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囚われのイヴ ※犯罪被害表現あり
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私は、何者かに拉致されてしまった。
(何で、こんな事に…)
連れて来られたのは、どこかの山奥にある一軒家。中には、私と同様にGPS付き足枷を付けられた男:ジュンが居た。
「君たちは新時代を担うアダムとイブに選ばれました。セトを身ごもり、産み育てて下さい」
私を拉致した連中のリーダーと思しき老人は、私達にそう言い一軒家を後にした。
「どういう事なの⁈」
「クソッ、何なんだよ」
こうして私達の奇妙な同居生活が始まった。
清潔な衣服と布団、暇つぶし用の本やDVDなど、食事も規則正しく3度支給され、1日1回は入浴の時間と、監視付きで一軒家の周りを歩く運動の時間も設けられた。
(なるほど。妊娠出産をサポートするために、健康に気を遣っている訳か)
だが、彼らの言いなりにはなりたくない。私はジュンと一定の距離を保ち、生活を共にした。
「普通の人ならば、すぐにおかしくなる所なのに、都子、君はとても強い。尊敬するよ」
参ってきたのか、ジュンは口説き始めたが、私は相手にしない。
「そう。ありがとう」
暇つぶし用品にSIMカード無しのスマホがあり、気晴らしに入っているアプリゲームをしていた私は、ある事に気づく。
(そう言えば拉致される前の週に、スマホの契約を他社に変えた。私ののスマホは取り上げられてしまったが、前の契約のSIMカードとポケットWi-Fiはまだ持っていたし、契約は月末まで。もしかしたら、イケるかも…)
SIMカードは後で処分するつもりで脂取り紙の入れ物に挟みっぱなし、ポケットWi-Fiは、ブランド化粧品のステッカーを貼っていたので、化粧品の容器と思ったか、化粧ポーチ内にどっちも手つかずで残っていた。
(よし!SIMピンの代わりになるものは…)
ソーイングセットから針をさり気なく取り出した私は、トイレで用を足すフリで持ち込んだ。
SIMカードをスマホにセット、ポケットWi-Fiも無事に繋がった。
(これで助けを呼べる…!)
ところが、メッセージアプリを起動させた時、私はあるものに目を奪われた。
アプリのホーム画面に最新ニュースが表示されるのだが、ジュンの顔写真が出ていたのだ。
【某国で問題と騒動を多く起こしているカルト宗教○○、教祖のチェ・ジュンギが、国際捜査の手を逃れ、日本に極秘出国していた事が明らかになった】
(ジュン…。これは本当の事なの⁈)
アドレスを暗記していた親族へ助けを求め、素知らぬ顔でトイレから出てきたが、鼓動は高鳴るばかりだ。
もしバレれば、助けが来る前に私は奴らに葬られるだろう。なんたって、手の中なのだから。
私が着座したタイミングで、ジュンが口を開く。
「…前に、会った事があるのを覚えてる?」
「え」
「都子が△△駅ビルのうどん屋で働いていた頃、行った事がある」
世間話は少々交わしたが、以前の職歴の話はした事がない。ジュンは続けた。
「宗教的理由で、豚が食べれないと言ったら、店の奥にまで行って、使ってない品物を確認してくれただろ? …嬉しかった」
覚えがあった。確か、外国人観光客の団体が来た時だ。ジュンは言った。
「教えに賛同してくれた、とか外国人だからとかでなく、相手の主義主張を可能な限り配慮しようとする、その優しい考え方が嬉しかったんだ」
ミュートしていたスマホの通知が画面に表示され、親族が通報してくれた旨が出た。
私はジュンの急な言葉に、固まるだけだった。ジュンは笑った。
「子孫を残すなら、君の様な女性がいいと思ったんだ。…でも、ダメだった。俺達のやり方は、君を太陽だとすると爆弾みたいなものだ」
