレミアがつくだなんて。
(実力で有名になりなさいよ…!)
私は涙をこぼし続けた。
ライブツアー中、ミスで私の分の航空チケットが取れず、私は単身で新幹線を使い次のライブ先へと移動した。
数年前に完成したばかりの某ホールはとても綺麗で、まだほのかに新車の座席みたいな香りがしていた。
設営と音響リハーサル中にようやく到着した私は、観客席に居る舞台監督の所へ向かった。
「この度は、到着が大変遅れまして、申し訳ありません…!」
急いでて息も切れ切れの私を見て、舞台監督は笑った。
「いやあ、災難でしたな。でも、新幹線だと景色良かったでしょ?」
「ははっ、確かに綺麗でした」
ボーカルがマイクテストと発声練習を始めると、舞台監督は目を細めた。
「懐かしいね、初ライブのラストで泣いて歌えなくなっちゃったの」
「ああ、ありましたね」
「どうなる事かと思ったけど、あいつは随分成長したな」
ミュージシャンとして彼らが駆け出しだった頃、そのライブ会場はとても小さく狭いものだった。観客も20人弱だったのが、今ではその何百倍もの人数が集まるようになった。
『あー、やっと来たよ!』
ボーカルは私の姿を見つけたのか、マイク越しに声を上げた。私は腕を振って応えた。舞台監督は笑った。
「これから先、何千人何万人とライブに来てくれることを願ってたけどさ。もう見れないね」
聞き間違いか?
私は思わず舞台監督を見ると、彼はステージを見つめたまま、席を立ちそのままステージへと歩いていく。
周りを見渡すと、数人のスタッフも吸い寄せられるようにステージへと歩いてゆく。
私も移動しようとすると、ボーカルの隣にいたギタリストが声を上げた。
『だめ。都子さんはダメ』
「はあ? 何でよ」
ステージ上にはバンドメンバー、舞台監督、もう1人のマネージャーらが揃っている。ドラムが言った。
『忘れないでよ、俺達みたいな音楽バカが居たことをさ』
「何、どういうこと?」
戸惑う私の視界は暗転。気づくと私は、宿泊していたホテルのベッドの上。傍らで点けっぱなしとなっているテレビは、航空事故を報じていた。
『爆発炎上した001便には、2日後に〇〇でライブを予定していたロックバンドのメンバーと、関係者が乗っていたようです』
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テレビは彼らのMVやライブDVDの映像を流し、彼らの死を報じた。私は、映像を見ながら泣いた。
(バカじゃん。今更こんなに宣伝されたって、死んだら意味ないじゃないの)
忘れようにも、忘れる訳がない。死んでからCDが売れたり、ヒットチャートに上ったり、グッズにプレミアがつくだなんて。
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私は涙をこぼし続けた。
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