漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

文字の大きさ
78 / 133

女王

しおりを挟む
 私は、女王に仕える女性騎士になっていた。

 女王は人の姿をしていたが、人ではない存在だった。この世界の『本質』であり『秩序』であり、世界を保つ為の重要な役割を担っていた。

 彼女はとても美しく、聡明で慈悲深く、物語の世界から抜け出した様にパーフェクトな『ヒト』であった。

 私は幼い頃から女王を敬いそして愛し、念願叶って彼女を守る護衛隊、更に最も彼女に近い直属警護役に就任した。
 とても誉れだった。

 女王は一般市民から見えぬ場所であっても、ずっと『女王』で在った。『人』と違い裏表が無いのは、『ヒト』だからこそなのだろう。

 私は距離が近くても、彼女に幻滅する事も無く、日々任務を遂行した。


 ある時、世話係の者が妙なモノを見たと報告してきた。

「女王の鏡台の裏から、黒づくめの醜い老婆が現れ、目が合うと引っ込んで行きました」

「…他国の刺客か?」

 部下の騎士が訝しむ。私は反論した。

「この城内は、強力な魔法で幾重にも包囲されている。それを破ってまで、侵入者を送り込める術者はあり得ない。綻びが無いか探せ」

 私は、守りに生じた僅かな穴から、外敵がたまたま入って来たと思ったのだが。

「寝室に出ました」

「湯屋に居ました」

「厨房に出て、料理人が悲鳴を上げたら消えました」

 日を追うごとに、目撃情報は増えていく。ついには女王の耳にも届いてしまった。

「黒い老婆の正体は、一体何なのでしょう…?」

「女王、不届き者は我々が必ず捕らえます。ご心配なさらずに!」

 古い書物で調べ物をしていた部下が、ある記述を見つける。

「今から200年程昔にも、『城内に黒い老婆が現れた』話が記録に残っています」

 私がその書物を読もうとした、その時。

「隊長! 老婆が現れ、女王の元に向かっています!!」

 緊急招集がかかった。私達は慌てて女王の元へ向かい、有事の際の退避所シェルターへ誘導した。

「退避所は強力な魔法がかけてある。その先へはいかなる者も侵入出来ない!」

 シェルターには私と女王の側近女官2名、女王の4名だけが入り、残りの護衛と兵はシェルターの外で老婆を迎え撃つため、待機した。

(まさか、有事でもないのにここを使うとは…)

 案じた私だが、懐に書物を入れたままなのに気づいた。取り出すと、件のページが開いたままだ。


【黒い老婆は女王に接触すると言った。

「そなたが人間より吸い上げた負の力を、浄化して進ぜよう」。

 老婆は、長年に渡り女王が人間から取り上げた邪念、妬み、恨み、その他幾つもの悪い力を、分解して無に返す役割を担っていた。

 言わば必要な存在だ。接触をしなければ、女王は暗黒に落ちてしまう。】


 ふと読んだ所には、そんな記述があった。

(え?あの老婆には女王を浄化する役割があったの?)

「現れた! 撃て!!」

 シェルターの外で、騒ぎが始まる。

(もし、老婆が消えたら、女王はどうなる?)

 青ざめた私は叫ぶ。

「やめろ! 老婆を攻撃するな!!」

 攻撃の音に、私の声はかき消される。

「隊長、何を?!」

 私は無理矢理、シェルターを内側からこじ開けようとした。側近が悲鳴を上げる。

「何をしようとするのです!」

「老婆を! 消してはいけない!!」

 開けた先、そこに居たのは、今まさに消滅しようとしている老婆の姿だった。黒き者は、魔法の光によって『聖なる蒸発』を起こしていた。

 私はマントを外し、老婆に覆い被せた。

「何をする!」

「狂ったのか隊長?!」

 光を遮られ消滅を免れた老婆は、子供の様に小さくなっていた。私は女王に向かって声を上げた。

「女王! どうかこの者に慈悲を!! あなた様を救いにやって来た者であります!」

 一同は私の言葉にざわつく。シェルターの奥から、側近に付き添われ、女王が出てきた。
 右手に魔法を構えて女王は言った。

「慈悲を与えないといけないのは、あなたです。その者から離れなさい、護衛隊長。あなたはその者によって、唆されているのです」

 女王は美しく、冷酷な笑みを浮かべていた。

(ああ、重犯罪者ですら処刑を命じないあなたが、『誰か』を殺そうとするなんて…)


 女王は老婆の役割を分かっていたのだ。だから排除を選択する。

 女王の本質は『光』ではなく、『闇』なのだから。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...