ジュンは立ち上がり後ろを向く。
「…GPSなんて無いよ。俺が後ろを見てる間に、ここから逃げてくれ」
(何で、こんな事に…)
連れて来られたのは、どこかの山奥にある一軒家。中には、私と同様にGPS付き足枷を付けられた男:ジュンが居た。
「君たちは新時代を担うアダムとイブに選ばれました。セトを身ごもり、産み育てて下さい」
私を拉致した連中のリーダーと思しき老人は、私達にそう言い一軒家を後にした。
「どういう事なの⁈」
「クソッ、何なんだよ」
こうして私達の奇妙な同居生活が始まった。
清潔な衣服と布団、暇つぶし用の本やDVDなど、食事も規則正しく3度支給され、1日1回は入浴の時間と、監視付きで一軒家の周りを歩く運動の時間も設けられた。
(なるほど。妊娠出産をサポートするために、健康に気を遣っている訳か)
だが、彼らの言いなりにはなりたくない。私はジュンと一定の距離を保ち、生活を共にした。
「普通の人ならば、すぐにおかしくなる所なのに、都子、君はとても強い。尊敬するよ」
参ってきたのか、ジュンは口説き始めたが、私は相手にしない。
「そう。ありがとう」
暇つぶし用品にSIMカード無しのスマホがあり、気晴らしに入っているアプリゲームをしていた私は、ある事に気づく。
(そう言えば拉致される前の週に、スマホの契約を他社に変えた。私ののスマホは取り上げられてしまったが、前の契約のSIMカードとポケットWi-Fiはまだ持っていたし、契約は月末まで。もしかしたら、イケるかも…)
SIMカードは後で処分するつもりで脂取り紙の入れ物に挟みっぱなし、ポケットWi-Fiは、ブランド化粧品のステッカーを貼っていたので、化粧品の容器と思ったか、化粧ポーチ内にどっちも手つかずで残っていた。
(よし!SIMピンの代わりになるものは…)
ソーイングセットから針をさり気なく取り出した私は、トイレで用を足すフリで持ち込んだ。
SIMカードをスマホにセット、ポケットWi-Fiも無事に繋がった。
(これで助けを呼べる…!)
ところが、メッセージアプリを起動させた時、私はあるものに目を奪われた。
アプリのホーム画面に最新ニュースが表示されるのだが、ジュンの顔写真が出ていたのだ。
【某国で問題と騒動を多く起こしているカルト宗教○○、教祖のチェ・ジュンギが、国際捜査の手を逃れ、日本に極秘出国していた事が明らかになった】
(ジュン…。これは本当の事なの⁈)
アドレスを暗記していた親族へ助けを求め、素知らぬ顔でトイレから出てきたが、鼓動は高鳴るばかりだ。
もしバレれば、助けが来る前に私は奴らに葬られるだろう。なんたって、手の中なのだから。
私が着座したタイミングで、ジュンが口を開く。
「…前に、会った事があるのを覚えてる?」
「え」
「都子が△△駅ビルのうどん屋で働いていた頃、行った事がある」
世間話は少々交わしたが、以前の職歴の話はした事がない。ジュンは続けた。
「宗教的理由で、豚が食べれないと言ったら、店の奥にまで行って、使ってない品物を確認してくれただろ? …嬉しかった」
覚えがあった。確か、外国人観光客の団体が来た時だ。ジュンは言った。
「教えに賛同してくれた、とか外国人だからとかでなく、相手の主義主張を可能な限り配慮しようとする、その優しい考え方が嬉しかったんだ」
ミュートしていたスマホの通知が画面に表示され、親族が通報してくれた旨が出た。
私はジュンの急な言葉に、固まるだけだった。ジュンは笑った。
「子孫を残すなら、君の様な女性がいいと思ったんだ。…でも、ダメだった。俺達のやり方は、君を太陽だとすると爆弾みたいなものだ」
ジュンは立ち上がり後ろを向く。
「…GPSなんて無いよ。俺が後ろを見てる間に、ここから逃げてくれ」
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