漆黒の夜は極彩色の夢を 〜夢日記ショート·ショート~

羽瀬川璃紗

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青のコート ※犯罪行為表現あり

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 私は夫と共に、飲食店街デートをしていた。

 子供抜きで夫婦水入らずの時を過ごすのは、久しぶりだ。

「今日カノン居ないから、あそこで食べようよ」

 私は夫を誘いケバブの屋台へ。会計を済ませると、夫がまだ財布を仕舞い終えてない状態で、スマホが鳴り出した。

「ちょっと待って、会社かも?」

 夫が画面を確認したその一瞬、右手に持っていた財布を何者かがひったくった。

「「!!」」

 そのまま走る何者かを、私と夫は反射的に後を追った。

「待て! ひったくり!!」

 逃げているのは若い女。とても足が速い。

(うわ、追いつけないかも…!)

 周辺に土地勘のあった私と夫は、逃走経路を先読みし、女の来そうな場所へ先回りする。

「ほら! 財布返しなさいよ!」

 読み通り現れた女に詰め寄るが、女は来た道を戻り、再び逃走する。

「若いな、中学生くらいか?」

 夫が走りながら呟く。

「やれやれ、学校にも行かずにこんなとこいるなんて。ロクな子じゃないね!」

 ひったくりをした時点で、『碌でもない子供』なのは確かだが。
 追うのをひとまずやめ、夫が警察に通報する傍ら、私は周辺を探してみる事にした。

(急に見当たらなくなった。あんな鮮やかな青の上着だし、目立つと思うんだけど…)

 何となく、しゃがんで目線を低くした私は、あるものを見つけた。道端の自動販売機の影に、誰かが居る。

 足音を出さぬよう近づくと、それは追っていた少女だった。
 少女は、道中にあったキッチンカーで売っていたクレープを、しゃがんで貪るように急いで食べていた。

(…あらま)

 私の視線に気づいたのか、顔を上げた少女は目を丸くすると、クリームまみれの口元もそのままに駆け出した。

「あ、ちょっと…!」

 私は、少女が放り出した食べかけのクレープと夫の財布を取りあえず拾うと、また追いかけた。

 飲食店街の片隅にある廃ビルの辺りで、少女を見失った私は、夫にメッセージを送った。
 程なく、夫が到着する。

「犯人見失ったけど、財布見つけたって?」

「うん。見てよこれ。クレープ買って食べてたよ、あいつ」

 ざっと私が見た感じでは、免許証やクレジットカード類は無事のようだ。
 警察の到着を待つ間、夫は廃ビルのショーウインドウを見て、目を輝かせた。

「わあ、懐かしいなあ。覚えてる? この新幹線のポスター、俺達が中学生の頃のやつだよ」

「そうなの? あたし『鉄ちゃん』じゃないから、分からな…」

 言いながら、私はある一点に釘付けになった。

 新幹線と共に映る大勢のエキストラの中に、見覚えのある青いコート姿の少女が居たからだ。

 奇妙な事に、ポスターの中の少女は何処か気まずそうに目を伏せていた。新型車両に笑顔を向ける他のエキストラとは、真逆の表情だった。

 やって来た警官に顛末を説明する為に夫が場を離れたので、私は小声でポスターへ呟いた。

「…美味しかった? クレープ、食べれて良かったね」

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